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第四章7
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| 惑星ヘビーメルダーふたたび 銀河鉄道999と別れて、リヴァイアサンは惑星ヘビーメルダーへと進路を向けた。銀河軌道をアンドロメダ方面に確保するために進路をいったん引き返すような事になってしまったが、それでも、どうしてもよらなくてはいけない事情がある。全ての事の起こりはそこにあり、報告しなければいけない人が、そこに居る。物言わず、ただ形のみがかろうじて残っていたとしても・・・彼らには無視することが決して許されない場所がそこに在る。 大都市、トレーダー分岐点から遙か離れた砂漠地帯にそびえるガンフロンティア山の上空にリヴァイアサンは停泊した。一足先にトチローは船を下り、そそくさと行くべき場所へと足を進めている。ガンフロンティア山の麓から十数キロ離れた大地に埋まった戦艦の艦尾を目標に、何かにとりつかれたかのようにひたすら。艦体の半分ほどが地中に埋もれ、何とかその形体を保っているような、さび付いた戦艦の艦尾。かつてハーロックとトチローの父達が、アルカディア号建造の為に試験的に建造した戦艦、デスシャドウ号だ。その下に、鉄骨を十字に組んだ墓標がある。トチローの父、大山トチローの墓標。はるか昔に、星野鉄郎がその死を看取り、葬った場所。 「親父。しばらく振りだな・・・。まぁ、いっぱいやれよ」 トチローは墓標に付着した汚れやゴミを取り払いながら、父の好物だった本醸造「美少年」を振りかけた。トチローもまた、コップに酒を注ぎ、墓の前にあぐらをかいてコップを掲げた。何か・・・感慨に耽るような顔つきでただ、目にあふれる涙も拭うことなく墓標を見つめ、そして少しばかりの酒を飲み干した。 「見てくれ、ガンフロンティア山の上空に鎮座する俺の船を・・・。まだまだ、親父達の作ったアルカディア号には及ばないかもしれないが・・・それでも俺、がんばったんだぜ!・・・もうすぐ親父に会わせたい奴が来るよ。親父の意に叶うほど、まだまだ成長してないかもしれんけどな。ま、俺も言えたがらじゃないか。いっひっひ」 トチローはガンフロンティア山の上空を見上げた。ヘビーメルダーを照りつける日の光を浴びて、漆黒の輝きをはなつリヴァイアサンが悠然とそこに在る。 リヴァイアサンの艦橋では外出用のローブを持ち、ハーロックが艦長席から随分長い間じっと窓の外を見つめていた。しばらく黙ったまま動かないハーロックにホセが小さく声をかけた。ミーくんがホセの腕の中で小さく鳴いた。 「トチローがまっとるんとちがうか?・・・行かんでいいのか?。何かここに用事があるんじゃったらワシに言ってくれればやっとくが・・・」 「あぁ・・・」 ハーロックは何かを心に決めたようにふせめがちにしていたその目を見開き、通信装置に手をかけた。 「ホセ、これから艦内に流す通信のフォローを頼む。」 ホセは当然「?」と首を傾げたが、ハーロックはそう言い終えると通信器のスイッチをオンにし、艦内全てのエリアへ向けて勧告を出した。 「こちらはリヴァイアサン艦長ハーロックだ。艦に乗船している者全てに告ぐ。これから伝える勧告を心して聞いてくれ。リヴァイアサンはこれよりヘビーメルダー時間で丸一日ここに停泊する。以後、プロメタリアの中枢都市が存在すると言われているアンドロメダを目指す。未知の敵といつ戦いが始まってもおかしくはない。ここで、自分たちの心に問いただして欲しい事がある。・・・我が艦は我々のかざした鋼の鉄則を守り、死をものともせず、戦う覚悟のある者のみが乗船出来る。乗務員規定はやるべき時にやるべき事をすれば原則的にあとは自由だ。自分の住処のように好きにしてくれて構わない。ただし、自らに何かしらの問題が起きた場合は、誰の助けも借りず、自分で解決しなくてはいけない。そして、乗務員は、俺とトチローの意志と共に、髑髏の旗の下で共に生き、共に戦い、共に死ぬことを誓い、そしてこの大宇宙に自由の旗を翻せる者でなければいけない。