第五章6
リヴァイアサン炎上
大地を揺るがす爆音と煙はメーテルの家にいたハーロック達にも感じ取れた。湖面は激しく波打ち、岩壁に打ち付ける。そしてあわてて彼らは家から飛び出したが、思いも寄らない状況にそこから脚を動かすことがままならないほど愕然とした。
「ど、どうなってるんだ・・・・何が始まったっていうんですか!」
わけもわからず広がトチローにむかって叫んだ。
「そんなの知るか!何にも連絡を受けておらんぞ!まさか、あの二人が!おい、ハーロック!」
ハーロックは既に走り出していた。その後をトチローと広が続く。
「甘く見すぎていた・・・大人しい輩だと思って・・・くそ!アグリモニーは何をしていたんだ・・・」
ここに来たときは軽快に歩いてきたはずなのに、いまは走っても走ってもまだ到着しないほどリヴァイアサンが停泊している湖が遠くに感じる。家から姿を現したメーテルと鉄郎は入り口に立ちつくして随所から発煙しているリヴァイアサンを不安げに見守った。鉄郎の肩に置かれたメーテルの手は、愁いを帯びた表情とはうって変わって、力がこもっているように鉄郎は感じた。表には出さない何かへの怒りがそこにあるように。鉄郎も拳にも力がこもった。上空を見上げると小さな光が近づきつつある。

ハーロックの腕にある通信機からは取り乱したホセの声が聞こえる。ホセが留守番をしていた艦橋では数々のエリアからの火災発生状況、消化状況の報告が飛び込んできて彼一人では対処仕切れないようだった。廊下は消火と負傷者の救出にむかう人々が入り乱れ、騒然としている。その中、傷ついたままのラ・フロリーナがよろよろと艦橋に現れた。
「ラ・フロリーナ!お前さん、巻きぞいをくったのか?」
「う、うん。大丈夫・・・、大したこと無いわ」
「艦内の至る所で爆発が起きておる。・・・あの二人がやったにしては随分大胆じゃな。アグリモニーやアルバは何処にいっとるんじゃか・・・」
ラ・フロリーナはうなだれたままレーダー席へと座った。涙が止まらない。
「泣くな!ラ・フロリーナ。泣いてもどうにもならんのじゃ。ほれ、医務室へいかんか!お前さん傷だらけじゃないか・・・もうすぐキャプテンが戻ってくる」
「アグリモニーさんとアルバは?艦内にいたんでしょ?私のせいだわ・・・レーダーをちゃんと確認していなかったから・・・きっとそう」
「落ち着け・・・落ち着くんじゃラ・フロリーナ。さ、ドクターの所へ行こう」
ホセはラ・フロリーナを医務室に連れて行こうとしたが彼女はそれを振り切るようにアグリモニーとアルバの通信機にアクセスを試みた。反応がない事に困惑の表情を浮かべ、ホセを見ると彼も同じような表情を浮かべていた。格納庫にいたはずのアグリモニーはパメラと共に飛行艇に乗り込み、それを止めようとしたアルバは格納庫でおきた爆発で気を失っている。艦載機の幾つかが炎上し、格納庫は火の海だったが、自動消火機能によって火が消し止められた。気を失ったアルバは医務室で目を覚ます。彼の周りは数々の負傷者達がうめき声を上げ、その中でいつになく真剣な眼のドクター雨森が傷の手当てを続けていた。
「ド、ドクター・・・」
「おお、アルバ目を覚ましたようだな。大きな怪我はないようだから後回しにしといたが・・・」
「僕なら大丈夫です。これくらい大したことないですよ」
「大丈夫なら速く艦橋へ行け」
ドクターは手元から目をそらすことなく呟いていた。アルバの周りでメタノイドの少年がそそくさと軽傷の者達を介抱している。アルバはまるで野戦病院の様なありさまに息をのんだままだった。
「なにしとる!はやく艦橋に行かんか!」
「あ、は、はい!」
ドクターの一括が医務室に響く。ドクターは顔色一つ変えずにひたすら負傷者の処置を続けている。慌てて起きたアルバは何度か振り返りながら医務室を出て艦橋へ走った。足下にかすかな振動を感じるのは、リヴァイアサンが上空から来襲しはじめたプロメタリア軍の戦闘機に対して迎撃を始めたからだ。
アグリモニーを連れまわしたパメラはプロメタリウムからやってきた高速飛行艇からの通信に導かれ、アグリモニーを飛行艇に乗せて飛び立った。それとすれ違うように戦闘機がリヴァイアサンめがけて大気圏を突破してきた。
[上空より敵機来襲!]
