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第二章
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| 6.睨合 クイーンエメラルダス号と白鯨とのにらみ合いはしばし無言のまま続いていた。白鯨の陰に隠れていた二隻の巡洋艦が脇につけたのと時を同じくして、クイーンエメラルダス号は艦首を横に向け、左舷を白鯨に曝すように停止している。巡洋艦の砲門はすでにクイーンエメラルダス号へと向けられ、いつ攻撃が起きてもおかしくない状況にあった。 「やるつもりなのか・・・?エメラルダス」 艦橋へとゆっくり姿を現したD・ハーロックが艦長席の背もたれの向こうで強張った表情のまま座っていようエメラルダスに声をかけた。改めてモニターに投影された白鯨の巨大さに目を見開く。裕にクイーンエメラルダス号の倍はあろう艦隊。外観を見る限りでは何の武装もしていない。 「これが戦艦?この白い物体が・・・」 「あれほどまでに巨体ながら、表面はさながらシームレス機のように継ぎ目が見えないだけです。元々これはバルザック星人の移民船として建造された物。主砲の威力こそ弱い。ですが、あの艦体には無数のパルスレーザー砲を有し、発射されたが最後、狙われた獲物はさしずめ蜘蛛の巣にかかった羽虫のようなもの。そしてあの白い輝きは・・・時として磁力メッキのごとく、軽度の攻撃ならば跳ね返します」 「なるほど・・・殺傷力は小さくとも、たちの悪い戦艦・・・クイーンエメラルダス号と良い勝負だ」 エメラルダスはD・ハーロックがいつものように鼻で笑っているのとばかり思ったが、ふと見た彼の横顔は心底感心しているようだった。 「宇宙では、地球を遙かに超えた技術を持つ人々がいます。それはなにも機械帝国に限ったことではありません。機械帝国も・・・あの白鯨を我が物にしようと企んだ末のことです」 だが、バルザック星が機械帝国に堕ちたのは、結局この白鯨がヴェルセルーク無くしては動かせないという決定的な弱点があったからだった。そして、この移民船・白鯨の建造にバルザック星の資力の全てを使ったために、他の艦隊はあまりにも脆かった。 [遅い!クイーンエメラルダス号からはまだ返答が無いのか!] しびれを切らした巡洋艦から白鯨に通信が入った。ヴェルセルークが表情一つ変えずにいるため、いたしかた無しと機械化人の通信班クルーが「まだだ」と返す。同時にヴェルセルークが立ち上がってクイーンエメラルダス号へと入電した。 「エメラルダス・・・無駄な抵抗はするな。戦闘が始まれば向こうの星に少なからず被害が及ぶ。そうして我々の前に横たわっていたとしても、流れ弾を防げる保証は無いのだ。見ればもう先の短い小いさな星。巻き沿いを食わせるにはあまりにもむごいとは思わぬか?」 [私とて、この星を巻き沿いになどしたくはありません] 「ならば接舷し、すみやかに出頭せよ。・・・私は、お前を傷つけたくはない」 [今、この艦への浸入を許すわけにはいきません] エメラルダスはちらとD・ハーロックのいた場所を見たが既に彼はモニターに映らぬように脇によけ、壁により掛かって考え込んでいるようだった。 「相変わらず・・・強情だな。見られては困る物でも乗せているのか?」 [機械帝国軍の犬に成り下がった貴方には知る必要のない事です] 艦長席に鎮座するヴェルセルークは彼女に此処まで言われても、まだ表情は変わらなかった。否、むしろ悲しげであった。老兵ゴーツがエメラルダスに事実を突かれて歯ぎしりをした。 「エメラルダス殿。口が過ぎますぞ!我々とて・・・バルザックの存亡がかかって・・・」 「ゴーツ・・・お前は少し黙っていろ。口が過ぎるのはお前の方だ・・・エメラルダスは私と話をしているのだぞ」 ゴーツはしまったとばかり頭を深々と下げて艦橋中央から脇へと後退した。 「エメラルダス、これ以上話をしている時間はない。こちらより接舷体勢を取る。下手に動いた場合は・・・たとえクイーンエメラルダス号とて容赦はしない」 エメラルダスはモニターの向こうで眉間にしわを寄せて俯いた。そして何かを言おうとしたが、その前に白鯨から通信を切ってしまった。ヴェルセルークが片腕を上げると同時にじりじりと白鯨がクイーンエメラルダス号へと近づき始める、その時だった。 「!」 一瞬、白鯨の目前を数本の閃光が通過した。白鯨の動きと同時に両舷につけていた巡洋艦からショックカノン砲が放たれたのだった。 