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第五章5
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| アグリモニーの失敗 ラーメタルに到着してしばらくが経つ。メタブラディでの戦闘で受けた損傷への修理が滞ったまま来たため、乗務員は各エリアの修理にかかりきりで、ラーメタルの大地を満喫することがままならなかった。必要な部品はラーメタルで購入・製造し、この停泊期間を機会に居住区の整備までしておきたかったが、トチローが思うにリヴァイアサンの改造はまだ途中段階で、とてもそこまで手が回るものではなかった。乗務員がほとんどいない状態を想定して作ったため、多くをコンピューターによるコントロールに頼り、そのためトチロー自身納得のいく制御が行われていない。しかもヘルブラディ砲に至ってはその制御をするための制御装置をどうすべきか日々頭を痛めている最中でもあった。そんな日々、修理も終盤にさしかかった頃、艦橋ではアルバが一人、各パネルのチェックをしながら計器面やレーダー面を磨いていた。そこにホセが自分の肩をとんとん叩きながら戻ってきた。 「なんじゃ、アルバ、お前だけか?どいつもこいつも羽目を外しおって・・・」 「ホセさん、エンジンルームの方は大丈夫ですか?」 「おお、心配はいらん。いつでも機動できるぞ。感心じゃな、計器の掃除か・・・他のエリアの連中はやっと息抜きができるとかで湖に遊びにいきよったが・・・。まぁ、ここに来てからろくに休んでおらんかったからそろそろ遊びに行かしてもかまわんだろうて。お前も外に出れば良かろう。まだキャプテンやトチローは戻って来ないから、出るなら今のうちだぞ」 ホセはアルバと並んで艦橋窓から外を眺めた。甲板から湖に飛び込んだり、甲板にデッキチェアを出して日光浴を楽しむ者もいたり、まるであたりは南国の島国へバカンスへ来たようだった。アルバはあまり多くの男達と戯れない。ホセが思っていたほど血気盛んでもなく、見た目よりずっと大人なのかもしれない。 「僕はいいですよ。ここから外を眺めている方がいいですから。ま〜こっちも暇ですけど。ラ・フロリーナさんなんか食堂行っちゃったっきり帰ってこないし。あぁ、僕エンジェルの方を見に行きたいんですけど」 「構わんよ。艦橋の留守番はワシがしておくから、行っとけ」 「じゃあ、お願いします」 「あ。こら!廊下は走っちゃいかんぞ!」 ウインクを飛ばしてアルバは小走りで艦橋を後にした。笑顔で見送るホセ。戦いを前にしているというのに、誰もが悠長にくつろぐ一時だった。次元断層がアンドロメダの中心へむかって移動しているせいでラーメタル周辺の断層が薄くなり、そのあたりを中心にプロメタリア軍が展開していることを誰も気づいていなかった。 艦載機格納庫に向けて急ぐアルバは艦内中腹の展望窓から外を眺めているアグリモニーに気づいた。明らかに彼女の顔色はすぐれず、冷や汗をかいて手すりを握りしめていた彼女だったが、アルバが通過するのを悟って作り笑顔で彼に手を振った。 「アルバ!ラ・フロリーナは何処にいるの?」 動く廊下を後ろ走りで展望窓に引き返すアルバ。そのままその位置で後ろ走りの格好でアグリモニーに顔を見せた。 「ああ、食堂です。食堂で新しいメニューを考えるんだって言ってましたよ」 「・・・・そう・・・じゃぁいいわ」 「僕、艦載機の点検に行くんで、それじゃ!」 アルバはそう言いながら動く廊下を小走りに去っていった。アグリモニーはそれからしばらくして痛みが治まったのか、ゆっくり深呼吸をして歩き出した。彼女が見下ろしていた艦尾甲板上では、ドクターがデッキチェアでトリとミーくんを相手に酒盛りを始めていた。 (こんな時に・・・痛みが走るなんて・・・でもまだ大丈夫。ハーロック達が帰ってくるまでにみんなを休ませないとね・・・) アグリモニーはゆっくり歩きながら居住区の医務室へと向かった。彼女の足取りは重い。全身を走る痛みはかつてのそれほどでは無かったが、不定期に彼女の身体のありとあらゆる部分をまるで食い潰していくかのようだった。誰もいない医務室に到着すると鍵のかかったケースを開け、その中の薬剤を注射器に入れた。そのまま、針を血管に差し込んで薬を注入する。