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第三章
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| 4.空間湾曲 「いかん・・・もう間に合わん!」 機械帝国前衛艦隊と戦闘を繰り広げていたファウストがいち早くパラレルレーザー砲が射出された事に気付いた。艦橋にたった一人となってしまったファウストが操舵席へと走り、デスシャドウ号へと体当たりをかます。 「うわぁぁぁぁ〜〜〜〜!」 デスシャドウ号はいきなり起きた衝突で乗組員達が方々へと投げ飛ばされた。ハーロックも舵輪をつかんでいた手が離れ、横っ飛びにふっ飛ばされる。 「何が始まった!!!」 思わず叫んだが、乗組員全員唖然としている。ファウストは傾いたデスシャドウ号の甲板へと接舷しなおも下へと押そうとする。 「貴様!!ただではすまんぞ!」 ハーロックがファウストへと通信を入れて叫んだが、ファウストの顔は真っ青だ。 [いまは説明している暇はない!!!ワープする!] 「ワープだと!」 ファウストは空間湾曲ワープのボタンを押した。ファウストの艦を中心に最低でも半径一キロ周辺のものを丸ごと別空間へと移動させるワープ法だ。交戦中では場合によっては敵ごと、小惑星帯であればその小惑星ごと移動してしまうため、非常にリスクが高いワープだが、時間の流れの点と点へと移動するワープ法ではデスシャドウ号を置き去りにする事になる。 「巨大な津波がこちらに向かっている・・・・!とても恐ろしい・・・なにもかもが破壊されていく!」 ミーメが両手で頭を抱えながらしゃがみ込み、大声で叫んだ。平常心を失ったようなその姿にハーロックも青ざめる。モニターに押し寄せる光の波が見えた。その時、軽いめまいを感じる。ファウストの艦とデスシャドウ号が消えると同時に、光の波は前衛艦隊を飲み込みながら消滅していった。 「すばらしい・・・・威力だ。あれでは宇宙海賊とやらもひとたまりもあるまい・・・実にすばらしい威力だ」 「有効射程距離はさほど長くはありません・・・・エネルギーを増幅させればさせる程、射程距離が縮まるため、今回はかなりしぼりましたが・・・・最高レベルの充填であれば、惑星の一つ、軽く消滅は可能です」 関心の声を上げたアイアンデアーは満足げに頷くと自室へと引き返すため、窓から離れて出口へと向かった。階下にいる兵士が声をかける。 「アイアンデアー様・・・白鯨からの通信ですが・・・・」 「やっと来たか・・・・言い訳でもしてきたか?」 「クイーン・エメラルダス号を取り逃がした様です」 満足げな微笑みをたたえていたアイアンデアーが急に不機嫌になった。 「なに?」 「白鯨の連絡では、輸送船を攻撃したのはクイーン・エメラルダス号では無いとのことです。クイーン・エメラルダス号は輸送船の荷物を奪ったという事だけで・・・攻撃までは・・・」 「では、正体不明の艦が輸送船を攻撃したというのか!」 機械化兵は首を傾げているばかり。 「さらに、同艦から戦闘機が一機離脱したとの事です。報告では監視に回していた巡洋艦がその戦闘機を追ったところ、付近の星の火山噴火に巻き込まれて墜落したと・・・」 「その戦闘機の行方は分からぬのか?誰が乗っていたのかも・・・」 「全くもって・・・・」 頭に来たのかアイアンデアーは勢いに任せてスティックを階下で報告している機械化兵へと向けた。シュ〜という音をたてながら煙を上げて倒れる兵士。側近があわてて付けくわえる。 「アイアンデアー様、思うにクイーン・エメラルダス号が輸送船の荷物を奪ったというヴェルセルークの見解はあたっている可能性があるのではありませんか?私が知る限り、エメラルダスは数々の密輸品をあつかっていたという噂ですし・・・・。そうなりますと、少なくとも輸送船の内部に入ったと・・・」 「何?