また、以後、自分の生き方が明らかに我々と違うと判った場合、俺との話し合いの元、退艦を許す余地はある、だが、もし黙って退艦した場合は脱走とみなし・・・死刑とする。・・・これより諸君らに二つの選択を託す。このまま乗務員として船に残り生涯ここを家とするか、ここで降りて自分自身の足で生きるか。そのどちらかだ。キャプテン・ハーロックの名に夢を見る者を俺は必要としていない。俺に何の希望も期待も持つな。俺がお前達にしてやれることなど何もない。全て自分の力で生きていくことが全ての前提だ。出発までに答えを出してくれ。以上だ」 通信が切れた。しんと静まった艦橋の中、誰もが顔を見合わせたがホセは厳しい眼差しで頷いてハーロックの元へと歩み寄った。ハーロックはホセの肩を軽く掴むとローブを纏って船を下りていく。軽く置いたはずの彼の手は、老人にとってとても重く感じた。ホセには、だんだんとハーロックが遠い存在になっていくのを感じている。それは、ハーロックが戦士としての成長した証拠なのだとホセは思った。 下艦用のタラップの壁にアグリモニーが寄りかかってハーロックを待っていた。彼女の手には、どこで摘んだのか、純白の花が数本あり、それをハーロックに渡す。 「気が利くな」 「お酒はトチローが持っていったわ。ねぇ・・・もし、これで人数が激減しても、それでも戦場へ行くつもりなのね」 ハーロックはボランティアで航海しているわけではない。鉄郎の願いを聞き入れたいのは山々だったがが、戦えない者は足手まといになる。そして、無駄死にをさせたくはない。様々な思いが彼の頭を廻り、そして、篩にかけることを本人達に託したのだ。 「俺とトチローだけでもこの船を動かすことは出来る。いたくなければお前も降りても構わない」 「私は私なりにやらなければいけないことが有るから。不本意でしょうけど、ここに住まわせて貰うつもり」 ハーロックは苦笑しながら、手渡された花の香りを嗅いだ。 飛行艇を見送るアグリモニーの黒髪がなびく。 (たとえ、貴方一人になったって私はこの船に残る。貴方が降りろと言うのなら・・・死んだ方がまし) 飛行艇はガンフロンティア山の麓の小高い峰に降り、ハーロックはそこから徒歩でトチローの元へと歩いていった。トチローは父の墓に並んで座り、地中に埋まったままのデスシャドウ号を見上げていた。もうすぐ日が暮れる。一面の夕焼けに映し出された朽ち果てたデスシャドウ号は亡霊船の如く不気味なおもむきで、ただじっと時が過ぎゆくのを見ているようだった。少しばかり風が強くなり、砂塵が舞い始めている。 「遅くなって悪かった。もう待ちくたびれたか?」 トチローが声のする方をゆっくり向くと、夕焼けを背に立つハーロックの姿があり、トチローはしばらく無言でその姿を見つめていた。まるで、数年前にハーロックの父がそこに現れたときの如く、彼は現れたのだ。 「どうした?」 「い、いやぁ・・・ちょっと驚いただけだ。まるで、お前の親父さんに出会ったときと状況が同じだったんでな。思い出したのさ。・・・そう、親父の墓の傍に座って、じっとデスシャドウを見ていた時だっけ」 ハーロックは大山トチローの墓の前に跪いて、アグリモニーに手渡された花を置いた。トチローは酒をコップに注いでハーロックに手渡すと、また墓に話しかけた。 「親父。ハーロックだ。判るよな。やっと出会えて、こうして一緒に来ることができたよ」 「俺達はこれから戦いの場へと航海を続けます。この戦いが終わってこそ、俺達の本当の旅が始まるでしょう。そう俺は思っています。それまで俺達とそして俺達の船を親父と一緒に見守っていていて欲しいのです。どうか・・・」 ハーロックは花束を手向け、そして頭を垂れた。砂塵が墓標の上に今だ朽ちずに残っている大山トチローの帽子をゆらした。まるで、ハーロックの気持ちを察し、それに返事をしたかのように。 しばらくして二人はデスシャドウの中を散策した。全ての機器がさび付き、これといって使えそうな物は何もないが、トチローもハーロックも興味深げに機器の構造などを調べてまわり、彼らの父達がどんな旅をしていたのか創造を巡らした。