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第五章4
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| 真実 リヴァイアサンはヘビーメルダーで受けた損傷の修理を終え、静かに湖に停泊を続けている。巨大な湖の上を吹く風は優しく湖面とリヴァイアサンを撫でた。淡々とした外界とは裏腹に、リヴァイアサンの各エリアでは先に控えた戦闘の為の準備であわただしい。その慌ただしさをよそに、ハーロック、トチロー、広はリヴァイアサンを離れ、遠くに湖を望むメーテルの家に向かっていた。メーテルの家はほのかに明かりが灯り、鉄郎は窓辺に寄りかかりながら、彼らの到着を待っていた。メーテルは一丁のコスモドラグーンをテーブルの上に乗せ、じっとそれを見つめていた。シリアルナンバー“1”と彫られている。鉄郎はホルスターからトチローから預かった“4”と彫られたエメラルダスの銃をそれに並べた。 「今、戦士の銃を託された人物がここに集まる・・・。ずっと長い間使っていなかった私のコスモドラグーン。もう使うこともないだろうと思っていたけど・・・」 「ついに使うときが来たわけだね」 「私の銃の動作確認は、鉄郎、あなたがやってちょうだい。私はもう、必要ない銃だわ」 「必要無いって・・・・」 メーテルは寂しそうにうつむいたため、鉄郎はそれ以上彼女に問いかけることは無かった。 「お〜い!鉄郎〜!」 その時、玄関の方で広の声が聞こえた。どうやら到着したらしい。 こじんまりとしたリビングのテーブルの上にそれぞれがもつコスモドラグーンが並べられた。並んだコスモドラグーンは4丁。トールに奪われた“2”を除く全てだ。 「こうして揃って並ぶなんて、きっと親父が作って以来なんじゃぁないかなぁ」 「もう一丁あるはずなのに・・・」 「そう落ち込むなって、鉄郎。お前さんの銃はすぐ近くにある」 トチローは鉄郎の背中をポンと叩くとダラスのジャンク部品の山で見つけた機械でつくったコスモドラグーン探知機を見せた。鉄郎の手のひらに軽くのったレーダー付きのその機械、次元断層のわずかな隙間さえもぬって探索を続けるコスモサーチでは4色の点が同じ場所で点滅している。レーダー下のボタンを何度か押すと、点滅は徐々に変化し、今まで光っていた色とは異なる色の点滅が確認された。それは少しずつだが移動している。 「鉄郎のコスモドラグーンの場所でプロメタリウムの位置が確認できると期待したんだが・・・俺様の作ったコスモサーチでは・・・リヴァイアサンを狙ってラーメタル宙域に布陣し始めている敵・・・その中にある」 「あの女騎士がすぐそこまで来ているのか・・・」 「アルバの話じゃ、その女騎士は、今リヴァイアサンに幽閉しているパメラとセイラの姉にあたる、女王ラミアの守護乙女とか言われているやつらしい。詳しいことは分からないが・・・ラーメタル宙域に来ている艦隊はかなりの数だ。」 「命が惜しければリヴァイアサンとコスモドラグーンを渡せだとほざきやがった。ばかばかしいにも程があるぜ」 トチローが吐き捨てるように言った。メーテルはそんなトチローを見ながら一言添えた。 「私が知る限り・・・・プロメタリアを繁栄に導いているハルヴァルドーという人は強い信念でプロメノイドを開発した研究者よ。でも・・コスモドラグーンをかき集めようとしているのは別の人物」 メーテルはじっとハーロックを見つめながら立ち上がり、静かに自室へと消えていった。鉄郎と広は腕を組んで座ったまま、まだ口を開かないハーロックを見た。 「アルバは言っていた。トールと呼ばれるその女騎士が指揮する艦隊が来ているとな。そして、ハルヴァルドーとトールとは常に意見の対立があったと・・・だが、ねらいは同じ」 「ハーロック。貴方は、ヘルブラディやコスモドラグーンを彼らがなぜ狙っているのだと思いますか?」 「コスモドラグーンを狙っている理由は定かだ。奴らもそれなりに調べたんだろうからな。この銃には未知のエネルギーがあり、そこに驚異的な破壊力が秘められているのだと。だが、精神対応エネルギーである以上、それを扱うことは奴らには叶わない。だから俺達はこうして落ち着いていられる。奪われたコスモドラグーンは必ず持ち主の場所に戻る。