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第二章4
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| 風呂嫌い 車も手に入ったということで三人は上機嫌で酒とありったけの食い物を頼んだ。トチローとホセの前には豚の丸焼きやローストチキン、野菜に果物が並んだ。トチローはもとよりホセも幾度となく闘いをくぐり抜けてきた男だ。乱世に生きる男は皆、戦渦の中で強者であるかどうかの分かれ道にたどり着く。彼らはそれを生き抜いてきた。強者は食いだめ、寝だめ、飲みだめが出きる・・・そういうことだとホセは言う。ハーロックもそれに習った。今でこそしずしずと食事をするが、惑星ヘレスでトチローが目撃したハーロックの食べっぷりは尋常ではなかった。それを目撃できなかったホセはいまだにそれを悔しがる。そして、三人は盛り上がっていたその最中。 「おぉい!またやりおった!こいつ」 つい酒を飲み過ぎたトチローは突然ばったりと机に突っ伏して寝てしまった。彼は極度にアルコールに弱い。 せめて母親譲りで有れば、ハーロックのペースに合わせて飲んでも互角に張り合える筈だったが、大山家のDNAは非常に強く執念深いらしく、トチローの母親譲りの面は今だホセもハーロックも見いだすことが出来ていない。 「まったく、俺のペースに合わせるからだ。仕方がない、このまま宿に連れて行くとするか」 「へ?宿なんか取ったんか?」 「あぁ、さっき頼んだ服を持ってきて貰う事になってる。まさかリヴァイアサン号に持ってきて貰うわけにもいかんし、明日店に取りに行くのも面倒くさいんでな。」 ハーロックは面倒くさがりな一面がある。だが取りようによってはそれは無駄を省いた行動の裏返しでもあるわけで、彼はいたって当然のように語った。 「そうか。だがワシは帰るぞ。不用心じゃ、リヴァイアサン号をほったらかしにして」 べつに誰が盗めるような代物では無いが、車も手に入ったことで買い出しの品をリヴァイアサン号に乗せる事を先決に考えたホセははなから帰るつもりだった。ハーロックは宿に泊まることを強制はしない。その証にフロントに書き残した名前は少年時代に名乗っていた「羽黒」だけだった。もっともこのあたりのモーテルは金さえ出せば一部屋に何人泊まろうと文句の一つも出ないため、トチローやホセが泊まると言えば二人でも三人でも泊まる事は可能である。 「明日この車で迎えにきてやるよ。そうさな、この車も少し修理してやった方がよさそうじゃな」 「まかせる」 「トチローを頼むぞ〜」 ホセはハーロックが無法者から奪い取った大型車を我が物顔で運転し、上機嫌のリヴァイアサン号へと去っていった。ハーロックはトチローを小脇に抱え、部屋へと入っていった。フロントに立つ男が首をひねりながら、小男を小脇に抱えて階段を上っていくハーロックを見ていた。 トチローはすぐに目を覚ました。いつもなら平気で二日間ほど寝てしまうが、どうやら自分の置かれている状況を彼の細胞が悟って深い眠りにまでもっていかなかったのかもしれない。ハーロックが取った部屋は粗末な部屋だが大きなベッドが一つ、ソファとテーブル、バスルームが付いた、この辺では高級にあたる部屋だった。窓からは通りが一望でき、少し遠くを見ればリヴァイアサン号が停泊しているあたりまでなんとか見通せる程の高さだ。 「起きたか」 「なんだここは。モーテルか?」 「ああ、そうだ」 トチローはローブでひびの入ったメガネを軽く拭いてから室内を見渡した。また、ハーロック同様窓からの景色も確認した。 