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第六章7
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| 決死のヘルブラディ砲 ハーロックとハルヴァルドーとの決闘は息絶え絶えのアグリモニーの目前で繰り広げられていた。至る所に痛手を受けているハーロックにとって強力のハルヴァルドーに対しては完全な不利ではあった。だが、身軽なハーロックの動きは、たとえ傷だらけであってもそれを克服するだけの俊敏さが備わっている。一太刀一太刀交わす度に、ハーロックの脳裏にはこの旅での数々の戦いと、そして自分のために命を落としていった者達の姿が浮かび上がり、そして彼らはみな、こう言った『お前はハーロック。髑髏の印の元、戦いの海に生き、この名を永遠に紡ぐことがお前に授けられた運命。お前の身体に流れる血の宿命なのだ』と・・・。 俄に中心部で暴れていた蛇頭の動きがさらに激しくなり、いよいよカプセルにひびが入りだした時だった。 「貴様の戦艦はいますぐ間近にある・・・。ラミアの怒りが頂点に達したとき・・・ラミアの本当の力が試される。貴様の仲間は皆焼け死ぬ・・・そして此処にいる貴様もだ!この決闘で私を倒したところで・・・もう時間はないのだよ、ハーロック!」 後ろは次元断層、水没した都市の中にリヴァイアサン、すべてはハルヴァルドーの計算通りに事は進んだ。ヘルブラディであるリヴァイアサンとラミアのエネルギーが次元断層に放出されたら、そこに大きな負の力が生じる。それによってリヴァイアサンは撃沈、さらに次元断層内の時空に歪みが生じれば、宇宙の時の流れが変わるかもしれない。時を変えることは、科学者でもあったハルヴァルドーにとっては素晴らしい瞬間となるのだ。アグリモニーを傷つけてしまったのは計算外だったが、まだ息はある。満足げな笑みが浮かんだ。その時だった。甲高いレーザー銃の音と共に、カプセルに入った亀裂が大きく開いた。アグリモニーが最後に力を振り絞って叩き落とされたショットガンを拾い、ラミアのエネルギーとこちら側を隔てたカプセルに向けて打った瞬間だった。 「貴様!な、なにを!」 エネルギー体の蛇頭の一つがまっすぐにハルヴァルドーへと突き進み、首元へを噛みついた。 「ラ・・・・ラミア・・・き・さ・ま・・・」 「お前のせいだ・・・私はお前が・・・お前が憎い・・・そして・・・お前を葬るのは・・・この私自身!」 ハルヴァルドーが見たのは、憎しみに満ちたラミアの姿だったかもしれない。死なば諸共・・・。憎み合うことでしかお互いの愛を確かめ合うことのできなかった二人の最後の姿だった。アグリモニーには分かっていたのだろう。憎むことでしか愛せない気持ち・・・ラミアもまた彼女と同じならば、そしてその命がけの愛が心の片隅に残っているのならば・・・と。 「終わりだ、ハルヴァルドー!」 ハーロックは宙を舞い、ハルヴァルドーの首を討ち取った。ドサッという低い音と共にハルヴァルドーの身体は倒れ、切断された首から水蒸気の様な煙と透明の液体が噴き出す。切り落とされた頭はラミアのエネルギーと共に発電をはじめ、やがて膨張してガラスの様に割れて粉々になってしまった。 ハーロックが振り向けば、カプセルから湧いて出てきたラミアのエネルギーは自由にこの塔の頂上のコントロールルームを飛び回りはじめる。次々と襲いかかるエネルギーの蛇頭を縫うように、ハーロックはアグリモニーを抱えて塔を降りた。違われるが如くいななきを伴う激しい振動により、塔の内壁はボロボロと崩れはじめ、足下さえも崩れ落ちていく。エネルギーの供給を失ったプロメタリウムはまるでもろい石膏でできた白亜の塔に過ぎなかった。 「アグリモニー!・・・しっかりしろ!」 無数の兵士の死体がころがる軍事エリアまで到達したハーロックはアグリモニーを揺さぶった。うっすらと瞳を開けるアグリモニーは力無く微笑んだ。 「何て馬鹿な人なの・・・船を離れて一人で乗り込んでくるなんて・・・」 「リヴァイアサンは俺自身だ・・・たとえ離れていても共にある。