「だれが撃てと言った!」 クイーンエメラルダス号は即座に楯になるべく上昇して巡洋艦のパルサーカノンを艦体に受けたが、至近距離で撃たれたために閃光のいくつかがジャスミンの星へと降り注いでいく。むなしくもヴェルセルークの叫び声は白鯨の艦橋に響いた。 [動こうとしたので威嚇砲を撃った。我々巡洋艦は白鯨の警護に当たるが役目、そちらの命令聞かずとも、危険と思われれば敵を攻撃する権利を有している」 巡洋艦からすれば、衛星など目に入っていない。それに、動いたから撃ったのではないことも一目瞭然だった。さらに巡洋艦はクイーンエメラルダス号の艦首艦尾へと回り込んでミサイル砲撃を止めなかった。振動こそ伝われ、たかだか巡洋艦2隻からの砲撃はさしたるものではなかったが、衛星に容赦なく降り注いでいく流れ弾をどうすることもできない。 「ヴェルセルーク!応答してください!いったいこれは何の真似ですか!!」 しかし、クイーンエメラルダス号を取り囲む砲撃によって白鯨への通信が遮断されていた。引き返しても被害が増幅するだけ・・・為すすべがない今のクイーンエメラルダス号はただ打ち震えて砲撃に耐えていた。 「反撃・・・します」 「待て、エメラルダス。反撃すれば白鯨も攻撃を始める。砲撃をまともに受けたら身動きがとれなくなるのだろう、衛星にも被害が増幅する。・・・反撃せずに突破しろ」 「しかし、このままではジャスミンが・・・」 明らかにジャスミンの星の地盤が崩れているはエメラルダスもD・ハーロックにも分かっていた。激しい砲撃の巻き添えで衛星はおおきな地割れを余儀なくされ、片隅から徐々に崩れていく。まるで、水分を失った土の塊の様だった。しかし、この砲撃の中に置いてかすかにジャスミンの歌が宇宙にこだましていた。大宇宙の海を旅する者へ、その無事を祈って密やかに歌い続けているあの歌が、かすかに彼らの耳に届いた。舞い散る茉莉花の花びらと、砕け散る岩盤、激しく波打つ湖の中で歌い続けるジャスミン。小火山の噴火がはじまろうとしている衛星で悠然と歌い続ける彼女のいたいけな姿がD・ハーロックの脳裏に浮かんだ。 「ジャスミン・・・・。俺が此処を出る。デスバードでジャスミンを迎えに行く。お前はこの宙域から離れろ。俺には構うな」 「何を言っているのですか」 「いずれこの艦を下りようと思っていた・・・そう、クイーンエメラルダス号も望んでいた。ちょうどいい機会だろう」 顔面蒼白で艦長席から立ち上がり、去っていこうとするD・ハーロックの後を小走りで追うエメラルダス。 「この艦は私の艦です。クイーンエメラルダス号は私自身です。私はあなたを大テクノロジアへと連れて行くと約束しました。どんなことがあったとしても貴方を守ります」 「俺はお前と約束してはいない。連れて行くと言うから頷いただけだ。連れて行ってくれとは頼んでいない。クイーンエメラルダス号は、お前自身のために存在する。お前はその気持ちをくみ取る義務がある。お前のために苦しみ悩むのだ。それを忘れるな」 エメラルダスに背中を向けたままのD・ハーロックは再度艦橋の出口へと足を進めたが、去っていこうとするD・ハーロックの前にエメラルダスが立ちふさがった。 「どうやって大テクノロジアへ行くというのです!」 「銀河超特急で旅する時の水先案内人を探す・・・」 「なぜ・・・それを・・・まさか、ジャスミンから・・・?」 そう言いながらもエメラルダスはジャスミンがそれを伝えたのだと察知した。エメラルダスの瞳に涙がにじんできた。また、孤独に戻る事への恐怖心が彼女をそうさせたに違いない。こうしていいる間でも、砲撃は続いている。艦橋の機器があわただしく光を点滅させ、シールドの自動補強も間に合わないことを知らせた。 「行かないで下さい!貴方を行かせたく無い!私を一人にするのですか!」 突然D・ハーロックが裏拳でエメラルダスを殴り飛ばし、道をあけた。床に崩れるエメラルダスは頬を押さえてD・ハーロックを見上げた。 「・・・これは偶然の出会いでは無いと・・・」 「いつまでそんなことを言っている!いつまでも小娘みたいな事を・・・。お前が俺に説教していたことは口先だけの事だったのか!・・・・俺はお前を信用したから身体を欲した訳ではない。所詮俺はそういうヤツだ。もっと頭のいい・・・ましな男でも探せ」 D・ハーロックは涙にくれてゆくエメラルダスに謝罪の視線を送りながらも小走りでデスバードの置かれた格納庫へと向かった。 [D・ハーロック、あなたが星に到着して無事にジャスミンを救出するまで・・・できる限り楯となります・・・どうか・・・ご無事で・・・] 「本当に愛し合える者が見つかったとき、あいつは強い女に成長するのだろう?俺がいたばかりにお前どころかあいつの心までも曇らせてしまうところだった・・・」 クイーンエメラルダス号は彼を乗せておきながら追い出すことになった状況を悲しく思ったのだろう、微弱な振動が伝わる。だが、D・ハーロックの瞳は今までのそれとは違い、澄んだ輝きに満ちていた。 「俺は俺自身で居場所を見つける。苦しくとも、戦わなければならない時に背を向けない・・・そうやって生きて生きる星のもとに生まれた男だったと、ジャスミンの歌が、そしてお前がそう気づかせてくれた。これでいい・・・そうだな?」 [ありがとう・・・D・ハーロック・・・・貴方は少しずつ、本当の貴方自身を取り戻しています。貴方のDNAに刻まれた、本当の姿はまもなく貴方自身になる・・・その時・・・またお会いしましょう] D・ハーロックがデスバードのコクピットに乗り込んだと同時にクイーンエメラルダス号の両舷砲門が開かれた。上部ハッチが開くと同時に上部火気系統ゲートが開き、発進するデスバードの援護砲を放射した。 「ヴェルセルーク様!クイーンエメラルダス号から戦闘機が一機離脱していきます!ヒューマノイドの生命反応が認められております」 「・・・・デスバード・・・まだ・・・持っていたのか、エメラルダス・・・」 ヴェルセルークはクイーンエメラルダス号から発進した戦闘機を良く知っている。かくもあろう、彼が以前乗っていた愛機だった。彼は思った、エメラルダスのヴェルセルークへの想いが、今デスバードの発進と共に断ち切られた。すなわちそれは彼自身からしてもそうだった。そして、衛星からかすかに聞こえるジャスミンの歌が、まどろんでいた彼の心に一筋の光を刺した。 「クイーンエメラルダス号の前に進行せよ」 「し、しかしクイーンエメラルダス号の艦首には巡洋艦が・・・」 「構うな!どかぬのならば体当たりでもしてどかせ!」 白鯨の艦橋はにわかに騒がしくなり、艦内のエネルギー動力炉がフル回転すると同時に急激に速度があがった。進路を開けるように警告したが、巡洋艦の速度は白鯨に及ばず、結果的に白鯨の鼻面で大破した。 「ヴェルセルーク!進行します、そこをどいてください」 前方の巡洋艦が大破したおかげで白鯨への通信が回復した。クイーンエメラルダス号の艦尾で攻撃をくわえていた巡洋艦はそのままデスバードを追う形となり、クイーンエメラルダス号からの粒子ビーム集中砲火で傷を負い、さらに衛星の噴火に巻き込まれて撃沈。白鯨から発進した艦載機がデスバードの降下していった衛星にむかうがクイーンエメラルダス号からの攻撃によってそこから近づくことができずに旋回を繰り返していた。さらに衛星で起きた小火山噴火の噴煙によって先が見通せない。 [エメラルダス!お前がそこにいるのなら、デスバードにはいったい何者が乗っている・・・] 「言ったはずです・・・機械帝国の犬に成り下がった貴方の知る必要のないこと。どいてください・・・さもなくば・・・強行突破します」 艦首と艦首を向かい合わせにした戦艦同士の距離はさほど無い。明らかにお互いの砲門も向かい合っていたが、攻撃しあうような事はなかった。 「将軍!攻撃をしてください!巡洋艦を撃沈したとなれば・・・機械帝国は黙ってはいません!」 「クイーンエメラルダス号は我々が戦う相手ではない。火気系統の威力などたかがしれている。不足だらけの戦艦を力でねじ伏せるなど、私の意にそぐわぬ」 「ならば捕獲は!」 機械化人となった一般兵達は焦った様子で振り向いて艦橋上部に座っているヴェルセルークに訴えた。 「捕獲できたとしても・・・守る物があるのならば、たとえ白兵戦となっても、たった一人でそれを死守するだろう・・・エメラルダスとは、そういう女だ。機械化された元民間人のそなた達には分からぬだろう。だが、我々バルザック人は女一人に束になってかかるほど愚かではない。正々堂々と同じ条件で戦う・・・それが私のやり方だ」 振り向かずに操舵席から前方を見つめたままのゴースの背にヴェルセルークが呟いた。 「全速前進!」 「全速前進!」 ゴースの復唱と共に白鯨はクイーンエメラルダス号へ向けて進行を開始した。 |
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