第三章 |
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| 8.再会 長い時の流れの中で、変えることのできない宿命によって再び会う者たちがいる。一度別れれば、再び会うことが偶然に等しいこの大宇宙に、数々の宿命があり、そしてその者達の多くは、我が身の宿命を呪うことさえあるだろう。だが、今ここで数年ぶりの再会を果たそう青年たちは、意気揚々とその時を待った。目前に広がる無限の可能性を信じてやまない男達の信念が、そこにある。海賊島・・・一見、ただの小惑星にしか見えないそれが、真っ赤に燃えているプロミネンスにほど近い宙域に浮遊していた。 トチローがエメラルダスに『秘密基地』だと語ったそれだ。 「来る!来るぞ!!」 「来る?いったい何が来るのです?」 「ははは、友だよ!俺には分かるんだ。奴の存在が!すぐ近くまで来てる」 エメラルダスはそわそわして落ち着きのないトチローを不思議そうに眺めた。近くにいれば通信の一つもよこすだろうと。しかし、トチローはそんなこともせずにはしゃいでいた。その無垢なはしゃぎ様に戸惑いを覚えたが、あまりのうれしそうな姿に、やがて優しい笑みがこぼれた。 ゴゴゴゴゴゴ・・・・ トチローは海賊島のコントロールパネルに一切触れてはいない。しかし、その小惑星のクレーターは確実に空洞をつくり、外観では考えられぬ程の機械が敷き詰められたドックへと続く。まるで生きているかのように誘導灯が灯り、たった今到着したトチローの待人がくぐり抜けてくる。黒地に白く染め抜かれた髑髏の旗を掲げた戦艦は明らかに宇宙海賊を意味していた。 「これは・・・・海賊戦艦!」 「だいぶ旧式なんだがな」 「それでは、貴男の真友は・・・あなたの友人とはキャプテン・ハーロックの事なのですか?!・・・宇宙の方々で冷酷非道な悪行を繰り返しているといわれる」 トチローは苦笑いした。ハーロックは銀河を航行する無法者たちの間ではそこそこ有名人だ。彼の完璧なまでの存在が鼻持ちならないと思う者たちも少なくない。無法者の立ち寄る自由都市の酒場などでは、海賊の名を語っては無銭飲食や金品強奪、果ては無差別の殺しへと発展し、その星の人間は全てがハーロックのせいだと決めつけている。トチローは真友を愚弄したそういう者たちの行為を何度も目の当たりにしていた。エメラルダスはハーロックという男の器量をデラモースに会った時にふとどれくらいの物か感じこそすれ、宇宙海賊という存在自体には嫌悪感を多少なりとも感じてしまう。 「・・・まぁそんなに驚くことはないさ、会えば分かる・・・本物の宇宙海賊がどういう奴かな」 確かに、キャプテン・ハーロックを本当に知っている人間は根性の座った者達だという。大分前に煉瓦の星で出会った、デラモースがそうであるが様に。 デスシャドウ号は海賊島の海の中心部に人工的に作られた海に着水した。一見それは青空と人工太陽光降り注ぐ楽園。砂浜に静かに波が打ち寄せ、岩肌にぶつかる波はキラキラと輝く。かつての地球のそれであるが如き美しいこの海で生きる者達がデスシャドウ号の着水に驚いて岩場に身を潜めた。一人、艦を降りて悠然とドックへと向かうハーロックの表情は、数年ぶりに友と会うというのに、いたって穏やかかつ涼しげだった。トチローとエメラルダスはクイーン・エメラルダス号の修理のために、ドックの中で計器に目を配っていた。その中に見つけた3D映像。まだ骨格しかはっきりと分からないそれは、まぎれもなく戦艦だ。 「これは?」 「あぁ、これか・・・これは俺と友の艦。宇宙最強の戦艦にして自由の艦。いよいよこいつであばれまわる時がやってきたんだよ。アルカディア号っていうんだ。ははは」 「宇宙最強の?・・・アルカディア号?」 エメラルダスが見つめるその3D映像は艦主に大きな髑髏を持つ、全長400メートルを超そう巨大な戦艦だ。内部までははっきりと分からないが、彼女からすれば古風きわまりない三連主砲や艦橋の構えにいささか苦笑いも出そうだった。しかし・・・。 「アルカディア・・・つまり、理想郷さ。俺と友の究極の理想郷・・・それがこいつだ。俺たちはこのアルカディア号で自由に宇宙を飛び回るのさ。なにも金品強奪とかそんなちんけな目的じゃない。