「今日服屋に行ったらエメラルダスの肖像画があった。」 「なにぃ?それで・・・なんなんだその店はぁ」 トチローはベッドから転げ落ちるようにハーロックの方に近づき、目を輝かせた。 「ただの服屋。以前、ここはエメラルダスに助けられたと言っていた。その礼に描いたそうなんだが、渡す前に旅立ったらしい。」 「へぇ〜。絵を描かせた事があるなんて知らなかったな。で、いつの話だったか聞いたのか?」 「いいや。ずいぶん前の事だと思うが・・・。すぐそこの服屋の店員だ。気になるならお前が聞けばいい。今夜中にこの部屋に服を届けに来る。ちなみに美人だぞ。俺の好みではないがな」 ハーロックは彼女に、ただ服を届けさせるためにこの部屋に来るようし向けたわけではない。本当ならば寝ているトチローをホセと一緒に車に乗せてリヴァイアサン号に帰らせることも出来た。もっとも、ここはエメラルダスつながりということで、トチローに譲るのも悪くない。深刻な表情だったトチローの顔色がいっぺんに変わる。 「どんな女だ?どんな美人だ?」 「そうだな・・・・お前が風呂に入っている間に考えておく」 「な、な、な、なんだよお前は。俺が風呂に入るのが嫌いなの知ってるだろうが。もったいぶるなっ」 「女に会う前に風呂ぐらい入っておけと言ってる」 「ばかぬかせ!風呂に入らんくらいで男を決めるようなヤツはろくな女じゃない。ムカツク」 トチローはまたベッドによじ登り帽子を顔にかぶせてふて寝を決め込んだ。 「じゃぁ俺が入る」 「うるへ〜勝手にしろ。このヘッドはオレんのだかんな。おっぱじめるならどっか別のとこ行ってヤリやがれ」 ハーロックはあきれ顔でバスルームへ消えていった。 しばらくしてドアをノックする音でトチローは顔に掛けて置いた帽子を取った。 「あの・・・ペガサスコスチュームのラ・フロリーナです。ご注文の服をお届けに来ました」 すこし色気のある弱々しい声がドアの向こうから聞こえる。 「鍵なら開いてるぜ。勝手に入ってくれ」 とは言いつつ、トチローは一応用心のため携帯している銃のグリップを握りしめた。ドアの向こうからいきなり銃を乱射するヤツもいるのだ。 「失礼します。・・・あ、あの羽黒さん・・・?」 「は、羽黒ぉ?・・・」 (あいつまた古い名前だしやがって!偽名なんか使いやがったのかよ。めんどくせぇな) 「あの、お部屋を間違えてしまったのでしょうか?ここは羽黒さんのお部屋と伺ったんですが・・・。」 「あ、ああそうだ。羽黒だ。あいつなら今風呂に入ってる」 その瞬間ラ・フロリーナの顔が赤面した。 「す、すいません。あ、あのこれお洋服です!・・・すいませんでした!」 なにやら慌てて、金も受け取らずにラ・フロリーナは飛び出していってしまった。トチローは思った。きっとハーロックの策に気づいたのだと。だがトチローは知らなかった。このモーテルが「連れ込み」である事を。 「なんだかな〜」 お得意のぶつくさ独り言を言い始めたとき、ハーロックがバスルームから出てきた。バスタオルで頭をわしゃわしゃと拭きながら全裸でソファに歩み寄ると、買い出しからもってきた銀河印のミルク瓶をつかみとった。 ひびの入ったメガネの向こうでトチローはハーロックの桃尻に一瞬釘付け。 「お前も飲むか?」 「い、いらん!そんなモン飲んだら腹こわすぞ」 「そうか」 ハーロックは足を肩幅に開き、片手を腰にあて、一気にミルクを飲み干した。鼻の下に白い髭を作りながら満足そうにミルク瓶をテーブルに置く。 「あのな、ハーロック。お前その癖治せよ。親父さんが見たら泣くぞ・・・」 「この癖は養母ゆずりなんだ。そうだな、お前の風呂嫌いが治ったら考える。」 「ちっ。