第三章7
プロメノイドの生態
宇宙を航海するリヴァイアサンにも一日という物はある。朝、昼、夜。人間の生態リズムに合わせてだいたいの規則が決められていた。それは就寝時間と起床時間、食事。しかしながら、やるべき事をやっていれば自由にしていて構わないこの船のモットー。艦長室で、就寝時間を過ぎてもテーブルに酒をならべて話こんでいる男達がいる。ハーロック、トチロー、広。艦橋を司る三人はプロメノイドの生態を知るためにアルバを呼び出していた。
「まぁ飲め。リヴァイアサンに乗る以上は酒ぐらい飲めんとな」
酒に弱いトチローがアルバに酒をすすめた。艦長室に設けられたテーブルの席に着いたアルバが目をやると、テーブル上にはアンドロメダ・レッド・バーボン、火星ウォッカに並んで大吟醸「大銀河」、吟醸酒「悪酔」、本醸造「美少年」が並ぶ。進められたら後に退くわけには行かず、進められるがまま飲んだ。
「で、プロメノイドの生態についてなんだが、分かることで良い。何か話してくれないか」
「はい。プロメノイドはそもそもメタノイドが自らの強化の為に開発したエネルギー生命体です。それがいつしか一人歩きして今に至ります。生態の基本は高純度シリコンの細胞・・・」
広が驚きの声をあげた。
「高純度シリコンの細胞?それは人間のと同じような細胞なのか?」
「ほとんど。でも人間の様に、死滅・増殖をしない代わりにプログラミングを変化させていくんです。必要な情報は上位に置き、不必要になれば下位に、全く必要なければ削除することも可能です」
「歩くコンピューターだなそりゃ」
「メタノイドとの違いは部品交換や血液供給の心臓を必要としない、軽量でかつ柔らかいという利点を持っています。メタノイドと言うよりは、よりヒューマノイドに近いですよ。でも、人間の脳に当たる部分はその身体の全てと言っていいでしょう。致命的な打撃を与えることは、神経、つまりエネルギーリンクの中枢である頭を吹き飛ばす事だと思います・・・もっともこれは僕の憶測ですけど」
頭を粉々に吹き飛ばす・・・それはかつての機械化人と同じだった。
「階級に分かれていると聞いたが」
「ジ・プロメノイド・ラミアがプロメタリアの支配者であり、言うなれば無限のメモリーを持ったエネルギー生命体です。人間の形体を成していません。プロメノイドの女王蜂です。」
女王蜂、この言葉は彼らを納得させるに充分の言葉だった。この後、アルバはセスキ、モノと分かれたプロメノイドの階級について説明をし、階級が上になればなるほど細胞数も種類も異なることを話した。
「セスキ・プロメノイドは女王ラミアを取り巻く女数名とハルヴァルドーと名乗る男一人です。ハルヴァルドーが実際の実行権を握っています。いつか、プロメノイドをもっと量産できるシステムを開発しようと、そのためにあらゆる実験を試みていました。メタノイドのプロメノイド化はそれを飛躍的に増進させました」
「惑星ヘレスでシームレス機を操っていた女・・・あれはプロメノイドだったな」
「はい、セスキ・プロメノイド・カルナ・・・。ハルヴァルドーによってヒューマノイドに近いプログラミングにされていました。それもハルヴァルドーの実験の一つです。・・・・ヴェルセルーク様はよくカルナと床を共にされました。それがカルナのプログラミングを狂わせたのだと・・・。それすらもハルヴァルドーの意とした所だったかどうかは分かりませんが」
「はぁ〜、プロメノイドもナニはするのか」
トチローはすこし酔っぱらってきている。
「どうだか僕には分かりませんよ」
アルバは酒で顔が赤くなっているためそのての話で顔が赤くなってもよく分からない。
「プロメノイドはそもそもメタノイドの変種です。でも上位階級の者達はラミアのエネルギーとハルヴァルドーによって生み出されたもので、メタノイドの変種であるただのプロメノイドとは異なる生命体です。」
「つまり・・・上位階級のプロメノイドはそもそも宇宙に存在した種ではないわけだな。メタノイドの作り上げた変種でもなく・・・かつてヒューマノイドを機械化人にしたようなものでもない、まったく新しい生命体か」
「かもしれません。人の形をしているのは、機動性の為で、中身はただのエネルギー・・・。そして、その繁栄のため、この世の不可思議な、神的存在を恐れ、滅亡をもくろむ。」
「その対象が俺達ヒューマノイドであり、コスモドラグーンであり、ヘルブラディであった・・・」
アルバはすこし眠たそうな目をしながらもしっかりした口振りで広の言葉に補足した。
「ハルヴァルドーは生命力にあふれ、増殖を繰り返すヒューマノイドを研究し、さらにプロメノイドを新しい強固な生命体に作り上げる事・・・それを究極の目的にしています。コスモドラグーンはハルヴァルドーが絡んでいるとは思えないのですが・・・それでも、誰かがあの銃の力を求めているのは確か。それによってこの世を支配する。・・・そう思っているんじゃないでしょうか?」
そろそろろれつが回らなくなってきたが、それでもアルバは話し続ける。
「ラミアは元々メタノイドが持っている情報全てをインプットされたエネルギー体です。宇宙での数々の戦いのなかで最も恐れなくてはいけない存在を破壊する。独裁者の考えそうなコトですね。」
