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第六章8
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| 静寂そして・・・ リヴァイアサンは赤く発光していた。空気などあるはずもないプロメタリウムの水中に気泡が沸き上がり、まるで沸騰したかのようにぶくぶくと音を立てている。それはまるでラミアのエネルギーを近づけんとするリヴァイアサンの防衛本能の様だった。ヘルブラディエネルギー充填率がどんどん上がり、やがてそれは一定の充填率で制止したのは、誰がやったわけではなく、勝手に停止したのだ。艦橋につんざくような音が鳴り響く。 意識を失いかけそうなトチローは自分の腕に噛みついた。鮮血がボロボロのシャツににじむとそこをハーロックのスカーフでギリギリと締め付けた。痛みがトチローの意識を回復させる。その時、トチローには声が聞こえたような気がした。 【憎しみに、悲しみに追いつめられた闇の声が、心の叫びが・・・今、門が開くのを待っている。出口を求めて彷徨っているのです。トチロー・・・・。私をあなたのお父様の頭脳の粋を媒体に、貴方の意志によって解放させなさい。自分を信じて。ハーロックを信じて。私の愛を・・・そして貴方方を愛し慕う者達の信念を】 「撃てぇぇぇ!」 リヴァイアサンの艦内にとどろくほどの大声でトチローが叫んだ。同時に機関室で同じように気を失いかけていたホセが対反動制御レバーを倒す、さらにアルバが艦橋に響く叫び声を発しながらヘルブラディ砲の発射装置のトリガーを引いた。 【ギャァァァァ!】 そんな動物とも人間とも付かない甲高い叫び声がハーロックに聞こえた。 (マヌエラ・・・) ハーロックの耳に届いた声は、マヌエラの苦しみから解放された叫び声のようでもあり、そして、ヘルブラディと化した多くの憎しみや悲しみといった意識の塊が放出を感じた一瞬だった。目前が瞬時にして輝き、彼はその輝きの中に飲み込まれていく・・・。真っ白な閃光に包まれて放出されたヘルブラディエネルギーはプロメタリウムの惑星中心部を突き抜け、やがて惑星全体を包み込む様に変化し、それと同時に猛スピードで水中から後退し、そのまま宇宙空間へと放出されたリヴァイアサンはコスモドラグーンから生成されたエネルギー体に包まれているかのように発光したままプロメタリウムから遠ざかっていく。そこには激しい振動も装甲板の剥離や亀裂もなにも起きなかった。 「ハーーーーーロックーーーーーー!!!」 トチローの、宇宙にもこだましそうな痛烈な叫び声と共に、乗組員達はみな船外を展望できる場所へと押し寄せた。以前メタブラディで目撃したヘルブラディ砲とは比べ物にならないほど強力かつ壮絶な様が展開されている・・・。彼らの目の前でプロメタリウムは白い妖炎に包まれ、見たこともない天使の如く美しい女性と悪魔のような醜悪な顔つきの女性が入り乱れる、それが全てを抱きしめ、あるいは食い尽くすかのように現れては消えた。そんな様を目の当たりにして誰もが言葉を失った。やがて光は小さな銀河の様な渦を巻き、徐々に小さくなると、一つの粒のように凝縮し、次の瞬間大きな発光体となった。皆その閃光に眼や顔を覆ったが、その光が止むと、そこには闇と静寂が戻っていた。見れば遙か向こうにアンドロメダ星雲の端・・・そしてぽっかりと口を開けた次元断層は何事もなかったかのようにそこにあった。 [ハーロック・・・・ハーロック・・・・] 彼を呼ぶ声が聞こえる。上も下も左右も分からない空間に投げ出されているのが分かった。瞼が重くて目を開くのが辛いが、それ以上に自分に身体の感覚が存在していない様にも思えた。かつて、惑星ダラスでアグリモニーに助けられたときのように、身体が何処にあるのか分からず、そこには意識しか存在していない様にさえ思えた。彼は小さく膝を抱えてうずくまったまま、生暖かい感覚に包まれているのに気づいた。ハーロックがやっとの思いで頭を上げ、瞼を開くと、女性がいた。正確には、彼女の胸の中に彼が抱かれていると言ったほういいだろう。白く透き通りそうな肌、厳しい眼差し。その表情はアグリモニーとよく似ているが、髪の色が黄金に輝いていた。 