第三章2
ダラスの酒場
「キャプテン、間もなく惑星ダラスまで50万宇宙キロの地点です。逆探知レーダーでは・・・多くの戦艦、輸送船、戦闘機や飛行艇の停泊。レーダーではどれもヒューマノイドの所持品と出ています。」
大艦橋に姿を現したハーロックへ、レーダー席で数々のレーダーをチェックしているラ・フロリーナがはなしかけた。
「ダラスに?・・・このまま行けば自由貿易港のメタブラディが近いというのに、変だな。つまらん輩がたむろしてるかもしれん」
「さしずめメタブラディの酸化鉄が浸食しすぎて港がやられたんでダラスへ避難したんじゃぁないのか?・・・どうするよ、ハーロック。降りるのか?」
「ああ、・・・礼を言いたいヤツがいるからな。」
「コレの時のか・・・?」
トチローは指で右目を示したが、ハーロックは軽く首を振っていた。
「それもあるが・・・いろいろだ・・・まだいるか分からんが、腕利きのドクターを知っている。リヴァイアサンに医務室も作りたい。」
そう言うとハーロックはトチローの座る戦闘席の背もたれにポンと手を乗せながら、トチロー目の前にコスモドラグーンを差し出した。
「分解されていた。血だらけだったのを落として組み立てただけだ。あとはお前がやった方がいい」
トチローが受け取ったコスモドラグーンには“4”と刻印されている。エメラルダスが最期を悟ってラ・フロリーナの兄、山賊デラモースに手渡した銃。彼が命がけで守り抜いたコスモドラグーンだった。トチローは涙がにじんでくるのをこらえもせず、ぐっと銃を握りしめた。向こうでラ・フロリーナがこくんと頷いていた。
「命をかけて約束を守り通した者が流した血の中で・・・持ち主が現れるのを・・・ずっと待っていたんじゃ」
「・・・戦士の銃・・・その銃を持つ者は、それを製造した者との約束を果たさなくてはいけない。死してもそれを守り抜き、次の子孫にそれを伝える・・・・それが俺達の役目だ」
トチローもホセも泣いていた。
「兄は立派に使命を果たしました。もう泣かないでください。・・・兄は感謝していると思います。私を、そして生き残った仲間達をリヴァイアサンに迎え入れてくれたこと」
うっすらと目に涙を浮かべたラ・フロリーナは一生懸命笑顔を作ってトチローとハーロックを見ていた。
「よっしゃ。俺、がんばるぞ。動力エネルギーと戦闘エネルギーを分割して管理することを思いついた。そのための道具が必要だ。コスモドラグーンもこれで2丁目だ。残りのコスモドラグーンを見つけだすためにセンサーを作らにゃな。ダラスのスクラップの山でもあさってみるか!」
「微速前進!出力5%。目標、惑星ダラス」
「よーそろー」

そのころダラスではハーロックの睨んだとおり、多くの無法者達がたむろし、酒場が集まる町に出入りしていた。ここ最近急に増えだした客にどの店も賑わう。ヘビーメルダーを発端に流れたキャプテン・ハーロックの噂はダラスの町にも広まりつつある。それを喜ぶ者、恐れる者、悔しがる者と様々だ。町の片隅にある棘の模様が描かれた看板が掲げられた洞窟を掘ったような酒場。外にも中にも酒樽が積み上がり、一際質の悪そうな賞金稼ぎや荒くれ者がたむろす。メタブラディに入れずにしかたなくダラスに入港した人々、特に品のいい一般人は決して足を踏み入れることの出来ない所だ。しかしそこに一人、まるで場違いの青白く美しい顔立ちの青年が入ってきた。疲れ切ったような赴きでカウンターに座り、バーテンに力無く注文をする。痛々しいまでによれよれの軍服は所々破け、汚れたままだ。アルバ・・・、ヴェルセルークの命令で白鯨の墜落から一命を取り留め、銀河を彷徨っていた彼だった。
「久しぶりね」
アルバの隣に座って声をかけるハスキーな声の女。この店の店主アグリモニーだった。頬に真新しい小さな傷があり、鋭い目の向こうに吸い込まれそうな憂いを隠している。豊満な胸の谷間を惜しげもなく出し、腰まであろうドレスのスリットから見事な太腿が顔を出す。アルバは突然見ず知らずの恐い女が声を掛けてきたため一瞬怯えた眼で見たが、太腿に彫られた棘の刺青に気づいて口を開いた。
「や・・・やぁ。覚えててくれたのか・・・」
「アルバって言ったっけ?その変わり果てた様をみる限りでは、ひと騒動あったようね。・・・ご主人様は?」
「・・・・死んだ」