「で、ラミアがそのハルヴァルドーっていうヤツに指示をだした・・・?」
「ハルヴァルドーはヘルブラディを、破壊するのではなく、手中に収め、利用する事を考えているんです。そうすることで強力な軍事力を手にしたいと考えているのではないかとヴェルセルーク様が言ってました」
「強力な軍事力・・・全ての者を脅かすことのできる力・・・。それを手に納めるのはたしかに独裁者の理想と言う物だがな」
ハーロックはあくまで冷静に呟いた。
「ハルヴァルドーっていうヤツはいったいなんつーヤツなんだ?そいつだってセスキ・プロメノイドなんだろ?だれが作ったんだ?」
「分かりません。・・・・。実際、遠くにいるのを見たことしかありませんでしたから。会って話をしたのはヴェルセルーク様です。」
「ふ〜ん」
トチローの気のない返事でいったん会話が終わったようだった。トイレに立とうとしたアルバが立ち上がった瞬間大きな音を立ててその場に倒れてしまった。
「トチローさん、飲ませすぎですよ。」
「お前だって飲ませてただろうが・・・。ったくショーがないなぁ。俺より弱いやつかよ」
「まぁ、ある程度の情報は入手できた。寝かせてやろう」
まったく酔っていないハーロックがアルバを抱きかかえて自室のベッドにアルバを横たわらせた。完全に眠ってしまっているように見えたアルバ・・・彼の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。ヴェルセルークの事を思い出している・・・ハーロックはそう感じた。流れた涙を指でふきとりながら毛布を掛けた。
ハーロックがトチロー、広の待つ艦長室に戻ったとき、そこにはアグリモニーがストレッチャーをもって現れた。ハーロックが驚いたような顔をしたためトチローが説明した。
「俺が呼んだんだよ」
「就寝時間はとっくにすぎたのに、よく飲むこと。だめじゃない無理やり飲ませちゃ」
「無理に飲ませた訳じゃありませんよ・・・」
アグリモニーはあきれ顔でストレッチャーを押しながらハーロックの部屋に行こうとした。
「べつに俺の部屋で寝かせても構わん」
「そうもいかないわ。ここに置いておいたら何をされるか心配だもの」
ハーロックはアグリモニーの顔をきっと睨んだ。
「久しぶりに会ったのにずいぶんな挨拶だな。」
「そう?会おうと思えば毎日だって会える状況だものね。わざと避けていたのよ。いけない?」
冗談っぽく微笑みながら悠然とハーロックの自室に入り、アルバをストレッチャーに乗せようとしているアグリモニーの後を追おうとしたハーロックをトチローが低い声を出して止めた。
「おい、ハーロック」
アグリモニーがストレッチャーにアルバを乗せて戻ってくると、トチローが立ち上がった。
「俺、そろそろ寝るよ。広、おまえはココでハーロックの相手をしてるといい。俺はもうこれ以上飲めんからな」
「はいよ」
広もほろ酔いだったが、トチローの方が千鳥足になっている。よろよろとアグリモニーの後を追うように艦長室を出ていった。
「キャプテン・・・アグリモニーさんと仲が悪いんですか?なんか俺とかに話すときはまるで母親のように話すのに、キャプテンには随分キツイこといいますよね」
「あいつと俺とはお前の考えているような間柄じゃない。ただの腐れ縁だ。気にしないでくれ。ドクターのアシスタントとしても、戦闘面に関しても必要な人材だからな・・・へたにもめ事を起こして船を下ろすのだけは避けたい」
広はアグリモニーとハーロックの関係は全く知らない。彼が知っているのはただの酒場の店主だったというだけのことだった。

「もう、具合はいいのか?」
「ええ、おかげさまで。ありがとうトチロー」
トチローは広が思ったほど酔っぱらっていなかったようだ。
「礼を言われるようなことは何もしていないだろ〜が。」
アグリモニーは以前の医務室での様に優しい笑顔でトチローを見ていた。
「背中をさすってくれた。約束を守ってくれてる。それだけでも充分お礼に匹敵すると思うけど。違う?」
「そうだな」
ハーロックにもまして律儀なヤツだとトチローは感心した。トチローは思う。素の彼女はきっと良いヤツで、男だったら良い友人になれたかも知れない。いや、この際男女の違いなど感じる必要性などなくてもいいだろう。アグリモニーは少なくともトチローの前では素でいるように思えた。
医務室の前に差しかかったとき、彼女は脚を止め、トチローに話しかけた。
「メーテルはラーメタルであなた達が来るのを待っていると思うわ。彼女のコスモドラグーンを持ってね。銀河鉄道999が行方不明になってしまって彼女は苦しんでいるんじゃないかしら。・・・・元気でいてくれるといいけど」
「メーテルもこの状況を知っているのか?」
「プロメノイドがこうなることを一番最初に危惧したのは彼女だった。・・・でももう時間はあの人達を待ってはくれなかったわ。メーテルはまだ、永遠の時の環を旅しているけれどね」
あの人達というのはハーロックの父である、ハーロック2世とトチローの母、クイーン・エメラルダスを指している。
「それじゃぁね。また・・・」
アグリモニーは医務室へと去っていった。



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