少しずつ彼女の顔色は良くなっていくが、痛みはそれほど緩和されてはいなかった。脳裏にここ、医務室での一件が浮かぶ。 ---トチローがアグリモニーの背中をさすっている。ドクターがケースから薬剤を取り出して注射し、そのまま手術台に彼女を乗せる。ほんの少しの「癌細胞」が摘出されて、それほどの時間はかからずに手術は終わった。麻酔は彼女の身体をマヒさせていたが、意識まではマヒさせてはいない。ただ、アグリモニーはベッドの上で天井を眺めていた。 「ドクター、アグリモニーは病気なのか?病気なのにこの船に乗っているとあっては・・・」 「すまんな、トチロー今まで黙っていて。だが、手術をすれば大丈夫だ、あとはアグリモニーの気持ち次第じゃよ」 トチローはアグリモニーを見た。一筋の涙が彼女の瞳からこぼれ落ちた。彼女はまだ天井を見つめたまま言葉を発した。トチローと眼を合わせるのが恐いと、そう思ったのかもしれない。 「許して、トチロー。私はね・・・私の身体は、あまりに多くの異星人の血が流れているためにこんな事になってしまったの・・・。でもそれを治すことはできない」 「自分が思っている以上に、そして周りが思う以上に歳を取っている・・・そういうことか?この宇宙にはお前のように寿命もハッキリしないまま生きている人間がたくさんいる。ハーロックだってその一人だと俺は思ってるが」 「ハーロック・・・・。私は寿命も近いのかもしれないけれど、でも・・・ただ、彼と私には相容れない物が存在して・・・私の身体は彼を受け入れることができない・・・いいえ、きっと誰のことも」 トチローは彼女の言っている意味がさっぱり分からない。困惑顔でドクターの方に顔を向けると、ドクターは悲しげな表情でアグリモニーに近づいて、彼女の頭を撫でた。 「トチロー、アグリモニーはな、ハーロックの遺伝子を受け付けないんだよ。体液、血液といったものが体内に入ることで次第に拒絶反応を起こし始める。ワシは何とかして治してやろうと・・・そう思ったが、こればっかりはどうにもならん。なのに・・・」 「ドクター、言わないで!もうこれ以上は・・・・。私が・・・私が悪いの。それだけのこと。そうでしょ?トチロー。彼に私を求めさせようとする・・・私がいけないのよ。そして、求められるままに、彼の肉体を受け入れる。そうする事で自分の居場所を確認しているのよ。浅はかで馬鹿な女だと思われてもね・・・。分かってるのよ。でも彼に拒絶されるくらいなら私は・・・・!」 トチローはどうしようもなく悲しい気持ちになって何も言葉を返せなかった。ただ、じっと座ったまま、アグリモニーがベッドから差し出したあまりにか細いその手を握りしめてやることしかできなかった。愛する者と一つになりたいと思うのは、この世の常だと彼は思う。だが、それによって自分の身体が蝕まれていくというのはあまりにも悲しすぎる。アグリモニーは快楽のためだけにハーロックにその身を捧げていたわけではない。いや、初めはそうであったのかもしれないが、少なくとも今は違う。トチローは知っている。アグリモニーがハーロックを愛しているのを。そしてハーロックはそれを受け入れてはくれないだろう。それでも、彼女はハーロックためにこの船に居るのだという。彼のために傍にいたいと思うのだと・・・。それが彼女の居場所なのだと。そして、この事実をハーロックは知らない。彼が知ってしまったら、彼女がどうなってしまうのかは容易に判断できる。彼は彼女を船から降ろし、彼女は自らの命を絶つかもしれない。普段の彼女の振る舞いからは想像できないほどに、アグリモニーは哀れな女だった。--- できる限り、彼女はハーロックを避けていたつもりだった。だが、気持ちはそれを許さない。そして数日前に、彼の体液を体の中へ取り込んだことを思い出した。徐々に拒絶反応が起きる速度が速まっている事に恐怖感を覚えながら。 アグリモニーは居住区をぬけ、パメラとセイラが収容されている部屋へと向かった。入り口では彼女の部下が二人、ショットガンを片手に立っていた。 「ご苦労様。もうすぐハーロック達が戻るわ。そうしたらラーメタルとはお別れ。あなた達も甲板に出てラーメタルの新鮮な空気を吸っておきなさい。ここは私が受け持つから」 入り口に立っていた二人は喜び勇んでかけだしていく。苦笑しながら彼らの後ろ姿を見送ると、ドア横のコントロールパネルにキーワードを打ち込んで部屋に入っていった。 