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第五章8
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| 突撃 中枢コンピュータールームのトチローとハーロックはゆっくり立ち上がった。発火した可能性は低いようだが、それでも内部の至る所がまるで稲妻が衝突したかのように、まだらな焦げ目模様が見て取れる。そして、ジリジリと機械のショート音が聞こえた。そもそもコンピューター自身に取り付けられた電光パネルの発光で室内の明かりになっていたため、爆発後の室内は通常の60%程度の明るさになってしまった。機械がショートするたびに、二人の顔が白く映し出される。二人とも、声も出せずにただ、周りを見渡すだけだ。その時、中央、繭状の巨大コンピューターの下で青白く光る女らしき存在が目に入った。 「わ!」 トチローが幽霊でも見たかのように驚いた。 「お・・・お前は誰だ!」 そこに立っている女は、先ほど粉々に飛び散ったセイラの本当の姿、トールによく似た透き通るような肌とつり上がった瞳を持った女だった。 「おろかなプロメノイドがセキュリティーコンピューターに自らの身体でアクセスした。よって彼女の身体が私の中へと侵入してきた・・・、これが本当の彼女の姿のようですね」 女は自分の手や髪を触りながら、なおも不安定な発光をし、身体も時折透き通った。 「マヌエラ・・・お前なのか!あの爆発した女の身体のDNAを吸い込んだのか?・・・だからそんな姿に?」 トチローはよろけながらマヌエラとおぼしき女にむかって歩き出した。ハーロックが銃を構えたまま小走りにトチローの前に立ちふさがった。女は人をさげすむような眼差しではあったが、それでも微笑むと、かつてのマヌエラを彷彿とさせる暖かさが伝わってくる。 「でも・・・この身体はそう長くは持ちそうにない。血の通ったヒューマノイドの身体とはあまりに違いすぎて、私にはもろすぎる。所詮は人工的に作られた細胞にすぎないのだから」 ハーロックは言葉使いこそ違え、聞き慣れたマヌエラの声の響きに気づいてトチローに道をあけた。それは、耳で感知するのとは違う、特殊な響きだ。 「マヌエラ・・・本当にお前なのか?」 「あなた方が既知の私とは違う。あの時の私はもうこの世には存在しない。そう、ハーロック、貴方の父を愛し、貴方を産み、そして貴方自身をも愛したマヌエラは・・・もうこの世には存在しない。あなた方の知っている人としてのマヌエラは、その人としての一生を終えてしまった」 ハーロックの瞳が一瞬にして悲しみに満ちた。マヌエラはさっきの爆風で舞ったハーロックの眼帯を拾って彼に渡した。その手は異常に冷たく、ガラスのように向こうが透けて見える。 「前の身体に・・・戻ることもないというのか?」 「一度消滅した身体には、新たに接触しない限りは・・・もう戻ることはできない。そして、時の魔女はもうあの時とは違う・・・今のメーテルは私と闘ったときのメーテルの身体ではない」 トチローはひびの入ったメガネの向こうの瞳をこらして消えそうなマヌエラをまじまじと見た。 「もう、まったくの別人と言うわけなのか・・・?じゃあ、俺達と暮らしたことも忘れちまったか?」 マヌエラはゆっくり首を振った。そしてハーロックの方を向き直って言った。 「エネルギー生命体である私にとって、以前の身体で起きたすべての事、あなた方と出会った記憶・・・それは長く、永遠とも思える時の流れの中の一つの出来事にすぎない。それでも・・・永久に忘れることはないわ。このリヴァイアサンが存在する限り・・・。