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第六章1
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| ハルヴァルドー プロメタリウムは惑星の中に大都市を詰め込んだような半球型の惑星。その惑星は、宇宙を浮遊するただの大きな岩の塊の、核さえ持たないそれに都市を築き上げて惑星とした。しかし、惑星の随所に兵器が埋め込まれ、惑星自体が武装しているいわゆる軍事惑星と言われる物体だ。彼らがアンドロメダ星雲にプロメタリウムを置いていたのは、大宇宙を航行する船はもちろん、多くの銀河鉄道が乗り入れる地区であり、ゆえにアンドロメダがマゼラン同様、大宇宙での情報がいち早く入手できるからなのかもしれない。今、プロメタリウムはラーメタルの次元航海を知って徐々にトールが布陣するアンドロメダ星雲外周へと移動しつつあった。ラーメタルを取り巻いていた次元断層は大きく広がりを見せ、ラーメタルの次元航海によってまたその進路を変えようとしている。プロメタリウムはその次元断層に追われるかのように徐々にトールが布陣するアンドロメダ星雲外周へと移動しつつあった。 プロメタリウムに降下した大型戦闘機からはすでに意識を失ったアグリモニーが運び出され研究所へと収容されていたた。連絡を受けたハルヴァルドーが彼女の眠る部屋でじっと彼女を取り囲む機械が算出する体内情報を読みとっている。うわごとにハーロックの名を呼ぶアグリモニーは、そうやって自分の身体と必死に闘っているのだとハルヴァルドーには思えた。程なくして彼女は目を覚ます。 ぼやけた焦点が一つになったとき、天井がリヴァイアサンの艦長室の様に、非常にこった彫刻の施された古風であることに気がつく。しかし、決定的に違うのは、白亜に所々金があしらわれた豪華な作りとその煌びやかな装飾。 「・・・気分はいかがかね?」 氷のように冷たい、落ち着いた声がアグリモニーの耳に入ってきた。生成りのドレスシャツを纏った色白の男が傍らにいた。 「貴方・・・!貴方がハルヴァルドー!」 「・・・さよう。流石は察しが速い。・・・手荒なまねをして申し訳なかった」 「私を連れ出したプロメノイドは?たしかパメラとかいう・・・」 「プロメタリア艦隊を指揮しているトールという者がいる。パメラの姉にあたる者だ。おろかにもコスモドラグーンとヘルブラディを引き渡す交換条件として君の命を提示した。受け入れなかったため、パメラが君を銃殺しようとしたらしくてね。私の部下が始末した。君を此処に来させるのは私の命令だ。私の命に背く者を私は好かないのでね」 アグリモニーは力無くだが笑った。 「ハーロックという者は部下の命より銃と戦艦の方が大事なのかね?」 「いいえ、彼は私がただじゃ死なない女なのを知ってる。それに、貴方の事を少しは分かるヤツだと思ってるわ」 事実、ハルヴァルドーに殺意は感じられなかった。彼はアグリモニーの寝ている間、治療をしていた様だった。アグリモニーは身体の痛みが無くなっていることを徐々に感じ始め、ベッドから半身をおこした。ハルヴァルドーはゆっくり立ち上がって全裸の彼女に自分のマントを掛けた。 「リヴァイアサンは?」 「ハーロックの船のことかね?今頃プロメタリア主力艦隊と戦闘が始まっていよう。我がプロメタリア艦隊1000隻を相手に満身創痍の状態でどこまで戦えるのか是非この目で見ておきたくてね、プロメタリウムは今アンドロメダ外周へと移動をしているのだよ。だからもうじき見ることができよう」 ハルヴァルドーは微笑んだ。アグリモニーが初めて観るハルヴァルドーの姿は、肌の色こそ透き通るように白く冷たい雰囲気だが、彼女が想像していた様な醜悪な面構えでもなく、長身で品のある立ち振る舞いにかつてダラスで会ったヴェルセルークを彷彿させるものを感じる。そしてどこから見てもヒューマノイドと寸分違わぬ様に思えた。 「君の体内寿命はもう限界を超えている・・・違うかね?」 アグリモニーは身の回りに置かれた機械の数々に自分の骨格を初めとする体内データがはじき出されていることに気づいた。 「治療しながら・・・私を調べたのね。メタブラディやそこここの惑星で人体実験をしていたらしいけど、まだやり足りないとでも?」 「君にはよほど優秀な医師がついていたとみえる。