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第二章7
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| デラモースの意地 アガディール山。不毛の星の中で唯一、わずかな緑と水に恵まれ、その恩恵によって山麓は湿地帯となっている。岩山の中はさしずめ迷路の如く入り組み、人の侵入を拒む。白昼、乾いた赤砂が緩やかに流れ出し、わずかな風をも赤く染めていた。砂塵を巻き上げならが車を走らせてきたホセ。車の中央に大きなシートがかけられ、その中にはいくつもの武器が搭載されていた。中央に4連20ミリレーザー機関砲がそびえ、RPGを彷彿とさせるロケットランチャー、おまけにグレネードまで持参してきた。おかげで一人しか車内に乗れない。ペガサスコスチューム店の入り口でホセを待ちかまえていたトチローが駆け寄ってきた。 「どうじゃトチロー!ワシの改良の程は?ん?これで簡易自走砲っちゅー感じになったじゃろ。主砲は10秒に3発しか出んが・・・」 トチローはホセの言葉もろくに聞かず、シートの中に潜り込んだ。 「じーさん!どっからそんなモン引っ張り出してきたんだぁ〜?」 「ちょいとばかり海賊島に行って来た。武器庫にもいろんなモンがおっこっておったわい。これでもパルチザン兵してたころにゃこんなモンいくらでも作ったんじゃぞ。」 トチローは興味深げに機関砲をなで回していた。ハーロックはペガサスコスチューム店から顔を出してホセに「入れ」の合図。ホセはトチローを引っ張り出して店の中に入っていった。店の中は奥から美味そうな匂いが漂ってきていた。 「おぉ〜、こりゃ美味そうな匂いじゃわい。戦の前の腹ごしらえじゃな」 「どうぞ、今、私に出来ることと言ったらこんな事くらいしかありませんから」 大きな鍋にシチューをこしらえていた。カウンター越しにテーブルに足を投げ出して重力サーベルを磨くハーロックに近づくホセ。 「その服、よーく似合っとるぞ。そうさな、若い頃のキャプテンそっくりじゃ。これからはお前さんの事もキャプテンと呼ばにゃぁならんな」 「かっこばかりで中身はまだまだだと言うかと思ったら。案外素直なんだな。」 満面の笑みを浮かべるホセ。その手には昨日リヴァイアサンに迷い込んだトラジマのネコがいた。 「ほれ、かわいかろう。ワシの友達じゃ。リヴァイアサン号に迷い込んでな・・・飼ってもいいか?」 ハーロックはホセの腕の中でかわいくハーロックを見つめるネコをみて微笑んだ。彼も動物は嫌いじゃない。いやむしろ好きだ。はめていたグローブを外して頭を撫でると嬉しそうに『にゃ〜ん』と返事をした。 「名前は?」 「ミー君がいい、ミー君にしろ」 そう呟きながらトチローがキッチンへと突進していった。ホセはポカンとしていたが、どうやらネコはその名前が気に入ったらしく、『み〜』と鳴いて見せた。 「で、デラモースはアガディール山のどの辺にいるんだ?あの山はどうなってる?」 「あの山の砦の中に。そこまでの道のりも砦の中も迷路ですから私がご案内します。おそらく道すがら機械兵やメタノイド兵、ガードロボットがいると思いますけど。」 トチローはシチューの匂いに誘われて、キッチンのテーブルに腰掛けていた。ホセも彼の後を追ってキッチンの中へと入っていった。 「そのいきさつについて話してもらえるかの?」 「あの戦いがおわってエメラルダスさんが去って・・・しばらく経ってからのことです。兄の体が不自由なことをいいことに、兄を裏切った仲間の一部がメタノイドに降伏したんです。もっとも・・・仲間はほとんど殺されてしまいました。