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第四章6
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| 星野鉄郎 リヴァイアサンの集中治療室、そして医務室に収容されていた男女達はそれぞれの治療が済み、徐々に元気を取り戻していた。しかし、中には治療の甲斐なく、死んでいった者達がいる。アンドロメダ星雲へ向かって航行をしていたリヴァイアサンは、おりを見て命を落としていった者達の宇宙葬を執り行った。甲板に運ばれた数個の棺型カプセルが外宇宙空間へと放出されていく。仲間達は涙を流し、カプセルを見送った。見えなくなるまで彼らは甲板でそれを見送り、お互いを励まし合いながら艦内へと戻っていった。 「志半ばで・・・理不尽な死に方を余儀なくされた者達。いつの時代にも多くの犠牲者が尽きることはない。俺達は彼らの分まで、自由のために死んでいった者達の分まで、生きて、その意志を貫き通さねばならないんだ」 鉄郎は励まし合う仲間達にそう言い聞かせていた。ハーロックは少し離れた後ろで、そんな鉄郎の姿をじっと 見つめ、そして最後に艦内へと入り、そのまま艦長室へと消えていった。 「両舷エンジン点火、加速50%じゃ」 「強化シールド準備完了。2時方向に小惑星帯確認、アルバ、回避を」 「了解!」 大艦橋ではいつものようにアルバ、広、ラ・フロリーナ、ホセがそれぞれの任務に就いていたが、耐えきれずラ・フロリーナが泣き出した。 「これ〜、ラ・フロリーナ、泣くんじゃったらここじゃイカンぞ。まぁキャプテンがおらんからいいが」 「ごめんなさい。鉄郎さんの言葉を聞いたら、なんだかお兄ちゃんの事思い出しちゃって」 一同、黙って頷いた。メタブラディでも多くの者達が死に、そしてリヴァイアサンでも数人が命を落とした。残ったのは鉄郎を入れて20数名だった。 一方医務室では死んだプロメノイド兵士の生態スキャン情報をモニターに映し出し、その情報をトチローとドクターが確認していた。 「驚いたな、俺達人間と全く同じような生体組織形成をしている。全く同じようで全く異なる・・・か。高純度シリコンの細胞ねぇ。」 「顕微鏡で確認したが、こりゃわしらのと違って細胞分裂はせんな。無論、死んだりもせん。病気にもかからん。生体が命ある限り生き続ける細胞じゃ。」 「血液の変わりに水が体液となって全身を巡ってる。すべて脳のエネルギー貯蔵庫みたいな部分を中心になってるわけだ。へぇ〜良くできたこと。身軽な上にメタノイド並の力か・・・」 「じゃが、驚いたことにこやつらは生殖機能がない」 生殖機能がない・・・つまり子孫繁栄はしないという事。これにはさすがのドクターも閉口してしまった。 「ただの働き蜂・・・たしかアルバはそう言ってたな」 箇々の生命をはぐくむことなく、プログラミングされた通りの生き方しか出来ない、これではアンドロイドと変わらない。プロメノイドとはなんと哀れな生き物なのかと大きなため息がトチローから漏れた。 「・・・ドクター、やっぱりモノだのセスキだのっていうプロメタリアの上層の奴らを調べないとらちが開かんよ」 ドクターは大きく頷いた。その後、ドクターとトチローはひっそりと死んでいったプロメタリア兵を宇宙葬にし、冥福を祈った。 「鉄郎。もう具合はいいの?」 「あぁ、もうすっかり。この通りぴんぴんさ」 艦長室の前で立ちつくしている鉄郎にアグリモニーが声をかけた。彼女の手にはワインとグラスの乗った銀のプレート。鉄郎はジャンプして元気な所を見せると彼女は微笑んで艦長室の扉を開けた。奥のテーブルで航海図を見つめているハーロックの姿が鉄郎に目に入った。アグリモニーは鉄郎を先に部屋へ入れると扉を閉めてハーロックのテーブルにワインをのせた。鉄郎は、トチローの祖母がかつてタイタンで鉄郎に手渡した、トチローと同じ無数の弾痕がついた帽子を脱いでハーロックに近づいた。 「顔色が随分良くなって安心した。何かあったらメーテルに恨まれるからな」 「助けていただいて、ありがとうございました」 鉄郎の目の前のハーロックは彼がかつて何度も危機から助けて貰ったハーロック二世とうり二つ。