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第三章4
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| 女、アグリモニー アルバはドクターの治療を終え、ベッドで深い眠りについている。栄養失調をおこしていたが、ケンカの怪我は大したこと無かったようだ。アグリモニーはドクターが帰った後の片づけを終えようとしていた。血まみれの軍服は切り刻んでもう切れる状態ではないため、階級章だけ取り外して暖炉の中に放り込んだ。そして、アルバの髪を優しく撫で、そして掛け布団をかけ直した。 「どうだ、様態は?」 「一晩寝ればだいぶ回復するようよ。可哀想に、ほとんど食事をしていなかったみたい。」 「そうか・・・。命が助かっただけよかった。見殺しにしてはヴェルセルークも嘆くだろう」 アグリモニーは入り口に寄りかかってアルバを見ていたハーロックに汚れて変色しているアルバの階級章を渡し、隣の部屋に行くよう促した。彼女もアルバの寝ている部屋の明かりを消し、扉をしめて、隣の部屋に行った。 「彼が目を覚まして、貴方を見たら・・・取り乱すかしら?」 「さぁな」 ハーロックは惑星ヘレスでの事をアグリモニーに話していた。彼がココを訪れるのは3回目。最初は地球から旅だってしばらく経ったころ、まだ少年の頃に、ジャンク部品の山で船の部品を漁っているときに無法者に絡まれ、無理をして手足の神経が動かなくなった時、2度目はヴェルセルークとの決闘での事、道ばたで顔中血だらけになって倒れていた時。どれもアグリモニーが彼を介抱し、ドクターシン雨森が治療をした。 「あなた、自分で縫うっていってきかないから、頬の傷、随分痕が残ったのね。」 「あの時は時間がなかった。のんびり治療を受けている気にはなれなかったからな。それに、誰にも会いたくなかった。」 「だから・・・だまって出ていったの」 アグリモニーは意地悪げにそういうとゾバーク・ウォッカのプロミネンスを注いだショットグラスをソファに座るハーロックに渡した。コン!と低い音を立てて二人のグラスが音を立てる。ゾバーク・ウォッカのプロミネンスは宇宙でもトップレベルのアルコール度を誇り、ワンショットで身体に火がつくとも言われる赤色の強烈で刺激的な甘い酒。お互いに目を合わせてから一気に飲み干し、そしてアグリモニーは熱い息を吐くとハーロックの隣に座った。脚を組むと刺青の入った太腿が露わになる。彼女ははじめてハーロックと会ってから随分経つが、彼が思うにやつれこそすれ、それほど歳はとっていない。彼女の身体はハーロック同様、他の種の血が混ざり、歳の取りかたは地球人のそれとは全く異なっているのだ。 「アルバ・・・といったな、あの少年。」 「少年なんだか・・・よく分からないわ。あの階級章。バルザック軍の物だけど、位は高そう。でも顔はまだまだ子供っぽいわね。・・・まるで貴方がはじめてここに来たときみたい」 ハーロックは言葉に詰まってグラスを見つめていた。手足の神経がやられて身動きがとれない時に彼女の世話になった。ハーロックにとって一生の汚点となる過去。ドクターの腕のおかげでしばらくして元通りになったが、それまでの間、彼女はハーロックの世話をし続けていた。 「あまり、思い出したくない・・・出来れば抹消したいくらいの過去だな。これだから人間は辛い。」 「・・・・そうね。見ず知らずの女に隅々まで見られちゃね、フフフッ」 大宇宙を震撼させようという大海賊が、女に下の世話までしてもらったとあってはさすがに立つ瀬がない。だが、アグリモニーはそんなことを言い触れるような女ではないことをハーロックは知っている。そうでなければ死にかけた男を2度に渡って必死に看病するような女ではない筈だ。 「女性不信になった?私の事が嫌いになった?だから前に来たときはすぐに去っていってしまったのかと思ったのよ。」 「命を助けて貰ったヤツを嫌いになるわけがない。・・・確かに女には不信感を抱くがな」 アグリモニーはグラスにウォッカをつぎ足しながら、すこし寂しげな顔でハーロックを見ていた。 「あなたに・・・悪いことを教えてしまった?」 男なら一度は経験する事だとハーロックは軽く笑った。ただ、それがきっかけで強引な女の抱き方しか出来なくなってしまったことは否めない。ハーロックはグローブを脱いで髪を掻き上げながら、深いため息をついた。その仕草をじっと見ていたアグリモニーが恐る恐る伸ばした手をハーロックは避けることもなく、だまってそれを促す。彼女は彼の眼帯と頬の傷を震える手で撫でると、そのまま胸元へと滑らしていた。 「立派になったのね。私はあの時とそれほど変わっていないけど、貴方は随分変わってしまった・・・。鋼のような強い意志を持った瞳、誰をも近づかせないような威圧感、男の風格・・・」 「恐いか?」 「恐い・・・?私があなたを恐れる理由なんて無いわ。でも・・・・そうね、もう、私なんか近づくことの出来ない程、貴方は立派になってしまったのに、よけいに私を惹きつける。それがが恐いかしら」 アグリモニーは顔を近づけ、ハーロックの顔を間近で見つめていた。ゆっくり唇を重ねようとしたが、ハーロックは横を向いてそれを拒んだ。拒んでいたが、彼女の腰を掴んで抱き寄せた。勢いで彼女のショットグラスが床に落ちる。 「接吻はしない・・・それは昔から変わっていない」 「・・・そうよね。