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第六章3
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| 決意 リヴァイアサンに戻ってきた白兵戦のメンバー達は、辺りを見渡してやはり鉄郎がいないことに気づき、艦橋に通信を入れていた。 [艦橋!聞こえますか!鉄郎さんがまだあの戦艦にいます!] 艦橋は騒然としていた。慌てて広が立ち上がったが、ハーロックはまだ蛇輪を握りしめてリヴァイアサンを旋回させていた。追い打ちを掛けるように主砲を敵旗艦へと発射するのは、その反動を利用してできるだけエンジンを使わずにそこから離脱するための手段だった。それが広の心配を増幅させる。 「キャプテン!」 「落ち着くんじゃ広。救命艇を向かわせればいいじゃろが」 広の後ろにいたホセが制した。 「でも、例の爆発で救命艇も被害を受けて動けないんですよ!キャプテン、戻ってください!」 コスモ・エンジェル隊の一機からも悲鳴混じりの通信が入った。 [アルバ隊長が鉄郎さんと甲板に残っています!速く救命艇を出動させてください!] エンジェル隊から送られた通信で、艦橋に巨大戦艦の甲板でうずくまっている二人の姿が拡大投影された。敵艦の甲板を覆い尽くしているバリアには酸素が含まれているため、二人は炎に包まれているかのように伺えた。ラ・フロリーナが悲鳴を上げて手で顔を覆う。バランスを失った巨大戦艦は爆発の大きさの偏りから徐々に傾きだし、そのままリヴァイアサンから離れていく。コスモ・エンジェル隊の数機が戦艦の周りを飛んではいるが、艦体に亀裂が入り、至る所で装甲板が剥がれ出しているため、着地する事ができずにいるようだった。 「ちくしょう!コスモ・エンジェルじゃ無理です!キャプテン!俺に行かせてください、まだなにか動かせるものがあるかもしれない・・・」 「広、まだ敵艦の攻撃は続いているんだぞ!敵旗艦から離脱しないとリヴァイアサンも爆発の巻き添えを食うんだ!」 トチローが振り向いてやおら大声を出したとき、ようやくハーロックが蛇輪から手を離した。 「広、お前は強化シールドの様子を見てこい」 そう言い捨てるとハーロックは艦橋から姿を消してしまった。呼び止めようとする広をホセが止める。ホセはしわくちゃの顔ににっこりと笑みをうかべてポンポンと広の肩を叩いた。 「鉄郎さん・・・貴方が戻らなければコスモドラグーンは揃いません。なぜ行かないんですか!」 「そうだよ。コスモドラグーンはここにある。だから信じるんだ。ハーロックを」 傾きが激しくなってきた甲板を滑るように二人は流されていった。バリアが薄れ初め、また度重なる爆発で酸素が急激に減ったため、二人表情が息苦しいものに変化する。アルバがベルトから携帯式の酸素ボンベを鉄郎に差し出すと鉄郎は一吸いしてアルバの口にあてがった。四方八方から唸り声のような轟音が鳴り響き、いよいよ甲板に亀裂が走り出した・・・その時だった。低いエンジン音と共に二人の目に黒い閃光が飛来した。酸欠で気を失いそうになっているアルバが小さな声で呟く。 「ア・・・アルバトロス!」 「ハーロック!」 コクピットで二本指を軽く額に当て、ハーロックは余裕の笑みを浮かべて旋回し、方々に飛び散る装甲板の破片を避けながら、彼らの前へと舞い降りた。コクピットのハッチを開けると白いスカーフを靡かせてハーロックが立ち上がった。 「待たせたな。速く乗れ!」 一人乗りを基本とするエンジェルと違い、ハーロックのアルバトロスのコクピットは広い。鉄郎と、体の小さいアルバなら余裕で収容できるスペースがあった。鉄郎はハーロックの顔を見るなり安堵の笑みを浮かべた。 「鉄郎・・・やったな」 「ええ、取り戻しました。でもアルバがいたおかげです。アルバのサーベル・・・見事な戦いぶりでしたよ」 コクピットに乗り込むなりアルバがハーロックに頭を下げた。 「すいません、勝手な行動を・・・・」 「命令無視のバツはあとでゆっくり受けて貰うさ。傷を負ったか?」 「大丈夫です。すぐに艦橋の任務に戻れます」 「上等だ」 苦笑するアルバにハーロックはいつもの不敵な笑みで返した。ブースターを噴かして飛行するアルバトロスはひび割れて宇宙の塵へとなっていく巨大戦艦をしり目にその周辺に残る敵艦をミサイルで軽くあしらいながらリヴァイアサンへの帰路についた。 プロメタリウムの軍事エリアでは巨大スクリーンに撃沈されたトール艦を初め、粉々に大破した戦艦の数々を捉え、そして赤黒く発光しだしたリヴァイアサンが映し出されていた。 