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第六章6
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| プロメタリア水没 [リヴァイアサン!リヴァイアサン!応答して・・・ハーロック!トチロー!] アグリモニーはプロメタリウムの地下深くで使われなくなっていた通信装置を使ってメイン回路をジャックし、リヴァイアサンへと周波数を合わせた。ひびの入った小さなモニターにはノイズの向こうにかろうじて艦橋の様子が伺えた。リヴァイアサンでも同じようにノイズが酷く、重力波の通過の度にほとんどがノイズにまみれ、アグリモニーの様子を確認することはできない。だが、皆彼女の声を聞いて安堵した。 [ハーロックは?] アルバと鉄郎が道をあけると、その向こうの操舵輪にトチローが立っているのに気づき、アグリモニーは息をのんだ。 [まさか・・・] 「そのまさかだよアグリモニー・・・あいつはそっちにいる」 トチローが低く呟いた。アグリモニーの表情はリヴァイアサンからではよく確認できないが、彼女は愕然としているようだった。しかし、トチローは今のリヴァイアサンの状況から、そんなアグリモニーの気持ちをくみ取ってやれるほどの余裕はなかった。 「アグリモニー、無理するな・・できる限りで良い・・・敵を撹乱してくれ」 [まかせてトチロー」 アグリモニーは近くにプロメノイド兵が来ることを懸念して通信を切ろうとした。その時アルバ前に出た。 「アグリモニーさん!待って!」 [アルバ・・・立派に戦ったじゃない・・・。ちゃんと観ていたわ。きっとヴェルセルークも喜んでいるでしょうね] 徐々に顔が歪むアルバをノイズの向こうのアグリモニーは優しく微笑んで見つめていた。 [言ったでしょう?ハーロックに忠実でいるようにと。そんな顔をしてはだめよ。強く、強く生きなさい] 「アグリモニーさん!!!」 彼女は最後に艦橋にいた一人一人に微笑むと、通信回路を銃で撃ち壊した。泣き崩れそうになるアルバを鉄郎が支えた。鉄郎には解っていた。なぜハーロックがアルバをアグリモニー救出に向かわせなかったのかを、そしてなぜ彼女がアルバの彼女に対する気持ちをくみ取ろうとはしなかったのか。 「アルバ・・・愛情には二つある。ずっと傍ではぐくむ愛情と・・・遠くから見守り続ける愛情と・・・。君はまだ若い、いつか必ず、彼女の気持ちが理解できるときが来るよ」 「鉄郎さん・・・」 鉄郎は今彼が言った二つの愛情の両方を知っている。 プロメタリウムの地下に身を潜めたアグリモニーはハルヴァルドーのマントを破いて胸と腰に巻くと兵士から奪ったレーザーガンとショットガンを肩に掛ける。彼女は崩壊したエレベーターの配線をつなぎ、できる限り頂上へ向かおうと試みた。一方のハーロックも部屋になだれ込んできた兵士達の襲撃を受け、迷路のように入り組んだプロメタリウム内をうろついていた。兵士の襲撃の間に隙を見てその場を去ったハルヴァルドーはラミアの元へと向かった。向かう最中、モニターに映し出された地下養卵場のありさまを観て怒りがこみ上げていた。怒りと、悲しみと、無念さと諦めと・・・。 「何をしていたのだハルヴァルドー!よもやヘルブラディが・・・・」 「もはやヘルブラディは我々の手には落ちません・・・だが、ラミア様、このプロメタリウムをもってリヴァイアサンをハーロックごと闇に葬る最終手段が残っております」 「何・・・・・!」 ハルヴァルドーはすがすがしい笑顔でラミアのエネルギーが渦巻くカプセルを見つめた。 「もはや私のエネルギーは必要ないというのか!」 「エネルギーの元となる母体をまた一から探せばいいだけのこと。あなたと同じ『多種混血性細胞疾患』の身体を持ちながら・・・生きる意志に満ちた者を母体とすれば私の研究は完全になるはずだ・・・私さえ生きていれば、それが可能というもの。所詮あなたは軍事エネルギーのなれの果てに過ぎない。