ただ、ひたすらに自由を求め、熱き男の心の支えとなるものだ」 そのトチローの満足げな笑みにエメラルダスがゆっくり頷いた。この男ならできる。必ず。夢見がちだと人はいうかもしれないが、彼にはできるという裏付けを強く感じたエメラルダスは、そんなトチローと知り合えたことに無限の喜びを感じていた。否、運命的な出会いとすら。トチローはエメラルダスのそんな気持ちを知ってか知らずか、クイーン・エメラルダス号の最終整備のためにコンピューターパネルをパタパタと叩き続けていた。話しかけても答えこそ返せどいっこうに顔をこちらに向けないトチローが突然静止し、顔を向けたのはその向こうから、海賊島の海から差し込むまぶしい光の向こうから、ゆっくりと近付く足音が聞こえたときだった。 「!!」 ただでさえ大きな口をさらに大きく横広げにし、頑丈な歯をむき出しにしたまま静止しているトチローにエメラルダスは怪訝な面持ちで眺めた。ハーロックがこちらに向かってきているのは分かっているが、なぜ迎えにいってやらないのかと。やがて、足音は近付き、はっきりと耳に聞こえた時、輝きの向こうから現れたのは漆黒のコスチュームに身を包み、片目をなめし革の眼帯で覆った、頬に大きな切り傷を持つ細身の男だった。 「ハーロック!!」 トチローが開ききった大口でそう叫ぶ。ハーロックは立ち止まって、ともすれば無表情とも言える顔でトチローをじっと見つめたままだ。 「やったのか!?特殊鉱石を手に入れたんだな?」 ハーロックはトチローのその縋るような問いにゆっくりと口元を緩めて微笑んだ。その低く頷くような言葉は確信に満ちた声と共に。 「ああ」 「やぁっったぁぁぁっっっっーーーーーー!!!」 まるで花火が打ち上がったような大声と共に、両手を挙げてハーロックに走りよるトチロー。ハーロックの手をつかみ、ぶんぶんと上下に降りながらその喜びを表現する。まるで子供のようなはしゃぎようだ。 「やったぞ!やったなハーロック!これで、これで俺たちの艦が完成だ!どこまででも旅に出れるぞ!大宇宙を股にかけた自由の旅!漢の旅だ!!ハーロック!!」 ハーロックはニヤリと今一度トチローに微笑み返すと、彼の手をしっかりと握って頷く一方、エメラルダスはどうしようもなく疎外感を痛感しつつ、この二人の不思議な絆に入り込んではならない義務感を強く感じた。たとえ、自分がトチローの事をどう思っていたとしても、男同士の友情に入り込むことなどできない・・・そう思うと安堵とも苦笑いともとれる笑みで二人を眺めるしかなかった。 「で?客がいるのか・・・」 「ん?・・・あぁ〜〜そうだそうだ。紹介するよ、こちらエメラルダス。エメラルダス、こいつがハーロックだ」 トチローがそういう前に、すでにハーロックはデラモースから聞かされていた、キツイ女のことを思い浮かべていた。偶然か、それとも運命なのか・・・どういうわけか自分達の前に現れたのだ。 「貴男が・・・ハーロック?・・・宇宙海賊らしい出で立ちですね」 エメラルダスはそう言った瞬間、まずいことを言ってしまったと我に返って口元を押さえたが既に遅し。ハーロックの目が一瞬すわったのを察したか、気まずい雰囲気にトチローが口を開いた。 「そういやぁ、お前、洒落っけづいたのか?黒服なんぞで決めおってからに〜。それに目はどうした?」 実際のところ、トチローは彼に尋ねなくてもなんとなく察していた。だからこそあえて切り出さず、また切り出す必要性も感じなかった。そこにハーロックがいる。それだけで充分なのだからと。 「惑星サイレンでちょっとな・・・。それより、特殊鉱石の積み出しはどうするんだ?この艦をどかさないと、積み出しができんが」 「私の艦です。クイーン・エメラルダス号といいます。もうすぐ修理が終わりますから・・・少し待っていただけませんか?」 ハーロックはその言葉を受けてまじまじとエメラルダスを見つめた。場合によってはトチローが下心で連れ込んだと思っていたが、どうやらそうでもなさそうだ・・・と。デラモースが彼に伝えたエメラルダス像は寸分違わず彼女のイメージに合致した。しかし、いかにしてこの場所に来たのか、確信が持てない以上、警戒心を解くわけにはいかない・・・。それを悟ったトチローはハーロックとエメラルダスの間できょろきょろと二人を眺め、やがてハーロックにかくかくしかじかで・・・とプロミネンスと惑星ゾバークでの話を手短に聞かせる。 