ああ、女来たよ。そこにブツが置いてあるだろ。なんかお前が風呂に入ってるって言ったら赤面して慌てて出てっちまったぞ。金も払ってない。お前、残念だったな〜」 トチローがせせら笑うように言ったがハーロックは黙ってラ・フロリーナが置いていった紙袋の中身を取り出して袖を通しはじめた。全て着終わる直前になってやっと口をきいた。 「言うの忘れてたが、ここはラブホテルだ。多分勘違いされたんだな。」 トチローは卒倒しそうだった。今度から酒の飲み過ぎには気をつけるべし。 コスチュームを着終えたハーロックはトチローに向き直った。言葉を失ったトチローの目の色が一瞬にして変わる。黒のブーツに漆黒のコスチューム。全てが黒一色な中、大きな襟は内が緋色で襟元に小さな髑髏マークが刺繍されている。ガンベルトを装着したその姿は紛れもないキャプテン・ハーロックを彷彿とさせた。入浴の際にカモフラージュがとれたため、頬の傷が浮かび上がった。さらに外しておいた眼帯をつけるとさっきまでミルクを満足そうに飲み干していた男とはとうてい思えない。トチローはマントこそ無いが、かつて惑星ヘビーメルダーで出会ったキャプテン・ハーロックを思い出していた。 「どうした?似合わんか?」 「いや・・・違う。・・・そうだ」 トチローはベッドのシーツの端を破り取り、一枚のスカーフとしてハーロックの首に巻き付けた。 「これでいい。バッチリだ!いいぞ〜。なんかわくわくするな。」 ベッドの上で飛び上がりながらはしゃぐトチロー。ハーロックは首に巻かれたのがシーツなのが気に入らなかったが、しばらく黙って鏡の前に立っていた。それは自画自賛しているわけではなく、やはり父親に似ている自分にすこしの違和感と気恥ずかしさを感じていたからかも知れない。 「ま、格好から入るって言うのも有りだろ。くぅ〜、ホセの泣いて喜ぶ姿が目に浮かぶぜぇ〜」 鏡から離れてソファに腰掛けたハーロックはにっこりわらってはしゃぐトチローを見ていた。だがその目が突然厳しくなったって窓際に身を寄せた。 「どうした?」 「外が騒がしいな。ケンカの様にも聞こえるが・・・」 「もう夜中だ、どうせ酔っぱらいが殴り合いでもはじめたのと違うか?」 「ならいいんだが・・・。ちょっと出てくる。服の代金を払わないと」 「律儀なやっちゃな。明日でいいだろ〜が。だいいち勝手に置いていったんだ、黙ってもらっとけよ」 「つまらん事でドロボーあつかいされたくはない。ちょっと散歩だ。」 ハーロックは部屋をでて下に降りていった。トチローは二人が同性愛者では無いことを女に告げたい気もしたが、そんなと事いちいちするのも馬鹿馬鹿しく、ベッドでまた眠りにつくことにした。モーテルの入り口を数人の男が威勢良く出ていくのがハーロックの目に入った。視線を変えるとフロントの男が半べそをかきながら鼻血を拭いているのが見えた。 「どうした?さっきから外でも殴り合いの音が聞こえたんだが・・・」 「・・・どこぞの賞金稼ぎかなんかでさぁ、女を紹介しろとか言って。ああいう連中ののおかげで普通の旅の人もここをあまり訪れなくなっちまったんで・・・ここんところ売り上げがさっぱり。やれやれ」 トホホ顔の男はぐったりと首をうなだれてしまった。開拓途中の星々ではよくある話しだ。その時外でその連中とおぼしき男達の怒鳴り声がす向かいの洋服屋から聞こえる。同時にあのトリの鳴き声と女の悲鳴・・・。ハーロックは軽いため息と共に歩き出した。煉瓦の星の短い夜は、日中射す宇宙放射線も少なく、心地よい風が吹いていた。 |
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