[シールドシステム大破!]
「キャプテン、次元断層が思ったより速く移動をしたせいでこちらに侵入を・・・先ほどカタパルトから強制発艦していった飛行艇は上空からきた大型の戦闘機と合流する様です」
「アグリモニーとアルバはまだ連絡が取れないのか!」
ハーロック達は艦橋に戻っていた。広がいち早くレーダーを確認し、敵襲に備えた。トチローはすぐさま戦闘機能の確認を行った。この火災のために負傷者が出て砲手がほとんどいない状態だったが、コンピューターによるオート機能がここで役に立つようで、安堵のため息をついた。ハーロックは火災状況を確認しながら浮上の指示を艦内に流す。それを聞いて医務室へラ・フロリーナを連れて行ったホセが戻ってきた。
「キャプテン戻っておったんか・・・。ラ・フロリーナは負傷じゃ。可哀想に、強がってはいるが爆発の巻き添えをくったようでな。機関部の損傷は航行に支障の出るほどでは無さそうだ、他のエリアもそれほどではないが・・・シールドシステムが故障しておる。怪我人も多数出ておる」
「そうか・・・留守を任せて悪かった。何が起きたのか説明してくれ」
「それが・・・」
ホセが困惑の顔で何か言おうとした時、顔や身体にかすり傷を負ったアルバが飛び込むように艦橋に入ってきた。振り向いたハーロックは、その怪我とすすまみれのアルバを凝視し、血の気が引く思いだった。眼に涙をためたままアルバを何かを訴えようとハーロックを眼を見つめていたが、口を開いても言葉に詰まっている様だった。

メーテルは家の地下にあるコントロールルームにいた。巨大なコントロールパネルが敷き詰められた空間は、とても外からでは想像できない新鋭の機器がひしめき合う基地のようでもある。惑星ラーメタルは今やメーテルの手によって自由に航海を続ける無限軌道航海惑星。惑星の周辺にプロメタリア軍が展開され、惑星と彼らとの間にあった分厚い次元断層は大きく広がりながらもアンドロメダ星雲中心部へと移動を続け、ラーメタルの周囲から遠のこうとしていた。
「メーテル、ラーメタルを移動させなくては!」
「この惑星は非武装惑星。戦いが始まるのならばそれを避けなければ此処で平和に生活をしている人たちに危害を加えることになる・・・。ハーロックもそれは分かっているはず、鉄郎、彼らが浮上して大気圏から離れたら、ラーメタルはここから居なくなるわ」
「・・・・999もなんだね?」
「アンドロメダの鉄道管理局は復旧の最中。これから戦いが始まろうという宇宙空間に無防備な999を放つわけには行かないのよ」
メーテルは静かに呟いた。その横顔は消え入りそうなまでに寂しそうだ。
「俺は・・・コスモドラグーンを取り返しに行かなくてはいけない」
「鉄郎・・・行きなさい、リヴァイアサンに。速く!」
そして自分のコスモドラグーンを鉄郎に渡した。鉄郎にはメーテルが一緒に来ないことは分かっている。彼女の手からコスモドラグーンをつかみ取ると、鉄郎は寂しげではあったが笑って数歩後ずさり、一気に走り去っていった。メーテルは立ち上がって彼の後ろ姿を潤んだ瞳で見つめていた。
「必ず、戻ってきて。鉄郎」
彼女が見続けてきた、多くの者達の死を美しい緑によって覆い尽くしたラーメタルは徐々に暗黒雲を大気圏の向こうに集め始めた。停泊していた湖から上昇し始めたリヴァイアサンの艦橋に鉄郎が現れた。鉄郎はハーロックと目を合わせると大きく頷いて、それからにっこり笑って見せた。その眼は少し、寂しげだったが。

「アグリモニーが人質に?あいつがか?」
ハーロックは信じられないといった表情でアルバに問いかけた。アルバは、アグリモニーがパメラに連れまわされ、持っていたグレネード弾や時限爆弾を奪われ、それによって機関部周辺に爆発が起きたのだと伝えた。同様にパメラと別れたセイラもアグリモニーのグレネード弾を使って居住区に爆発をおこした。その巻き沿いを食ったのはラ・フロリーナだったが、その後セイラが何処に行ったのかは分からない。