リヴァイアサンは私の家、私の身体、私自身、私がそう・・・あなた方に望んだことなんですからね」 「なぜだ?」 「気の遠くなるような時の流れの中で、たった一度、愛した存在である真の戦士の血を受け継ぐ方の傍にいたかった。そしてあなた方の為にこの身を役立てたかった・・・・ハーロック、貴方が私に、貴方自身の血で誓いを立てた時、私に寿命という物が存在するのであれば、私はあなた方のためならば、その命さえも惜しまない・・・そう思った。女とは時としてこういうもの。私はかつて性別さえも存在しないエネルギー体だったけれど、女でいることに居心地の良さを覚えた。私はいつでもあなた方の傍にいる・・・このリヴァイアサンが存在する限り。それを忘れないで」 トールの姿で浮かび上がったマヌエラは徐々に身体のあちこちからかつてヘレスで見た青い煙が立ち上り始めていた。 「ま、待ってくれマヌエラ!マヌエラ!俺達はまだヘルブラディの制御ができずにいるんだ・・・どうしたらいいのか・・・教えてくれ!・・・そうだ、俺の、俺のDNAを吸い取れ!そうすればまた人間の身体になって話が出きるだろ!」 トチローが叫ぶとマヌエラはうっすらと笑っていた。 「トチロー・・・私はそれを望まない。もはやその必要はない筈。ヘルブラディは私自身・・・でも、それを自分で制御することはできない。だからこそ、主人となるべき真の戦士を捜したのを忘れたの?ハーロック、トチロー、あなた方の原点に立ち返れば、自ずと答えは出てくるはず・・・。貴方はもうそれを手にしているのですからね・・・」 ハーロックもトチローも眉間にしわを寄せ、なおも彼女に聞き出そうとしたが、目の前の女はまるで電球が割れるかのようにパン!と音を立てて粉々になってしまった。そしてまた、青い炎は静かに中枢コンピューターの下で揺れていた。 「俺達の・・・原点?」 二人が何かに気づき、はっと目を合わせたとき、二人の心の中の、そしてリヴァイアサンの甲板にそびえる髑髏の旗は激しくはためいた。 トールの戦艦の艦橋内に映し出されたリヴァイアサンの3D映像から赤い点滅が消えた。わななきながら立ち上がるトールの表情は硬い。 「トール様。リヴァイアサンのセキュリティシステムは復旧体勢に入っています。このままではシールドシステムも元に戻るのは時間の問題です」 「・・・・セイラ・・・己の身体を使ってシステムに侵入してもなおリヴァイアサンにバグを起こせなかったというのか・・・おのれ、ヒューマノイド!」 トールはセイラが中枢コンピュータールームにいたことは分かっていても、ヘルブラディの正体はもちろん、セイラに何が起きたのかまでは知る由もない。 「前衛艦隊の体勢は整ったか!」 「は、プロメタリウムよりの増援第一、第二戦闘空母の配置も完了いたしました」 トールは各艦隊主力艦への通信回路を兵士に開かせた。艦橋上部にいくつかのモニターパネルが開かれ、それぞれの艦橋を映し出す。どれも、トールにそっくりの女達と艦隊司令が立っている。 「妹たちよ、よく聞くが良い。この戦い、負けてはプロメタリウムに戻ることは叶わぬ。たかだか一隻の戦艦ごときに我々が負けるはずはないのだ。残りのコスモドラグーンは全てあの戦艦にある・・・コマを詰め、コスモドラグーンを持つ物どもからそれを奪い取れ。そして・・・リヴァイアサンごと抹殺せよ!」 (さすれば私はこの宇宙で最大の力を手に入れることができるのだ。全ての物を破壊し尽くす力になるはず。そして、そう、私がラミア様になりかわる!) トールが高々と腕を上げると、前衛艦隊と後方に控えていた艦隊が上下左右に広がり始めた。 