第三章8
悪魔の天国、天使の地獄
最後の楽園、惑星メタブラディ。かつてそこは宇宙を旅する者が必ず立ち寄る次元交差点であり、自由貿易港だった。旅する者達は皆口をそろえて語る。メタブラディは最後の楽園、自由の楽園だと。蒼く美しい海と豊かな緑に包まれた大地と、酸化鉄と溶岩によって不毛となった地で二分された星。宇宙の二大勢力によって分け隔てられた星。宇宙の均衡のために、数多くの種が集まっても、決して手出しをしない事が暗黙のルールとされていた星。しかし、もやはそこは惑星表層60万宇宙キロには妨害電波が張り巡らされ、外界からは完全にシャットアウトされた孤島。そして酸化鉄の浸食が激しく、まるで時が止まったかのように静まりかえっていた。
時折プロメノイド兵や無人偵察機が飛びまわる地帯。酸化鉄の浸食の進んでいない地区には大気圏にまで達しよう巨大な建造物がかろうじて残っている。その付近にそびえる溶岩壁には無数の白骨死体が散乱している。逃げようとして背後から撃たれた者、手足に鎖をつながれた者、逆さ吊りにされた者、板に釘付けにされている者・・・。そして、今日、プロメノイドによってヒューマノイドの処刑が執り行われようとしている。2名の男女が鎖につながれ、処刑台へとくくりつけられ、その前にプロメノイド兵が銃を構えて立っている。その向こうに、数名の兵士に取り押さえられている男がいた。痩せ細り、歩くのもままならないほどに体中に傷を負った男は、それでも怒りに充ちた瞳でプロメノイド兵をにらみつけ、持てる力で抵抗を試みている。
「やめろ!何度言ったら分かるんだ!見せしめに何人殺したところで・・・何も変わらないんだぞ!」
「だまれ!」
男はプロメノイド兵が持つ銃の台じりを腹に食らい、胃液を吐いた。
「相変わらず・・・強情なヤツだな。さすがはハルヴァルドー様がお目をつけただけある。」
「トリクスター司令。処刑準備が整いました」
司令と呼ばれた男は先ほど胃液を吐いて地に伏したヒューマノイドをちらと見た。
「何も変わらないと言ったな・・・。お前のせいで何人死んだ?何も変わらないのならばまだ処刑は続くが・・・果たして、いつまで変われずにいられるかな?」
男はトリクスターに憎悪の目を向けた。
「まだ地下牢にはヒューマノイドとメタノイドがいる。・・・恨まれるだろうな・・・貴様が口を割らないために、失わずにすむ命を投げ出さねばならんのだからな。あと何人ほど残っているか」
「は、司令。生きておる者はあと4、50名程です。」
「身体の三分の二ほど皮を剥いだメタノイドの大半は外気に触れれば即死する事が確認でたという。さて、ヒューマノイドはどうなるかな・・・」
男は大地の砂を掴み、苦渋のうめき声を上げていた。メタブラディがプロメタリアに占拠されてしばらく経つが、その間逃げ出した者はもちろん、数々の人体実験の為に次々とヒューマノイドが惨殺されてきている。そして、メタブラディに取り残されたメタノイドさえも、その実験材料とされていた。
「元々メタノイドだったお前達の方が、メタノイドの事は俺達ヒューマノイドよりよく知っているだろうが!貴様らそれでも心を持った生命体なのか!」
「人体の神秘に興味を持つのはどの生命体も同じ事だろう。・・・我々の全てがメタノイドの生態を知っている訳ではなし。ふふふ、このさい良い勉強材料とさせて貰っている」
トリクスターは男女二人のヒューマノイドの前に立つ兵士に「やれ」の目配せをした。男女の服が剥がされ、鋭利な刃物が脚に突き立てられた。
「やめろ!止めてくれ!!。止めるんだ!やめろー!」
男は前に飛び出そうとするが首に縄をつけられた犬のように、首枷から伸びた鎖を引っ張られて前に出ることが出来ない。ただ、止めろと叫ぶのが精一杯だ。そして、ヒューマノイドの男女は叫んだ。