外見はゆっくりと変化をしているが体内寿命は裕にその限界をこえている。だが的確な手術によって通常の生活を営むことができているとは・・・」 「そんなことに興味があって私を此処に連れてきたというわけ?」 アグリモニーは落ち着いていた。いつもの彼女に戻っている。隙あらば武器となるものをその目で探る、しかしながらハルヴァルドーは余裕の表情で彼女の方を向いた。 「君のような雑多なエイリアンの混血によって遺伝子に異常をきたす・・・『多種混血性細胞疾患』のヒューマノイドはいくらでもいる。だが、おおかたそういう者達はそれを悟ったときに自らを悲観して命を絶つ。しかし、大きな意志と目的を持って生きながらえている君のようなタイプは希だ」 「で?それで何だというの?あなた達プロメノイドが卑下する不良細胞のなれの果ての私をハーロックの前に掲げて、ヒューマノイドはかくも哀れな生き物だと、血祭りに上げて嘲笑するとでも?」 「悲しいな。確かに私は君たちヒューマノイドにとっては卑劣な存在かもしれぬ。だが、血祭りに上げて嘲笑するなど・・・私の思いも寄らぬこと。・・・もっともそのような行いを平気でする者達を作り上げてしまった私に全ての責任があるのだがね」 ハルヴァルドーの両手親指と人差し指、中指にはめ込まれた甲冑のリング、指先よりのびた烏口のような爪部分は鋭利に尖っている。彼はそれでアグリモニーの頬を撫でた。眉一つ動かさずにハルヴァルドーを睨みつけるアグリモニー。 「話には聞いていたけど・・・あなたは他のどのプロメノイドとも異なる人のようね」 「話?あぁ、ヴェルセルークの側近だった少年がリヴァイアサンに乗っているそうだね。残念だ・・・ヴェルセルークを失った上に、彼が育てた側近が敵に回ってしまったとは。プロメノイド化していれば、今頃立派な戦士になっただろうに」 「彼は今でも戦士よ。必死にヴェルセルークの意志を継ごうとしている。プロメノイドになんかならなくたって立派な戦士になれるわ」 「ヒューマノイドはともすれば病によってその寿命を縮める。時として君のようにどうしようもない苦しみにさいなまれて生きていかねばならない。どんなに立派な戦士であろうと・・・・。プロメノイド化する事で、永遠に今の苦しみから解き放たれるのならば、これほど素晴らしいことはないと思わないかね?」 アグリモニーのオトガイに当てられてていたハルヴァルドーの手は温かかった。その手のぬくもりに違和感を覚えて彼女はその手をはね除けた。受け取ったマントを身体に纏って窓辺に走り寄ると、眼下にはクリスタルの輝きをはなつ、宝石の如き大都市。プロメタリウムを取り巻く星々は多くの尾を引いて去っていく。とてつもない速さでこの巨大都市を飲み込んだ惑星が移動をしているのが分かった。窓には自分の背後にハルヴァルドーがゆっくりと近づく様が映っている。一歩一歩ゆっくりと進む彼の姿は、アグリモニーには首を真綿で締め付けられていくようだった。 アステロイド帯を突破したリヴァイアサンは全砲門をもって近づこうとする戦闘艦を次々と撃沈していた。主砲はたとえかすった程度でも敵艦に大きな振動波を与え、バランスを欠いた艦が隣の戦艦と衝突するという状況を生む。リヴァイアサンは群を成して戦陣を組む敵の盲点を徹底的に有効活用する事ができた。艦橋のトチローはいつになく真剣な目つきでパネルを打ちながら砲手の少ない主砲の方位修正を行っていた。 「・・・ったくきりがねぇ。おい、広!シールドはまだ修理できないのか!一発食らう度に艦が揺れて修正に手間がかかってイケねぇ」 「第一シールドは修理完了しました。艦橋周辺のバリア機能も修理完了。でもまだ強化シールドの方には手間取ってま・・・」 「左舷上方から重力波来ます!きゃぁぁあ!」 強化シールドを張れないリヴァイアサンの艦内はさしずめ荒波の上の小舟のごとく、甲板が強固であっても当たったときの衝撃波までは吸収しきれずにおおきな揺れを生じていた。勢いでラ・フロリーナがレーダー席から投げ出される。怪我を負っている彼女としてはかなり辛かったようだ。広が駆け寄り抱き起こした。 「大丈夫か?」 「だ、大丈夫よ。こんなことでへこたれてたまるもんですか!」 「いくらデラモースの妹だからって、怪我をしているのに、無理するなよ」 ラ・フロリーナの強い眼差しは広を貫いた。 「広、私はリヴァイアサンの乗務員よ。