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第二章5
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| 真夜中の来客 スガーン! 「このアマ!危ねぇじゃねぇか!」 どうやらラ・フロリーナが撃ったのだろう、洋服屋の入り口を抜け、向かいの建設中の小屋の柱に命中。見事にドアのあたりが吹っ飛んだ。これにはさすがのハーロックも目を丸くし、頭上からトチローの笑い声が聞こえた。トチローは指を3本出して<敵は3人>であることをハーロックに知らせた。 「出ていって!ここは洋服屋よ!」 「おい!ねーちゃん。ちょっと遊ぼうぜって言ってるだけじゃねぇか。そんな物騒な物しまって、俺達とつきあえよ」 男達は下品な顔で銃を構えたラ・フロリーナに向かって近づいた。 「さっきのは威嚇で撃ったんだからね。これ以上近づいたら本当に撃ち殺すわよ!」 ラ・フロリーナの手はふるえていた。 「そんながたがた震えた手じゃその距離から撃っても同じだな」 男達は背後から聞こえた声に振り返った。トリが涙声で鳴く。一人がハーロックの足首のあたりで揺れるサーベルの剣先に気づいた。 「あ、あ、こいつ今日酒場で兄貴を殺ったサーベル野郎!」 ハーロックは昼間酒場の決闘で泡を吹いて倒れた男に目配せしながら進み出た。店の明かりで彼の顔がはっきりと浮かび上がった。昼間と違い、ローブを纏っていないため、サーベル、そして反対側の腰に下げられた古風な銃がはっきりと彼らの目に映った。さらに頬の傷と眼帯を目の当たりにし、三人は逃げ腰になった。 「キ、キ、キ、キャプテン・ハーロックだぁぁぁぁ!!!」 誰かがそう叫んだのを合図に、無法者達はその店から走り去っていった。モーテルの部屋の窓から身を乗り出してこの成り行きを見ていたトチローは、彼らが飛行艇か何かでこの星を飛び立っていくのを確認した。こののち無法者達の間でキャプテン・ハーロックが健在であることが噂されたことは言うまでもない。そしてその噂はおそらく、近々に銀河中に知れ渡ることになるだろう。トチローはそう思うとニヤリと笑い、よじ登った窓から夜の景色を一人眺めた。何もない真っ暗な夜に時折サーチライトのような光が射す。そこはアガディール山。不毛の地煉瓦の星で唯一山と言える岩の塊だった。 ハーロックは呆然と銃を構えたままのラ・フロリーナに近づいて金貨をカウンターに並べていた。 「支払いが済んでなかった。明日でも良かったんだがまだ店の明かりがついていたので寄ってみたんだが・・・これで足りるか?」 「キャプテン・・・ハー・・ロッ・・ク?」 ラ・フロリーナはまだふるえの止まらない両手で持った銃を下ろした。しかし見開かれた両目でハーロックの顔から目を離さない。 ハーロックは困った。風呂に入って頬の傷のカモフラージュがとれ、伸ばした髪は水分で元のウェーブが戻ってしまったため、眼帯がむき出しだ。なれないことはするもんじゃない。いちいち自分がキャプテン・ハーロックの息子だなどと説明するのも面倒で、さらに偽名を使ったことでややこしくなる。ひとまず金だけ払ってその場を去ろうとしていた。だが・・・。 「あ、あの・・・お金はいりません。私、あの」 緊張からか、何を言おうとしているのかさっぱり分からない。金貨を適当な量カウンターに残し、無言で去ろうとした彼の背中にようやく彼女は声を掛けることが出来た。 「あ、あ、兄が待っています!・・・エメラルダスさんから大切な物を預かっているって。貴方が来たら渡すようにっていわれた物が」 (エメラルダスから大切な物・・・?やはりエメラルダスとつながりがあったのか・・・でなければ絵など描かせるはずもない・・・) しかしハーロックは彼女に背を向けたまま振り返ろうとはしなかった。 「うかつだな。俺がお前の考えているヤツだという保証はあるのか?」 「はい、私が貴方にお会いしたときはまだ小さい子供でした。でも子供ながらに覚えています。私の目の前に見えた・・・その銃、「戦士の銃」!それを触ろうとした私の手を取って私を睨んだ・・・頬の傷と眼帯がとても恐かった。でも、あなたはすぐに私の頭を撫でてこういった「女の子はこんな物を触るんじゃない」って。そして優しくほほえんで・・・・」 彼女は勘違いをしている、だが、それをただしたところでどうなるものでもないのだ。ひとまず彼女の話を聞いておく必要があるとハーロックは判断した。たとえそれが作り話か何かであろうと、ハーロックが恐れる事は何もない。 トチローはふとホセのことが気になってリヴァイアサン号に通信を入れた。手首に巻かれた腕時計様のそれはリヴァイアサン号と、その乗組員の間だけで通用する電波を発する通信装置を装備している優れもの。この電波は他に悟られることのない高度な技術で発せられているのだとトチローは言う。 [お〜い、聞こえるか?ホセ〜。生きてるかぁ?] 「きこえとるわい。この居眠り男が。どうしたんじゃ。ワシが恋しくなったか?」 [バーカ。そんなんじゃねぇよ。ちょっと頼みがある。ハーロックが明日行くって言ってたアガディール山の事だがな、気になることがあるんでスキャンしてもらいたいんだ。] 「ほ〜う、そんなことなら頼まれんでもやっとるよ。