トールがヘルブラディを手に入れようとしたのも、それは動けぬ貴方に成り代わりプロメタリアの支配をもくろんだに過ぎない・・・」 「裏切ったのか!この私を・・・・!」 ラミアのエネルギーが多頭の蛇となってハルヴァルドーが立つカプセルを威嚇する。 「さよう・・・彼女たち守護乙女は私の手によって肉体を持つことで私の腹の内をも受け継いでしまった・・・それが貴方に知れるのが何よりも心配だった。ずいぶん煙たい存在だったが・・・計画通り自滅してくれたのでなによりだ。だが・・・君が先に私を裏切ったのだよラミア!貴方は私の気持ちを踏みにじるように自ら命を絶ってしまったではないか!」 今のラミアにそれが分かるはずもなかった。ハルヴァルドーが恭しくラミアに使えていたのは軍事用に次々とプロメノイドを量産するためでもあり、ひとたびラミアが怒ればそれは恐ろしい破壊エネルギーへと変化するためだった。今、ハルヴァルドーはラミアを怒らせ様としている。彼にとって、本当は辛い判断だった。 「さぁ、怒りたまえラミア・・・生きることに絶望し、のうのうと生きるヒューマノイドを憎み、苦しんで命を絶ったその怒りと苦しみを・・・この私への最後の愛情として・・・プロメタリウムごと私に楯突く輩を地獄へ葬るのだ!」 ハルヴァルドーはカプセル内に並ぶコントロールパネルを叩いた。プロメタリウムの塔に次々と穴が空き、都市へと降り注いでいた液体が噴水のように流出を始めた。それと同時に大地震を伴って次元断層へと航行を開始したのだった。プロメタリウムの周辺へとラミアのエネルギーは巨大な滝のごとく流出し大きな渦となって周辺の宇宙塵を飲み込み始めた。リヴァイアサンから発せられる主砲やレーザー砲の数々はプロメタリウムに近づくとおおきく蛇行し渦の中に飲み込まれていく。 「トチローさん!大変です!推力が低下しているのにプロメタリウムに引き寄せられています!」 リヴァイアサンの艦橋でラ・フロリーナが叫んだ。 「このままでは衝突だ・・・奴らリヴァイアサンごと次元断層に突っ込むつもりなんですよ!トチローさん!」 「それならそれで好都合だ。俺達ゃハーロックを迎えに行かなきゃならん。次元断層などなんぼの物ぞ!このまま・・・突っ込むぞ!」 トチローは大揺れの艦橋で艦長席上に仁王立ちし、蛇輪を掴んだままじっと前方を見ていた。リヴァイアサンはすでにプロメタリアからの主砲重力波によって片翼を失い、ゆらゆらと揺れながらプロメタリウムに引き付けられていた。 ギシギシと音を立てながら地響きを伴う振動がやまないプロメタリウムでは数々の兵士が塔から外へと放出されていく。そんな中、アグリモニーが塔の頂上へと到達した。すでに中央のエネルギー中枢・・・つまりラミアの住まいの中では数々の蛇頭が交互にわき上がっては消滅し、暴れ回っている。その姿は苦しげにも見えた。 「ハルヴァルドー!」 「待っていたよ、アグリモニー、さあこちらに来たまえ。もうすぐプロメタリアは次元断層の塵となる・・・私と共にここを脱出するのだ」 アグリモニーはハルヴァルドーに銃を向けた。 「最後の最後まで手間をかけてくれる。せっかく治療してやったというのに、その礼がこれかね」 「貴方はそうやって、人に恩を売って利用してきた人なのでしょう?ヴェルセルークがそうだったように・・・そして、ラミアだってきっとそう・・・彼女は貴方に救われることで貴方に利用されたくなかったから自分の命を絶ったんではなくて?」 ハルヴァルドーの視線が急に厳しくなり、手を伸ばしながらゆっくりとアグリモニーに近づいていく。アグリモニーは数歩横に周りながら、ハルヴァルドーの頭を狙ってショットガンを撃った・・・が、充分近距離であるにも関わらず、彼女の撃ったエネルギー弾は彼のサーベルによって吸収されてしまった。我が目が信じられないといった表情のアグリモニーをあざ笑うかのように、素早く彼女の目前まで近づくとその指にはめられた烏口のようなリングを突き立てるように首を掴むハルヴァルドー。 「君に私を撃つことなどできない。君の身体の動きは私のシステムにインプットしてあるからね・・・すべてお見通しだ。