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第二章2
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| 風格 トチローがその恐るべき頭脳を駆使し、そしてハーロックの技術力とホセの働きで建造されたリヴァイアサン号はついに大宇宙へと飛び立った。宇宙を震撼させた大海賊キャプテン・ハーロックやクイーン・エメラルダスらがよく立ち寄ったとされるあたりは、銀河系にほど近い大マゼランもしくはアンドロメダ星雲にある。そこは宇宙屈指の無法者が集まる地帯であり、全宇宙で新建造されたリヴァイアサンがココを無事に航行出来る保証は無い。リヴァイアサンの建造を行ったトチローの人工惑星はリヴァイアサン号の周辺約15宇宙キロをつかず離れずついてきている。これはリヴァイアサンでコントロールされ、何かあったときのために常に艦の側を航行しているのだ。かつてキャプテン・ハーロックが40人と1羽と1匹を引き連れて旅を続けていたときも、「海賊島」と呼ばれた人工小惑星の母港を持っていたため、ハーロックはトチローの作った人工惑星を「海賊島」と名付けた。 艦橋の中央、すこし高くなったところに蛇輪とそれを挟むように多くの戦闘用コントロールレバーが所狭しとらなんでいる。ハーロック家の古の習いに従ってか、一見木製の古風な彫刻が施された蛇輪、そのの手前には威厳あふれる彫刻が施された椅子、「艦長席」が配置されている。全て外見は懐古趣味だが中は特殊合金のハイテク機器であることは言うまでもない。長身のハーロックが座ってもまだあまりある背もたれにガンベルトを掛けてなにやら落ち着かない様子でハーロックが腰掛けた。 (なんかしっくりこないな・・・。何が悪いんだ・・・?) 「おいおい!なんじゃその座り方は!もっとどっかりとこう・・・胸張って座らんかい!ったく」 クレーン式のコントロールチェアに腰掛けたホセがその遊園地のアトラクションを彷彿とさせる座り心地を確かめながらハーロックに声を掛けた。 「うっとおしいからこっちに来るな!どう座ろうと俺の勝手だろうが!ったく、どうも落ち着かん」 「そりゃおめーさんの度量の無さってもんじゃろが。もっとしゃきっとせんかシャキッと。第一その服がイカンな。ぼろぼろで穴の開いた・・・何だそのジーンズちゅうやつか。それによれよれのシャツ!ボタンをきちんと締めんかビシっと・・・もういい年してなんじゃぁまったく」 まるで小姑のように服装のことまで言われてハーロックもだんだん機嫌が悪くなってきた。確かに、その昔、同じような椅子に座り、必要であれば目の前の蛇輪を握って大宇宙を震撼させていたのは言うまでもない彼の父であり、彼はいつも総黒ずくめの戦闘用コスチュームを身につけていたのをホセは良く知っている。ハーロックはだんまりを決め込んで、腕を組んでひたすら前を見据えていた。ホセは少し気まずくなってしまったが、そこへ救世主現る。トチローがカップ麺とやかんを抱えて艦橋にやってきた。 「お〜い、飯にすっか?「海賊島」にあったカップ麺しか無いが・・・」 「艦橋で飯を食うな!馬鹿者が!」 機嫌を損ねたハーロックにはトチローでも手に負えない。彼の一喝は艦橋中に響いていた。ホセはトチローとすごすご食堂へと足を進めた。 「なぁに怒ってんだあいつ?」 「い〜んじゃよ。ほっとけほっとけ。・・・ん〜実に良い声じゃったなしかし。」 ホセは少し懐かしさを噛みしめているようだった。 食堂にたどり着いたトチローはホセとカップ麺をすすりだした。実に美味そうな音ががらんとした食堂にこだまする。 「この船は何処にむかっとるんじゃ?ワシは何も聞いとらんのだが・・・」 「あ〜、煉瓦の星。銀河系外周にあるちっぽけな球状星雲のどっかだったよ。おふくろの手記がそこを最後に終わっててな。」 「お前さんは行ったことが無い星なのかそこは?」 「通りかかったことはあったかもしれんが・・・あそこは開拓の最中何もないって聞いてる。立ち寄ったことは無いよ。だが、気にはなってたんだ。」 「ふ〜ん。」 煉瓦の星・・・地球からでは70,000光年以上離れた先にある。銀河を旅する者達のほとんどが見逃すほどのちいさな星雲の中にある。トチローはカップ麺をすすりながらもそれ以上ホセには何も話そうとはしなかった。 ハーロックはいつの間にか中枢コンピューター室へと足を運び、次々と光っては消える電工パネルとじっと見ていた。 (俺には分からない。なぜだ・・・あの時、噴火口に身を投げたとき、俺は確かに何かに守られていた・・マヌエラが全身全霊をかけて俺を守っているかのようだった。彼女は何かを知っているはずなのに・・・何も告げずに、そして俺に「ありがとう」と言い残してこの世を去った。・・・その意味すら分からん。・・・なぜだ。なぜなんだ。答えてくれ、リヴァイアサンよ・・・) しかしリヴァイアサンは何も言わず、ただプログラミングされた事を行っているだけの様だった。 「いたいた。やっぱりココか」 「トチロー・・・」 「さっきはすまなかったなぁ。つい気が緩んじまって・・・すまん」 「あぁ、こっちも突然大声を張り上げて・・・すまなかった。」 