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第三章1
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| 外銀河 時として、銀河を旅する者は安息を求めて彷徨うことがあり、それは己が何者であるかを確認するために彷徨うのだと人は言う。安息を求め、己を見つめる時を噛みしめるのだと。戦い疲れた者達はそれぞれの心の故郷へと向かう。銀河を旅だった者は、銀河系を遠く離れた星へと向かい、そこから本当の自分の故郷を見つめるのだと・・・・。ここに、故郷を離れた者達がいる。故郷を離れ、あるいは捨てて、髑髏の旗の下共に生きる事を誓った者達がいる。宇宙海賊戦艦リヴァイアサンはついに銀河系を離れた。 「オイ、ホセ。外宇宙用のエンジン稼動はどうだ?」 ホセはいつも通り、エンジンルームで稼動具合を確認していた。建造間もないリヴァイアサンの大きなエンジン6機を管理するのはまだまだ時間がかかりそうだった。銀河系を離れるに連れてリヴァイアサンの至る所で妙な振動や故障が多く、トチローをはじめホセもてんやわんやの日々を過ごしていた。 [今のところ順調じゃよ。全く問題ない。・・・一時はどうなるかと思ったがな・・・お前さんも少し休んだ方がよかろう。ここのところろくに寝とらんからな] 「分かった。新入りの教育をよろしく頼むぜ。」 [まかしとけって] 大艦橋のモニターにはエンジンルームが映し出され、そこで作業を進めているホセの姿、その向こうには手慣れない作業に四苦八苦している男達・・・そう煉瓦の星で生き残った山賊達がいた。トチローは一通り彼らの姿を確認するとモニターを切って艦橋から見える、楕円形に光る星々の集まり、銀河系をながめた。白く輝く中心を取り巻く美しい光の波々は、そのまわりに点在する球状星雲や星団を飲み込まんばかりに広がりを見せ、ゆっくりと旋回している。トチローは大きなのびとあくびをした。 「ふぁ〜。・・・しっかし、こうしてみると銀河系は美しいな・・・」 「トチローさんは銀河系の出身なの?」 「ん?さぁな。俺はわからん。銀河系はハーロックだよ。」 トチローの隣で声を掛けたのはラ・フロリーナ、彼女だった。彼女の胸にはミーくんが抱かれ、眠っている。そして、ラ・フロリーナが振り向いた先、ハーロックの座る艦長席の背もたれにトリが留まり、毛繕いをしていた。立ち上がったハーロックはトリの頭を軽く撫でるとトチローが座る戦闘席へと歩み寄る。 「俺もこうして銀河系を眺めるのは初めてだ・・・・。これから何度かこういった風景を眼にすることもあるだろうが、恐らくこれを越える感動をもって見ることはもう無いだろうな。」 「この宇宙にある星雲の数々は皆・・・美しい・・・でも、どこも皆悲しみに満ちている・・・。悲哀・・・憎悪・・・、それがこの大宇宙を美なるものに変えているのかしら」 ラ・フロリーナは呟いた。 「ラ・フロリーナ・・・それは違う。確かに薄命の美はある。儚いゆえの美しさがそこにある。そしてこの宇宙に戦いが絶えないのも事実だが・・・悲しみや憎しみだけでこの宇宙を美しいと言うのならば、いっそのこと・・・醜くても俺は構わない」 「そうさ、俺達の気持ちが美しけりゃ、俺達が見える宇宙は美しい」 「そうよね・・・」 ラ・フロリーナはミーくんの頭をそっと撫でながら微笑んでいた。リヴァイアサンはゆっくり旋回をして銀河系を後にした。ハーロックはリヴァイアサンの旋回に合わせるように大艦橋から離れ、自室へと去っていきながら、そっと首筋にあるまだ赤みの残る傷跡を手で撫でた。 ---煉瓦の星を離れ、銀河系から外宇宙へとさしかかったばかりの頃だった。外宇宙と航行するには内宇宙の様に星が密集している地帯とは違い、それなりの波動変化の中を航行していかなければならない。