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第三章
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| 3.挑戦 クイーンエメラルダス号はジャスミンのいた衛星での一戦で受けた傷の修理を終えて出向の準備に入っていた。エメラルダスの脳裏には、ヴェルセルークの言葉がこだましている。『クイーンエメラルダス号ならば、プロミネンスの大河を越えられる』・・・その言葉に確信は全く持ててはいない。つい先日、酒場のモニターで目撃した壮絶な情景が目に焼き付いて離れず、思い起こす度に鳥肌が立つ思いなのだ。あの酒場でプロミネンスの大河超えのエントリーをすませた彼女は艦橋で試案にふけっていた。プロミネンスの向こうにある惑星ゾバークに手練がたむろすとは聞いていたが、クイーンエメラルダス号の修理を任せられる者がいるのかどうかもはっきりしない。表情にこそ出さないが、不安から胸の痛みさえ覚えている。 「体調を整えるつもりで停泊していたのに・・・かえって具合が悪くなってしまった・・・」 [D・ハーロックの事、ジャスミンの事、白鯨の事・・・多くの心配事が貴女の胸を締め付けているのですね。エメラルダス。大丈夫・・・私の体は貴女の不安に耐えうるでしょう。信じて下さい。ヴェルセルークの言っている事は正しい] 「ついさっき、酒場で・・・何者かが大河を超えたと言う噂を耳にしました。・・・・エントリーもせずに、小さな、戦艦にも満たないような船が超えて行ったと・・・。酒場では何者なのかという噂で持ちきりです。どんな船で・・・どんな人物なのか・・・私も見たかった」 [超えれば分かる事です。エメラルダス。私はいつでも構いませんよ。貴女の心のままに・・・・] さして残された時間はない・・・・何を理由にそう思うのか、とにかくエメラルダスは複雑な想いとともに焦りを感じていた。早くいかなくてはという使命感を強く感じながら艦橋にある彼女の椅子に深々と腰掛けた。これからの情景はつぶさにあの酒場のモニターに映されるだろう。 「クイーン・エメラルダス号・・・・・発進!」 植民惑星の港に低い轟くエンジン音。それと同時にさの酒場では無法者達の歓声が上がっていた。 「行ったぞ!女の大河超えだぜ!!」 「くぅ〜〜〜〜〜悶え死ぬとおもうとたまんねぇぜ。ぜひ拝ませてもらいたいもんだ」 「なにが欲しくて大河超えなんてするのかねぇ」 「男の後追い自殺かなんかじゃねぇのか?それよりあれだけでかい戦艦だ。ここまで流れ着いてくる部品の数も相当な量だぜ!こりゃ一儲けできそうだな!」 結局、無法者達は、ゾバーク重力圏から流れ着く機械部品の数々がどれほどの量になるのか、そんな話題で持ち切りとなっていた。 「入ったぞ!!」 突如として、業火がクイーン・エメラルダス号にまとわりつき、いたぶる様に締め付け、そして突く。クイーン・エメラルダス号の艦内は急速な温度上昇によって計器が悲鳴を上げていた。不規則に上下左右に振動することでエメラルダスの意識は極限まで達しようとしている。もう、駄目かもしれない。恐怖がエメラルダスの心に過る。あと数分・・・・いや、あと数秒でも持ちそうにない。 [エメラルダス・・・・あなたの信念、あなたの意志、あなたのこころの全てが、私自身です。安心して下さい・・・・貴女の強い想いがある限り、私はこの炎には負けません] 酒場の無法者達からすれば驚くべき姿だった。クイーンエメラルダス号は艦のところどころに飛び出た小さいレーダーなどこそ溶け落ちたものの、それ以上の被害を見せる事無く大河を乗り切ったのだ。 「私は、負けません・・・・私こそが貴方を信じなければ、旅を続ける事などできません・・・」 大河の次に訪れる、重力圧を受け、所々表面を溶かしたクイーン・エメラルダス号は急速に上部へ向かって流され出した。エンジンが停止寸前。 「クイーン・エメラルダス号!」 エメラルダスは床を這いながらマニュアル操舵用のコントロールパネルへ手をついた。レバーを慢心の力を込めて押すと少し艦主が下を向いたがそれでも流されて行く。艦主を下に向け突入しなければゾバークから離され、北極地点への渦に巻き込まれるだろう。そこはさしずめ大河を渡って力つきた船の残骸が渦巻く墓場。そこに入ったら最後、船が砕けてボロボロになるまで、そこから出てくる事は出来ない。高温にさらされたコントロールパネルは、たとえ耐熱コスチュームやグローブ をしていても、ずっと触れているのは非常に辛い。エメラルダスの顔に苦渋の色が伺える。 