「・・・・ア・・・グリ・・モ・・ニー・・・?」 女性はニッコリと笑ってただハーロックを見つめていた。とても懐かしい・・・そんな暖かさを感じ、ハーロックは彼女に微笑み返した。 「・・・・そうか・・・マヌエラ・・・お前なんだな・・・」 [ハーロック・・・失ってはならない者・・・] 女性・・・否、マヌエラはハーロックを抱きしめていた。 「このまま・・・ずっとこうしていてくれ・・・俺は・・・疲れた」 [いいえ・・・] 平安な面もちでしばらくハーロックを抱きしめていたマヌエラはゆっくりと腕を開いて彼から離れた。 [いいえ・・・このまま貴方を抱きしめていたいけれど・・・そうすることを私は望んではいけない・・・そして貴方のお父様もそれを望みません。貴方は帰らなければならない場所がある] 「・・・帰らなければならない場所・・・?・・・そう・・・そうだったな・・・」 [貴方を連れて行きたいけれど・・・それはできない。分かっているでしょう、ハーロック・・・貴方は生かされている。私と、妹と、そして貴方のお父様の命によって・・・これが最後です・・・もう、貴方は自分の脚で歩いていける。いえ、歩かなければならないのです] そう言うとゆっくりハーロックから離れ、発光している彼女の身体からはあの時のように煙り様の炎がしみ出してハーロックを包み込んだままだ。気が付けば、ここは宇宙空間・・・にもかかわらず、彼には、遠くで聞き慣れたエンジンの振動音が聞こえるような気がした。ハーロックは寂しげな微笑みを消えてゆくマヌエラに向けた。彼は思った。これが本当の母の姿。おそらくは無意識のうちに望んでいた母のぬくもりなのだと。 [貴方は、私のことを貴方とは全く別の世界に存在する物体だと分かっているでしょう。いつか、貴方は私のことを忘れていくかもしれない・・・私の姿など忘れてしまっても構わない・・でも、これだけは覚えておいて・・・貴方にはちゃんと母がいて、貴方のことを愛していたのだということを] 次の瞬間、マヌエラは小さな閃光となって次元断層に向かって消えていった。ハーロックは彼女が消えていく次元断層の向こうに、彼の船とよく似たキャビンを持つ緑色の戦艦が見えた。その艦尾キャビン上には、彼の帰るべき場所に掲げられた旗と同じ、髑髏の海賊旗がはためいている。マヌエラの閃光がその戦艦に吸い込まれて消えると、並行している飛行船型の戦艦と共にそのまま次元断層のはるか彼方へと姿を消していった。 「やっと・・・会えたんだな・・・おふくろ・・・ありが・・とう」 安堵に満ちた微笑みをたたえたまま、ハーロックは再び瞳を閉じた・・・。 「どうしても行っちゃうのか・・・せっかく知り合えたのに残念だなぁ」 「あぁ、でも、俺の船は999だからね。ホセさんが言ってたろ、真の友はたとえ離れていても、心は一つだって」 「俺を・・・真の友って思ってくれるのか?迷惑ばっかりかけたのにさ」 「お互い様だよ」 惑星ラーメタルのステーション。鉄郎と広は蒸気を放出して今にも発車しそうな銀河鉄道999の止まるホームにいた。そこにはラ・フロリーナとメーテルの姿もある。発車のベルがけたたましく鳴りだした。 「お元気でね、広、ラ・フロリーナ」 「メーテルさんも・・・お元気で」 「また・・・お会いすることもあるでしょう。その時まで」 メーテルは広とラ・フロリーナに微笑むとスーツケースを持って999に乗り込んだ。 「アルバによろしくと伝えてくれ」 「分かった・・・達者でな!」 鉄郎は大きく頷くとつば広の帽子とマント、そしてメーテルとお揃いのスーツケースを掴むと999のデッキに駆け込んだ。バタンと音を立てて扉が閉まると、ラーメタル中に響く汽笛の音が鳴り2、3度車輪を空回りさせてゆっくり機関車は動き出した。遠のく999を何時までも広は見つめていた。 「広、貴方は船に戻るの?貴方もいなくなっちゃうかと思って・・・これ」 ラ・フロリーナの手には出来上がったばかりのハンチング帽があった。 「俺に?作ってくれたのか?やった!ありがとう」 照れくさくて、受け取った帽子を深々とかぶったまま下を向いていた。 「ダイバーランドに戻ろうと思ったんだけどさ、なんつーか、船を造るにも金がいるし、リヴァイアサンの修理をしながらもっと勉強できるかなぁ〜なんて思ってな。