最後まで闘わせて」 広が操舵中のハーロックをちらと見ると、軽く頷いていたためラ・フロリーナをレーダー席に座らせた。 リヴァイアサンの主砲は敵空母艦隊をも撃沈させたが、それでもリヴァイアサンをまるで蜜にたかる蟻の如く取り囲む多くの戦闘艦を撃沈するのには予想以上に手間取っている。 [キャプテン、両舷より敵長距離ミサイル多数飛来!回避を!] リヴァイアサン前方で艦載機戦を繰り広げていたアルバ達が旋回して敵ミサイルに挑む。それでもミサイルの幾つかはリヴァイアサンに衝突した。 [左舷機関部第一甲板大破!] [艦底副砲大破!] 徐々に各エリアからの損害状況報告に落ち着きを欠いた声が混じり出す。ハーロックはそれでも落ち着いた声で広に尋ねた。 「損害状況は?」 「50%を突破します」 「機関部はこれ以上の加速は危険じゃ・・・」 トチローが唸るような声を上げた。 「まだまだ、まだいける!うるさいハエどもはほとんど始末したんだ」 「11時方向に巨大な小惑星が接近中。距離500万宇宙キロ・・・定かではありませんが、武装エネルギー反応強」 ラ・フロリーナが報告を入れると巨大パネルにプロメタリア旗艦の向こうが映し出された。大きなクレーターを伴った半月型の惑星が肉眼でもわずかに確認できたが、モニターではその中に都市がハッキリと映し出された。 [キャプテン!プロメタリウムです!プロメタリア母星が接近中です!] 唯一、その存在を知っているアルバの声が艦橋に響く。 [キャプテン、プロメタリウムへ、コスモ・エンジェル隊の進撃を具申します!] 「焦るなアルバ!遠方の敵を撹乱が先決だ」 [しかし、ここでプロメタリウムから攻撃を受けたらひとたまりもありません!それに・・・アグリモニーさんが・・・] 「個人的感情で行動することは許さん」 [キャプテン!貴方はそれでいいんですか!] 「だまれ!これは艦長命令だ。お前の判断で戦列離脱を許可した覚えはない!」 エンジェルコクピットの中にハーロックの声が響く。アルバの瞳にじわりと涙が浮かんだが、自分一人焦って進撃しても相手になる訳がないのだ、それくらいアルバは分かっている。だが、アグリモニーの身を案じる彼の心情は動揺と怒りに満ちている。 「・・・・!・・・リ、リヴァイアサン」 プロメタリウムの塔へ幽閉されているアグリモニーは悲鳴にも似た声で叫んだ。窓辺に詰め寄りはるか前方ではあるが、青い戦艦の数々が一隻の赤黒い戦艦、すなわちリヴァイアサンを取り巻き、集中砲火を加えているのが見て取れた。恐らく集中砲火の勢いで足止めを食らっているのだろう、それ程おおきな移動が見られない。リヴァイアサンの前方には親衛艦を従えた巨大戦艦がある。そして粒ほどにも満たない戦闘機が飛び回っては消えていた。不謹慎ではあるが、アグリモニーには目前の戦いが一瞬、小さな花火が儚くも瞬く美しさにさえ見え、苦渋の表情で顔を逸らした。 「見えたかね?・・・どうやらまだ・・・無事のようだ。どこまで戦えるか興味深いな」 憎悪の瞳でアグリモニーはハルヴァルドーを睨む。 「貴方という人は・・・!」 「ヘルブラディを有する事は、それを知る者にとっておおいなる恐怖。君もそれは分かっているだろう。我が巨大戦艦を一瞬にして宇宙の塵に葬ったエネルギーだ。しかし、それを自由に制御できるとしたら・・・これほどまでに素晴らしい兵器はない。よってトールは血眼になってそれを探した。手に入れることができるのならばそれはそれで都合がいい。だから・・・私はトールのやりたいようにさせておいた」 ハルヴァルドーはまただじっと冷めた瞳で小さな花火を眺めていた。 「そうやって、宇宙を我が者にしようと?ヘルブラディはそんな輩に靡くようなものではないわ」 「だからこそ、ヴェルセルークの様な者が私には必要だった・・・。彼ならばヘルブラディの封印が解けると私は信じていたからね。だが、彼の考えは私とは少し違っていたようだ。私はなにもヘルブラディを使おうとしたわけではない・・・ただ、持っているだけでよかった。敵の手に渡ったヘルブラディはもはや私には脅威そのものに過ぎない。手に入れられないのなら消滅してくれた方が好都合」 アグリモニーは眉間にしわを寄せてまじまじとハルヴァルドーを見据えた。不敵な笑みでハルヴァルドーが黙っていた。 |
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