「ハルヴァルドー様!敵艦は強化シールドを復旧させた模様です。あの戦闘下でそれほどの余裕があったのでしょうか・・・恐るべき戦艦です」 「うむ。そして・・・これでヘルブラディとコスモドラグーン両方が彼らの手に渡ったというわけか・・・祝電を送ってやろう。通信をつなげ」 深々と側近が頭を下げ、彼の指示でプロメタリア兵がリヴァイアサンへと発信を試みた。一方、広の活躍で強化シールドが復旧したリヴァイアサンでは、それまでに受けた被害状況にもかかわらず、人命におおきな被害が出ていないことを安堵していた。巨大戦艦の撃沈を知った残存艦たちが攻撃をやめてプロメタリウムに後退しだしたのを知って、リヴァイアサンの乗務員は俄に活気づいいている。艦橋に戻ったハーロック、アルバ、鉄郎はプロメタリウムに撤退していく数少ない残存艦を見て軽く笑った。広が小走りでハーロックに近づいた。広は強化シールドの修理に向かったことで落ち着きを取り戻した様だった。 「強化シールドは復旧完了しました・・・大したこと無かったですよ。すいませんでした、取り乱したりして」 ハーロックの瞳は「だろうな」・・・と答えているようだった。 「シールドの修理をお前にまかせて正解だったようだな。艦橋が手薄になるのが心配だったんだが、お前は時々頭に血が上るからな・・・そういうときは機械をいじらせるのが一番だと思った。こういうところはトチローと似ているようだからな」 広は面食らって頭を掻いた。 「ところで、トチローさんはどうしたんです?」 「あいつは制御装置の制作に取りかかっている」 「分かったんですか?」 「そのようだ・・・何も言わずに中枢コンピュータールームに去っていったが、あいつのことだ、心配はないだろう・・・広、鉄郎とコスモドラグーンを持っていけ」 広と鉄郎はお互いのコスモドラグーンを確認して、中枢コンピュータールームへと向かった。リヴァイアサンの周囲は朽ちた戦艦の破片が浮遊し、船の墓場に迷い込んだかのように、重く静まり返る中、アルバはじっと、目前に現れた軍事要塞惑星・プロメタリウムを睨みながら立ちつくしていた。 「キャプテン、敵母星より通信が入っています!」 ハーロックが目で合図するとラ・フロリーナは回路を開いた。巨大モニターに映し出た男は、冷たい瞳でじっとハーロックを見ている。アルバが呟いた。 「ハル・・ハルヴァルドー・・・!」 [見事な戦いぶりだった。流石は宇宙にその名を知らしめたキャプテン・ハーロックの子孫だけある。感服したよ] 「お前がハルヴァルドーか・・・」 ハルヴァルドーは軽く胸元に手を当てて恭しく礼をすると視線をずらして、ハーロックの隣のアルバに微笑みかけた。 [アルバ・・・だったね。元気そうで何よりだ。君が敵に回って残念だが・・・再び会えたのは何かの縁かもしねぬな] 「アグリモニーさんをどうした!」 [彼女なら無事だ。人質にするつもりで連れてきたつもりは無いのだが、結果的にそうなってしまった事を悲しく思うよ] 拳を握りしめてまだ何か言おうとしているアルバの肩の上に手を置いて、ハーロックが訪ねた。 「人質にするつもりではないとはどういうことだ?」 [彼女の不完全な身体には私の研究を完成させるだけの価値がある。邪魔者が去った今、ようやくそれに向けて始動させられるというもの。彼女が私の素晴らしい研究に、賛同してくれるというのならば喜んで迎え入れたい。もっとも君たちが我々に攻撃を仕掛けるというのならば、私も容赦はしない。私の研究を邪魔する者は許さぬ・・・] ハーロックは腕を組み、目をつぶって少し考えているようだった。無言の時がしばし流れ、彼が再び瞳を開けるまで、ハルヴァルドーは黙ってハーロックを見据えていた。アルバが心配そうな面もちでハーロックをのぞき込んだ。ホセも、ラ・フロリーナも・・・。 「許さぬ・・・・か」 ハーロックは一言そう言うとニヤリと笑い返し、腰のサーベルと抜いてモニターの向こうのハルヴァルドーに向けた。 「一体何のための研究だか知らぬが、俺達は我々の掲げる旗の下、共に生き、死ぬことを誓った。アグリモニーの居場所は其処ではない」 [それが正しいかどうか、自分の目で確かめるのだな] ハルヴァルドーはハーロックの言葉も身振りにも臆することなく、一言そう述べて通信を切った。かすかだが、プロメタリウムの大都市を支える惑星面のクレーターが動いているのが肉眼でも見える。それほどまでにプロメタリウムは近づいてきていた。 