そしてお前の居場所はあの船なのだろう!」 床にしゃがみ込み、膝の上でアグリモニーの頭を抱き、首の出血を手で押さえた。彼女の身体はもう限界であるが為に、出血が止まらない。 「お前は一人ではない。どれほど辛いことがあっても、お前にとってあの船がお前の居場所だというのなら俺は構わない」 「分かってくれていたのね。私は・・・私を抱く貴方が、いつも私を通り越して・・・誰かを探していたのが悔しかった・・・。殺したいほど憎かった・・・。でも・・・分かっていてくれたの・・・そう」 アグリモニーは微笑んだ。 「そして・・・お前を必要としている者がまだいる事を忘れるな」 「アルバの事・・・?あの子だって母親を知らずに育って、私にその影を探していた・・・。ハーロック、私が戻れば・・・あの子もまた、貴方の二の舞にしてしまうでしょ?そして、中途半端に私は死んでいくかもしれない。その原因を彼は自分のせいだと思うでしょうね。・・・私はそんな風にしか生きられない馬鹿な女。戻りなさい、ハーロック。私を置いて・・・」 ハーロックは首を振った。アグリモニーは半身を起こし、ハーロックの肩により掛かって、冷たくなってしまったその手でハーロックの頬を撫でた。 「私は、はなから戻る気なんて無かったのよ。・・・盛大に散ってやろうと思ったに・・・貴方が来るから・・・こんなかっこわるい死に方をしなきゃいけなくなったじゃないの・・・ばか」 「この期に及んでまだ強がりを言っているつもりか!俺がお前の身体のことを知っていたらこんな事には・・・」 「言わないで・・・最後まで貴方の前の私でいさせて・・・。これが私の選んだ道。貴方の目の前に貴方の自信の海があるように、私には貴方が・・・私の海だった・・・でも・・・それでも貴方の前の私は“棘”でいたかったの・・・」 ハーロックの頬にかかっていた彼女の手が滑り落ちた。その手を掴むハーロック・・・あまりの冷たさに、彼の身も凍るようだった。 プロメタリウムの惑星体の剥離が始まった。次元嵐と共に断層へと引き込まれていくプロメタリウムは嵐と断層の引力の強さで引き付けられた周囲の小惑星と激しくぶつかり合い、一部は水没した都市へと降り注ぐ。艦首を都市奥深くへとめり込ませたリヴァイアサンにそれを回避するすべはなく、衝突はやむを得ない。そして、俄に艦内の温度が上がりはじめた。 「トチローさん!艦内の温度が上がりはじめました。ラミアのエネルギーが水没した都市を通じて流れ出しているみたいです・・・」 ラ・フロリーナが振り返って叫ぶと、操舵輪を満身の力を込めて握っているトチローがじたんだを踏んだ。 「くそ〜っ。踏んだり蹴ったりもいいところだ!オイ、広・・・艦内の圧は?」 「平常値より30%アップしています・・・50%を突破すると艦内に水が流れ込みますよ」 「ちくしょーめ、火攻め水攻めのあげくに感電させるつもりか!」 (ハーロック!何をやっているんだ!せめて・・・せめて声だけでも聞かせてくれ・・・) 水の中ではシールドも分解されてしまい、その結果回避できない小惑星がダイレクトに装甲板をきづつけていた。艦内圧がダウンすることで装甲板の亀裂が広がり、吸い込むように水が流れ込んでくるのは時間の問題だった。この状況がプロメタリウム軍事エリアのモニターが捉えていた。激しいノイズの向こうに小さく映ったリヴァイアサン・・・ハーロックにはその奥で苦しむ乗組員達の姿が目に浮かぶようだった。そして、ひたすら祈るトチローの姿が・・・。別のモニターでは次元断層が大きく口を広げている様が映し出されている。小さな渦を巻きながら水が流れ込みはじめた。そして、軍事エリア壁の亀裂からもラミアのエネルギーを吸収しだした水が流れ込む。 「やはり・・・戻るほどの時間は無いというわけか・・・もとより分かっていたようなものだ」 ハーロックは、もうその口も、手も微動だにしないアグリモニーを一段高いコントロール席の一つにもたれかからせた。上部コントロール席は戦闘の何を逃れているのが幸いだった。そして解る限りのパネルとレバーを動かした。 「トチロー!トチロー!