・・・・だがヘルブラディは・・・・俺自身、未知の存在だ。リヴァイアサンとして我々の手中に治めてもなお、詳しいことは分からない。ただ、コスモドラグーン同様に、驚異的な破壊力が秘められているのだろうが」 「ダイバーランドの伝説の破滅を呼ぶ石がヘルブラディだとしたら・・・。そんな、あれはただの伝説じゃ無いんですか?」 広がぽつと呟くとトチローが大きなため息をつき、茶をすすった。静かな小屋にズズズ・・・という音が響く。無言のときがしばし続いた。メーテルは自室から何かを書き留めた数枚の羊皮紙の束を持って戻ってきた。羊皮紙の束の端は、鉄郎や広にはよく見慣れた、トチローとハーロックには写真でしか見たことのない『髑髏のついたヘアピン』で止められている。 「メーテル・・・コレは?」 トチローが身を乗り出してヘアピンを指さした。メーテルはヘアピンを取ってトチローに渡す。 「エメラルダスが最期に残していった物。貴方が旅立った後だったから・・・私が預かっておいたの よ。・・・いつか、必要だと思ったときに、それを使いなさい」 「へ?」 トチローは聞き返したがが、メーテルはそのまま続けた。 「そして、この羊皮紙に書かれた事は、ハーロックがマヌエラから・・・貴方のお母様から託された事と、貴方のお父様であるハーロックが貴方に託すために残した言葉が書かれているの。エメラルダスもハーロックも・・・時が許すのならば、プロメノイドに立ち向かいたいと思っていたわ」 「だが、ヘルブラディの封印が解けるまで時は待ってくれなかったというわけか。このヘアピンに無念の想いが込められている様な気がするよ」 トチローはヘアピンを握りしめた。そのとき、トチローはこのヘアピンの髑髏に何かを感じていた。 「コスモドラグーン・・・このエネルギーがあればヘルブラディの破壊力を調整して、再生の力へと向かわせることが出来ると、そうマヌエラは言っていたわ」 ハーロックとトチローは食い入る様な眼でメーテルを見つめていた。呆然としていた広が慌てた調子で口を開いた。 「マ、マヌエラって落日の姉妹の?じゃぁやっぱりダイバーランドの伝説って・・・本当の話だったのか!」 「でもダイバーランドに残っている伝説は地球人が言い伝えとして残したためにに随分変わってしまったわ。・・・本当の話はね、マヌエラはもともと一つだった。ヘルブラディを封印しようとした時、人間の身体となって、1000年の間、あの鉱石を正しい道へと導く方法を見つける旅をしていた。凍て付くような宇宙を彷徨う旅・・・・辛かったでしょうね」 メーテルの瞳にじわっと涙が浮かぶ。まるで、なにかその時のことを知っているかのように。そしてハーロックは何かを悟り始めていた。 「もともと一つだったというのはどういうことだ?」 メーテルの瞳がどこか遠くを見つめるような、遠い昔を思い出すようなそんなまなざしに変わっていった。 「彼女たちは死と再生を繰り返しながら、1000年ごとに数々の銀河を守るエネルギー体のうちの一つだった。緩やかに大宇宙の時を刻む守護者。でも銀河系にたどり着いたとき、銀河系の守護星となるべき惑星ダイバーランドで止まることなく繰り返される戦いが続いた」 「ダイバーランドが守護星?そんな話聞いたのは初めてです」 広が驚きの声をあげた。惑星ダイバーランドは今でこそ地球人が支配する銀河系の独立工業惑星として繁栄しているが、かつてはラーメタルのような、銀河系守護惑星だったのだとメーテルは付け加えた。 「戦いによって彼女の心は傷つき、その苦しみと悲しみは怒りとなって戦いを止めぬ者達をブラックホールへと突き落とし、石の塊にしていった。それがヘルブラディ鉱石よ」 箇々までの話はハーロックもマヌエラ自身から聞いていたことと一致する。メーテルはなおも続けた。 「マヌエラのエネルギーはね、そのエネルギー体に身体を委ねた者のDNAを吸い取りコピーする・・・つまり、次々に接触した者の人格や身体を持つの。彼女は多くの負のエネルギーと接触して、それがいつしか銀河の時間を揺るがして、退廃を好むエネルギーに変わり果ててしまった。だから・・・時の魔女がブラックホールへと突き落とした石の塊から彼女を引き離そうとした。それに彼女は怒り、時の魔女と闘った。