「トチローさん、どうです?」 中枢コンピュータールームに鉄郎と広が現れると、小さな機械をいじくりまわしながら床にあぐらをかいているトチローが大きな口を開けて振り向いた。即席で作り上げた部品の数々に囲まれて、いつものように笑ってはいるが、すこし疲れているようにも思えた。 「おお〜。もうすぐ完成だよ。ご苦労だったな広、強化シールドの修理、お前がやったんだって?応急処置だが、俺でもああするよ。よくやった」 広は照れくさそうに笑って見せた。 「こちらはコスモドラグーンが揃いましたよ。あとはキャプテンのを入れれば5丁です」 広は持っているコスモドラグーンをトチローに渡した。鉄郎もそれに続く。 「大変だったそうだが、お前さんなら大丈夫だと信じてたよ、鉄郎」 鉄郎は預かっていたメーテルの銃に続いて、取り返してきた自分のコスモドラグーンをしばらくなで回してからトチローに渡した。両手で受け取っても3丁そろうと非常に重い。トチローはその嬉しい重さを噛みしめるように、大事に胸元へと抱きかかえた。 「こいつのシリンダーをはずして中枢コンピューターの下のあの装置に並べるんだ・・・」 「ならべると・・・どうなるんです?」 「シリンダーのエネルギーがヘルブラディを制御する。シリンダーのエネルギーは射出口バイパスへと流れ込んでヘルブラディのエネルギーが通過する際の冷却の役割をする。・・・そこから先は俺にも分からん。なにせヘルブラディもコスモドラグーンもそれぞれに生きたエネルギーだからな。ヘルブラディ砲を撃つときは、全武器エネルギーを一点に集中せにゃぁいかんが、俺の計算では今のこのリヴァイアサンの状況からいって、撃って、必ずしも安全とは言いきれんのだが・・・問題があるとしたら、それだな」 ヘルブラディ砲は機関エネルギーを使わずとも撃つことはできる。だが、そこで起きる振動は計り知れない。今の機関エネルギーとリヴァイアサン本体に、たとえコスモドラグーンの力が加わったとしても、この状況でヘルブラディ砲を撃つことは、最後の賭に出るときだけだとトチローは言った。 「エネルギーの充填率は?」 トチローは首を振った。 「まだ分からない・・・俺の考えではコスモドラグーンのエネルギーがある一定の充填率で制御を開始すると見てるがな・・・まぁなんとかなるさな。先に艦橋へ返っててくれ、俺はハーロックを待たにゃあ」 頷いて去っていく二人の後ろ姿をなぜか祈るような気持ちでトチローは見送った。そしておおきなため息をついてから、自分のコスモドラグーンを抜いてシリンダーを外し始めた。 鉄郎と広が艦橋に到着した時、艦橋の中は重苦しい空気で一杯になっていた。ホセが眉間にしわを寄せて俯き、ラ・フロリーナはうなだれている。アルバはそこには居ない。そしてハーロックが艦長席から立ち上がり、目の前の操舵輪に首に巻いたスカーフを結びつけていた。この重苦しい空気を読みとった鉄郎達は無言で去っていくハーロックが何をしようとしているのかすぐに分かった。追いかけようとする広の肩を鉄郎が力強い手で掴んで制す。ハーロックが向かった先はトチローのいる中枢コンピュータールーム。トチローはハーロックが入ってきたのに気づいていたが、ぽつと俯いて完成間近の制御装置を見つめていた。 「トチロー」 「・・・ハーロック、忘れるな。この船は俺達の船だ。そしてお前は艦長なんだ。たとえどんなことがあっても、お前以外にこの船の艦長は務まらん。・・・分かるか?」 「ああ」 トチローはハーロックの差し出した彼のコスモドラグーンを受け取らず、まだその小さい背中を向けたままだ。薄暗いコンピュータールームでぼんやりと光る青い炎をハーロックはしばらく見つめて呟いた。 「マヌエラは、俺達のためならば、その命さえも惜しまない・・・女とは時としてこういうものだと言った。・・・そして、同じ事を言おうとしていた女がもう一人いる。そいつも、この炎のように、静かに・・・だが強く、信念の赴くままに生きていきたいと願っている。その想いを敵の手によってかき消されることなど、俺は許さない」 そう言うと、コスモドラグーンを静かにトチローの脇に置いてコンピュータールームを後にした。ハーロックの背中は言葉無く決意に満ちていることは、トチローにはよく分かっていた。たとえそれを見ずとも、彼には全てが分かっていた。ハーロックの置いていったコスモドラグーンを掴んだトチローの手は、小さく震えていた。 |
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