「アグリモニーさんはとても具合が悪そうでした。真っ青で・・・何が起きたのか分からないんです。アグリモニーさんがは敵の飛行艇に乗るときに僕に言いました。『隠していてごめんなさい』・・・とどういうことなんでしょう?」
トチローは戦闘席で手元のパネルから目を離せずにいた。アグリモニーがなぜ無力だったのかはトチローにはよく分かっていたのだ。だが、それをハーロックに伝えるべきかとまどった、いや、今はそれどころでは無い。葛藤の最中でトチローの額に冷や汗が伝った。
「ハーロック、貴方達がリヴァイアサンに到着したとき・・・カタパルトから一機の飛行艇が猛スピードで出ていくのを確認しました。アグリモニーはきっとその中にいたんですね」
モニターで地上の様子を確認していた鉄郎が呟いた。ラーメタルは大気圏外に張り巡らせた暗黒雲を突き抜けて敵の主砲がふってくるのをただじっと耐えているだけだった。リヴァイアサンが離脱するまで、ラーメタルは次元軌道上をワープすることはできない。ハーロックはさっきまで鉄郎が見ていたモニターをちらと見るとノイズの向こうにメーテルが映った。
[ハーロック、次元航海モードに入ります。大きな磁場が発生するかもしれません]
「大丈夫だ、多少の痛手は負ったが、巻き込まれるほどリヴァイアサンは柔じゃないと信じている・・・いろいろ情報を貰っておきながら、何の礼もできずにすまない」
[いいえ、この戦いが終わったら・・・そうしたらまたお会いしましょう]
ハーロックはいつもの調子でニヒルに笑って答えた。
[・・・鉄郎、気をつけてね]
「ああ」
[トチロー・・・]
「うん?」
メーテルは一瞬ハーロックを見てからまたトチローに視線を戻した。その視線は厳しい。
[彼らの通信を傍受したのだけど・・・。アグリモニーは・・・人体実験の為にプロメタリウムに連行されたわ。なぜだか、トチロー・・・貴方には分かるわね?]
その言葉にトチローは口を閉ざしてしまった。ハーロックの瞳が大きく開かれた。
[あなた方の武運を祈っています。・・・どうか、ご無事で・・・]
メーテルはそう言うと通信を切った。そしてラーメタル地下の基地内でうなだれた。言ってはいけない事を言ってしまったのかもしれないが、状況から考えても、アグリモニーの為に誰かが言わなければいけないのだとメーテルは思った。そして、リヴァイアサンではメーテルからの通信が切れたと同時にハーロックが大声を上げた。
「トチロー!」
「すまん、ハーロック・・・。後にしてくれ」
ハーロックはいつになく堅い面もちのトチローの突然の行動に怪訝さを感じた。自分の知らない何かがアグリモニーにあるのだとすぐに分かった。だが、思案に暮れている時間はない。激しく艦が揺れだし、推力の低下がホセから告げられた。激しい磁場がリヴァイアサン号の後方で発生したため、ハーロックはよろけながらも蛇輪を力強く握りしめ、振動に耐える。
「鉄郎!・・・コスモドラグーンを載せているのは敵の旗艦だ。発見次第乗り移る・・・白兵戦の指揮を執ってくれるな」
「分かりました」
「アルバ、使える艦載機はすべてカタパルトから発艦できるように準備をしろ!」
「了解しました!」
(嫌な予感がする。アグリモニーに一体何があったというんだ・・・トチロー、なぜ口を閉ざす?)
大気圏を突破しようとしているリヴァイアサンの艦橋で、トチローの背中に向けられたハーロックの瞳は突き刺さすような鋭さに満ちていた。
対閃光シャッターが間もなく開かれる、暗黒雲の向こうからすでにプロメタリア艦隊の砲撃が始まっているのだ。
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