そのためにトチローは外宇宙用と内宇宙用のエンジン、さらに大気圏用のエンジンを各2機、計6機を建造していた。銀河系の内と外の境はいつしか空間が歪み、所々で大きな重力と磁場を帯びている。それなりのレーダーを完備していればこういった歪みを避けて外宇宙へ出ることは可能だ。ましてやトチローの設計上、リヴァイアサン号が誤って重力場の中を抜けるようなことがあってもたやすいことだ。しかし、様子が変わりはじめていた。 ハーロックは蛇輪を握りしめ重力場に引き込まれるのを調整しているが一向に回復の兆しが内ばかりかどんどん引き込まれている。震動が徐々に大きくなり、装甲板に小さな亀裂が入り出す。 「艦尾の第一装甲板に亀裂が・・・あぁ!推力が落ちています。推力80%減!・・・75%・・・!。どんどん重力磁場に引き込まれています」 「なぁにぃ?メインエンジンは最大出力になってるんだろうな、オイ!ホセ!」 [最大出力じゃ!めいっぱいふかし取る。じゃが・・・エンジンルームが焼けそうなくらい温度が上がっとる。異常じゃ・・・このままでは爆発するぞ!] 大艦橋のモニターに映ったエンジンルームのホセの顔は汗まみれだった。リヴァイアサンの艦橋も俄に温度が上がり始めた。妙な震動が艦を揺るがし、リヴァイアサンそのものが赤く発光しているようにも思える。トチローはゆっくり席を立ち上がって歩き出した。 「トチロー・・・エネルギーが不安定に上がっているぞ!・・・最大出力を振り切っている。ホセが言ったようにこのままでは爆発するぞ!」 「ハーロック、中枢コンピュータールームに行ってくる」 トチローは大艦橋を去り、艦尾の中枢コンピュータールームへとつかつか入っていく。コンピューターの電光パネルはひっきりなしに輝いて暴走すらしているように見えた。中心部の青い炎が強く振動している。青い炎は上部からつるされた巨大な繭状のコンピューターの底部中央に有り、その繭状の中枢コンピューターは底部より放射されるクモの巣の様なレーザー線によって常に艦と垂直に支えられていた。 「何を動揺しているんだ・・・何を恐れているんだ・・・?いったいどうしたって言うんだ?マヌエラ!いるのかそこに!」 トチローにはコンピューターの中の炎が苦しんでいるように見え、しばらく立ちつくしてその様子を見ていた。そして、トチローはゆっくり中枢コンピューターに近づき、電子パネルに手を掛けると、怒りとも悲しみともつかない感覚がその手を伝って感じられた。 トチローはサーベルを構えて仁王立ちした。青い炎は一段と振動を増しすとコンピューター内部からトチローに向けて震動波を巻き起こした。壁に向かって転げるトチロー。 「おい、どうしたんだ?ヘルブラディめ!ご機嫌斜めか?あぁ?お前、わざと推力を落としてるだろ。この俺を騙そうったてそうはいかねぇぞ。誰のおかげでココに住まわせてもらってると思ってる!・・・何とか返事しやがれ!・・・何とか言わんと・・・ぶちこわすぞ!!!」 コンピューターはなにも語ることはない・・・だが、トチローには何となくリヴァイアサンが訴えているように感じて仕方がなかった。そして繭状の中央にある青い炎はやはりなにか意志があるのだと思わざる得なかった。それはハーロックも感じていたことだった。マヌエラは言った。人としての心を失ってしまうけれどいつまでも彼らの傍にいると。 「俺はハーロックと、誰の指図も受けず、自由に宇宙を旅がしたい・・・そのためにこの戦艦を作った。確かに、戦艦は戦いの道具には違いない。だが出来ることなら無用な戦いは避けたいと俺は思う」 炎はさらに動揺を増しているようだった。艦外の妙な音を聞けばそれはすぐに分かる。小惑星が推力を失い続ける艦体に衝突しているのだ。 「種の起源が違えば、その善悪の価値も異なる。・・・だが、これだけは言っておく。