第四章

4.応戦

 一同が出かける支度をするか否かの頃、デスシャドウ号から緊急事態を知らせる通信アラームが鳴る。それは、デスシャドウ号から直接送られたものではなく、何者かが特殊電波を使い艦を経由して送られてきたものだった。
【こちらアグリモニー。聞こえてる?ハーロック、返事して】
「・・・・・やはり俺と対決する気になって戻ってくるのか?もう出かけるが」
【お生憎様。相変わらず憎たらしい口のきき方ねぇ。でもそれどこじゃないわ】
デスシャドウ号の特殊電波をもってしても、耐妨害フィルターをかけているせいか彼女の声ははっきりとは聞き取れない。しかし、ハーロックは数年ぶりに聞く、情に厚い女賞金稼ぎの声が鬼気迫って聞こえてきた。
「敵か・・・」
【艦橋の連中にも伝えたけど、機械帝国軍戦艦がヘビーメルダーの外域に数隻うろついているの。要塞らしき物体も近いわ。貴方たちがそこにいるのに勘付いた訳じゃないでしょうけど・・・このまま出てったら危険よ】
「さしずめお前は俺が袋のネズミでざまぁみろというわけか?」
【さぁ、どう判断するかは貴方次第。どうせ煮ても焼いても食えない男だもの、どうなろうったって知ったことじゃないわ。言っとくけど、敵さんの本陣みたいなのが来てるからせいぜい気をつけなさい。じゃぁね!】
ブツッ

「煮ても焼いても食えんのはお前だっちゅーにまったく・・・どうにも困った娘だの〜〜」
通信が切れたと同時にドクター・ゼロが大きなため息をついた。一方のハーロックは、アグリモニーの不躾な物言いとは別のことで険しい表情を見せていた。彼の不機嫌オーラを察知したトチローが、それとなくアグリモニーの示した事の次第を分析する。
「どうやらアイアンデアーがご近所にいらっしゃるって感じだな・・・お前・・・蟹座星雲でファウストとか言う奴に助けられたって言ってたよな。一緒にアイアンデアーに立ち向かってくれって頼まれたんだろう?」
「だが・・・半ば断った。Dを抹殺するか、機械帝国軍を蹴散らすか・・・大テクノロジアにいる罪もないかつての地球人達を守るために苦しい決断を迫られていたようだが・・・機械帝国軍が俺の直接の敵なのかどうか、俺には判断が付きかねたのでな」
「なるほどね」
トチローは次ぎに来るだろうハーロックの答えをすでに分かってか、にっこり笑ってジャスミンの車いすを動かし、さらにD・ハーロックの眠るカプセルを動かす準備を始めていた。出れば敵が待ち構える状況で、余裕をかますトチローの姿にエメラルダスは呆気にとられる。
「待って下さい・・・戦闘が始まればこの星も巻き込むことになります。ジャスミンとDを輸送しなければならないのですよ?ドクター、貴男はどうするのですか?」
「わしはキャプテン次第だ。もともとここに長くいるつもりはなかったし、アグリモニーから常々キャプテンがデスシャドウの専任ドクターにしたいと言っとると聞いておったからの。そろそろその時期だろう。それに・・・ジャスミンとDの面倒を見なくちゃならんから、わしもここを出ないとならん。ここは他に住んでるもんはおらんし。この星もいつかは近代開拓が進んだせいで磁場がおかしくなったヘビーメルダーと衝突してしまう運命だ。それが少々・・・早まるだけだ」
ドクターも呑気なものだった。エメラルダスはしばらく黙っているハーロックを怪訝そうに見つめた。やがてハーロックは改めてデスシャドウ号へと通信を繋ぐ。