・・・・では・・・・よもやDを・・・」 「可能性は十分に考えられます。なにしろエメラルダスはメーテル様の姉君・・・メーテル様からは決別したと聞いておりますが・・・もし本件の裏であの方が動いているとしたら、エメラルダスがDの存在を知っている可能性は否定できません」 アイアンデアーの瞳に浮かぶレーダーの波計が激しく波打つ。彼の顔は高度の技術によって生身の人間とさほど変わりはないが、眼球は真っ赤で、その中に小さなレーダーの波計が存在する。 「いまいましい小娘!・・・・クイーン・エメラルダス号にDが乗っていた可能性があるというのか。確かに・・・その離脱した戦闘機というのも気になるな・・・本星をヘビーメルダーへと向けよ!各エリアの主要艦隊にはクイーン・エメラルダス号の詮索を命じる!白鯨にはメーテルの詮索を開始させよ。ただし、詳細はいうな。生きて捕獲せよと伝えるのだ」 「はは!」 アイアンデアーはすっかりデスシャドウ号が消滅したと思い込んだまま、要塞を蟹座星雲から軌道を変えた。 一方、空間湾曲ワープを終えたファウストの艦とハーロックのデスシャドウ号は僅かばかりの小惑星と共に蟹座星雲の近隣へワープアウトし、一難を回避した。突然の出来事でまだ頭がくらくらしているデスシャドウ号の乗組員たちは口々に文句をたれはじめる。ハーロックもその一人だ。 「なんて無謀なワープなんだ!くそっ、目が回るかと思った・・・」 「でも・・・ハーロック。あの津波に巻き込まれていたら・・・今頃このデスシャドウ号は蟹座星雲の塵となっていた」 「・・・あぁ・・・そうだな。ファウストに通信をつないでくれ。まだ無事だといいんだがな・・・」 通信手がファウストの戦艦に通信を入れると、モニターには頭から血を流している彼の姿が浮かび上がった。 [大丈夫か?突然のワープでおどろかせてしまった・・・] 「大した事をしてくれたな。まぁいい、おかげで命拾いした。・・・そっちこそ大丈夫なのか?」 [なに、ワープの衝撃でちょっと頭をぶつけただけだ] 間違いなく生身の人間である証。真っ赤な血がファウストの額に流れている。ハーロックは苦笑いしながら立ち上がって、移乗のための小型艇射出を命じた。 [こちらに来るのか・・・] 「見た所怪我をしている様だしな。こちらも今は医者がいないが、怪我の手当くらいなら出来る。話もしたい。かまわんか?」 [了解した] ハーロックがミーメを連れてファウストの艦へ移乗している間、デスシャドウ号は近隣の小惑星に錨を打ち込み、出来る限りの修理を進める。ハーロック達はファウストの待つ艦橋へと進んで行ったが、どこも薄暗く、あちこちでアンドロイドが倒れているのを見てミーメは悲しげだった。 「恐らく、サイレンの魔女の歌によって回路がショートしてしまったのでしょう。かわいそうに・・・」 「まるで亡霊船の様だな・・・。これほど古い作りの戦艦がまだ地球に残っていたとは。主力エネルギーを増幅させる為に必要の無い各所のエネルギーを最小限に抑えているのだな。メインコンピューターの出力回路をアップグレードすれば済む話だろうに・・・ここには艦を動かすアンドロイド以外に乗組員はいない様だ。しかし、このタイプは昔見た事がある・・・外見といい・・内部といい」 薄暗い廊下をカツカツと歩いているハーロックは艦橋のドアに見覚えのあるエンブレムを見つけた。龍の顔を型どったそれは、どこかで見た事のあるエンブレム・・・。そこここに恐らくその印があったのだろうが・・・今はそれが削がれ、髑髏の印に変わっている・・・にもかかわらず、そこだけは削がれてはいなかった。 「ここが艦橋のようです、ハーロック」 「あ・・・あぁ・・・分かった。入ろう」 艦橋のドアが開いた瞬間、ハーロックとミーメは目前でばたばたと倒れているアンドロイドを見てゾッとした。その中で一人、黒装束を纏ったファウストが立ち尽くしている。 