第六章2
決戦トールとアルバ
窮鼠猫を噛むという言葉がある。それを知らない者は往々にして自らの力に傲り高ぶり、墓穴を掘るのだ。たった一隻の戦艦が1000隻近い敵の懐へと突進するにはあまりにも無謀であることはリヴァイアサンの乗組員だれしもが思っていた。それはハーロック自身も充分に分かっている。アステロイド帯をたとえどんなに上手くかわして航行できたとしても、薄いシールドしか張れない今のリヴァイアサンはあまりに無茶な行為だった。だが、宇宙を旅し、戦いを重ねた者ならば、こそくな手を使うことでエネルギーを消費していくよりは、正々堂々と正面を突き進み、一点集中でエネルギーを使うことの方が遙かに有利だということを知る。攻撃・迎撃の甲斐なく多くの敵戦艦に囲まれて集中砲火を食らい、足止めを食らっている状況であっても、それを知る者達はいたって冷静に事態を把握していた。そして今、前方に鎮座するプロメタリア旗艦の巨大戦艦艦首の中央砲門が開かれようとしていた。
「フッフッフ、中央砲門をリヴァイアサンに向けよ!戦闘艦に阻まれてこちらの攻撃まではかわせまい・・・このまま超粒子振動波砲で焼き殺せ!」
「しかし、このままでは我々の戦闘艦が多数巻き添えを・・・!あの艦隊には貴方様の妹君も乗っておいでです!」
「そんな事は分かっておる。我が命の為に命を落とすのがあの子達の運命というもの!かまわぬ、砲門を開け!ハルヴァルドーに我々の威力の程を見せてやる」
ニヤリと笑みを浮かべながら艦橋に映し出されたリヴァイアサンを眺めていた。トールの巨大戦艦の中央砲門は徐々に開かれていく。敵戦闘艦の群のわずかな隙間から見えるそれを、ハーロックもトチローもそれを見逃さなかった。小さな光の粒子が巨大戦艦中央砲門に集まりだした事をラ・フロリーナがレーダー反応としてそれを伝える。
「12時方向に強力な戦闘エネルギー反応あり。徐々に反応が強くなっています」
「ハーロック・・・」
「ああ。分かっているトチロー。俺達をここに釘付けにして、その隙を狙う手段だろう・・・愚かな。待ちくたびれて尻尾を出したな。ホセ、いけるか」
「・・・・分かったよ。やってみよう。じゃが、いちかばちかの大博打じゃぞ、機関部はもう限界なんじゃ」
ハーロックは今だ攻撃によって揺れの止まらない艦橋に仁王立ちし、蛇輪とその横のコントロールレバーに手を掛けた。ホセの額に汗がつたう。状況を把握した広がアルバに通信を入れた。
「アルバ!コスモ・エンジェル隊を全機退避させろ!なるべく遠くだ!」
[なるべく遠くって・・・何をいってるんです?どこですか!]
「とにかく遠くだよ!」
あきれ顔のトチローがつぶやいた。
「広〜」
「すいません、つい慌てちゃって。俺、あいつのこと言えないですね」
広はボロボロのハンチング帽の上から頭を掻いた。
巨大戦艦の光粒子は飽和状態になりつつある。俄にリヴァイアサンを取り囲む戦艦の者達も動揺し始めていた。
「撃て!」
トールの声が巨大戦艦の艦橋に木霊したと同時に艦首中央砲門から巨大な閃光がリヴァイアサンとそれを取り巻く戦艦の数々に向けて発せられる。
「両舷最大全速急速降下!直進しつつ残存艦に主砲斉射三連!!!」
ハーロックは蛇輪とコントロールレバーを同時に操り、ホセは機動エネルギーを急速に動力炉へ流し込んだ。
下方から攻撃を加えていた戦艦に見事につっこむ形で急速降下したリヴァイアサンは艦首のブレードによってその戦艦を引き裂き、さらに降下する。リヴァイアサンの真上すれすれを巨大戦艦から放射された超粒子振動波砲が通り過ぎていく。かなりの重力と振動が艦を襲い、皆歯を食いしばる。コントロールチェアからトチローは落ちそうになった。
[艦底主砲・副砲大破!第一甲板剥離!!」
「構うな!前方巨大戦艦の真下に潜り込み、接舷して白兵戦にもちこむのだ」
「機動できる限りのエネルギー使って加速じゃ!ふんばれ!」
[了解!]