・・・聞こえるか!トチロー!」 ハーロックの声がリヴァイアサンの艦橋に響く。項垂れていた乗組員達はみな勢いよく頭を上げた。艦橋にいた全員がモニターに押し寄せる。 「キャプテン!」 「ハーロック!」 [待たせてしまったな・・・] 「何をやっていたんだよ!早く戻れ!今ならまだ間に合うぞ。俺はこのプロメタリウムと心中するのだけはごめんだかんな!」 モニターに向かって叫ぶトチローの声は嬉しげでもあり、すこし声が震えてもいた。 [ブレイドのせいでえらく奥まで艦首をめり込ませたな。修理に手間取りそうだぞ] 「呑気なことを言っている場合か!」 ハーロックは寂しげに笑っていた。その視線がアルバに止まる。何か言いたげなアルバだったが、大きな瞳に涙をためてただじっとハーロックを見つめた。彼はもうアグリモニーの最期を悟っていたのだ。その時、大きな振動が起きた。 「キャァァァ!」 思わずラ・フロリーナが悲鳴を上げた。危険を知らせるアラームが激しく鳴り響く。無人だった機関室の鎮火を見定めて突入したホセの叫び声が聞こえた。 [トチロー!機関室の温度が急激に上がっとるぞ。艦首のブレードが強い粒子振動をキャッチしたんじゃ!みなもう半死半生じゃ・・・はやく離れないとえらいことになるぞ!] プロメタリウムの塔が崩れた為に起きた振動だった。塔の頂上は爆発を起こし、ラミアのエネルギーは次元断層に引っ張られるのに激しく抵抗し、そのためにプロメタリウムの深部にあるエネルギー圧力が急激に変化した様だった。ハーロックのいる軍事エリアもその崩壊の影響を受け、至るところで爆発、またしても出火が起きた。モニター越しに再びトチローが見たものは炎壁に包まれそうになっているハーロックだった。 「ハーロック!すぐに出ろ!いや・・・こちらから迎えに行ってやる。突入口は?今どこにいる!」 [・・・・もう間に合わん。此処にどうやって到着できるのかも俺には分からない。トチロー、思案している場合ではないんだぞ] その時ハーロックの真横で爆発が起きた。身を伏せて爆風を避けたが、顔をあげると一筋の血が額から流れ落ちていた。 「ハーロック!」 [分かっているはずだ!トチロー!・・・撃て・・・ヘルブラディ砲を撃て!対反動制御装置を解除すればリヴァイアサンはこの星から離れられる!そして次元断層にめり込むまえにこの惑星を破壊せねばならん!] 「ハーロック!」 トチローにはハーロックの気持ちは既に解っていたが、それでも反論したいのは当然のことだ。 「キャプテン!あなたはこの船の艦長でしょう!どうしてこの状況でそんなことが言えるんですか!」 そう叫びながら詰め寄る広を副長席にいた鉄郎が止めた。止めながらふり返ってモニターの向こうのハーロックに伝えた。 「『男なら、戦わなければならないときがある。死ぬと分かっていても、戦わなければならない時がある』そう貴方のお父さんは言いました。次元断層にプロメタリウムが突入することでラミアのエネルギーがそこに放出されたら・・・時空に大きな歪みを生じるかもしれません・・・。阻止しなければ・・・宇宙の均衡が保たれない恐れが。そればかりか・・・ラーメタルの、そしてメーテルの消滅をも招いてしまうかもしれない・・・。貴方はそれが分かっていたんですね」 [ああ。ハルヴァルドーの目的はそこにある。あいつは自分だけが生き残り、宇宙を混沌に巻き込むために次元断層をわざと利用した。分かっていても、それでもここに来なければならなかった・・・。全てをこの目で見ておきたかった。決して無駄だとは思っていない] トチローはがっくりと膝をついてしまった。もう選択の余地はない事は、彼が一番分かっていた。ハーロックは足をがくがくと振るわせて立っているアルバを見据えた。 「アルバ・・・撃て、これは艦長命令だ・・・」 アルバは彼の座席の背もたれに顔を埋めながら嗚咽を漏らした。 「ハーロック、お前のことだ、絶対にこうなると思ったよ」 [トチロー・・・俺は信じている・・・俺に課された宿命と俺の身体に流れるこの血と共に、俺は生きることを受け入れんだ。