私は生き残った仲間に山を下りるように促され町の住人として生きてきましたが・・・あとの人たちはどうなったか・・・もう」 山賊達は煉瓦の星の湖を復活する計画をすすめていたたが、機械化人の甘い誘惑に負けた者達によってもろくも崩れ去った。数人の裏切り者がエメラルダスがコスモドラグーンをデラモースに託したことを話し、それと引き替えに身の安全を求めたという。機械化兵はアガディール山に隠されたエメラルダスの『遺産』だと思われるコスモドラグーンを手に入れるため、唯一その場所を知り、その鍵を知るデラモースを幽閉したとラ・フロリーナは語った。 「まだコスモドラグーンが見つかっていないのなら、あんたの兄さんも生きてるって事か。」 「兄は死ぬわけにはいかないんです。あなた方にコスモドラグーンを渡すまでは死ぬわけにいかないんです。」 シチューをテーブルに運んだラ・フロリーナはうつむいた。 「泣くな泣くな!・・・俺はメソメソしたヤツは大嫌いだ。だいたい女は泣きゃぁいいと思っとる。だがな、俺は認めん。メソメソしたってなんにもはじまらんからな。」 「泣いてなんかいません!」 ドンとトチローの前にシチューの鍋を置いて店の方へすたすたと歩いていっていってしまった。トリが不満の声を上げる。 「女は怒らせると恐いぞぉトチロー。お前のおふくろさんなんかもう〜」 「だまって食えって」 トチローもホセも彼女の作ったシチューに舌鼓をうつ。満足げな笑顔が漏れた。ラ・フロリーナはハーロックに「トチローも親父とそっくりなんだ」と聞かされて、正直言って、なぜエメラルダスのような美女がトチローのような男に恋をし、さらにどうしてエメラルダスからトチローと全く同じ男が生まれたのか理解できなくなった。大山家の血は宇宙一濃いとハーロックは答えた。 煉瓦の星の一日はその星の大きさからもとても短い。アガディール山に到着する頃には日が陰りだしてきていた。乾いた赤砂がだんだんと湿気を帯びてくるあたりで車が止まった。ホセは少し離れたあたりで機関砲に掛けたシートを取り外し、攻撃の合図を待つ。ハーロック、トチローはラ・フロリーナを連れて正面から湿地帯へと入っていった。湿地帯の入り口は鉄城門に閉ざされていたが、それを守る機械化人やメタノイドなど彼らにとっては取るに足らない。時折白骨化した死体が転がる山道は険しく、上に進むに従って緑は無くなり、むき出しの岩肌とかろうじて存在するような道のみとなっていった。時折パトロールロボットが行き交う。ハーロックの早撃ちは、相手の姿が見えないうちに既に射止める。突然、上部の岩陰から機械化兵が降ってきた。まるで卵の殻を潰したような鈍い音を立ててラ・フロリーナの前に崩れた。ラ・フロリーナは顔色ひとつ変えずにそれをまたいで二人の後に付いていった。 「こわくねぇのか?」 「機械化人なら恐くはありません。人の心を失った卑怯者たちばかりですから。」 「上等だ」 トチローは感心の声を上げた。するとハーロックは岩陰に隠れてその先の砦を指さす。 「鉱石を守ってるにしちゃずいぶん手薄だな。いままでの道のりといい、ここといい」 「年に数回の物資補給以外はあまり機械化人もこの星に寄りつきません。アルカディア号やクイーンエメラルダス号がこの宙域に見られなくなって以来、パトロールも手薄になっていると聞いています。」 四人のメタノイド兵が砦の入り口にいたが、中から呼ばれて二人に減った。 「チャーンス!」 トチローが小声でそういうとハーロックがラ・フロリーナとトチローに「行け」と眼で訴えた。トチローは「なんで?」のジェスチュア。ハーロックは「いいから行け!」とさらに眼で訴える。