アグリモニーは急に寂しげな顔になり、「そう」と呟いて空になったアルバのグラスに酒を注いだ。アンドロメダ・レッドバーボン。昨今めったに出回ることのなくなった高級バーボンだ。瓶の口には「羽黒」と書かれたプレートが下がっている。
「お飲みなさい。貴方にはキツイかも知れないけど・・・私のおごり」
「これは人のボトルだ」
「そう・・・私の大切な人の。でも今はコレしかないからいいわ。この人もあなたのご主人様のような、強くたくましい意志を持った人・・・いいえ、それ以上かもしれないわ。でもね、さよならも言わずに出ていってそれっきり。私を置いてどこかへ行ってしまった。」
寂しげにうつむきながらボトルの蓋を閉めて、プレートを指でなぞった。
「ふられたの?」
「ふられた?・・・さぁね。別に彼を愛していたわけじゃないし、彼もそんなつもりじゃない。ただ、ちょっと腹が立った・・・それだけよ」
その時奥のテーブルにいた男の一人が大声を出した。どうやらアグリモニーがアルバと話をしていたのが気に入らなかったらしい。
「オイ!若ぇの。キサマ軍人じゃねえのか? この酒場はてめぇみてぇなすかした野郎は入る資格なんかねぇんだ。とっとと失せやがれ!目障りだ!」
アグリモニーはカウンターから身を起こしてその男達の方へ行こうとしたが、バーテンが彼女を止めて店の奥へと連れて行った。つい先日も無法者ともめて素手で立ち向かった彼女は無法者の振りかざしたナイフで頬に傷を負ったばかりだ。そして今騒いでいる者達は、とても彼女が素手で負えない巨漢達ばかりだった。立ち向かうなら、銃が必要だ。だが、店の中で銃を使うのは最後の手段であり、アグリモニーはバーテンに必死に止められた。アルバは立ち上がって彼らの方へ歩み寄った。
「どこで飲もうとこっちの勝手だろう!やる気があるなら表へ出ろ!」
アルバはむしゃくしゃしていたに違いない。アグリモニーの心配をよそに荒くれ者達に怒りをぶちまけた。
「てめぇ、この方の髑髏印が眼にはいらねぇのか!」
テーブルの一番奥に座った男は胸に髑髏がプリントされた黒いコスチュームを着ていた。アルバがダラスの到着した時に見かけた戦艦にも同じマークをつけた物が停泊していた事を考えると恐らく彼らの物だと推測が立つ。キャプテン・ハーロックがこの宙域に姿を見せなくなってから、このような輩がやたらと自分を「ハーロック」だと名乗っては方々で悪事を働いているのをアルバは知っている。
『髑髏の旗印を大宇宙で掲げる者は真の戦士だけに許される。コスモドラグーンを持つ者に無限の敬意を払うのだ!』アルバの前から姿を消したヴェルセルークの最後の言葉を思い出した。
アルバの向かいの男、紛い物のサーベルを腰に差した男はいやらしく笑いながら反っくり返って腕を組んでいた。アルバにはすぐに分かった。紛い物のサーベルと、コスモドラグーンとはとうてい比べ物にならないただのレーザー銃。この男はただのニセモノにすぎない。
「真の戦士の名を汚すやつは・・・僕は許さない!」
そう言い終えるか否か、アルバの身体は荒くれ者達の蹴りでカウンターの方へと飛ばされていた。栄養失調のアルバの身体を数人でリンチを加える。テーブルの奥で高らかに笑い声を上げるニセモノのハーロック。それでもアルバは必死にカウンターに這い上がり、さっきまで飲んでいた酒のグラスをつかみ取り、ニセモノめがけて投げつけた。ひるんだ男達にタックルを食らわせ、馬乗りになって一人をボコボコにしたが、他の奴らがアルバにケリやパンチを食らわせた。グラスを投げつけられたニセモノのハーロックはついに銃を構えてアルバの下へと歩み寄ってきた。両手足を羽交い締めにされたアルバはもう意識を失っている。ガマンしきれなくなったアグリモニーが店の奥からショットガンを持って出てきた。しかし、その時店に入ってきた黒いローブを頭からかぶった男がショットガンの銃身を掴んで制した。フードの闇の中に見覚えのある瞳が輝く。
「口ほどにもねぇヤツだ。軍人のくせに伸びちまうとはな。・・・俺の服を汚しやがって。このまま地獄へ送ってやるぜ」