あ、あははは」 「ダイバーランドの落日の乙女の話を本にしてベストセラーを狙ってお金儲けするんじゃなかったの?」 「そんなこと俺は言った覚えはない!」 「もう、すぐ熱くなるんだから。冗談よ、冗談、書ける分けないじゃない」 「なんだと!」 駅のコンコースに二人の笑い声とも叫び声ともつかない声が響いていた。 一方、アルバはメーテルの小屋にほど近い丘に墓を建てた。アグリモニーの墓だ。花を手向けしばらく見つめていると、彼の上空を999の汽笛が通過していく。アルバはそれに向かって大きく手を振っていた。 「鉄郎さん・・・僕もいつかきっと、宇宙で胸を張れる戦士になります。貴方の様に・・・!そして、キャプテンのように!」 999が見えなくなっていくまで手を振り、そしてアグリモニーの墓を背にして歩き出したアルバの腰には「戦士の銃」コスモドラグーンが納められていた。 「本当によかったんだろうか?またコスモドラグーンを元の状態にしてしまって」 999の客車で鉄郎が彼のコスモドラグーンを見つめていた。コスモドラグーンはそれぞれ、持つべき者の手に戻されていた。しかしメーテルの手元にはそれがない。新たなる戦士の証として、アルバに渡してあったのだ。彼とメーテルの座る席の横を、「忙しい忙しい」とせわしく車掌が走り抜ける。まったくそれを気にもとめずに、メーテルは鉄郎に話した。 「もう、ヘルブラディ砲は二度と使わない・・・そうトチローは言っていたわ。いつか、それに負けないくらいの装備を作るでしょう・・・。そして、このコスモドラグーンに匹敵するくらいの銃もいずれ・・・ね」 「そうか、・・・そうだね。・・・それはそうと、ラーメタルは本当に大丈夫なのかい?君が留守にしていては危険なんじゃないかと思うんだけど・・・」 メーテルは微笑んだまま、窓の向こうで小さくなっていく惑星ラーメタルを見つめた。ただ、何も言わず、じっと窓の向こうを見つめたまましばらく時が経つ。鉄郎はそんなメーテルを見つめているだけで幸せだった。彼女がこうして何も言わずに時が経つのは今に始まったことではない。彼女の安心した笑顔を見ているだけで、それでよかった。それ以上彼は何も望むことはない。彼女の安心した笑顔とは、再び鉄郎と旅を続けることに喜びを覚えている証でもある。そこにまた車掌が走り抜けた。 「あ、車掌さん!ねぇ、次の停車駅って分かってるのかい?」 鉄郎の元に後退してきた車掌はその場足踏みをしたまま答えた。 「あぁ、鉄郎さん・・・それがさっぱりなんですよ。さすがに銀河鉄道管理局とも長期に渡って連絡が取れなかったために何処をどう走ってるのか検討も付きません、ハイ。あ、私は忙しいので失礼しますよ!」 「相変わらずだなぁ、まったく。ずっと休んでたんだからそれくらい調べときゃいいのにぃ」 と、ぼやいたこちらも相変わらずの鉄郎をみてメーテルがクスクスと笑っていた。 「行く当ての分からない不思議な旅・・・それが一番いいんじゃないの?鉄郎」 「ん、ま、まぁね。メーテルとまた一緒に旅に出られたんだし、焦ることないか」 頭の後ろに手を組んで満足そうにしている鉄郎は、あの時に戻ったかのような、少年の笑顔でメーテルに微笑みかけた。 (また、いつか会いましょう・・・ハーロック) 惑星ラーメタルではリヴァイアサンの出航準備が整い、低いエンジン音が渓谷に響き渡ると森から鳥の群が飛び立った。片翼はまだ復旧はしていないが、それはヘビーメルダーの警護のために置いてきた人工惑星「海賊島」で完全修理するため、ひとまず航行可能な状態までには復旧していた。 メーテルの小屋の地下、巨大な機械設備が敷き詰められた地下基地に女の人影がある。いつもならばメーテルが座っているはずのそのコントロール機器の上に、先ほどアルバが手向けた筈の花束を置いた。それを持っていた手は白く細い。長く黒い髪をその指で軽くはらうと、コントロールパネルのスイッチを入れた。モニターには今飛び立たんとするリヴァイアサンの勇姿が映し出される。その勇姿を、細い指でなでる女の頬には傷跡が一筋。そしてドレスの向こうの、組んだ脚の太腿には棘の刺青があった・・・。 |
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