「たった今敵が動き出しました」 広が淡々とした声で艦橋に戻ったハーロックとトチローに声をかけた。ラ・フロリーナはすでにレーダー席に復帰しており、トチローが見渡すと艦橋のメンバーは余裕の笑みを浮かべて手には茶の入った湯飲みが持たれていた。 「お〜、なんだ、戦いの前の一時を過ごす業を心得たようだなぁ」 「お前さんらも一杯どうじゃ?ワシはアグリモニーと違ってワインの銘柄までは解らんからな、茶しかいれられんかったがの。ふぉっふぉっふぉ」 ハーロックは思わず笑った。そしてトチローの肩をポンとたたく。 「うんじゃ、おっぱじめますかねぇ〜」 トチローがアルバのいなくなった戦闘席に着席すると同時にプロメタリア艦隊からの通信が入り、ラ・フロリーナがハーロックに呟いた。 「キャプテン、敵旗艦からの通信が入っています。どうやって周波数をあわせたのかは解りませんが・・・」 「回路を開け」 巨大モニターに映し出されたのはトールの姿。ついさっき、中枢コンピュータールームで同じ容姿の女を見たばかりのトチローとハーロックは一瞬驚いたようだった。だが、白銀の甲冑を着込んだ目前の女のしゃべり口はマヌエラとは似てもにつかぬ高飛車な様子だ。 [貴様がハーロックか。噂には聞いていたが、ふん、こ汚い連中ばかり乗っておるようだな。よくも私の妹たちを消滅させてくれた。この礼は存分に返してやる] 「初対面でその口のききようとは、プロメタリアとはつくづく無礼な連中だな。名を名乗れ!」 「私か?私はプロメタリア防衛艦隊指揮官トール」 「へぇ〜。お宅の軍事指揮官はハルヴァルドーとかゆーやつじゃねぇのか?あぁ?」 向こうが無礼ならこっちも無礼にふるまうというのもまたありとばかりにトチローがふんぞり返ってトールに問いかけた。 「ハルヴァルドーは我がプロメタリア母星にて貴様達が宇宙の塵になることを心待ちにするそうだ・・・。だが、私の提示する交換条件をのめば生かしておいてもいいのだぞ」 「交換条件だと?」 「貴様達の船の乗組員がプロメタリアに捕獲されたことは知っておろう。この者を助けたくば、コスモドラグーンを4丁、そして戦艦リヴァイアサンを我々に明け渡して貰おう。これが交換条件だ」 艦橋での通信を鉄郎と共に格納庫で聞いていたアルバの身体に一瞬力が入る。下唇を噛みしめて出撃したくなる気持ちを必死に抑えているようだった。鉄郎が立ち上がったアルバの腕を掴んで制す。格納庫に集まった白兵戦要員達も口々にアグリモニーの名を呟いた。そしておのおのが立ち上がり、かつて鉄郎が耳にし、地下水道に幽閉されていたときに歌っていた「自由戦士の歌」を誰ともなく歌い始めた。それはリヴァイアサンの艦内に響く、そして銀河にさえも響いているようだった。 艦橋に立つハーロックにもそれは聞こえていた。格納庫での通信回路をラ・フロリーナが艦橋で開いたのだ。彼女もこの歌は知っている。かつて、煉瓦の星で、兄・デラモースが山賊達と歌っていたことがあった。ラ・フロリーナの瞳が輝く。 「聞こえるかトール!この歌声を。真の戦士は・・・揺るぎない信念の元、命を懸けて戦い続ける。髑髏旗の下に誓いを立てた者は貴様のような卑怯者に屈することはない。あいつもそれを解っている筈だ」 トールの眉が軽く痙攣している。 「仲間を犠牲にしてでも我々と闘うつもりか!」 「・・・お前にあいつは殺せない。殺させはしない!」 トールがコントロールパネルを力任せに叩き、通信が切れた。ハーロックが不敵な笑みでモニターから視線を外すと、心配そうな面もちの広の顔が目に入った。 「安心しろ、あいつはあそこにはいない。あいつはプロメタリウムにいる」 「それでも敵の本拠地にいることには・・・」 「俺は、信じる。