「なるほど、そういうことか。もっと早く言えよ」 とたんにハーロックのエメラルダスを見る目がかわった。警戒心むき出しだった先刻と変わり、温和な視線を向けたのだ。 「トチローの大切な客人とあれば話は別だ・・・おかまいなく。ゆっくり修理を進めるといい。空きを探して積荷をおろすさ」 ハーロックは苦笑いして「すまんな〜」と言うトチローの肩をぽんと叩いて背を向けて歩き出した。惑星サイレンで傷付けた足の痛みからか、少しばかりよろよろした足取りをエメラルダスの声が止める。 「待って下さいハーロック。・・・貴男は、惑星サイレンに行ったのですか?」 「・・・それが?」 背を向けたまま、ただ低い声で言葉を返すハーロックの威圧感に今度はエメラルダスの足が止まった。 「あの星に行って無事に帰れた者などいません。なぜそんなところへ?」 「・・・友との約束を守っただけだ」 エメラルダスはそれ以上聞かず、ハーロックの後ろ姿が光に飲み込まれてゆくのをじっと見つめたままだった。トチローは命がけでゾバークウォッカを取りにプロミネンスを超え、その真友は約束の特殊鉱石採取の為にやはり命がけで取り組み、片目を失った。それでも、当たり前のように二人は「約束だ」という言葉で片付けられる、彼女に取ってはかつてどこかでであったことのある二人の若者を彷佛とさせた。誰か・・・同じ人物なのか・・・思案に暮れるエメラルダス。 「約束・・・」 「一度した約束は命がけで果たす。ハーロックはそういう奴さ。真の男。真の宇宙海賊ってのは、そういう奴のことを言う」 「貴男は、彼が死んでもかまわないと思っていたのですか?こんな約束は無謀すぎます」 「奴は死なんよ。俺もな。たとえ肉体が亡んでも・・・意志は永遠に生きるさ。まだまだやりたいことはい〜〜っぱいあるんだかんな。さぁてと、最後の仕上げをとっとと終わらせて、酒でも酌み交わそうや!」 「トチロー・・・・」 そそくさとコントロールパネルに戻ったトチローは再びぶつぶつと独り言を言いながらクイーン・エメラルダス号の修理を続けた。否、もはや修理を通り越した改造にも近い。トチローはなぜか一生懸命だった。だが、エメラルダスはそんな一生懸命のトチローの姿を眺めながら、ハーロックとの強い友情の再会に自分が入り込んでしまっているのを後ろめたく思う。できれば、こんなところに来るんじゃなかったと・・・。それは、女が一人の男に抱く特別な感情がそうさせた。しかし、それを諭すような声が響く。 [エメラルダス・・・貴女には一つ仕事が残っているのをお忘れですか?] エメラルダスの脳裏に響く、クイーン・エメラルダス号の声にトチローもふと顔を上げた。 「仕事?」 「そうです・・・D・ハーロックの事について・・何か、彼が知っていることがあったら・・・聞いてはいただけませんか?」 「奴は・・・。・・・んなぁ・・・頼むから・・・いや、無理か」 トチローは何かを言おうとして口をつぐんだ。頼むからハーロックにDの事は話さないでいて欲しい・・そう言いたかった。友の苦しむ姿は見たくないのだと。しかし、これは自分達にとって避けられない事だと痛いほど分かっている。だから余計に何も伝えたくはなかった。 「どうあっても、奴には話さないとな。そのD・ハーロックは俺の知り合いの所にいるんだ・・・なんとかしてやらなくちゃならんし。それをするのは俺達の役目・・・というか、宿命ってもんだ。これが終わったら、すぐに知り合いの所に行こう」 「いいのですか?せっかく、新しい戦艦を建造するための特殊鉱石が手に入ったのですよ?」 「あぁ、心配ないさ、この基地はちゃんとハーロックの艦の後を追うから」 鼻歌を歌いながら余裕の顔で再びコントロールパネルを叩きだすトチロー。ほどなくしてエメラルダスとトチローは海賊島にあるバーへと向かった。山ほどのゾバークウォッカを凱旋した友にふるまうため・・・。 もうすぐ、彼等の新しい旅立ちが始まろうとしている・・それを予見するかの如く、誰もいなくなったドックの中で、クイーンエメラルダス号は目覚め、ある人物へと通信を送るのだった・・・。 |
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