「鉄郎!私たちはコレでいいの。あなたの為に死ねるなら私たちは本望よ!」
「そうだ!俺達は滅びるんじゃない!死ぬだけだ!」
二人の皮が足下から剥がされ、肉が露わになり、血が噴き出した。
「て、鉄郎・・・俺達の・・・英雄・・・」
「戦士の銃を持つ人・・・私たちの夢・・・!」
男女は気を失った。放っておけばあと数分で出血多量で死ぬだろう。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
悲鳴ともつかない叫び声を上げて、鉄郎と呼ばれた男は失神してしまった。
星野鉄郎。かつて機械化母星を破壊し、血の通った人間達の世界を守った英雄。彼は今、それとはほど遠い姿でココにいた。

「ヒューマノイド・・・もろい生き物だな。皮を剥ぐなり死ぬとは。」
「司令。吐かせるなら、直接あの者の皮を剥ぐなりすれば良いのに、ハルヴァルドー様は許可を下さらないとは」
「そんなことで吐くようなヤツならとっくにやっている。しかもヒューマノイドを必要以上に殺すなというのがハルヴァルドー様の考えだ、そのため自白薬や麻薬も致死量以下にとどめられておる。我々は言われたとおりのことをすればいい。」
「しかし、こヤツは我々に銃を向け、同志を殺した重罪人です」
「ああ。だが、コスモドラグーンという銃の事を聞き出すまでは何もできないのだ。もっとも、そろそろ神経が参ってきているようだしな。あと少し・・・といったところではないか。ふっふっふ」
トリクスターは基地へ向かうリムジン風の車内で部下と言葉を交わしていた。基地の上空には戦艦が彼の帰艦を待っている。
メタブラディの巨大ホテル。今はプロメノイドの基地となっているその地下下水道に、捕虜となったヒューマノイドとメタノイドが収容されている。やせこけて疲れ果てたような者達が片隅に身を寄せ合ってお互いを暖めあい、励まし合っている。そこに気を失った鉄郎が運び込まれた。
「鉄郎!鉄郎!」
数人の男達が這いながら気を失った鉄郎に近づいた。
「鉄郎さん!しっかり!」
鉄郎はゆっくり目を覚ました。彼の顔を心配そうにのぞき込む人間達の中にはメタノイドもいる。
「みんな・・・・。俺はもうダメかも知れない。・・・これ以上・・・奴らの非道にはもう耐えられない」
「弱気なことを言わないでくれよ。あんたが口をわっちまったら、どうせ俺達皆殺しだ。最後まで戦うって言ったじゃないか」
「そうだ。俺達は信じてるんだぜ。いつか、酸化鉄に飲まれちまったあんたの999が息を吹き返すって。な、そうだろ!鉄郎!」
鉄郎は涙を流しそうになるのをこらえながら、吐き出すように呟いた。
「俺が、俺が機械化人と戦っていたとき・・・俺は一人じゃなかった。あの時、大きな助けと大きな犠牲があったから俺は勝てたんだ。でも・・・今は・・・。ちくしょう!いつまでこんな世界が続くんだ!」
鉄郎の脳裏をアルカディア号とキャプテン・ハーロック、クイーンエメラルダスとエメラルダス、大山トチロー、大山トチローの母・大山摂子、アンタレス、ミャウダー、クレア、メタルメナ、車掌、そして父ファウスト・・・・そしてメーテルの姿が埋め尽くす。あれからもう、ずいぶんと長い時が経ったのだと、鉄郎の身体が物語る。彼はもう少年ではない。
「僕たちがいるじゃないですか。僕たちはキャプテン・ハーロックやクイーン・エメラルダスにはとうてい及ばないけど、それでも貴方の力になりたい。一緒に戦いましょう。最後まで」
中年にさしかかった鉄郎に声をかけた少年がいた。メタノイドだったが、かつての鉄郎ほどの歳の少年だった。別のメタノイドが鉄郎の手を取った。その手は皮を剥がされ、金属ワイヤーの束である筋肉が露わだ。
「僕はメタノイドだけど、気持ちははるかにあなた方ヒューマノイドに近い。我々メタノイドも最後まで戦うつもりです。」