さぁ、来たまえ」 ハルヴァルドーの外見では想像できない強力で引きずられていくアグリモニー。 「貴方もまた・・・憎むことでしか人を愛せない人なのね・・・私と同じだわ」 「私もかつてはヒューマノイドだった・・・そのころのトラウマというものは、こうして身体を改造した今でも消えることは無い・・・。私は闘うことに全てをかけるメタノイドも、こんな複雑でどうしようもない感情を消し去ることができないヒューマノイドも・・・大嫌いだ」 ハルヴァルドーの声は少し震えているように思われる。 「だが、お前のやろうとしていることは間違っている」 「ハーロック!」 ハーロックはラミアのエネルギー流出によってずぶぬれだった。コスチュームや髪からぽたぽたと水滴を垂らしているが、彼の足跡には赤い血が混ざっている。次々と襲いかかる兵士の中をぬって此処まで到達する間で近距離戦用の重力サーベルでの攻防は至難の業だった。 「よくその程度の傷でここまでたどり着けたな。・・・さすが・・・と言っておこう」 「お前の夢は確かに素晴らしい・・・だが、その根底にあるお前の考えは間違っている。病に苦しむことなく、死にも脅かされず、子孫を産み、育てる事のできる新世界だと?それの全てを決めるのはお前自身に他ならない。結局はお前が全ての創造主として君臨し、プロメノイドを操ろうとしていることには変わりない。俺はそれが気にいらん」 「ならば死ね!」 ハルヴァルドーは腰に下げた銃を撃ったが、同時にアグリモニーが首を掴んだ腕を引っ張ったために狙いがはずれ、エネルギー弾はハーロックの足下をかすめただけだった。しかし、アグリモニーが腕を引っ張った勢いでハルヴァルドーの手に力が入り、烏口は彼女の頸動脈をわずかに切ってしまった。悲鳴と共に彼女の首から鮮血が流れた。 「何!」 「・・・・どう・・・?最高の研究材料を自らの手で傷つけた気分は・・・」 「お・・の・・・れ・・・!」 力無く床にばったりと倒れるアグリモニー。冷め切ったハルヴァルドーが怒りの形相をもってサーベルを抜き、ハーロックに向かって走り出した。激しくぶつかり合うサーベル、同時に今までにはない振動が起きた。リヴァイアサンの艦首ブレードがプロメタリアの都市へ突き刺さった瞬間だった。 「ぐわっっつ!」 リヴァイアサン艦内は衝撃で人々が方々へ投げ出され、緊急事態を知らせる警報が鳴り続けた。機関部をはじめとする火気系統は出火し、即座に消火機能が働きさらに防火ゲートが閉められた、だが、それによって機関部も無人状態となってしまった。 「み、みんな大丈夫かぁ?」 「はい・・・なんとか・・・おぇ、腹打った、気持ちわるっ」 「大丈夫?広・・・」 ラ・フロリーナが広を抱き起こすと近づいた顔にラ・フロリーナは赤面した。 「何があったんだ!」 慌てた様子でドクターが艦橋に走り込んでくると、目前に広がる都市・・・否、もはや水中に没した都市とそこに浮かぶ無数の人間のような形の物体に息をのんだ。艦首ブレードのおかげで衝突もさほど激しくは無かった様だが、誰もがこの艦外のありさまに言葉を失った。鉄郎に抱き起こされて席に着いたアルバが叫んだ。 「プロメタリウムが水没した・・・危険です・・・ラミアのエネルギーが爆発を起こすとリヴァイアサンは・・・嫌・・・僕たちも丸焦げになりますよ!」 「はぁ?」 トチローが今だひびの入ったメガネをかけ直しながら間の抜けた返事をした。鉄郎がすぐさまコントロールパネルで外の状況分析をはじめる。 「トチローさん・・・微弱ですが・・・粒子振動が起きていますよ。これはトールの戦艦から射出されたあの巨大主砲と同じ・・・」 一同の表情から血の気が失せた。トチローが慌ててハーロックの通信装置に信号を送ったが、それがこの状況で届く保証は無い。 (ハーロック!頼む・・・もう時間がないぞ・・・!) 「キャプテンからの応答は!」 トチローは静かに首を振った。 |
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