でも・・・時の魔女と接触した時、マヌエラは自分の本心、悲しみに気づいて・・・その思いを塊と共にヘルブラディという形で封印したわ。その時最後に接触した時の魔女のDNAによって姉妹として生まれ変わったのよ。それが、あなた方の知っているマヌエラ」 時の魔女・・・それが誰なのか、ハーロックはその時悟った。そして「人としてのマヌエラ」がなぜ姉妹であったのか。ハーロックの低い声が静かに響き渡る。 「時の魔女は・・・メーテル、貴方なんだな。マヌエラは貴方とエメラルダスのDNAを持って生まれ変わったんだな?」 「だから・・・だからマヌエラはおふくろに似てたっていうのか!」 トチローは顔面蒼白になった。 「あなた方の知っているマヌエラは、エメラルダスに容姿が似ているけれど、表向きの体内構造は昔の私。そしてハーロックのお母さんのマヌエラは私に容姿が似ているけれど、体内構造はエメラルダス。でも二人ともちゃんとマヌエラとしてのエネルギーと人格を持って生まれ変わった・・・こんな事は本当は言いたくは無かったけれど、いつかは言わなければいけない事だものね」 広が「嘘だろ・・・」と小さく呟きながら頭を抱えてしまった。ハーロックは父がマヌエラ姉妹を受け入れた理由が分かった様な気がした。 「じゃあマヌエラがダイバーランド人だっていう話はどうなるんだ?」 トチローがメーテルに問いかけると、メーテルは大きく首を振った。 「確かにマヌエラはダイバーランド星人よ。長きに渡って、地球人が移民するまで統治していた・・・でもそれはあの星で生きていくための条件に過ぎない。銀河系の守護星だと知らずに地球人があの星の大気を変えたために、絶滅してしまったダイバーランド星人の最後の生き残りとも言えるかしらね。でも、元々は次々に身体を乗り換えながら、長きに渡って生きてきたエネルギー生命体・・・。マヌエラはそのことを貴方達に悟られたくはなかったんでしょうね」 マヌエラがダイバーランド星人は気が遠くなるほどの一生を歩むと言っていたのは本当の話だ、だがそれはある一定の条件を満たした大気での話。すっかりマヌエラが人間だと思いこんでしまった彼らは自分たちの洞察の浅はかさにすこし面食らっている。 ハーロックはメーテルがテーブルに置いた羊皮紙を取り、じっと見つめた。かつて地球を離れるときにガンサーベルと共に瓦礫の中から見つかった、父、ハーロック二世の手紙と同じ字体。だが、その字はあの時より遙かに弱く、震えているようでもあった。 ----我が息子へ・・・恐らく、これを眼にするときは、もう立派な戦士となっていることと願っている。自分が為し得なくなってしまった事を託す前に伝えるべき事があって筆を執った。コスモドラグーンは選ばれた者にのみそのエネルギーは反応する。このエネルギーは、死をも恐れず邪悪に立ち向かう者のためにその力を発揮する。意志さえあれば、ヘルブラディを正しき道へと導き、その恐ろしい力を正義のために使うことが出来る・・・・そうお前の母は呟いて、俺の腕の中で息を引き取った。---- ハーロックが文章を途中まで読み終えたときにメーテルはまた話し出した。ハーロックの瞳をじっと見つめ、言い聞かせるように。 「マヌエラは・・・、彼女たちは宇宙をさすらう中でとても口では言い表せない酷い仕打ちを受けたのよ・・・力無い女にはあまりに酷い・・・。そして、戦いが繰り返され、多くの不幸が起きるこの世なら、いっそのことヘルブラディの封印を解いて、すべてを破壊し、無にしてしまえばいいのだと思っていた。でも、その考えを変えたのは、ハーロック、貴方のお父様よ」 「それで、親父が彼女たちを助けた・・・?」 「ええ。彼女たちはコスモドラグーンを製造した大山博士を探していた末の事よ」 ハーロックの父がいつどのようにしてマヌエラと遭遇したのかはメーテルにも分からなかった。だが、誰もが思った。ハーロック2世は、心ある者ならば、たとえそれが消えかかっていたとしても、その心を蘇らせる力があるのだと。 「私は・・・時の環を旅する間で彼女達に再会した。出会うことは・・・私の宿命だったのかも知れないわね。大山博士が亡くなって、アルカディア号の魂となった事と同時にコスモドラグーンの事も彼女たちにうち明けたわ。そしてハーロックは傷ついた彼女たちを受け入れたの。