とっぷりと日が暮れるまで散策して回り、二人はデスシャドウから帰路についた。いつもなら立ち寄った星の酒場に必ず行くハーロックだったが、今回は珍しく酒場にも行かない。それはプロメタリアとの戦いの後、祝杯を挙げるまで取っておくという意味だった。 「俺もまだまだ甘いな。今のリヴァイアサンの構造は基本的にリヴァイアサン自身の力に頼りすぎている。言い訳がましいが、なにせ、乗務員がまるでいない状況で作ったからな〜。増えるんだったらもっと改造していかにゃぁ。な、ハーロック」 「その、乗務員の事だが・・・」 ハーロックはなぜトチローを待たせてしまったのか、その理由を話した。彼が勧告を出す決断をするのに時間がかかってしまったこと。今、出すのが正解なのか、そしてどれだけ乗務員が残るか未知であること。そして、『ハーロック二世の息子』だからというだけで、あの船に乗務員が増えることは許されない事。 「重荷を背負うのが嫌な訳じゃないし、重荷だとも思っていない。ただ、今、俺にも彼らにも決断が必要だ」 「分かってるよ。一人で戦ってきた時間が余りに長すぎた。お前は時々人間不信になるときがあるしな。でもこれだけは言っておく。お前は一人じゃない・・・」 「あぁ」 ハーロックとトチローは飛行艇の窓から遠のくデスシャドウと大山トチローの墓を眺めながら低いトーンで言葉を交わした。だが、飛行艇がリヴァイアサンに近づくにつれてトチローが呟いた。 「全てはここから始まった・・・あのとき、マヌエラに会っていなかったら・・・俺も親父みたいに、どこかの星で朽ち果てていたかもな・・・でも、いつかそうなるかも知れない」 「トチロー!いまさっき、お前は一人じゃないって言っておきながら・・・。二度とその言葉を言うな!分かったか!」 ハーロックの瞳はいつになくつり上がり、トチローの胸ぐらを掴んでいた。トチローは冗談っぽく大口で笑顔を作るとVサインを出した。 「その意気だよハーロック。お前にいじけた顔は似合わん」 「・・・ったく。冗談でも言って良いことと悪いことがあるだろうが」 トチローはあながち冗談でも無かった。だが、それは誰にも分からない。彼自身も・・・・。そして二人は思いだしていた。全てはこの星から始まり、その引き金はマヌエラが引いたのだということを。 ハーロックは帰艦後すぐに艦橋へと行く気にはなれなかった。艦載機格納庫で乗ってきた飛行艇に腰掛けて、眼下に広がる荒野の向こうにポツンと見えるデスシャドウを見つめていた。 (いつかは決断を迫られる事。トチローの言ったことは正しい。俺はそれがよく分かっている。そして、誰も、俺に着いてくることが無ければ、俺はその程度の男・・・。親父も同じようなことを考えていたんだろうか。そして決断をした。そう、俺には分かる。俺のDNAが語っている。俺の・・・先祖代々受け継がれた、思いが・・・) 格納庫からハーロックが出てきたとき、既に時は出航の時刻を回っていた。寝不足ですこしめまいを覚える感覚のまま、艦橋に姿を現したハーロックにホセが報告する。 「退艦したものは5名。治療不能のメタノイド一名、ヒューマノイドは男女2組・・・いづれも、女に妊娠が認められたためドクターが説得して退艦してもらった」 「・・・・それだけか?」 「我々を含め、乗組員はワシら乗務員30名、猫一匹にトリ一羽、それとトチローと・・・キャプテン、あんたじゃよ」 「みんな、キャプテンに付いていくと言っています。鉄郎さんの言ったとおり、窮地を切り抜けてきた人たちばかりですから。そして当然、僕らも」 アルバが答えた。ガンフロンティア山の麓では退艦した5名がリヴァイアサンを見送るために立っている。ドクターが呟いた。 「あんな状況だったのに、母子共に順調だ。きっと強い子が産まれるな。まだまだヒューマノイドの未来も捨てたモンじゃないっちゅーことだ」 ハーロックを中心としたリヴァイアサンの乗組員は展望室から眼下で手を振って見送る彼らを眺めながら、惑星ヘビーメルダーを後にした。 |
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