ただで死ぬような女じゃないと」 広は深く頷いた。ハーロックはニヒルに笑って素早く操舵舵の前に立つと舵に手をかける。 「小惑星帯を突っ切る。ドラゴン・ブレイド、ゲートオープン。最大射出で小惑星を粉砕しろ」 「キャプテン!それでもあのアステロイドを直進するのにはシールドが完全じゃない状況では危険ですよ」 ラ・フロリーナが叫んだ。だがハーロックはニヤリと笑みを浮かべただけで返事はしない。 「敵戦闘空母から無数の戦闘機、爆撃機がこちらに向かってきています!」 広の報告に既に艦載機に乗り込んでいたアルバが答える。 [コスモ・エンジェル他艦載機カタパルト装着準備完了。いつでも出れます] [輸兵用対装甲ダクトの準備も整っています。兵士の武装も完了] 鉄郎は率いる白兵戦のメンバーも準備が整ったことをハーロックに告げた。巨大モニターに映し出された白兵戦メンバーの中にショットガンを抱えた鉄郎がいた。鉄郎はハーロックと目を合わせると、優しくも不敵な笑みで言葉無く応えた。頷くハーロック。そして戦闘ははじまった。 [出撃します!] アルバの声が艦橋に響くと同時に艦尾両舷カタパルトから艦載機数機を次々と発艦した。旋回し、艦橋窓の前を通り過ぎるエンジェルの中で敬礼するアルバ。彼らの前方に敵戦闘機が迫り来ている。 「全砲門開け!艦載機の援護を怠るな!できるだけ最短で敵旗艦に突進する!」 艦橋を初めとする戦闘エリアにハーロックのドスの利いた声に緊迫した乗務員達が声を揃えて「了解!」の声を上げた。まるで巨大な牙をむいた龍の如く、6本の艦首ブレードが最大射出され振動波を発生させた。 「ホセ、出力500%!。最大全速で敵の懐へ突撃!トチロー、敵艦を一隻たりとも後方へ回らせるな!」 「がってんよ」 一瞬の浮遊感の後、急速に速度が上がる。ハーロックは仁王立ちのまま小刻みに舵をまわし、迫り来るアステロイドの隙間という隙間をリヴァイアサンがすり抜ける。微小な小惑星は艦首ブレードに激突して粉砕されていった。 そんな様を目前としたプロメタリア艦隊の兵士達は蒼白な面もちでそれを見ていた。 [敵艦があの小惑星帯をぬってこちらに向かっております!] 「ばかもの!ひるむな!前進せよ!」 前衛艦隊とその後ろに配置された空母艦隊の司令達にトールの妹たちからの激が入る。旗艦艦隊の前方に並んでいた500隻ほどの艦隊は小惑星帯に向けて進軍しだした。すでに戦闘機同士の戦いは彼らの前方で繰り広げられている。敵空母から射出される無限とも思える艦載機の数に対してこちらは十数機しか無い。だが、迅速なアルバの指示によって、傷一つ負うこともなく戦闘を続けていた。 戦闘のさなか、一隻の大型戦闘機がプロメタリウムへとワープアウトしていた。目前に広がる巨大都市を飲み込んだような半球惑星。煌びやかなその都市中心部へ吸い込まれるように降下する。アグリモニーは薄れていきそうな意識の中で、いつか、甲板で聞こえたホセの歌を彼女はふと思い出した。 “どれほどの大きな苦しみを持って・・・私は祈り続ける・・・この心の苦しみを和らげて下さい・・・お前は私を求める・・・私はお前を求める・・・・己の苦しみを永遠に無くなるようにと・・・私は祈り続ける・・・お前の望みにかなわぬなら・・・死んでしまうようにと” 「ええ・・・そうよ。この苦しみが永遠に無くなるなら、死んでもいいと思った。いいえ、本当の私の苦しみは、彼の望みに叶わないこと・・・まだ、まだ、決まったわけじゃないわ」 |
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