もし、大量虐殺を善とする種があったとして・・・彼らが彼らの種の中で行っているうちは俺は何もしない・・・だが、ひとたび俺に・・いや、俺とハーロック、そして髑髏旗の下に誓いを立てた者達にその手を伸ばし、そしてまた、他の種を苦しめるようなことがあるのならば・・・俺はそれを憎む。俺は信じている・・・・誰かの夢をないがしろにしてまで希望を成し遂げる権利など誰にも無いのだと・・・分かるか?」 その時リヴァイアサン号は重力場から徐々に推力を上げて離脱しはじめていた。機関室の室温が徐々に下がり、動力部でへこたれかけていた男達の顔色が良くなってきた。ハーロックも蛇輪にかかる圧の減少を確認して艦橋を後にした。トチローはほっと安堵の息をもらした。 「マヌエラ・・・お前は強烈な厳しさを抱えた反面、寂しがり屋で優しい・・・きっと、その昔、深い心の温かみの中で、夢をはぐくんでいた。俺には、お前と鉱石の関係はよく分からんが、これだけは言える。お前は、いっぱいの悲しみと絶望の中で耐えていたんだな。人としての心を失っても・・・それでも必死に俺達に何かを訴えかけようとしているんだろ?戦いに旅立つ俺達が心配なのか?」 トチローは青い炎の意味がようやく理解できてきた。ヘルブラディ鉱石の心を象徴するのがこの炎であり、人の心を失ったマヌエラなのだと言うことを。そして、そこにハーロックが入ってきた。悠然と一歩一歩踏みしめるようにゆっくり中枢コンピューターとトチローに近づく。 「人は皆、成長をする。身体も、心も。今日の心は明日あるとは限らない。それが人間だ。人間の全てを今ここで語り尽くすことは出来ない。なぜなら、これからもまた変わっていくからだ。人の心を失い、鉱石エネルギーの一つとなってしまったでお前に今すぐ理解して欲しいとは思わない・・・。だが、いつか必ず俺とトチローの意志はお前の中に理解を生むと信じている。マヌエラ・・・恐れず、俺に全てをゆだねてくれ」 トチローは頷いた。そしてハーロックは首に巻かれた白いスカーフを取り去り、サーベルを抜いて自分の首にあてがうと、鮮血がサーベルを伝ってつかを血で染めた。真っ赤に染まったサーベルを青い炎の中に突き立てると、サーベルを伝って彼の血が炎に垂れた。ちりちりと音を立てて彼の血は炎の中に吸い込まれていった。惑星ヘレスから飛び立ったときに気を失っていたハーロックを包み込んだ炎。マヌエラの心であり、マヌエラの真の姿であり、命である。 「俺は祖先から受け継がれたこの血と、このサーベルに輝く髑髏の印に誓う。戦いこそすれ、生きる意志のある者を闇に封印などしない。そしてこの宇宙を闇に葬ったりはしない。だが、これだけは言っておく。この宇宙を牛耳り、自由を侵し、支配しようとする者を俺は許さない。俺は、俺達の印の元に戦い、そのためならば・・・悪魔にでも死神にもなろう」 トチローは血にまみれたサーベルを掴んでいるハーロックの手を握り、炎の答えを待った。激しく動揺しているように見えた炎は、徐々に落ち着きをみせ、やがて小さな灯り火に戻っていった。 ハーロックは艦尾キャビンの艦長室の奥にある自室で小さくなっていく銀河系を眺めていた。あれ以来トラブルは起きていない。平穏無事な航海を続けている。 “閉ざされた部屋の片隅で・・・我が子よ・・・お前が泣いている。お前が苦しんでいる。・・・・私の生きている限りの自由よ無くなれ・・・お前の心に答えられないのならば・・・。私には見える。我が子よ・・・お前が泣いているのが。お前が苦しんでいるのが。・・・私の生きている限りの自由よ無くなれ・・・お前の望みに答えられないのなら・・・” 機関室に響くホセの歌声は、リヴァイアサンの心をなだめ、そして共感し、目に見えぬ感動の涙を流している様だった。 |
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