「そうだ。俺達は成り上がりのプロメノイドの奴らなんかよりずっとずっと根性がある。奴らを打ちのめす底力がある!」
鉄郎は感動で心を振るわせた。その感動からみなぎる力がエネルギーとなって屈しそうになった鉄郎の気持ちは涙でいっぱいだった。そして彼らは歌った。鉄郎が少年だった頃に耳にした、「自由戦士の歌」を。それは地下水道中に響き渡る。互いに肩を組み、こみ上げる涙を飲みながら、歌い続けた。

トリクスターは彼の司令艦である戦闘空母に戻り、惑星メタブラディの大気圏へと突入し始めていた。
「司令。プロメタリア艦隊より支援艦隊が多数到着しております。」
「うむ。詳細は?」
「は、巡洋艦30隻、駆逐艦80隻、ミサイル艦30隻、小型空母にこちらの増強支援のためかなりの爆撃機を積んでおります。巡洋艦はすでにメタブラディを離れ、表層20万宇宙キロ地点を中心に待機、司令のご指示を待っております。」
プロメタリウムに報告されたリヴァイアサンとキャプテン・ハーロックに関する噂から、必ずメタブラディに来ると践んだハルヴァルドーからの増強支援隊だった。しかし、彼らはリヴァイアサンの規模は知らない。
「こちらの船隊と合わせて300弱か。たかだか一隻の船にすこし大げさではないか?」
「しかしながら・・・過去の地球人のデーターベースから算出するに、この程度は必要かと思われます。キャプテン・ハーロックのアルカディア号しかり、クイーン・エメラルダスしかり・・・キャプテン・ハーロックの先代に当たるデスシャドウ、はるか昔では地球の危機を救ったという伝説の戦艦ヤマト・・・その他数々の
地球型戦艦がたった一隻で大艦隊を破ったという記録が・・・」
「クイーン・エメラルダス号は地球型ではなかろうが。愚か者目が!・・・まぁいい。それらの大艦隊の戦力など古すぎて我々の戦力の参考にもならぬわ」
トリクスターの一喝に部下は深々と頭を下げていた。モノ・プロメノイドの中でもまだデーターベースの不完全な者がいるらしい。
「下水道の連中を一つ所に集めておけ。人質にすればこちらに有利だろう。ふっふっふ」
「かしこまりました」

メタブラディ巨大ホテルの地下深くにある牢獄。下水管は強固な壁と柵で仕切られ、迷路のようになった下水道から外に出る道は、兵士が警護する網状の巨大シャッターのみ。そして捕虜となった彼らは当然武器は無く、いままでもここから逃げようとした者達は、その巨大シャッターの前に蜂の巣にされて死んでいった。しかし、今、ココに残っている彼らは、メタブラディに取り残された者達の中でも、真に根性の座った者達ばかりだった。
「メーテルは待ってる。俺がラーメタルに行くのを待ってるはずだ・・・こんなところでくたばってたまるか!」
鉄郎の咆哮は地下水道一面に響き渡った。メーテルの通信を受けて銀河鉄道でラーメタルに向かうさなか、メタブラディの妨害電波と戦艦からの攻撃によって撃墜された999は酸化鉄の中にうまり、その機能を失っていた。銀河鉄道軌道は寸断され、仮に999が息を吹き返したとしても、どうやって銀河軌道に乗るのか、酸化鉄の中で999がその後どうなったのかは誰も知らない。
「自由戦士の歌」が地下水道に響き渡るのと同じ頃、いつものようにホセの歌声はリヴァイアサンの中で響いていた。
 “閉ざされた部屋の片隅で・・・我が子よ・・・お前が泣いている。お前が苦しんでいる。・・・・私の生きている限りの自由よ無くなれ・・・お前の心に答えられないのならば・・・。私には見える。我が子よ・・・お前が泣いているのが。お前が苦しんでいるのが。・・・私の生きている限りの自由よ無くなれ・・・お前の望みに答えられないのなら・・・”
copyright©2002 dokuro-an Ryu-tan All rights reserved