でもね、全てのコスモドラグーンがあればヘルブラディの力を制御できると彼女たちは訴えたけれど・・・大宇宙に散らばった銃を一つ所に集めるのは容易じゃない。そして時間も無かった・・・だから、その意志を次の世代にと・・・」 「そして俺が生まれた?」 「彼女はすぐに恋に落ちたけれど、ハーロックは必死に拒んでいたはず・・・あの人は、あの人を愛した者を不幸にしてしまう運命を背負っている人だから。でも、ハーロックには分かってた、子孫にその意志を継ぐ決意をしなくてはいけない時がきたのだと。エメラルダスとトチローがそうであったように、自分の意志を継ぐものが必要だということ。そしてそれは決して途絶えてはならない。それこそが永遠の命。貴方を生むことで命の火が消えてしまう事を承知で、ハーロックはマヌエラのお姉さんの愛を受け入れた。辛い選択だったのよ。そして、妹のマヌエラは貴方の守護者として・・・貴方が一人前になるのを見守っていた。ヘルブラディの封印が解けるまで・・・」 「ヘルブラディの封印が解けるのを分かっていたのならば、なんでまた封印し直そうって考えなかったんだろうか?」 鉄郎が呟くとメーテルは首を振った。 「銀河は私たちの予想を遙かに上回る速度で変貌を遂げていった。そしてまた戦いが繰り返される・・・。封印が解けたとき、また封印する・・・同じ事を繰り返すくらいならもっと他にやり方があるわ。そしてマヌエラは最後の決心をした」 「だから・・・その恐ろしい力を正しい道へと導くために、戦士の銃を持つ者と、そして戦士の銃のエネルギーが必要だというのか・・・俺は、生まれながらにしてヘルブラディとその運命を背負っていた・・・そうなるべくして生まれたというのか?宿命から眼を逸らすなとマヌエラが言ったのは、そういう事だったのか?」 「俺の言った『この世の均衡のために、お前を生んだんだって』っていうのはあながち間違えじゃなかったな」 トチローのメガネの向こうの眼がハーロックを貫いた。ハーロックは苦渋に満ちた顔で、再度父の手紙に目を通した。 ---お前が生まれることで、いままで俺の為に死んでいった多くの女達の愛を成就させられる・・・そう俺は思う。そして、もうこれ以上誰も犠牲にすることはないだろう。お前は、俺を愛した女達のすべてと、分かっていながら受け入れることの出来なかった俺自身の戦いの終わりにようやく解放することの出来た愛の結晶だ。最期を前にようやく手に入れた命だ。お前の戦いの扉は開かれた。これから長い戦いが始まる。お前が真に髑髏の旗の下に生きることを誓うならば、決して死ぬな。生きろ--- ハーロックは無意識に羊皮紙を握りしめた。辺りに紙がつぶれる音が響く。そしてメーテルが呟いた。 「肉体を失うことで、姉妹はまた一つとなって・・・きっと貴方を見守っているはず。彼女の全てを尽くして、あなたに生きるエネルギーを与えた、身も心も失い、小さな炎になってしまっても、それでも貴方を見守っている。それが母である彼女の役目ですもの。そして、ハーロックもエメラルダスも、トチローも・・・みんなあなた達を見守っているわ。・・・行きなさい。引き返すことはもう出来ないのだから」 メーテルは彼女を囲む男達一人一人の瞳を見すえた。ハーロックは自分に課せられた重荷を噛みしめるように、再度羊皮紙を握りしめると言い放った。 「売られたケンカは買うのが男というものだ」 「行きましょう。ハーロック」 「鉄郎!コスモドラグーン・・・最後の1丁を取り返しに行くぜ」 広が鉄郎の肩を叩いた。鉄郎が大きく頷いた。 「その前に腹ごしらえしないとな!」 トチローが大きな口で笑った。男達は立ち上がりキッチンへと姿を消していく。だが、ハーロックはしばらくその場でメーテルを見つめて、それから問いかけた。 「俺の母は・・・貴方に似ていたのか?」 「・・・いいえ、今の私とは少し違うわ。・・・私も、目的こそ違え、マヌエラのように数々の身体に乗り換えて生きてきたものね。きっと・・・もっと厳しい顔をしていたかしら。なぜ?」 「いや・・・母の顔も知らずに生きてきたからな・・・ちょっと気になっただけだ。すまない」 メーテルは心の奥底で、まだ、見たこともない母の姿を無意識に探しているハーロックの切ない想いを哀れんだ。 |
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