「副長。アグリモニーの話は聞こえていたな」
【こっちゃいつでも応戦OKや。パラレルレーザー砲の衝撃波を回避するプログラムはまだ出来上がっとらんけど・・・敵さんもヘビーメルダーを巻ぞいにはできん筈やし、こっちは蟹座星雲の時みたいにズダボロじゃない分、まぁなんとかなるんやないか?一度はあっても二度は無いで】
「上等だ。連中は蟹座星雲で俺達を的にしてきた・・・それだけでも敵と見なすに十分な理由だ」
【了解!発進準備や!!】
ハーロックがニヤリと笑って通信を切る姿に、ついにエメラルダスは呆れ果ててしまった。
「どういうつもりです?ジャスミンは怪我人ですよ。それに・・・大テクノロジアに行くのではないのですか?」
「彼等の輸送を頼む。ドクターを付き添わせるから文句はあるまい。トチローをナビゲーションにして、先に大テクノロジアへ向かってくれ」
はなからそのつもりだった様な口振りだ。
「トチロー、貴男もそれで良いのですか!?彼がいなければDの再生ができないのに?」
「おお、ハーロックのDNAなら俺が持ってるぞ。それがあれば大丈夫だが?」
それはハーロックがそこにいなくてもD・ハーロック再生の目的は果たせるということだ。取り様によってはここでハーロックが死んでも目的は果たせるとも聞こえる。もっとも、トチローはそんなことはみじんも感じていないような口振りでエメラルダスに笑ってみせた。
「血液サンプルからなにから何までな。ナニの毛まで・・・」
「それは余計だ。捨てろと言っておいただろう」
ラボの玄関を開けて一歩外へと踏み出したハーロックが振り向き様、迷惑そうに呟いた。やがてトチローの大口の笑い顔に微笑み返してデスシャドウ号へと走っていってしまった。
「じゃ、こっちも行くか!エメラルダス、お前の艦が頼りだ。俺もできるだけ補修工事したつもりだが、海賊島はヘビーメルダーに置いていく。援護はない・・・だから・・・頼むぞ」
エメラルダスはトチロー、ドクター・ゼロ、そしてジャスミンと彼女の傍へと運び出されたD・ハーロックの眠るカプセルを見渡した。重大な責任を背負った彼女は、それがしかるべき理由あっての事だと自分に言い聞かせた。個人の情に流されることなく、クイーン・エメラルダス号を敵の追っ手の無い状態で大テクノロジアに向かわなければならない責任だ。

「アグリモニーはどうした?」
デスシャドウ号の艦橋へ姿を現したハーロックが呟くと、ミーメがその目を光らせながら近付いてきた。
「彼女の乗る艦は小型艇。デスシャドウ号の特殊電波が逆探知される前に通信圏外から離脱していった。お父さんをよろしく・・・これで心置きなく旅ができると。気の強い人だけれど・・・心の優しい人。信じる人の目的のためなら、死をいとわない勇敢な人。ミーメには分かります。本当はこれっぽっちもハーロックを憎んでいない。殺すつもりも全くない」
「彼奴は俺を追いかけて様子をうかがい、ドクター・ゼロを託すか否かを決めていただけだ。本気で俺の首を狙っているなら・・・とっくにどちらかが死んでいる。彼奴は母親にそっくりの・・・女戦士だからな。この艦に乗る気があるのなら・・・いつでも迎えたかったが」
アグリモニーの母親はマゼランでも名の通った山賊だったが、ふとした縁でドクター・ゼロと結ばれた。もっとも、どこかに定住する事を嫌う彼女はアグリモニーを産んですぐにいなくなった。ある戦争の最中で、少年ハーロックと共に敵陣へと乗り込んだものの、彼女は帰らぬ人となる。アグリモニーはそれをハーロックのせいだと恨んだこともあったが、もとより討ち死にはアグリモニーの母が望んだことであり、ハーロックは立派な同志だったと手厚く葬った事も既知の事だ。アグリモニーはドクター・ゼロのハーロックとの合流を見定め、黙って姿を消したのだった。
「ハーロックの近くにいれば辛くなる。好きだから。だからわざとハーロックに嫌われるような態度を取っていた。それが・・・女心というもの」
「・・・生きていればどこかで会うこともあうだろう」
ハーロックはそう呟くと、深呼吸をしながら舵へと歩み寄る。クイーン・エメラルダス号の発進準備完了の合図がトチローから送られると、瞑っていた瞳を大きく見開いた。
「デスシャドウ号、発進!!」

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
轟音が鳴り響き、振動で惑星ホルトの地盤が削れてそこら中に浮遊した。ドクター・ゼロの言った通り、ヘビーメルダーの急速な近代化によって重力磁場に偏りができたため、もともと強い重力で引き付けられていたホルトが不安定な状態になっている。かつてマゼラン開拓者の駐屯地だったこの星の岩盤は急速に弱くなり、生ける星としての寿命もさほど長くない事がわかった。
【私達は西へと航路を取ります・・・ステルス防御圏内に敵艦が来れば、機械帝国軍のレーダーには感知されるでしょうけれど・・・】
「追っ手はこちらに任せろ。全速力でワープ可能圏内へと離脱してくれ。やむ終えず戦闘になった場合は・・・」
【大丈夫です。私はこれでも数多の海を駆け抜けてきたのですよ。それに・・・ここにはトチローが】
「そうだったな」
【そうだぞハーロック!俺を忘れ・・・]
ブツッ
デスシャドウ号のモニターにトチローの顔がアップになった途端に切ったハーロック。
【あんにゃろ切りやがって!覚えてろよ!!】
そういうトチローの声が聞こえてくるようだった。「覚えていろ」ということは、次があるということ。ここで死に別れるかもしれないなどという憶測は、いっさい考えないのだ。
「艦首反転180度、上昇角30度。機関出力70%を保て。大気圏内への攻撃に備え、迎撃準備。前衛艦隊を大気圏突破前に片付ける」
ガラガラと音をたてて舵が回る。