お前さんが酒場で寝ちまったからな、ワシが帰ってからきちんとやっといたわ。」 モーテルの部屋の片隅で通信機に話しかけるトチローは「さすがアルカディアの元乗務員」と感心の表情を浮かべた。 「あの山はただの岩山じゃ。じゃがな、驚くな。鉄鉱石の他に機械生命反応があったんじゃ。」 [なぁにぃ?そいつはおもしろい。で、クローズアップは?] 「メタノイドとおぼしき影多数、生命反応は人間も見られるが、何処におるのかはわからん。あそこは要塞かなにかか?機銃が至る所に配置され取るぞ」 [やはりな] 「おい、トチロー。何があるんじゃあそこは?」 [おそらく山賊か何かの巣だな・・・おもしろくなってきやがったぜ。ホセ、出迎え頼むぜ。真っ昼間に決行だ!] 「ハーロックはどうしとるんじゃ?」 [あ?さぁな〜] トチローは気のない返事と共に通信を切った。窓の外を覗くとまだ店の明かりはついている。ラ・フロリーナはハーロックを店の奥、彼女の部屋に迎え入れお茶を入れていた。ハーロックは黙って、ただ腕を組んですわったままだった。台所とおぼしきところで作業をする彼女の後ろ姿、魅力的な腰のくびれがまぶしい。 「兄はアガディール山にいます。どうか・・・兄を助けてください。」 「助けろ・・・と?」 それではさっきと話が違うとばかりハーロックの表情は硬くなった。 「兄はあなたにお会いして以来、ヘビーメルダーを離れてこの煉瓦の星にやってきました、そしてずっと開拓にいそしむ人々を支え、機械化人の来襲から守り続け、そして戦ってきました。しかし・・・ある日、メタノイドを引きつれた軍隊がこの小さな星を駐留地にすると言って攻めてきたんです。兄は必死に仲間を引き連れて戦いました・・・その時、危ないところをエメラルダスさんが助けてくださったんです。」 ラ・フロリーナはそう言ってお茶をすすめた。その顔はエメラルダスの肖像画同様、とても寂しげに見えた。こみ上げてくる涙を必死に抑えようとして肩がふるえている。トリが心配そうな顔で彼女を見つめ、力無い鳴き声をあげた。辛い思いをしてきたのだろうか、彼女の頭の中は混乱しているように思えた。ハーロックは出されたお茶をすすり、目をつぶって彼女が話し出すのを待つことにした。 ホセはいつもの如く、酒瓶片手にリヴァイアサン号のエンジンシリンダーに話しかけていた。三人で乗船しているときはそのほとんどを艦橋で過ごすが、艦橋を離れてしまえばこの巨大な戦艦で彼が落ち着ける場所といえばやはりココしかなかった。 「のぉ〜リヴァイアサンよ〜。おめぇさんはなが〜いことあの惑星ヘレスで何を考えとったんじゃ?ん〜?もっと早くに現れてくれたら、ワシもトチローも、ハーロックも苦労せずにすんだんじゃ。・・・・マヌエラだって死ぬことは無かったかもしれんのに・・・のぉ。なんとかいわんかこれ!」 ホセはそう言いながら、かつてマヌエラがホセに語った言葉を思い出した。 【私は・・・時がきたら貴方の前から姿を消すわ。あの鉱石を封印した者は私でも・・封印を自らとくことは、この宇宙の破滅を意味する・・・私は自分の命を犠牲にすることでしか、再びあの鉱石を外の世界に現すことが出来ないんだもの】 ホセは泣きながら酒をあおった。のんきなホセでも、大切な仲間、孫のようにかわいがっていたマヌエラを失ったのは何より辛かった。そして、ここに歳の近い仲間がいないことも寂しかった。こうしてシリンダーに話しかけながらも、なつかしいヘレスで知り合った仲間との思い出が頭を駆けめぐる。 「歳をとるとな、いろんな思い出に浸るもんなんじゃよ。そしてな、ああしておけばよかった、こうしておけば良かったと、昔を振り返っては後悔するもんなんじゃ・・・・。もう、取り返しの付かない昔のことをな。ヘルブラディ鉱石よ、おまえだってこんな立派な船になっても、もう若くはあるまい?ん?でもな、あやつらだけにはな、ワシみたいに、こんな風に歳を取って欲しくなはい。そうじゃろう〜」 どっかと床に大の字に倒れ、天井を見つめた。涙も鼻水も止まるところを知らない。その時、かさかさと音がきこえて飛び起きた。ホセは機関部に置かれたショットガンを手にする。 「だ、だれじゃ!」 「ニャ〜ァン」 トラジマのネコが機関室の入り口に座って耳の後ろをかいていた。 「な、なんじゃネコか?どっから入りおったんだぁ?コラ!ここは危険じゃ!元いた所へ帰らんか。シッシッ!」 だが、ネコはホセに近寄りその足にすり寄って愛想を振りまいた。野良猫なのか、あちこちに怪我をしており、眉間には古傷の痕、曲がったしっぽの先がすこし愛らしい。ホセは心が和んでいた。ネコを抱き上げてみると容易になつく、ネコもホセが気に入っているらしい。 「きっとワシが帰ってきたときに付いてきとったんかの〜? よくまぁこんな広いところでワシのいるところが分かったな。さすがはネコじゃ」 さっきまで泣いていたホセがにこにこと笑ってそのネコを抱き上げ、買い出しの荷物から銀河印のミルクを与えた。なんだかホセは暖かい気持ちでいっぱいになった。これからの長い航海、新しい話し相手が出来たと思うとうれしさに小踊りしそうだった。外を見る煉瓦の星の短い夜はまだ続く。 |
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