機関部の急速な熱上昇で乗務員達はふらつきながらもホセの指示に応えた。この衝撃に待機していた白兵戦のメンバーはかなり驚いていた。振動に足下をすくわれた鉄郎がひっくり返り、さらにひっくり返ったマントをめくりながら顔を上げるとドクター雨森が笑みを浮かべて酒瓶片手に立っていた。
「ド、ドクターぁ」
「そろそろ出番じゃ、一杯やってくか?」
「呑気ですねぇ」
苦笑する鉄郎に酒瓶と一緒に薬瓶を渡した。どんな毒ガスや放射能といった有害物質を受けても即座に体内浄化する事のできるカプセルだ。耐性コスチュームと併用することで有害物質からのガードが完璧になる。
「えぇ!酒と一緒に飲んじゃだめですよ」
「はっはっは!そいつは水だ。酒瓶に入れると雰囲気がよかろ。出陣前の水酒だよ」
「なぁんだ、そうか」
鉄郎も、他のメンバーも笑った。

超微粒子振動波砲を直撃した艦隊はその戦艦には何の損傷も見られない。ただ、何事もなかったかのように静まりかえって停止していた。このありさまにトチローが感心の声を上げた。
「ひゃぁ、こりゃまいった。直撃してたら俺達は丸焦げだったぜ」
「何だったんですか?敵の主砲は」
「直撃を受けた艦隊に生命体の反応はありません・・・まるで抜け殻みたいだわ」
「恐らく機械はショートさせるだけで、生命体には大きなダメージを与えるものさ。あの閃光を直撃することで生命体の水の電子が強い振動摩擦を起こす。さしずめ、人間なら干からびるか・・・最悪、体内発火でドカン・・・うえ、いまごろ巻き添えを食った戦艦内はおぞましいことになってたりしてな」
ハーロックはトチローの分析を聞いて鉄郎に通信を送った。
「聞いての通りだ。鉄郎、気をつけろ」
[ええ、分かっています]
巨大戦艦の真下につけたリヴァイアサンから輸兵用対装甲板ダクトが射出された。鋭利な先端によって巨大戦艦の艦隊に穴が空き、鉄郎達はその出口付近で待機していた。残存艦、親衛艦がリヴァイアサンに攻撃を仕掛けるが、巨大戦艦ぎりぎりに接舷しているためにへたな攻撃ができずにいる。
「トール様!敵艦が接舷。乗り込んできます!」
「ひるむな、たいした数ではあるまい。迎え撃て」
[敵兵が機関部に侵入!うわぁぁぁ!]