ニセモノのハーロックの銃は気を失っているアルバの眉間に押し当てられていた。そして引き金を引こうとした瞬間、黒衣の男のローブから緑の閃光が発せられ、ニセモノの持っていた銃は吹き飛び、彼自身も先刻座っていたテーブルの方へと吹き飛ばされた。銃は原子に還った。アルバを抑えていた男達だけでなく、店の客達が一斉に黒いローブ姿の男を見た。しんと静まりかえる店の中、男は床に血まみれになって倒れているアルバに自分のローブをかけ、アグリモニーに目配せをする。アグリモニーとバーテンは走り寄ってアルバを抱えて店の奥へと運んでいった。纏っていた物を脱いでもなお黒いコスチュームに身を包んでいる男は、ゆっくりと立ち上がりながら、厳しい輝きにみちた左目で目前の男達をにらみつけた。
「・・・・キ、キ、キャプテン・ハーロック!!!」
店の客の誰かが悲鳴を上げて椅子から転げ落ちる。一人、ハーロックはリヴァイアサンから酒場に訪れた。
ハーロックはサーベルを抜いてニセモノを語る不届き物の胸に押し当てた。
「ま、ま、待ってくれ。命だけは助けてくれ・・・銃をこわされちゃ俺は丸腰だ・・・こ、このサーベルは飾りモンで動かない・・・本当だ!後生だ、た、助けてくれ!」
「無抵抗の者に銃を向けるような男に、この髑髏の印を付ける資格はない。」
ハーロックのサーベルはニセモノが差し出したサーベルをたたき壊し、胸の髑髏マークを破り取った。胸は傷だらけになり血がにじみ出ていたが、さらにその男の太腿を踏みつけにした。みしみしという音が立ち、次の瞬間、哀れな叫び声が酒場にこだまする。ニセモノの太腿の骨はハーロックによって折られた。
「髑髏の旗印を掲げた船に近づくな。二度と俺の前に姿を現すな。貴様の船にもし同じしるしが有ったときは、迷わず俺の船・・・リヴァイアサンの餌食にしてやるからそう思え。」
荒くれ者達は慌ててニセモノを抱き起こして酒場を後にした。彼らが彼らの船にたどり着いたとき、その上空にそびえる赤黒い巨大戦艦と、その中央に描かれた髑髏の印を目の当たりにして泡を吹いたのは言うまでもない。そして酒場にいた客達も、ついに目の前に現れたハーロックの姿を見て血の気を失って逃げ出していった。
「すまんな。客が減ってしまった」
「いいや、かまわんよ。最近はろくなヤツがココを訪れなかったからな。せいせいした。」
バーテンは「羽黒」のプレートがついたアンドロメダ・レッドバーボンのボトルを差し出した。
「さっきアグリモニーがあの青二才に飲ませちまった・・・悪く思わんでくれ」
「あぁ、あいつの好きなようにさせてくれて構わない。ずいぶん世話になっておきながら、礼も言わずに出ていってしまってすまなかった。」
その時、すでに酒瓶をかかえて出来上がっているオヤジが店の中に入ってきた。
「なぁんじゃ〜、またもめごとか!今度はだれが怪我したっちゅ〜んじゃい」
ハーロックが聞き慣れた声に振り向くと「医者」らしき格好をした男がハーロックに向かって歩み寄ってきた。アグリモニーがアルバの治療のため呼んだのだ。
「やぁ、ドクター。まだこの星にいたのか・・・それはよかった。・・・だが、今回は俺じゃないよ」
「ドクター・シン・雨森。速かったの。怪我人は上のアグリモニーの部屋だよ」
「なんじゃ、羽黒のガキじゃないのか。またどこぞでケンカしたかと思ったぞ。」
「もうガキ呼ばわりはしないでくれ。」
ハーロック頭しか眼にはいらなかったドクターは、改めてメガネを掛けてカウンターに座るハーロックをつま先から頭のてっぺんまでまじまじと見た。
「驚いたなこりゃ。ついこの間までガキだと思っておったら。ったく、やたらとでかくなりおって、すっかり親父さんに似おってからに。」
ドクターはハーロックのたくましい腕をぐっと掴んでにっこり笑った。ハーロックはその手を強く握りし、再会の挨拶を交わした。
「もうこの星を発ったと思っていたが・・・」
「メタブラディが酷い荒れようでな。まぁそれと、おもしろいヤツがワシの所に居候しおって、なんだかんだですっかりダラスに住みついとったよ。もう随分長居をしとるがな」
「おもしろいヤツ?」
「まぁ、いい歳してガキみたいなヤツだ。なんでもメタブラディで飛行艇に一撃を食らってこの星に流れ着いたそうだ。ジャンク部品の山を漁ってはまた飛行艇を作るんだと。ま、そのうちお前さんの前に現れるだろ。・・・じゃ、けが人の治療でもしてくるかいの〜」
ドクターは手をひらひらさせて店の奥へ消えていった。
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