たとえそれから何年経っていようと、ハーロックの威厳とその姿を持つ目の前の『ハーロック三世』に同じ姿をとうじ得ずに入られない。広もそうだったが、エメラルダスの手記から、少年時代の鉄郎の姿しか見たことがなかったハーロックは何とも言えない不思議な感覚にとらわれ、困惑顔でワインに口を付けた。 「ハーロックはね、すっかり大人になってしまった貴方がそんなことを言うものだから困惑しているわ。広もそうだけど、彼はあなた方の知っているハーロックじゃないのよ」 「同じだよ、アグリモニー。俺や広にとってキャプテン・ハーロックやトチローさんは永遠だからね。俺には分かる。目の前の人物が尊敬に値する人だって事くらい。それは未来であるかも知れないけど」 アグリモニーは感心した顔で鉄郎を見つめた。メーテルと時の環を旅してきた彼らしい答えだ。仮に彼が未来のハーロックに出会うとしたら、それは、かつて少年時代の鉄郎が尊敬しあこがれた「キャプテン・ハーロック」の姿であるに違いない。鉄郎はそれをもふまえて、今、目の前にいるハーロックを尊敬に値する男だと言ったのだ。 「俺こそ、機械化人に立ち向かった星野鉄郎という人物を尊敬している。君無くしては地球の再生は無かった事を断言できる」 「それでも、地球ではまた戦争が繰り返され、異星人の手に落ちました。それを救ったのはやはり貴方のお父様です。俺はメーテル無くしては存在し得なかった。挙げ句の果てにコスモドラグーンをプロメノイドに奪われるなんて。宇宙戦士の風上にもいられない」 アグリモニーはワインを鉄郎に勧めた。 「盗られた物は奪い返せばいいだけのこと。そうでしょ?」 「死にそうな目に遭いながら、苦しい思いをしながら黙って耐えた。決してコスモドラグーンの事を口にすることなく。それをなしえてなお自分を卑下するのか?俺の親父はそんな風に戦士の生き方をお前に教えたのか?」 「そんなことは。決して!・・・あ、おっとっと」 鉄郎が激しく首を振ると手に持ったグラスのワインがこぼれそうになって慌てて手で蓋をした。ハーロックはにっこり笑うとグラスを一気に空にする。鉄郎の大きな瞳は広のそれと似て、年を重ねても少年の輝きを失っていない。アグリモニーは照れくさそうにしている鉄郎の姿を見て小さな笑い声を挙げた。 「お〜、酒が飲めるって事は随分元気になったって事かぁ〜?よかったよかった」 「それじゃ、歓迎の飲み会でもしようぜ!」 トチローと広が入ってきたところでアグリモニーは静かにその場を去っていった。男同士の話し合いに決して女は立ち会わない。彼女なりの礼儀。 「コスモドラグーンを奪っていったのはハルヴァルドーじゃなくて女騎士だった?それは初耳だな」 「アルバの話じゃ女はエネルギー体のラミアと守護乙女とかいう連中ですよね?」 「あいつだってプロメタリウムにいたのはわずかだ。全てを知り尽くしているわけじゃない。」 鉄郎はコスモドラグーンを奪われた事についてハーロック達に話していた。鉄郎は広の言ったラミアの事は知らないが、彼らの話を聞く限り、コスモドラグーンを持っていった女とは別のモノであることはすぐに分かった。 「まるで昔宇宙を席巻したワルキューレの女騎士のような格好で・・・でもまったく、そんな威厳のある感じではありませんね。俺が数人のプロメノイドを倒したのを見て、羽交い締めにされた俺から、目をむいて銃を奪い取ったんです。何者なのかは分かりませんが、とにかく位の高い人のようでした。誰もが萎縮して、彼女の目を見ようとしない・・・・そんな感じで」 「ハルヴァルドーに女騎士。・・・まだまだ知らねばならない事が山積みだな、ハーロック」 「ああ。相手のことを良く知らなければ闘い方が判らない。この間はたまたま勝てただけだ。それなりにこちらの情報は向こうに行っているはず。手強くなるな」 トチローはドクターと調べたプロメノイド兵の事を話した。やはり、モノやセスキといった上位階級を調べなくてはらちが開かない。ハーロックはプロメノイドの事をアルバ以上に知っていたはずのヴェルセルークがこの世にいないことを悔やんだ。 ハーロックはゆっくりホルスターから自らのコスモドラグーンを抜いてテーブルに置くと、トチローと広がそれに続いた。黒く鈍い光を放つ三丁の銃を鉄郎は悲しげな目で見つめている。 