そしてこの宿命と祖先から伝わる血の選択したこの道が・・・間違ってはいないのだと。俺は、俺自身に委ねられた運命を信じる・・・俺の身体に流れる、父と母の血を!] トチローはゆっくりと立ち上がり、涙混じりの声で。 「ホセ、ヘルブラディ砲発射準備!ヘルブラディ砲の発射と同時に対反動制御装置を解除だ。広!対ショック対閃光防御!何をしている!早く席に着け!」 広がぐったりと席に着くと意を決して閃光防御シャッター始動ボタンを押した。鉄郎はアルバを抱き起こして戦闘席に座らせる。モニターを見ると、ハーロックは厳しい瞳で深く頷いた。アルバはとりつかれたかのように戦闘席中央の赤いボタンに触れる。まだ真新しい照準機と銃型の発射装置が出てきた。艦内はさらに熱が上がり、エネルギー充填が始まる。機関室は猛暑の嵐で誰もがもうろうとした表情でエネルギー充填を見守っていた。激しい振動が起きる中、一際辛そうな表情のホセは、ふらつきながらもしっかり機関中枢コントロールレバーと対反動制御装置レバーを握り続け、艦橋に、そしてハーロックにも聞こえる大声で叫んだ。 [ハーロック!トチロー!・・・真の友はどんなに離れていても心は一つじゃ。ワシはアルカディア号でそれをよ〜く学んだ。・・・そして、キャプテン・ハーロックや大山博士の子孫であるお前さん達がそうであることを見届けることができて幸せじゃ。・・・そう、これがワシに託された本当の任務じゃったと・・・今、そう思うとる] トチローは微笑んだ、そして手首に結びつけられたハーロックのスカーフを握りしめる。 [トチロー。バトル・フラッグは翻っているか?] 「ああ、心配するな、ハーロック。こんな訳の分からん水の中だって、俺達の旗は勢いよく翻っているさ。この船と・・・俺達の心の中に!」 ハーロックはその言葉を聞いて微笑むと通信を切った。ラ・フロリーナが泣き崩れた。静寂がリヴァイアサンの艦橋を包む。その静寂を断ち切るかのようにアルバが叫んだ。発射装置を抱きしめるようにしがみつき、涙を流しながらやっとの思いで吐いた言葉。 「僕にはできません!」 さしずめだだをこねる子供のようにしがみついたまま離れようとはしないアルバに平手打ちを喰らわす鉄郎。 「君がやらないなら俺がやる。そこをどけ!これは・・・誰かがやらなくてはならないんだ!」 鉄郎の瞳にも大粒の涙が浮かんでいた。 「これは・・・彼が選んだことなんだよ。君は彼に忠実でいることを選んだんだろう?そう、彼女に約束したんだろう?」 彼女・・・すなわち、アグリモニーの事。その時、広が悲鳴にも似た声を上げた。 「エネルギー充填率が勝手に上がっています!艦の振動が激しく、内気圧が不規則変動!」 中枢コンピュータールームではコスモドラグーンの5つのシリンダーから激しく緑色の発光エネルギーが放出され、それが青い炎を取り囲み、やがて一つとなって大きな光と化した。真っ暗だったコンピュータールームが白色の世界に包まれた。 「マヌエラ・・・そして親父・・・・頼むぞ・・・これに全てがかかってるんだ・・・。これが失敗することがあれば、それは俺自身の知識の不足・・・だが、それで大勢の命を無駄にするわけには・・・いかない」 トチローは朦朧とした意識の中で呟いた。ほとんどの者が内気圧の変動と艦内温度の上昇で気を失いそうになっている中、唯一地球人とは全く違う体質のアルバだけが無事のようだった。滝のような汗を流して辛そうにしながら戦闘コントロールパネルにずるずるともたれかかった鉄郎に微笑みかけるアルバ。 「僕がなぜ・・・これを任されたのか・・・分かりましたよ」 鉄郎が力無くではあったが、微笑み返した。たとえこれが偶然だったとしても、今のアルバにはそれが必然だったと思えた。もし、ハーロックがこうなる可能性を予測してアルバをこの席に着けたのなら、ハーロックが選んだ道は決して間違いではないのだと理解できる。ハーロックは予言者ではない・・・だが、先見の明が正しいのならば、アルバが今やらねばならないことはただ一つだった。 |
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