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第二章8
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| 墓標 「お〜いだれかいるかぁ〜」 がらんとした鍾乳洞のような地下にトチローの声がこだまする。天井を見上げると無数の穴があるところ、おそらく古めかしい罠と言ったところか。落ちて死んだと思われる白骨は山積みだ。 「こりゃ墓場だな〜・・・入ったはいいが、出るのはコトだぞ・・・。お〜い、誰もいないのかぁ・・ん?」 トチローの鼻は死臭を感じ取った。足下を見るとまださほど経っていない死体が転がっているのに気づく。するとその先には数人の男達が死肉をむさぼっている姿が眼に入った。彼らは皆やせこけているが、まだ生きている。男達はトチローの姿に気づいて驚き、食っていた肉を隠しだした。 「・・・おまえら・・・なんつーコトを!死んだ仲間の肉を・・・!」 「お・・・お前も落ちたんか?・・・く、食いもんなんかねぇぞ!」 「おまえら、デラモースの部下・・・か?」 すると男達の中からかっぷくのいいヤツが出てきて他の仲間の前に立ちふさがった。 「誰だ貴様!デラモース様を呼び捨てにしやがって!貴様もメタノイドの仲間か!」 「・・・おいおい、こんな風体のメタノイドがいるかよ」 「じ、じ、じゃあ何しに来た!」 此処は外の爆音が聞こえない。ただただひっそりとして、聞こえてくる音と言えば水滴ぐらいの物だろう。男達の声が響いた。トチローは近くにある岩の上に腰掛け、辺りを見渡した。トチローの眼では数メートル先は真っ暗で、天井から差し込む外の明かりは水面に反射して周辺の屍を浮かび上がらせている。不気味を通り越して美しくもある。 「ラ・フロリーナを知ってるな?あいつに頼まれてデラモースを助けに来た」 トチローは静かに話し始めた。恐らくこのさんざんな状況のなか数年も暮らしてきたのだ、死んでいった仲間の肉を食べ、この薄暗い墓場で身を潜め、精神的に追いつめられている者も少なくないと判断したからだ。 「ラ・フロリーナ!」 「そうだ。・・・。俺はな・・・」 トチローは男達の前に近づいていった。男達の一人がトチローの姿を確認して驚き、尻餅をつきながら後ずさりした。 「・・・・う、うそだ!」 誰かが叫んだ。トチローの姿を見て、誰もが驚いていた 「そうだ。嘘に決まってる。伝説の怪人、大山トチローはもうとっくに死んじまった」 「ああ、そうとも。エメラルダスもその怪人の後を追って・・・」 (そうくると思った。) トチローは心の中で呟いた。ハーロックと同じだ。彼はその指名手配状が宇宙の至る所に貼られ、宇宙を旅する無法者で彼の顔を知らない者はもぐりだと言われる。これから先の旅で、いったにどれだけの人間が彼をキャプテン・ハーロックだと言うだろうか。そして今彼も同じ立場にいる。実際、大山トチローの顔を、姿を知っている人物はハーロックほどそうは居ない。だが、ハーロックもトチローも父にあまりにも似て生まれてしまったおかげでそれぞれに苦労がある。ハーロックはこれからも父と間違えられるが為に苦労するだろう。そして今、苦労しているのはトチローだった。だが、トチローは思った。彼の顔を見て「大山トチロー」と分かるということは、それだけこの宇宙義賊に精通している証でもあるのだと。 「めんどくせぇな。俺はお前さんらが知ってる大山の子孫の者だ。オイ、ここに何人生き残ってる?ん?ここから出たい者は前に出ろ。俺は無理にここから逃がしてやろうとは思わん。だがな、デラモースが自分のことよりお前らのことを心配するから、こうして俺が来た。だがな、ここから出るのも一筋縄じゃいかんぞ。生きて外に出られるか、今のお前さんらにその保証はしてやれん。血の通った山賊なら分かってるよな」 生き残って、まだ口が利ける者は口々に言葉を発した。 「ボスは、ボスは無事なのか?」 「メタノイドはまだ外にいるのか?」 「俺はもう走ることはできん。此処に残る」 トチローは数メートル先に何人居るのか正確にはわからなかったが、聞こえてきた声から少なくとも5人以上は居ると思った。何人かがトチローの前に姿を現すのが見えた。 「デラモースの安否はわからん。知りたきゃここから脱出してから自分の目で確認しろ。」 「ここはどうなるんだ?」 「ここは間もなくただの瓦礫になる。死にたくなきゃ俺に続け。武器がもてる者は居るか?