「しっかりするのです・・・・あと少し・・・あと・・・・少し・・・・」 エメラルダスは意識を失うぎりぎりの状態で、開かれた三白眼でクイーン・エメラルダス号の下に輝く惑星ゾバークの姿を捕えた。その瞬間、艦尾のブースターが猛烈な火を噴き一気に急降下をはじめたのだ。 ズゴゴゴゴゴゴ・・・・・! しんと静まり返った惑星ゾバークの表面を削る様に、轟音を響かせながらクイーン・エメラルダス号は胴体着陸した。 一方、パラレルレーザー砲の発射準備が整いつつあるアイアンデアーの存在も知らず、デスシャドウ号はよろよろと惑星サイレン、はては蟹座星雲から離脱しようとしていた。 「はよこんな宙域出てしまわんと!またあのお化けが目を覚まして嵐を起こしたらどえらい事になるで」 「ハーロック、このままでは予定を大幅に遅れて秘密基地へ到着する計算になりますが・・・」 ミーメの呟きに苦笑しながら操舵しているハーロック。頭から右側の頬に向けて、包帯でぐるぐる巻きになった彼の痛々しい姿。だが、彼が此所に経たなければ、先には進めないのだった。コンピューター機能がだいぶ損傷を受けたせいでレーダーの機能が回復せず、ハーロックは残った左目と自分の勘だけを頼りに舵を切っている。 「仕方が無い・・・・まさかレーダーばかりかワープシステムにまでダメージを受けるとは思わなかったからな。だが、いい土産が持てたんだ・・・どんなに遅くなっても、友は喜んでくれるさ。心配なのは基地に向かうまでに修理がはかどるかどうかだ」 「わいが本気だしゃ、あの程度の故障なんて・・・と言いたいとこなんやけど、もともと寄せ集めの部品で作った部分が多い、せやさかい、ど〜にもこ〜にも部品交換せんとあかん。ほなゆーても部品作っとるほど暇ないしなぁ」 ハーロックはかたかたと操舵輪を動かしながら頭の中の航海図を広げていた。 「惑星ゾバーク付近の植民惑星に行けば、多少の部品は手に入るだろう」 「あそこの闇市場はぼったくられるでー」 「なんとかする。・・・・・それにしても鬱陶しいな・・・」 「やっぱ、気付いとったん?」 デスシャドウの前方に時折見えかくれする船の存在をハーロックは気付いていた。肉眼では全く分からないが、艦橋上部の拡大投影パネルに時々映っては消える。 「ハーロック・・・次元レーダーが一部回復しました・・・先ほどこの宙域ではかなりの次元磁場嵐があった模様。あの船はその巻き添えを受けたまま・・・この宙域を航行していた様です。あの動きは、操作されて動いているもの・・・」 次元嵐が消えたのは、サイレンの魔女が大人しく引き下がっただけの事だ。いつまた復活するか分からないために全速力で離脱しようとしている最中に、悠長にうろついている姿に少々なりともいらだちを感じているハーロック。 「微弱ですが・・・・生命反応が・・・・」 「接近しろ。念のために、攻撃体制を怠るな」 いつ、次元嵐がはじまるかもしれないこの状況で、正体不明の船の面倒を見る事など自殺行為なのかもしれない・・・だが、なぜかハーロックの脳裏に以前デラモースが言っていた言葉が過り、煉瓦の星付近で輸送船を襲撃した船ではないかという思いがわいてきたのだ。接近し、肉眼で確認する事が出来る程の距離に近付いたときだった。通信手の作業パネルからノイズまじりの通信が入り込んだ。 [前方より接近中の戦艦に継ぐ・・・これ以上こちらには来るな・・・危険だ・・・・標的になる・・・・] 「あの艦からの発進です・・・・ありとあらゆる周波数を使ってこちらに訴えかけています・・・キャプテン、引き返した方が・・・」 「ミーメは何か・・・・嫌な予感がする・・・なにか大きな力が近くに・・・・」 「通信回路を前方の艦へつなげ・・・」 通信手が怪訝そうな顔をしたが、仕方ないといった感じで周波数を合わせた。メインパネルに映った姿は真っ黒な装束に身を包み、大きな瞳がかがやく顔にひげを蓄え、威厳をかもし出した男が立っている。黒騎士ファウストだった。 [やはり・・・・生身の人間の艦か・・・] ハーロックは怪訝な顔をしてファウストを伺った。自分の事を知らないのか?このデスシャドウを知らないのか?まずその言葉が浮かんだのは無理も無い。ハーロックとしては、もういいかげん宇宙にその名が知られていて当然の日々を凄して長い・・・しかし・・・この男はまったくもってそんなそぶりは無かった。 「見ての通りだ。何ゆえ我々に通信を入れてきた・・・危険とはなんだ」 ハーロックは舵輪を握ったまま静かにファウストに訪ねた。警戒心を丸出しにしたトーンはファウストもそうだった。 [ここから先は機械帝国軍要塞が待っている・・・・このまま先に進むのは危険だ] 「何?」 