機械帝国艦隊では突如警戒アラームがけたたましく鳴り響いた。惑星ホルト側にいた艦隊から徐々に艦首を旋回させ、攻撃態勢に入るものの、浮き足立った彼等の攻撃はデスシャドウ号からすれば酔っ払いがダーツゲームをしているようなものだ。
この場合、下手な鉄砲数打ちゃ当たるという戦法とでも言うのだろうか。機械帝国軍の装備と攻撃力は全宇宙でもそう簡単に破れる者はいないと言われる通り。アンドロイドを導入すれば、艦隊も相当数にのぼる。しかし、勘で動く戦いに卓越した生身の人間の手練からすれば、統制され過ぎた動きが、弱点をつくと崩れやすいことを知っている。デスシャドウ号の動きは、まさに人間の勘がなせる技だった。
「右舷に第一波!」
「衝撃に備えろ!・・・ミーメ・・・ホルトはどれだけ耐えられそうだ?」
舵を切りながら尋ねるハーロックの表情はあらゆる可能性を模索して、かえって無表情になっていた。
「敵レーザー砲のエネルギーからみても・・・全艦一斉放射で一時間持てばいいところ・・・流れ弾で計算してもせいぜい2〜3時間が安全圏ぎりぎり。でも、ホルトを爆発させたらヘビーメルダーは多少なりとも被害を被る・・・」
「つまり敵さんも無茶はできんちゅーことやな」
「パラレルレーザー砲を使いさえしなければ勝算はこちらにある。ミーメ、わかるか?」
ミーメは瞳を光らせながら拡大投影された大気圏のその遥か向こうを見つめるようにじっとモニターを覗き込む。
「蟹座青雲で敵要塞の砲門がこちらに向いていたときに比べると・・・それ程強いエネルギーは感じられません。多分、こちらに砲門が向いていないせい・・・今はまだそれしか分からない」
「わかった。いずれにせよあまりここでのんびりしている状況ではなさそうだ。ヘビーメルダーからの援護艦隊が出撃する可能性を考えれば・・・楽観視はできまい。・・・・・全砲門を敵艦隊へと向け一斉攻撃!前衛艦隊を蹴散らして後続艦隊に突っ込む!」
ホルトの上空にレーザー砲の雨が降り注ぐ。小刻みに動くデスシャドウ号はそれを回避しながら艦首を大気圏外へと向けた。

小回りの効くデスシャドウ号の動きに翻弄された前衛艦隊はコントロールが効かずに隣り合わせた艦へと衝突しはじめた。交戦圏内へと到達間近の後続艦隊司令:ドケッチのレーダー目が動揺を示すように激しく点滅する。前衛艦からの援護要請通信やらアラートやらに囲まれて苛立を隠せないでいるのだ。生身の体ならば、苦虫を潰した様な顔をしているに違いない。
「たかが一席に何を狼狽えている!態勢を整えろ!!全艦砲門を敵艦に定め、最大全速で包囲せよ!」
ドケッチがうち震える拳でコントロールパネルを叩くと同時に、アイアンデアーの姿がパネルに映し出された。
【ドケッチ司令。ホルトから発進したと思しき艦は、レーダーでは二隻の可能性をはじき出した。しかし・・・現在あのデスシャドウ以外の敵影は認められず・・・大方もう一隻はステルスではなかろうかとの見解だ】
「は、こちらでもその様に確認いたしております。蟹座星雲での次元レーダーに残っていた正体不明の漆黒艦でしたら、艦を取り囲むバリアが偽装ステルスであると、すでにプログラムの解析がついておるため隠れることはできないはず。もし、ホルトから出ていったものが別の
ステルス機能であるとしたら、それは艦そのものがステルス艦であると」
【クイーン・エメラルダス号やもしれん。・・・D・ハーロックを乗せている可能性がある。空母から艦載機を発進させろ。この周辺は障害物が多いゆえ、まだワープすることはできまい。一機でもホルトの向こうへ到達させ、クイーン・エメラルダス号と確認できればヘビーメルダーから援護艦隊を出撃させる】
「しかし・・・敵の攻撃で撃ち落とされるは必至・・・いったい何機・・・」
【ケチ臭いことを言わずに全機発進させよ!!】
「か・・・畏まりましたっ」
程なくしてドケッチの指揮する空母が艦載機射出の準備を始めた。まだ、クイーン・エメラルダス号は安全圏からは程遠い場所を全速力で退避中だ・・・。
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