ここに小型のレーザーガンとショットガンが何丁かある。走れるヤツは動けないヤツを背負え」 トチローはローブの下から武器を取りだした。ローブの中はまるで歩く武器庫の如く、多数のグレネードとレーザーガンのエネルギーパック、数本のレーザーガンがぶら下がっている。それが目に入った男の一人が口をきいた。 「あんたが本当にあの大山トチローさんなら・・・キャプテン・ハーロックは?キャプテン・ハーロックは来てくれたのか?」 「ああ。あいつはデラモースと戦ってる。俺達が脱出するのを待ってる筈だ。」 奥で寝ている、病人と思われる者達は仲間の呼びかけに首を振っていた。両足を失った者も同様に。結局トチローに続く者はけが人を含めて10人ほどだった。トチローは残ると言った者達の近くへ歩み寄った。 「死ぬ勇気があるなら、なぜ此処を出ようとしない?」 「足手まといになるくらいなら、ここで死んだ方がましでさぁ。どうせ長くはないんだ。生きれる者は俺達の分まで生きて欲しい。俺たちゃラ・フロリーナさんが無事で、助けに来てくれたその気持ちだけで充分。」 両足を失った男は、その周りで病に苦しむ仲間の肩や手を触れながらそう言った。そして男は続けた。 「デラモースさんはこの地下水脈をなんとかして湖に引っ張ろうとしてたんでさ。そうすれば煉瓦の星は水と緑に恵まれた星になる。きっと美しい星になるって。それには金が必要だった・・・町の奴らや俺達がちまちま集めた金じゃ足りねぇからって・・・畜生・・・どこぞの裏切り者がコスモドラグーンを餌にメタノイドやらプロメノイドとか言う奴らと取引を。おかげでこのざまでさぁ。」 そしてまた別の男が話を続けた。 「コスモドラグーンの在処はボスしかしらない。俺達はラ・フロリーナさんを人質に取られないよう、町の片隅に逃がして・・・戻ったときはもう俺達しか生き残っていなかった。だから・・・俺達は井戸に身を投げたんです。奴らに殺される位ならって・・・でも、鉄格子からボスは叫んだ。死ぬな、意地でも生きろ、いつか必ず生身の男の底力をメタノイドに見せつけろと」 男達は一人一人、鼻をすすりだした。彼らは生き続けるために、自分が死んだらその肉を食うという究極の約束を交わしてその時を待っていたのだという。彼らは信じていたのかもしれない。再びエメラルダスが来てくれることを・・・・。そしてキャプテン・ハーロックが来ることを・・・・。トチローは大きなため息をついた。 「トチローさん。おれはこいつらと一緒に、俺達のためにその身体を捧げてくれた仲間達の側にいたい。」 病にふせっていた数人の男達がその身体を必死に起こして、両足のない男の元へと手を伸ばした。みんな、彼の手を取って同じ気持ちであることを訴えた。 「自由への道は二つある。死ぬか、生きるか・・・選ぶのは自分次第だ。」 トチローはグレネードを一本、両足を失った男に渡した。男は両手でそれを受け取り、大きく何度も頷いた。 「あんたに会えて良かったよ。いい土産話が出来た。」 そう言って男はトチローと固い握手を交わした。トチローはこみ上げる涙をこらえて男の手を強く握り返した。トチローに続くと決意した男達は涙が止まらなかった。 「行くぞ。入ってきた井戸に鎖を掛けておいた。一気にのぼり上がって、砦を降りる。死ぬ気でついてこい!」 トチローと山賊達は走り出した。彼らは井戸を昇り、トチローが元来た道を戻った。メタノイドはさっきより数は減ったようだがそれでも攻撃を続けている。一人、また一人と生き残りの山賊は減っていった。それでも彼らは振り返ることなく出口を目指し、湿地帯までたどり着いたその時だった。地中深くで轟音が響き、湿地帯の至る所から煙りとも水蒸気ともつかない物が吹き出してきた。砦のあちらこちらからも煙が吹き出し、中では半死半生のメタノイド兵達が苦しんでいるのが伺えた。地下水脈でグレネードが爆発したのだとトチローは確信し、共に生き延びた山賊達はがっくりと膝をついて男泣きに泣いた。 「トチローさん」 ラ・フロリーナが待っていた。その向こうにすすまみれのホセ、そして彼らを案じて町中の人々が繰り出してきていた。トチローは山賊達と共に湿地帯を離れ、ラ・フロリーナの方へと歩き出した。その時、大地を揺るがし、地響きと共に聞き慣れたエンジン音が聞こえてきた。遙か向こうからリヴァイアサン号がこちらに向かっている。 「ハーロック・・・」 ハーロックはリヴァイアサン号の甲板にある蛇輪を握りしめ、トチロー達の頭上に現れた。