ハーロックの表情が少し変わった・・・だが、それでまるまる信用するはずも無かった。レーダーが故障したせいで映っていないせいもあって、ただ憮然とモニターを睨む。ファウストはモニターに映ったハーロックをじっと見つめ続けた。この男なのか?アイアンデアーに立ち向かえると言う艦をあやつる男とは・・・。見るからにボロボロの艦、大きな包帯を頭に巻いた傷だらけの男。しかし・・・なつかしさを感じる・・・その眼光。 「ハーロック・・・この黒い戦艦に髑髏の印が・・・・」 ミーメがこっそり呟いた。一瞬眉をぴくりと動かすと静かにファウストに訪ねるハーロック。 「貴艦に髑髏の印を確認した。海賊か?貴殿の名前を伺いたい・・・・」 [そうやすやすと教えるわけにはいかぬ・・・こうしている間でも攻撃が起きるやも知れん・・・すぐに離脱されよ] 「ほう・・・・、それが?」 ハーロックは余裕の表情で返した。ファウストの艦では敵艦の接近を知らせるブザーがけたたましく鳴り、それはモニター越しのハーロックの耳にも届いている。 「どうやらほんまに敵さんきとるみたいや〜キャプテン。どないします?主砲は使えんし・・・・いま使えるのは・・・副砲一機、魚雷、爆雷、重力波ミサイルくらいちゃうかな」 「上等だ。レーダーが無くとも目測で戦える」 この会話を聞いていたファウストが焦った様に訴える。 [よけいな事は止めておくのだ!今近付いているのはただの前衛艦隊にすぎぬ!そんな傷を負ってどう戦おうというのか!] 「貴殿こそ早くそこを退いた方が身の為ではないのか?見た所かなりやられている様だしな」 [私はこの宙域で探している戦艦がある。ここを離れるわけにはいかん・・・心配は無用だ] 「さすがは銀河総督府の輸送船を攻撃しただけある。やすやすと機械帝国を敵に回すとは、余裕だな」 ファウストの表情が少しばかり堅くなった。その瞬間、機械帝国前衛艦隊が姿を現す。同時に攻撃を仕掛けてきた。 「攻撃を開始しろ!見た所大した連中ではなさそうだ!このまま中央を突破して進行する!」 「了解!!」 デスシャドウ号はファウストの艦を迂回してその先に現れた艦へと進撃を開始しようとしたが、ファウストがそれをとめるべく艦主をデスシャドウ号のまえに突き出した。 「言っておくが、俺が知る限り、この宙域に我々以外の戦艦は認められなかった。うろついても時間の無駄だ!退かぬなら貴艦にも攻撃を加える」 [待て!・・・・もしやメーテルという女性を知ってはおらぬか?] 砲撃命令を出さんと上げたハーロックの手が止まる。 「なぜその名を?」 [・・・・やはり・・・・・] 機械帝国前衛艦隊からの激しい砲撃。ファウストの艦は自動的に主砲で艦隊への攻撃が始まる。どうやら前衛艦隊からはファウストの艦が見えていないらしい、デスシャドウ号からの砲撃と相まって、次々と撃沈されてゆく。 「キャプテン、どーやら敵さん、このおっさんの艦が見えとらんとちゃうか?ステルス機能や。わいら肉眼で見えとるからえ〜けど、敵さんの方角からだとこの黒い戦艦じゃまだまだ肉眼では見えん距離やし。この技術は地球人のやで。なぁ〜〜んか昔見た事がある様な・・・なんで思い出せんのやろか・・」 「もしや・・・・大テクノロジアのファウストという男か?」 [いかにも・・・・それでは・・・・!!] ファウストの顔が凍った。一方、機械帝国要塞では慌ただしく機械化兵が中央コントロールルームを行き交い、エネルギー充填を知らせるパルス音が激しくなりひびいている。アイアンデアーはコントロールルームの一階上に展開されている廊下をすすみ、そのまま開けた窓へと立った。吹き抜けの階下から兵士が伝える。 「アイアンデアー様、パラレルレーザー砲の発射準備が整いました!デスシャドウ号は前衛艦隊に足留めを食らっております」 「砲撃せよ」 「し、しかし我が艦隊をひかせなくてよろしいのですか?」 「所詮は弱小艦隊を送り込んだに過ぎん、まとめて始末して構わん」 「は!かしこまりました!」 アイアンデアーはにやりと笑い、手に握ったスティックを高々と掲げた。 「撃て!!!」 真っ暗な宇宙空間に一瞬、激しい閃光が横に二列輝いた。次の瞬間、要塞が激しく光り、さき先ほど輝いた二列の光線がまっすぐに飛び出した。さしずめ、大波が押し寄せるかの様に扇状に放射された光線は、通過するに伴いそれに飲まれた空間に存在する物質の数々が粉砕されていく。それはアイアンデアーの予想よりはゆっくりだが、かなりの速度で広がりながらデスシャドウ号へとまっすぐ放射されて行くのだった。 |
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