第四章8
守護乙女
1000隻の艦隊を引きつれた、トールの乗る巨大戦艦はアンドロメダ星雲外周に集まりつつあった。リヴァイアサンが来る方向分からない状況でトールは自分たちの進路に点々と布陣を展開した。
「奴らは必ずラーメタルに向かうはずです。ラーメタルの現在地が不明の今・・・ここに大量布陣することは我々の守備に問題が発生するのでは?」
「それくらいの事は分かっておる。アンドロメダ外周を強化するだけでは用足りぬ。残り400隻でマゼラン方向へと進路をすすめよ!敵艦の存在を確認次第アンドロメダ外周に布陣した艦隊を再展開する。それくらいの時間稼ぎは十分にできよう」
旗艦であるトールの戦艦作戦室では床に映し出された巨大な航海図の上で布陣展開の話し合いが行われていた。1000隻の内それぞれ数百隻の指揮官である四人のモノ・プロメノイドの司令達も列席している。黄金の甲冑を纏ったトールは絢爛豪華な椅子に足を組んで座り、各司令たちの申し入れにほとんど耳を貸してはいなかった。
「我が妹のうち四人は私のプログラミングをコピーし、そなた達の司令艦へと配置する。少しでも私の指示を無視すれば、私の代わりに妹たちがそなた達に代わって艦隊の指揮を執るゆえそのつもりでおれ」
司令達は騒然としてそれぞれが目を合わせて動揺しはじめた。艦隊の指揮などしたことがない女達に一体なにが出来るというのだろうか。
「お言葉ですがトール様。戦艦の指揮はハルヴァルドー様よりその腕を見込まれております我々どもにお任せいただけないのでしょうか?」
「だまれ!メタブラディで大敗したトリクスターと貴様達は所詮兄弟に過ぎぬではないか。同じ育成カプセルで同じ巣蜜を吸ったそなた達にトリクスター以上の働きが出来るとはとうてい思えぬが」
司令達はただ下唇を噛みしめ、立ちつくしていた。トールは甲冑を纏わせた四人の妹を作戦室に呼び、それぞれの司令の前に立たせた。その表情たるや、トールのそれと全く同じ冷ややかな瞳、不適な笑みで司令達を見下していた。残りの二人の乙女達は飛行艇の発艦口へと向かっていた。ボロボロに壊れかけた古くさい飛行艇。
「いち早く敵の艦を見つけ無くてはいけないのですね」
「敵がラーメタルに到着する前に、何としてでも潜り込まなければ・・・」
二人の乙女達は不安を胸に巨大戦艦を後にした。
「なんと恐ろしいお方だ。妹君をたった二人で敵艦に潜入ようとは・・・。これが失敗したらどうなさるおつもりなのか・・・」
「やはりハルヴァルドー様にご報告すべきではなかろうか?」
「そんなことをしたら乙女達が黙っていると思うか?我々の首が飛ぶ」
司令達は自らが艦へ戻る道すがら乙女二人を乗せた飛行艇が飛び立つのを眺めながら小声で話していた。

乙女二人を乗せた飛行艇はS.O.S信号をマゼラン方面へ発信しながら航行をすすめた。〜方面といっても、この広い大宇宙で当てらしい当てもなく航海して目的の艦に出会う可能性は限りなく低い。かくゆうクイーン・エメラルダス号でさえも、彼女の元を去った大山トチローの所在を探して航海し、結局死ぬまで出会うことがかなわなかった。しかし・・・
「何か、なにか不吉な予感がする」
「はぁ?」
突然話しだしたハーロックの声にトチローが反応した。
「キャプテン、微弱ですが、S.O.S.信号をキャッチしました。我々の航行進路上に小型飛行艇を確認」
「ホセ、30%減速だ。ラ・フロリーナ、衝突したくなければ進路を開けるよう警告しろ。」
銀河協定では航行進路の優先順位は戦艦あるいは自分より大きな船が優先される。従って飛行艇はその進路を妨げてはいけない。ラ・フロリーナがハーロックに返答した。
「ですが、キャプテン、向こうは助けを求めているようですよ。戦闘エネルギー反応なし。生命反応微弱。次元レーダーではこの周辺で戦闘があった形跡もありませんが・・・どこかの戦いにまきこまれたとか」
「面倒だな・・・いちいちそんなものに取り合っていてはきりがないよ」
「広の言うとおりだ。ラ・フロリーナ警告を発信しろ」
ラ・フロリーナは少々とまどった様子で警告発信をするために通信回路を開いた。飛行艇から女の声で通信が入る。
『こちらは・・・ジーク星より離脱した難民船・・・。どうか、助けてください・・・女二人の私たちに為すすべはありません。・・・だれか・・・助けて』
「あーまいったな〜難民かよ〜。しかも女二人だってよ。ハーロックどうする?回避できねぇとよ」
めんどくさそうにほえたトチローの声を受けてハーロックが立ち上がり、通信パネルに向かって叫んだ。
「こちらは戦艦リヴァイアサン。貴艇は我々の航行進路上にいる。このままでは衝突を避けられない。即刻進路をあけよ!」
『どうか・・・助けて・・・離脱の際に攻撃を受け、エンジンが故障して回避不能です・・・お願い、助けてください。お願い』
か弱い女の声が環境に響いた。ハーロックは深いため息をついて広の映し出したモニターに浮かび上がった飛行艇を見た。見るからに旧式のボロボロの飛行艇。トチローがそれを見て答えた。
「形式が古すぎてよくわからんな。よくあるタイプだから星籍も判らん。ジーク星から離脱したって言ってたからな〜。トラブルに巻き込まれた可能性は高いが・・・。」
「この際こっちが回避してやってもいいんじゃなかろかの?ん・・・じゃが、見捨てるのは可哀想じゃな」