ちゃんと覚えているわよ」 アグリモニーが寂しげにハーロックの肩にもたれかかってため息をつくと、まだ赤みの残る彼女の頬の傷がハーロックの目に入った。 「頬の傷は・・・痛むか?」 「平気よ。大したことないわ」 彼女のその言葉を聞いてハーロックは自分のグラスを空にすると、その頬の傷に舌先を突き立てた。真新しい傷にウォッカが染み込み、その痛みにアグリモニーの顔が苦痛に歪む。ハーロックの耳元でそれを我慢する細い声が漏れ聞こえた。彼に平手打ちをしようとした彼女の腕はハーロックの腕の力には及ばず、彼が太腿の刺青をなぞりながら指を深みに沈めると耐えきれずに叫び声を上げてしまった。誠実な性悪女・・・ハーロックの好みはそういう女だ。 「俺の前で強がりはよせ」 「意地悪な人。こんな事を・・・」 アグリモニーは何年かぶりの旋律をじっくり味わうように体中の力をぬいた。ハーロックの指は彼女の身体が男を欲していることを充分すぎるほど感じ取っている。アグリモニー・・・。ハーロックにとって、今まで抱いてきたどんな者よりフィットする身体。それは彼女にとってもそうなのかもしれない。 ベッドルームで深い眠りについていたアルバが隣の部屋から聞こえた音と声で目を覚ました。まるで悪夢から解放されたかのように、全身汗だくになり、まだだるさの残る身体をなんとか起こしてドアに近づく。木の板に鉄の板を渡してつなぎ止めただけのドアは古くなって木と木と間に隙間が開いていた。アルバは恐る恐るその隙間から向こうを覗いた。全裸の女と男の営みに驚きはしなかったが、ソファの脇にかけられているガンサーベルとコスモドラグーンが目に入ったとたん、体中の毛が逆立つ思いだった。 (キャプテン・ハーロック・・・!なぜここに・・・) アルバはじっと目前の二人を見つめていた。ひっきりなしに聞こえる女の声に、アルバは意志とは関係なくドアの隙間から目をそらすことができなかった。アグリモニーの髪や胸を鷲掴みにしているハーロックの腕、胸元をつたう汗、時々開かれる瞳にアルバは釘付けになり、ドアの板に手をついたまま、身体の震えを止めることができない。アルバがドア越しにこちらを見ているの事に気づいていたハーロックは、見せつけるように激しくアグリモニーを攻め続けた。身体の震えを覚え、久しぶりに、燃え尽きる間際の声が裏返った。それに応えるように、アグリモニーは彼の名を叫びながら、昇天と共に失神していた。後もう少しもっていたら、おおよそ彼女の身体は壊れていたに違いない。そして病み上がりの身で、アルバも気を失ってしまった。 アルバが目を覚ましたとき、彼はもと寝ていたベッドの上だった。ぼやけた焦点が一つになると、その先に彼の顔をのぞき込むアグリモニーの姿が見えてきた。 「どう?具合は?」 「あ・・・あぁ。」 アグリモニーはアルバを抱き起こすと濃紺の真新しいコスチュームを手渡した。 「起きれるようだったらそれに着替えて。悪いとは思ったけど貴方の軍服、びりびりだったから燃やしてしまったの。これはハーロックの船の乗務員があつらえてくれた物よ。」 「キャプテン・ハーロックの?」 「大切にしなさい」 「いろいろ・・・ありがとう」 アルバは起きあがるとラ・フロリーナの作ったシャツとズボンを着た。襟に髑髏の刺繍が入ったコスチューム。鏡の前でその刺繍に触れた。 「ハーロックに感謝するのね。彼が貴方を助けたのよ」 「助けた?この僕を?」 「真の戦士の名を汚すヤツは許さない。そう言ってハーロックを語る者に勇敢に立ち向かった。・・・彼は、そんな男が好きよ。貴方はちゃんとヴェルセルークの意志を継いでいる・・・そう彼は感じたのね。きっと」 あの時、気を失っていたアルバは自分がハーロックに助けられた事など知る由もなかった。アルバはドアの開かれた隣の部屋を見た。扉が開かれてさわやかな風が室内に吹き込む。昨夜、荒れていた部屋も今は整然としていて、そこにはもうハーロックの姿は無かった。しばらく隣の部屋を見ていたアルバにアグリモニーが声を掛けた。 「昨日はうるさくして悪かったわね。まさか貴方が起きていたなんて思わなかったから」 アルバは聞こえないふりをしていた。昨夜の彼女の姿が脳裏をかすめ、ほのかに顔が赤らむのに気づいてアグリモニーに背を向けた。 「キャプテン・・・ハーロックは?」 アルバが背を向けている間にアグリモニーは外出用の服に着替えていた。彼女の外出用の服はさっきまで着ていた裾を引きずるようなドレスとは違い、体の線にぴったりとした戦闘服の様なもの。胸元に小さな髑髏の印。振り返ったアルバはその身変わりの速さはもちろん、まるで印象の違う姿に唖然とした。 「貴方に彼と会う気があるなら、船に連れてくるよう言われているけど。行くなら、連れてってあげるわ」 「君にそんなことが出来るのか?」 アルバは彼女の事は良く知らない。名前すら。以前ヴェルセルークとハーロックが決闘したときに酒場に立ち寄った時が初めてだった。 「ええ。彼とは身体だけの間柄じゃないのよ」 アグリモニーはクローゼットの中からガンベルトをとりだして腰に下げ、マントを纏った。 「君は・・・いったい?」 「そういえばまだ貴方に名前を言っていなかったわね。私はアグリモニー。」 アルバは彼女の名前を初めて聞いて驚いた。アグリモニー。その昔、マゼランを股に掛けた女賞金稼ぎだった。 |
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