コスモサーチを片手に鉄郎達は巨大戦艦の中を艦橋に向けて走り抜けた。メーテルから預かったコスモドラグーンが火を噴く。次々と襲い来るプロメノイド兵をモノともせず、ひたすら走り抜けた。メタブラディの地下水路に比べれば、敵兵士の数は輪を掛けて多数だが、コスモドラグーンの威力を目の当たりにして怖じ気づく兵士も少なくはなかった。ラ・フロリーナによる艦内スキャンの情報により、多くのメンバーは艦内に散らばって、先日の報復としてグレネードで機関部を初めとする動力部と火気系統を破壊した。数人は傷を負ったが、さほどのモノではない。アルバ達の外部攻撃によって巨大戦艦の武器系統もほとんどが可動性を失いつつあった。
リヴァイアサンではトチローが中枢コンピュータールームへと向かった。ポケットにしまってあったエメラルダスの形見、髑髏のヘアピンをスキャナにかけるために。
「やっぱりな・・・こ〜ゆ〜事ね」
満面の笑みを浮かべてスキャンデータをモニターに転送すると、其処には設計図のデータがアップロードされていく。トチローは笑みを浮かべながら中枢コンピューターの麓に揺れる青い炎をみつめた。

プロメタリア旗艦の巨大戦艦内、鉄郎は艦橋にたどり着きつつあった。手元のコスモサーチに浮かぶ点が大きく激しく点滅した。意を決して艦橋のドアを爆破すると、艦橋内から無数のレーザーが打ち込まれるが、爆発で立ち上った白煙の中、鉄郎達は走り抜けた。
「トール!トール!出てこい!」
鉄郎の足下で閃光が破裂した。鉄郎が上を向くと、艦橋上部のせり出した司令席で蔑んだ目をしたトールが立っていた。彼女の片手にはガンサーベルが握られ、もう片方の手にコスモドラグーンが握られている。
「・・・下郎が!捜し物はこれか?・・・ヒューマノイドの分際で此処までたどり着いたとは。誉めてやる」
「その銃を返せ!お前にはその銃を使うことはできない」
「・・・ふん、貴様のような出来損ないのヒューマノイドが作った銃だからな」
「まだそんなことを言っているのか!いいか、コスモドラグーンは選ばれた者にしか撃つことができない。知ってるだろう!誤ってそれを撃てば、撃った者の身体が消滅するってことを!」
すでに艦内の至る所で起きた爆発によって、艦橋にも爆煙が立ちこめ、機械は炎を上げてショートしている。
「だからどうした。この一丁が無ければヘルブラディの制御もできぬのだろう。たとえ全ての銃を手に入れることができなくとも、お前達の計画を阻止することができるのならば、この一丁は返すわけにはいかぬ!」
「トール!待て!」
トールは即座にきびすを返して走り出し、向かうのは脱出用飛行艇の置かれた甲板。入り組んだ迷路のような巨大戦艦の廊下で彼女はわざと相手を撹乱させるように走ったが、執拗に鉄郎は追い続けた。しかし、兵士の狙撃で足止めを喰らい、彼女を見失ってしまった。
トールが強化バリアの貼られた甲板に出たときだった。目前に停泊している飛行艇の向こうに戦闘機が止まっている。甲板上はほとんど暗闇。時折戦艦の周辺で起こる爆発と艦載機の戦闘によって足下が明るくなる。足を進めようとしたトールを殺意に満ちた声が呼び止めた。
「トール!」
「なに!」
トールが目を見開くと、物陰からアルバがゆっくりと姿を現した。飛行艇の向こうに止まっているのはコスモ・エンジェルだった。
「小僧・・・貴様!ハルヴァルドーに受けた恩を忘れたのか!我々プロメノイドは放浪していた白鯨を収容し、死にかけていた貴様達を救ってやったのだぞ!」
「ハルヴァルドーには確かに恩はある、だが、トール!お前には何もない。自分の妹たちを送り込んでリヴァイアサンを撹乱し、アグリモニーさんを人質に取った。そして・・・平然と妹たちや部下達を見殺しにさえした・・・そんなヤツ、僕は許さない」
舌打ちしたトールはコスモドラグーンをホルスターにしまい、ガンサーベルに手を掛けるとアルバめがけて突進してきた。