ジーク星は絶えず内戦が繰り広げられている孤高の惑星。争い好きの者達がひしめく戦争の楽園とも言われている。そして、戦い好きの者達のために多くの女がここで競にかけられているのも有名な話だった。
「不吉な予感というのはこの事なのかもしれないが・・・」
助けを求めているのが女であることを知ってラ・フロリーナは不安げな瞳でハーロックを見ていた。ハーロックは別の通信パネルスイッチをオンにした。
「アグリモニー、真意を確かめる。警戒態勢をもって飛行艇を収容しろ。妙な動きをしたら撃ち殺せ」
[了解]

乙女二人はハーロックの待つ艦長室へと通された。あまりの美女がやって来たことで艦長室付近は野次馬でごった返している。艦長室入り口を武装した乗務員数名が固め、中にはトチロー、広もいる。アグリモニーは机の上に両足を投げ出して座るハーロックの前に二人を尽き出した。
「飛行艇にこの二人以外乗船者は無し。身体検査もしてある。悪いと思ったけど、女はポケットが余分にあるから調べさせて貰ったわ。武器の携帯はなし。レントゲンでも異常なし。ただのヒューマノイドよ」
「女はいいよな〜・・・そんなことまで・・・」
「そんなことを言うものじゃ無いわよ広」
「やめとけやめとけ、こいつは男にとっちゃ全身凶器だかんな」
「ほめてくれてありがとう、トチロー」
トチローの頬を撫で、広にウインクしてアグリモニーは去っていった。男ばかりになった艦長室の真ん中で乙女二人は怯えている。否、怯えた振りをしている。だが、それに気づく者は誰もいない。
「ここでは旅する者に余計な詮索はしないのが掟だが、だがどうも納得が行かないのでな。経意を話して貰うか」
「私はパメラ、こちらが妹のセイラ。私たちは・・・平和の星、ラーメタルという星を探して銀河鉄道で旅を続けていました。マゼランでトラブルに巻き込まれ、気がついたらジーク星へと売られていたんです・・・」
パメラもセイラも見分けがつかないほどよく似ている。違うとすれば若干声が違うくらいか・・・。
「ラーメタルは宇宙で最も平和な星。一度降りたら次の銀河鉄道が来るまで出ることは出来ないけれど、戦いのない平和な星で私たちは一生を終わりたいと・・・そう願っていたのです」
「んで?脱出したはいいがラーメタルの場所は判らずこの辺をうろうろしてたってか?」
トチローが近づいてきたので彼女たちは後ずさったが一人が跪いた。涙目の女の瞳がすぐ近くにいた広に訴えかける。
「ラーメタルへの道のりはご存じではありませんか?」
「ご・・・ご存じも何も、俺達ちはそこに向かって・・・」
「ならば・・・お願いです!・・・どうか私達を連れて行ってはいただけないでしょうか?」
机上のハーロックの長い足は脇にあった洋服掛けのポールを思い切り蹴飛ばし、大きな音を立てた。倒れるポールをトチローがあわててキャッチする。ハーロックは口を滑らした広を睨んでいた。急な音に乙女二人は泣き出してしまった。ハーロックは表情一つ変えずにいる。
「虫のいい話だな。得体の知らぬ者達をおいそれと乗せておくつもりは無いが・・・、まぁいい。どうせあの飛行艇は修理のしようも無いほど古そうだしな。部屋も余ってる。好きにしろ。ただし必要なとき以外は艦内を勝手にうろつくな」
広はその言葉を聞いて小さくなりながら乙女二人を居住区の小さな部屋へと連れていった。残ったトチローがハーロックに近寄った。
「なんだかんだ言っても女に甘いな〜。涙を見て欲情したか?」
「俺は面倒臭いことはしたくない。それくらい分かってるだろう。広は広で、美女に見つめられてめまいでも起こしたか?俺達の行く先をほいほいしゃべるとは」
「ま〜いいだろ〜。ラーメタルにつきゃすべて分かるさ」
「そういうことだがな・・・」
一方、部屋に通されたパメラとセイラは無表情に部屋の中に立っていた。二人は心で会話をしていた。
(これで良いのよね。私たち・・・)
(ええ、あとは調べものをするだけ・・・)
その時、ラ・フロリーナが二人の元へとやって来た。彼女の手には2色のドレスがあり、それを渡しに来たのだ。
「私はラ・フロリーナ。普段は艦橋で仕事をしてるんだけど、元々洋服屋をしていたから、お洋服つくったの。あなた方のボロボロでしょ?これに着替えて。色違いだから一目でどっちが誰か判るし」
「こんな事までしていただいては・・・申し訳ありません」
「いいのいいの。ここは女性が少ないから、あまり肌の出る服は良くないわ。食事は食堂で私たちと一緒にしてね。何か判らないことがあったら何でも聞いて」
パメラとセイラはいったん目を合わせてから軽く頷いて口を開いた。
「あの・・・ラ・フロリーナさん。迷子になりたくないので・・・できれば道案内をしていただけませんか?」
「私たち・・・こんなに大きな船に乗ったことが無くて」
「任せて」
ラ・フロリーナは自分の胸をトンと叩いて自信満々に答えた。彼女たちに微笑みかけるラ・フロリーナにはパメラとセイラが心内複雑な思いに駆られていることを知らない。ラ・フロリーナは居住区を中心に案内したが、居住区にある艦内見取り図が映し出されたパネルには艦橋や機関部を含めた軍事エリア、中枢コンピュータールームの場所までが見て取れた。
そして、後に、彼女たちは乗ってきた飛行艇に忍ばせてあったカプセルにリヴァイアサンの見取り図のコピーと持てるだけの情報をを乗せ、宇宙へと放った。
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