こんな二人のやりとりをみて、ラ・フロリーナは緊張がほぐれたのか、トチローにほほえんでその手を引いて歩き出した。ずるずると砦の前まで引きずられるトチロー。 「何者だ!」 「な、何者って・・・・」 「観光よ。この星、何もないから山でも登ろうかと思って・・・・」 (なわけねーだろ) メタノイドの一人が二人をスキャンする。ラ・フロリーナの服の向こうが透けて見えた。しかしトチローは特殊な生地のローブのおかげで向こうが何も見えない。 「あやしいやつだな貴様」 もう一人の兵士が近づいたその時、ラ・フロリーナは目前を光が通過したような気がした。トチローのサーベルは確実に彼らの頭を切り裂き、粉々にしてしまった。そこにハーロックが投げたグレネード弾。砦の入り口はいとも簡単に開いた。 砦の入り口の爆発音は山麓にいるホセにも聞こえた。水を得た魚の如く、ホセは車を走らせ、機銃砲を山肌に向けてはなった。4連機銃砲はけむりの上がった山腹をねらい、岩陰に設置された敵の機銃をことごとく破壊。さらに外へと繰り出したメタノイド兵達の足場を確実に崩した。 砦の中は数々のレーザーが入り乱れ飛び交う。ランプの明かりほどの暗さの内部は生身の人間にとってほとんど闇に等しく、音だけが頼りだった。ラ・フロリーナはトチローの手をしっかり掴んだまま、彼女の勘で奥へ奥へと走った。トチローも決してその手を離すことなく、もう片方にもったサーベルで近づく敵を粉砕する。入り口とは逆に砦の中は広い。まるで蟻の巣のように道が枝分かれし、数々の広い穴に繋がっていた。穴は道に比べると比較的明るく、お互いの顔が分かる。トチローの手を握ったままだったラ・フロリーナはすぐにその手を離して少し恥じらった。トチローは携帯していた小型の銃をラ・フロリーナに渡した。 「お前、自分の身は自分で守れ、だが、奴らの心臓は狙うなよ。大爆発を起こす」 「分かりました。・・・それにしてもトチローさん、剣が上手なんですね」 「さよう。剣はまかせろって」 「銃は?」 「ガンはハーロックには及ばないな。なにせ酷い近眼だからな。・・・もっともあっちのガンは負けねぇけど」 「くだらん事を言ってないで速く行け!」 ラ・フロリーナはトチローの言った意味を理解する間もなく、ハーロックにせかされてまた走り出した。ハーロックは至る所から現れる兵士や武器の数々を次々と吹き飛ばす。もはやコスモドラグーンは彼の身体の一部となっていた。 砦には行ってどれくらい下っただろうか、まだ半分ほどの辺り、ラ・フロリーナは突然進路を変え、人一人通れるか否かの細道へと入っていった。奥には鉄格子、そしてその向こうで鎖につながれたデラモースが横たわっているのが見えた。 「お兄ちゃん!」 その骨格をみる限り、かなりの巨漢だったに違いない。しかし彼らの目の前の男はげっそりとやせ細り、毛むくじゃらの顔のの中でやけに白いまるまるとした瞳がこちらを見ていた。収容されたときに受けた傷や鎖につながれた辺りの傷は化膿し、腐っていた。恐らく、もう先は長くないだろう。 トチローが携帯していたグレネードが鉄格子を破る。さらに敵兵を立ち入らせない為に細い入り口をも爆破した。ラ・フロリーナはデラモースに抱きつき、彼をつないだ鎖を断ち切ったハーロックも彼の肩に手を回した。 「ハ・・・ハーロック」 「話は後だ・・・すぐに此処を出る」 しかしデラモースは首を振った。 「地下、地下水脈に・・・仲間が・・・まだ生きてるかもしれない。俺はいい、奴らを・・・頼む」 「此処を出てすぐ先に井戸があります。そのずっとしたに・・・」 「俺に任せろ!おいハーロック、奴らが来てるぞ」 トチローはそう言い残していちもくさんに井戸に向かって走り出した。