「本当なら・・・ここに俺のコスモドラグーンが並ぶはずなのに・・・」 「鉄郎のシリアルナンバーは・・・2?」 「ああ、そうだよ。2番だ」 テーブルに並べられたコスモドラグーンはハーロックの3、トチローの4、広の0。残るは鉄郎の2とメーテルの1だ。 「メーテルは大丈夫でしょうか・・・?きっと何の連絡もなく999が行方不明になって心配しているんだろうな」 「メタブラディの妨害電波が消えてしばらくしてから次元通信機が鉄郎と999に宛てたメーテルの通信を傍受したよ。随分前の通信があの辺りを彷徨ってたらしい。劣化が酷くて完全な状態じゃなかったけど・・・」 鉄郎は拳を握りしめてメーテルの呼びかけに答えられなかった事を悔やんでいるようだった。 「大丈夫さ鉄郎。俺が解析してみたが、その通信が見つかったおかげでラーメタルの現在位置が特定できそうだ。あの星は時々しか銀河に現れない次元航海惑星だからな・・・向こうから位置を教えてくれないと航行しようがないから。あいにく999のコンピューターも修理中で、ラーメタルの正確な位置がこちらから割り出せないが。ま、メーテルならきっと元気さ」 「999の修理が終わったら、すぐに発ちます。一刻も早く・・・会いたい。会って謝らなくちゃ・・・」 トチローはにっこり笑って鉄郎の背中をポンポンと叩いた。 「その昔、ラーメタルでおふくろが俺をメーテルに託したばっかりに、メーテルがお前と一緒に地球へ行くことを出来なくしちまったそうだな・・・。なんて言っていいか・・・その・・・」 「良いんですトチローさん。それでも俺は信じてました。いつか必ず彼女に会えるって。やっとその時が来たんです」 いつ何時も彼は前向き。くじけず、たゆまず、揺るがず、流されず。 「我々もラーメタルに向かうが、そこまで言うなら鉄郎はあの車掌と999に戻るといい。お前の船は999。そうだったな?」 ハーロックの問いに鉄郎は頷いた。 「ただ、お願いがあります。どうか彼らをこの船に乗せてください。俺と一緒に死線をくぐり抜けた仲間です。あなた方のお役に立ちたがっています・・・」 「真に、彼らにその気があるのならばの話だがな」 ハーロックの瞳が一瞬困惑に充ちた。鉄郎が仲間と呼ぶ彼らが艦内の調和を乱す不安は無かった。パスが無ければよほどのことがない限り999に乗車はできない。もし無断乗車が発覚すればそこが銀河であれ星であれ、乗車拒否するルールは変わっていない。鉄郎のため、そして自由の為に生き抜いてきた者達の為に、最良の選択をしなくてはならないとハーロックは思った。 「タキオン粒子放射完了・・・銀河軌道へのライン確保しました」 リヴァイアサンから呼びかけるラ・フロリーナの声が海賊島のドッグに響き渡った。ドッグに停車中の999の機関車内にエネルギーが充填され、各機動装置のスイッチが入る。ハーロック、そしてメタブラディで生き残った者達はリヴァイアサンの艦橋から海賊島を眺めていた。 「鉄郎。ラーメタルまでは別軌道。すでに999は鉄道管理局の手を放れてしまっている。この先999を守るのは貴方だけ。これを持っていきなさい。トチローからよ」 一人、海賊島に鉄郎の見送りに現れたアグリモニーがトチローのコスモドラグーンを鉄郎に手渡した。 「しかし・・・これは」 「彼には使う機会は当分無いからって言ってたわ。一人の戦士が、命を懸けて守り抜いたもの。もともとエメラルダスが使ってたものだけど、貴方なら使えるわ。」 「ありがとう。トチローさんにもそう伝えてくれ。」 そう言うと車掌の待つデッキに足をかけ、振り向いた。 「どちらが先に着くか判らないけど、ラーメタルでまた会いましょう」 鉄郎は大きく頷いた。ドアが閉まり、汽笛が鳴る。発車と共に小さく手を振るアグリモニーの長い黒髪が大きく揺れた。ゆっくり進行し始めた999は銀河軌道へと車輪を乗せたと同時にその回転をあげた。機関車が挨拶代わりの汽笛を銀河に響かせる。ハーロック達は無言でその汽笛の音を聞き、客車の窓から見つめる鉄郎とその後ろで大きく手を振る車掌の姿を見送った。汽笛の音が遠のき、見えなくなるまで。 |
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