相変わらず薄暗い部屋だが、ベッド脇のランプに明かりが灯っているため、彼女たちの存在はすぐに確認できた。ただじっと、ベッドの上で肩を寄せ合って膝を抱えたまま座っている。出された食事はほとんど手をつけていないようだったが、食事はプロメノイドにとって取り立てて大切な物ではないらしい。 「何をしに来たの?私たちを殺す気になった?」 「殺す?ふん、殺したところでなにも残らないし、何も始まらない。あなた達は仲間から『死ね』と言われてここに来た。お望みなら殺してやっても構わないけど・・・それは、私の判断することではないから」 アグリモニーの声は少し震えていた。そして、彼女はパメラとセイラの瞳が光ったように見えた。 「具合・・・悪そうね」 「大きなお世話よ」 「不良細胞・・・・あなた、不良細胞の塊なのね。多星人の遺伝子が絡まり合って、どうしようもない身体になってしまった哀れなヒューマノイド」 アグリモニーは目を見開いた。不敵な笑みを浮かべるパメラに続いてセイラが話した。 「この船の情報を調べているときにあなたのカルテを見てしまったの。悪く思わないでちょうだい。この船の中のこと、知れる限りの事はインプットして・・・ラーメタルに付く前に母船へと連絡しなければいけなかったから」 アグリモニーの膝が、脚が、がくがくと音を立てているかのように震えだした。「不良細胞」その言葉が彼女の頭の中を渦巻き、体中の力が抜けていく。パメラとセイラは立ち上がり、アグリモニーに近づいた。銃を抜いたアグリモニーは二人にその銃口を向けたが、ふるえが止まらずやがて強烈な痛みが体中を走りだしたためにうまく狙うことができない。 「体中が痛いの?プロメノイドならその痛みを感じることは無くなるのに」 「ち、近づかないで!」 「大丈夫、私たちは貴方を殺したりはしないから・・・ただ、一緒に来て欲しいの」 アグリモニーは力が入らない。パメラとセイラの表情はそれでも優しさに満ちた笑みを浮かべ、初めてここに来たときと変わらぬ表情で彼女に近づいた。当然のことのようにアグリモニーの銃を奪い取り、さらにベルトに並んだグレネード弾を奪った。二人はアグリモニーの背中に銃をあてがって誰もいない廊下へと出た。青ざめたアグリモニーを連れたパメラはそのまま、彼女たちが乗っていた飛行艇の置かれる格納庫へ向かった。セイラは機関室へと向かう。 「あ、アグリモニーさん・・・!パ、パメラ!」 コスモ・エンジェルの整備をするために格納庫にいたアルバが彼女たちに気づく。パメラに銃を突きつけられたアグリモニーは苦渋の表情を浮かべながらアルバの方を見た。 「アルバ、逃げなさい!ここにいては危険!」 アルバはホルスターに手をかけたがアグリモニーのあまりの様子、そして危険を察知して動けずにいる。パメラは猛烈な力でアグリモニーを飛行艇に無理やり押し込もうとしていた。 「アルバ!ハーロックに伝えて・・・隠していてごめんなさいと・・・」 「アグリモニーさん!」 パメラはアグリモニーの銃をめったやたらと撃つ。アルバにはあたらないが、アルバも近づくことはできない。隙を見て銃を向けようとしたその時だった。パメラが投げたグレネード弾によって激しい轟音が艦内に響き、アルバは目前で起きた突然の爆発で格納庫の端まで転がって気を失ってしまった。食堂から居住区の廊下に出てきたラ・フロリーナは突然起きた爆発で吹き飛ばされた。艦内は爆音と共に警報が激しく鳴り響く。機関部での爆発は出火が激しく、自動的に防火壁が閉じる。そして、湖や甲板上にいた乗組員達は慌てて消火に向かったが、二次火災で多数の怪我人が出た。艦橋で居眠りをしていたホセの顔が青ざめる。 「し、しまったぁ!」 いつの間に、リヴァイアサンの艦内随所に爆弾が・・・否、パメラとセイラの命がけの任務遂行、最終章のようだった。それに示し合わせたかのように、上空から戦闘機とも飛行艇とも着かない物体をレーダーが告げた。それはハルヴァルドーの指示によってワープしてきたもの。そしてそれの続くように数々の小型戦闘機がラーメタルへと向かっている。予想以上にラーメタルを覆っていた次元断層の移動は速く、トール率いるプロメタリア船隊からの攻撃が始まろうとしていた。 |
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