そのまま艦首をアガディール山の山肌に突きつけ、鈍く、ひび割れのはいる音が止まると同時に後退した。山肌にはリヴァイアサン号の艦首にそびえる髑髏の紋章が刻み込まれていた。小さな岩がいくつか麓へと落ちてきたが、麓にいる人々に危害を及ぼす程のも度ではない。トチローもホセも、そして町の人々も、その操縦技術に歓喜の声を上げた。ハーロックの瞳は上空から豆粒ほどのトチローをとらえた。 「此処で死んでいった勇敢な山賊達の墓標だ。」 蛇輪を握るハーロックは心の中でトチローにそう告げていた。トチローはにっこり笑った。 「かっこつけやがってからに〜」 地中の轟音はリヴァイアサン号の行為をもってさらに増し、町から離れた枯れ果てた湖へと集中した。湖底は小さなひび割れを起こし、やがてそこから勢いよく水柱が吹き出した。人々の歓声はさらに増し、湖底から吹き上げる水柱は煉瓦の星にはじめての雨を降らせる。この現象はリヴァイアサン号の甲板でそれを見守るハーロックも驚いていた。だが、これで良かったのだと頷いた。 生き残った山賊達は8人。ラ・フロリーナは彼らをリヴァイアサン号に乗せて欲しいとハーロックに懇願した。ホセはどっちでもいいと言ったが、ハーロックとトチローはすぐには返事を出さなかった。これから煉瓦の星は緑あふれる美しい星になっていくだろう。町の開拓も進められる、その指揮をとる人物も必要だろう。そして、リヴァイアサン号には人手が必要だということも確かだった。 ハーロックはアガディール山の砦からじっと夜の煉瓦の町を見つめていた。 「ハーロック・・・俺はお前に従う。」 「従うじゃなくて、任せるだろう」 「従うと言ってる。これからの旅はお前の腕にかかってるんだ」 この言葉の意味は、トチローがハーロックを新たな戦艦の艦長としての義務を果たせということだった。ハーロックは目を閉じ、これからの計画を頭に巡らせていた。再び眼を開いたとき、彼は上方にそびえるアガディール山に刻み込んだ髑髏の紋章が目に飛び込む。小さな明かりがちらちらと見えるのは、日中の戦いで死んでいったメタノイドの破片を町の人々が外に運び出しているのだった。町の人間の誰かが示した、片づいたという合図を聞いて、ハーロックは町の人々が行き交う砦の中へ入っていった。トチローも後を追った。ハーロックがたどり着いたのはデラモースの遺体が在る場所。ハーロックが纏っていた黒いローブ、髑髏の旗を使って作ったという彼のローブで丁寧に巻いてあった。ハーロックの到着を知って人々が道をあけ、その向こうのデラモースの遺体の側でラ・フロリーナがうつむいていた。 「ハーロックさん、トチローさん兄も死んでいった仲間達もきっと喜んでいると思います。最後にあなた方に会えたこと。そしてあの湖が復活したこと。」 「偉大な山賊達だった・・・・。もっと早くに出会っていたかった。」 デラモースの遺体は組木の台に置かれていた。ハーロックはサーベルを顔の前に捧げ、そして払ったと同時に組木に火がついた。 「デラモース、そして名を告げずに散っていった山賊達。安らかに眠ってくれ。デラモースの妹はこの俺が引き受けた。そして・・・必死に生き残った、お前達の仲間もだ。」 ラ・フロリーナ、そして生き残りの山賊達ははっと顔を上げた。ハーロックは振り返り、彼らを見渡した。 「いいか、お前達の乗船する船はアルカディア号ではない。トチローと俺の意志によって建造された新たな船リヴァイアサンだ。お前達がデラモースの意志を継ぎ、この岩山に刻印した髑髏の紋章の下、大宇宙に自由の旗を翻し、共に戦うことを誓うのならば・・・乗船を許可する。誓えぬ者はこの星に残れ。・・・以上だ」 ハーロックはそう言い残してリヴァイアサン号へと去っていった。夜明けと共にココを発つ。それまでに彼らに考える時を与える事にした。ラ・フロリーナ、山賊達、そして町の人々までもがアガディール山の山頂にそびえる髑髏の墓標を眺めていた。 夜が明けるまで、ホセの歌はアガディール山頂にこだました。 “遠い遠いはるか彼方から会いに来たよ。海を越えて・・・会いたかったお前の元へ。お前の瞳はまるで星の輝き、お前の唇は太陽のように熱い。なのにお前は泣いている・・・なぜ泣いているのか。たとえ俺が死んで時が過ぎようと。その屍が踏み荒らされようと・・・俺の骨は叫び続けるのに・・・お前を愛していると” |
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