出口が何処にあるのかは聞かなかったが、トチローは何も考えずに行動を起こすほど無鉄砲な男ではない。 細い入り口に積み上がった岩石は機械兵が仕掛けた爆弾で吹き飛んだ。煙の中をデラモースを抱えたハーロックとラ・フロリーナが走り出してきた。ラ・フロリーナはさらに入り組んだ道へと走り、せまい岩のくぼみの辺りで立ち止まる。ハーロックはデラモースを壁にもたれかからせ、身を潜めた。痩せているとはいえ、デラモースの身体は思ったより重い。 「ハーロック・・・・俺は砦を出られない」 「出られないとはどういうことだ?」 デラモースは首に巻いたボロボロのスカーフを取って見せた。そこには赤く点滅する首枷。自爆装置・・・これを外さなければ砦を出ることは出来ない。 「こいつははずれると自動的に爆発する。外そうとしてもだ・・・。おれの動脈と繋がっている。・・・・俺が死ぬと同時にこいつが止まるしくみだ」 「デラモース・・・諦めるな。」 だがデラモースは首を振った。その時、彼らに気づいたメタノイドの銃がラ・フロリーナに向けられた。 撃ってきたメタノイドはコスモドラグーンに心臓を打ち抜かれ、木っ端微塵に吹き飛んだ。周囲の岩もかなりの範囲で砕け飛び、後から来たメタノイド達をシャットアウトした。しかしラ・フロリーナを狙った弾はバスッっという鈍い音を立ててデラモースの腹をえぐっていた。 「お兄ちゃん!」 「デラモース!」 デラモースの腹から鮮血がほとばしる。その量は尋常ではなかった。 「ハーロック!俺の腹を切れ。中に・・・コスモドラグーンがある」 そう言って血まみれのシャツを開くとへその上から胸まである傷跡を見せた。ラ・フロリーナはその痛々しい傷跡を正視できなかった。 「片脚しかねぇ俺を抱えて、ここから出るのは無理だ。・・・どのみち、コスモドラグーンを取り出せば、今の俺は生きちゃいないさ。・・・シリンダー付近が俺のあばら骨とシールドで固定されている・・・機械の野郎どもにスキャンされても分からないように・・・シールドと骨で固めたんだ」 ハーロックは愕然とした。デラモースは自らの体を使って全てを隠していたのだ。返す言葉を失ったハーロックに弱々しくほほえみかけるデラモース。 「だてにでかい身体じゃねぇってことさ。・・・言っただろう・・・骨になっても、あんたとの約束は必ず守るって・・・」 ラ・フロリーナは涙声で訴えた。 「お兄ちゃん・・・私たち、お兄ちゃんを助けに来たのに、どうして?」 「放っておけばいづれ俺は死ぬ。ハーロックの手で・・・あの世にいけるなんざ、名誉なことだぜ、ラ・フロリーナ。う・・・ぅ。聞いてくれ・・・宇宙を支配しようとしているのはメタノイドなんかじゃねぇ・・・奴らが進化するために作り上げた・・・プロメノイド・・・そいつらが敵だ。奴らはコスモドラグーンを探ってる・・・奴らの手に渡しちゃならねぇ!」 急に動いたためか、デラモースは意識がもうろうとしつつも、体中の痛みに苦しみだした。 「い、妹を頼む・・・・ハーロック!」 「お兄ちゃん!しっかりして!」 「そこをどけ、ラ・フロリーナ」 「嫌です。兄を殺すなら私も・・・」 デラモースは最後の力を振り絞ってラ・フロリーナを突き飛ばした。よろけるデラモースをハーロックはしっかりと抱え、耳元で呟いた。 「お前の、男の・・・命がけの意地とプライドを無駄にはしない」 サーベルがデラモースの心臓を貫いた。デラモースは今際の際でハーロックにこう言った。 ・・・キャプテン・ハーロックは不滅だ。立派に親父さんの後を継げ・・・と。 |
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