トチローはハーロックに歩み寄り、中枢コンピューターの電工パネルを見渡した。なぜ、ハーロックがここにいたのかは何も言わなくてもトチローには分かった。自分だって同じだった。もし、この船が最期に彼らの父、キャプテン・ハーロックと大山博士の魂を乗せた船、アルカディア号であったらと、心の底で願ってやまなかったのはトチローも、ハーロックも同じだった。その目で父親の業績を見たわけではない彼らにとって、宿命に身をゆだねる事に不安を覚えていた。 「ハーロックよぉ。焦ることはないぜ。」 「え?」 「もう・・・始まったんだしよ。焦ったて仕方がないと思うんだ。謎だらけのスタートになっちまったがな」 「いづれ全ての謎が解けると・・・?いづれ向こうからその謎解きをする鍵でも現れると?」 「そうだな。でもきっとその謎解きをするのは俺達なのかもしれんがな。それに、謎解きをする鍵はすでにお前が持ってる」 「・・・・そうだな。時間は夢を裏切らない・・・お前の親父さんの口癖だな。」 「大山家・・いや、俺達のご先祖様からの家訓みたいなモンだ」 「そうだな」 ハーロックはそう呟くと腰に下げたコスモドラグーンを抜いてトチローに差し出した。そういえば惑星ヘレスの一件以来トチローはコスモドラグーンをその手にすることはなかった。気にはなっていたが、リヴァイアサン号の建造に全ての時をかけた彼には、それをハーロックに問う余裕は無かった。そして問う必要性も感じていなかった。 「これはお前の親父さんが持ってたもんだよ。なんで俺に渡す?調整だったら自分で出来るだろ」 「俺が持つべき銃とはいえ、稼動させたのは久しぶりだったんだ。様子ぐらい見ておけ」 トチローは黙って受け取り、見たふりをしてすぐに返した。見なくてもその様子の程は分かる。すでに惑星ヘレスで実証済みだ。 「大切にしろよ。・・・俺達にはまだすぎた銃かもしれん。だが、これだけは言える。こいつにはお前の親父さんの魂が込められてる。お前以外に持つことは許されねぇんだ。マヌエラがそう言ってた。・・・そして、マヌエラの愛も・・・そこにある」 トチローは、ハーロックに死に目にあえなかったマヌエラの事を思い出させてしまうのが辛かった、そしてトチロー自身も辛かった。 ハーロックはホルスターに銃をもどすと深いため息をついた。あの晩彼がマヌエラにしたこと、あんな風に彼女を抱いたまま、永遠に別れてしまったことを彼女に申し訳ないと思った。 「男っていうのは、かくも情けない生き物かと思うと・・・時々嫌気がさしてくる」 「ほ〜う。分かり切った事を言ってくれるじゃねぇか。このスケコマシが。俺が何も気が付かなかったとでも思ってんのか?オラ」 「え?」 「マヌエラはお前に、お前の親父さんの面影を探してた・・・・でなきゃ俺がさっさと戴いてたよ。あんな美人、俺だってほっとけないからな。・・・ま、いいじゃねぇか。いい思い出を作ってやったと思えば」 「いい思い出?俺は彼女の愛に応えられたという事か?俺は・・・あいつを愛したという親父の気持ちも分からんというのに。・・・ふん、女というのはよく分からんな。」 女などある意味道具にすぎないという時がある・・・そう思っていたハーロックが、ようやくマヌエラの『ありがとう』の意味を少し理解した気がしてきた。感傷に浸りだしたハーロックの横顔は少しずつ暗い影を落としはじめた。恐らくは母親譲りの繊細な心をこれ以上複雑にさせないために、トチローはなにげなく毒ついた。 「お前みたいに女に苦労したことのない様なヤツに、女の事なんて分かんねぇよ。ずーっとな。ヘッヘッヘ」 「なんだと?女に苦労させられた事のないお前が言う台詞か」 「おーおー、言ってくれるじゃねぇの。じゃあ答えろ。どんな苦労をさせられたんだ?え〜?金貢がされたか?それとも子供が出来たから結婚してくれってせがまれたか?ん?あー分かった、ガキのくせにへたな女に手出してそいつのヒモだかパトロンだとかにボコボコにされたか?・・・オラ、なんか言ってみー?」 図星だった。ハーロックの顔に昂揚の色が伺え、拳がふるえているのが見て取れた。 「外に出ろ!これ以上そのでかい口が開けないように歯をへし折ってやる!」 「ああ、上等だ。そのな、二枚目ズラを大福みたいなツラに変えてやるぜ!」 掃除の行き届いていない廊下が俄に活気づき、それに便乗すべくホセが酒を飲みながらやってきた。さしずめ花見でもするかのように。 「おー大志を抱く若者達よ〜!その拳に満ちあふれる力もかくありなん・・・ふぉっふぉっふぉ。・・・や〜れやれ、キャプテンが言っておった『つまらん事でよくとっくみあいのケンカをした』っちゅーのはこういう事なのかの〜。まだまだ若いの・・・」 そして時折飛んでくるゴミをよけては喚声をあげていた。困惑の中、未知の旅をはじめたリヴァイアサン号の中は、それでも毎日が活き活きとしていた。たとえ今は三人であっても。そしてホセは感じていた。端では、まったく無いかのように思える強い絆がハーロックとトチローの間にはあり、それは運命でも宿命でもなく、彼ら自身が無意識のうちにそうさせているのだと。そして、宇宙に生きる男の風格を手に入れつつある事を。 |
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