「こんな・・・・状況になってまで、あんなところで戦艦を探していたのか・・・ファウスト」 「残念ながら、そなたの名前も艦の名も、特徴も・・・何も知らずに来てしまったのでな・・・。あの宙域を通過する戦艦をつぶさに調べる以外、方法はなかった」 ミーメが救護バッグを持ってファウストに走り寄った。青い瞳と鼻以外に顔のパーツらしき物が見あたらないミーメの姿を見るや否や、ファウストが二三歩後ずさる。 「機械化人ではありません。私はミーメ。貴男の怪我の治療に来ました」 「・・・・異星人か・・・すまない、おどろいてしまった」 「皆私をみておどろく。大丈夫。慣れています」 ファウストは二人を艦長室へと案内した。ここもまた薄暗く、数個のランプの明かりだけがぼうっと灯っているだけ。ミーメは手早くファウストの額に包帯を巻き終えると先にデスシャドウ号へと戻って行った。メーテルが訪れた時の様に、残り少ないワインを数本テーブルへ乗せ、グラスをハーロックに勧めた。 「あの津波の正体を知っていた様だが、あれは何者なんだ?」 「・・・・機械帝国軍要塞の新兵器だ。まだ、建設途中だと聞いていたが・・・すでに完成していたとは」 「ほう、機械帝国軍か・・・宇宙のあちこちで幅を利かせている族の様だな。何度か俺も出くわしたが、なるほど、大した軍事力を持っているのだな」 グラスにワインを注いでいるファウストの手が止まった。余裕綽々の様子でソファにもたれかかり、話しはじめたハーロックの顔が卓上のランプに浮かび上がっている。改めてファウストが見たハーロックの顔は、どこかで会った事のある人物だと、そう思った。 「俺の艦を探していた様だが・・・大テクノロジアに何かあったのか?」 「・・・そなたは大テクノロジアについてどれくらい知っているのだ」 「さぁな。メーテルが俺の友の渡した設計図を元に作っただけの事だ。中がどうなっているのかなど俺は知らん。次に友とであった時にでも聞くつもりでいた。今はそれどころではなかったのでな。ただ、ファウストという人物が大テクノロジアの守護につくという話しは聞いていた。よりによってこんな所で出会うとは・・・」 それどころではないというのは、夢の戦艦建造の為に必要な特殊鉱石を手に入れる事。もちろんこれはファウストの知る事ではない。 「大テクノロジアを守る以前に・・・やらねばならない事ができた・・・」 「それが銀河総督府の輸送船襲撃か?あまりいい趣味とは言えんな。それとも、なにか意味があってやったとでも?」 「無論・・・生身の人間達に・・・危害を加えるつもりも無かった・・・しかし、予想以上にあの輸送船は脆くてな・・・」 ファウストはなぜ輸送船を襲撃したのか、そしてアイアンデアーの事・・・かつてメーテルに語った様に、ハーロックにも話した。ワインをたしなんでいたハーロックの表情が、ファウストの話が進むにつれてどんどんと沈み、一見不機嫌そうにさえ見える様になったのは『特殊人材・D』の話を切り出した時だった。 「ちょっと待て。まさかその『D』とやらを殺すつもりでいるのか?」 「アイアンデアーを撃つが早いか・・・『D』を消滅させるが早いか・・・そのどちらか、あるいは両方・・・」 手に持っていたグラスをテーブルに置くハーロック。 「『D』を撃つというのなら、俺は手助けなどできん」 「メーテルと同じ事を・・・・言うのだな」 「あの女がどう言ったかは知らん。お前の夢や理想も・・・可能になればそれは素晴らしい事だろう。それは認める。だが、『D』を撃つのだけは俺には納得がいかんな」 ハーロックの脳裏には、デラモースから聞いた名前によって調べた自分の系図が頭にあった。もし、自分とつながりのある人物だとしたら、たとえ危険人物であったとしても撃つ事などできようか。 |
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