「ならば死ね!小僧!」
アルバはトチローがヴェルセルークのそれを模倣して作ったガンサーベルを抜いて、飛びかかってきたトールを迎え撃った。鬼のような形相で攻撃を仕掛けるトールの力はアルバが想像していたより遙かに強く、彼は甲板を滑るように後退した。
「ウワァァア!」
トールとアルバのつばぜり合いが始まった。決闘の最中ようやく鉄郎が甲板に姿を現したが、地球人の彼にはこの暗闇ではよく状況が把握できない。ただ、耳に飛び込んでくる音と声でトールが何者かと闘っているのだと判断できた。上空でプロメタリアの戦闘機が大爆発を起こした瞬間、辺りは明るくなり、鉄郎の目には甲板ギリギリに追い込まれているアルバの姿が目に入った。
「あぁ!アルバ!」
つばぜり合いのまま押されているアルバはそれでもなんとか抵抗している。目が泳いでいるアルバの脳裏にハーロックの言葉がよぎった。『詰められて集中力を欠くようではまだまだだな・・・』
「・・・キャプテン・・・・」
か細い声でハーロックを呼んだ。アルバはかなり傷ついているために力が思うように出ない上、甲板の重力が不安定になってきているせいでふらつく。ハーロックの声がなおもこだまする。『お前のいいところはいつでも落ち着いていることだ。冷めた一太刀が相手に大きなダメージを与える・・・ヴェルセルークもそうだった・・・』
(冷めた・・・一太刀・・・)
一瞬、トールの目の前の少年にヴェルセルークの面影が通り過ぎたのかもしれない。感情が無いかのような冷めきったブルーの瞳。その奥にはみなぎる闘志の炎がいままさに燃え上がろうとしている。かつて、トールが見た、ヴェルセルークの瞳、機械の瞳に代わる前にたった一度だけ見たことがあった。
シュバ!という音と共に、アルバの身体はトールを押しのけて宙を舞った。振り返ったトールはすぐさま振り下ろされたアルバのサーベルを受け止めたが、脇腹に受けた大きな傷が元でバランスを崩した。彼女の傷からは透明の液体がこぼれ落ちる。
「こ、小僧・・・・!貴様・・・」
上空で親衛艦が爆発を起こし、甲板の全てが明るくなったその時、アルバのサーベルから閃光が発せられ、トールの眉間を貫通した。鉄郎は隙を見逃さない。巨大戦艦の重力装置は不安定になっているため、足下がおぼつかない状態で鉄郎は走った。舞い上がったトールの下に滑り込むようにしながら鉄郎は彼女のホルスターからコスモドラグーンを抜き取る。次の瞬間トールはそのまま宇宙空間へと投げ出され、親衛艦の爆風と共に彼方へと運ばれていってしまった。
「アルバ!大丈夫か!」
降り注ぐ親衛艦の破片を避けるように、鉄郎はアルバを抱えて甲板の片隅に身を寄せた。親衛艦の破片はトールが乗ろうとしていた飛行艇、そしてアルバのエンジェルをも砕いてしまった。激しい爆風が甲板に巻き起こる。アルバは太腿に受けた傷が思ったより深く、青い鮮血がコスチュームににじんでいた。マントの端を破って止血する鉄郎。そこに彼の通信機が鳴った。
[鉄郎さん!白兵戦は制限時間オーバーでさ、俺たちゃリヴァイアサンに戻りやす。もう時間がありやせん、鉄郎さんも速くしねぇと時限爆弾が爆発しちまいやすよ!]
「お前達は速くリヴァイアサンへ戻れ!コスモドラグーンは大丈夫だと艦長へ伝えるんだ!」
「鉄郎さん、はやくここから離脱してください」
アルバも訴えた。
「まだ平気だよ。しかけた時限爆弾が爆発しても全体に影響が出るまで少し有余がある。がんばるんだアルバ」
「この足では走れません。エンジェルも大破してしまって・・・」
鉄郎の腕の中のアルバはとてもトールと闘ったとは思えないほど小さく、震えていた。
にわかに甲板は激しい振動が起き、艦底の装甲板から爆発による剥離が始まった。リヴァイアサンは鉄郎とアルバを巨大戦艦に残したままゆっくりと離脱を始めた。
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