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第二章1
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| 戦艦リヴァイアサン 地球を離れるとき、まだ少年だったハーロックは強制労働施設に居た男達、そしてバルザック軍人の慰安婦として収容されていた地球人の女達の希望と夢を背負って宇宙へ出た。時代は繰り返す・・・かつてグレート・ハーロックがそしてドクター大山がデス・シャドウと呼ばれる巨大戦艦を建造し、地下都市に幽閉された仲間達の夢を乗せて大宇宙へ旅立った時の如く、地球は堕落し、夢を抱いた者達はことごとく虐げられ、抹殺されていった。少年ハーロックは多くの血と屍を見続けてきた。悔しさと切なさと憎しみと失望が交錯した心はいつしか荒廃した星へと彼を導いていったのだった。彼の心は宇宙に点在する墓場の一つに呼応した。そしてその墓場で手に入れた鉱石ヘルブラディ。それはハーロックがいつか大山という男を見つけだして、自分たちの船を建造するために想像を絶する闘いを経て手に入れた鉱石なのだ。 時折激しく瞬く炎を中心に持つ塊を見てトチローもハーロックも時折とまどったが、長年暖めてきたトチローの設計で途中まで建造されている船に付け加えるように、自分たちの夢を乗せる船の建造に取りかかった。後に海賊島と名を変えたトチローの人工惑星のドッグに集められた資材と建造用の機械はすぐさまホセによって組み立てられ、戦艦の建造は急ピッチで進められた。 全長400m、本体幅55m、両舷にある翼を含めて全幅200mというトチローとハーロックの父、そしてかつてホセの乗っていたアルカディア号と比べても充分巨大な戦艦。当初のトチローの計画通り、エンジンは次元重力波動エンジン、古の戦艦に習った三連装のパルサーカノン砲を甲板前方、後方、艦底中央、そしてそびえ立つ艦橋塔に副砲、両舷に魚雷、重力波ミサイル、振動波砲発射口などをそろえた。艦橋、甲板にはハーロックが使う操舵輪、そして艦橋ではクレーン式コントロール席をはじめ、少人数で充分まかなえるだけの装備を施した。レーダー、シールドに関してもトチローの納得がいくまで研究が続けられた。 ヘルブラディ鉱石は他の惑星で採掘された鉄鉱石、さらに惑星ヘレスから持ち寄ったグランザイトと混ざり合い、恐るべき強度を持つ装甲盤をつくりあげた。時折血のような赤い輝きを見せる漆黒のボディは妖しくもあり、美しくもあり、また不気味でもあった。艦体の両舷中央には自由の印、髑髏の紋章がハーロックの手によって描かれた。 誰もが活き活きした日々を送り、トチローの予想を遙かにしのぐ速度で大詰めを迎えようとしていた。 「トチロー。どうした?」 汗まみれのハーロックが中枢コンピューター室にあたる艦内後部付近の部屋に入ってきた。トチローは巨大なはしごの上で細かいチップを組み合わせてうなっていた。トチローもハーロックもずいぶん髪も伸びた様だ。二人ともわき目もふらずに建造をつづけていたために髪はおろか髭もろくに剃らずにいたらしい。 「おお、ハーロックすまんな。・・・もう建造も大詰めだろ。名前考えてたんだが・・・」 「ああ、お前の作る船だ、お前の好きなようにするがいい」 「お前が本当に気に入ってくれれば良いんだけどな」 「なんだ?変な名前だったら俺はお断りだぞ。船を動かすのも嫌だ」 「へそを曲げるのはかまわんが、船が動かなくなるのは困るよ」 トチローはせかせかとはしごを下りてきた。中枢コンピューターはエンジンの動力とは全く別の動力源によって制御される。そして今はそれを必要としない。それはこの船の心臓部としてヘルブラディ鉱石の精神生命体、マヌエラの願い通り、彼女の祈りの炎を住まわせたからだとトチローは言う。中枢コンピューターの中心部にはヘレスでハーロックを守り続けた青い炎が燃えている。 「まったく謎だよ、ヘルブラディは精神生命鉱石とか言ってたが・・・鉱石自体はただの石さ。だが、とてつもなく無限なエネルギーを発してて、あの炎で制御されている。ひょっとしたら、あの炎はマヌエラの生まれ変わりなのかな」 「・・・そうかもしれんな。優しく、温かく、だが・・・どこか冷淡な・・・それにちなんだ名前を付けるのも悪くない」 「・・・・アルカディア号・・・理想郷・・・これに匹敵する名前を考えるのはコトなんだよ。ただ、ずっと前から考えていた名前はあるんだが・・・」 トチローは腕を組んで唸っていた。 「この不気味な光を放つ戦艦・・・。リヴァイアサンでどうかな」 「リヴァイアサン!」 ハーロックはその名を頭の中に巡らせた。それはアルカディアに相反するような名前だった。遙か彼方の昔、この世を消滅させると恐れられた悪魔。千年王国の伝説でそれは天空の神の使いによって巨大な鎖で縛られ、地獄の底へと投げ込まれ、1000年の眠りにつかされたという破壊の象徴。七つの頭と十本の角を持つと言われるドラゴン。かつては神の敵と言われていた存在。ハーロックは思った・・・ヘルブラディ鉱石は時の魔女によって1000年間ブラックホールの底に封印されていた事を。そしてトチローは話した。 「お前もこの名前の意味は分かってると思う。だが善悪の判断はその種の起源によって異なる・・・」 「分かってるさトチロー。俺もその名が気に入った。新しい時代の幕開け、そしてこの船を構築するヘルブラディ鉱石の起源にふさわしい」 中枢コンピューター内の小さな青い炎はは小さく振動しながらその名を噛みしめているようだった。 艦体中央から艦首に向けて7つの頭の代わりに7本の巨大な角・・・両舷に配置された6本にはブレイド式振動波、中央艦首にそびえる角には重力波動砲を装備、そして十本の角の代わりに甲板前部に三連装パルサーカノン砲(主砲)を三機、副砲一機、後方に主砲二機、副砲一機、艦底に主砲二機と副砲一機をあしらった。艦橋は上部に展望室、その下は第一艦橋、その下にサルーンを備え、艦橋下には第一艦橋中央に備えられた操舵輪と同じ物が置かれている。戦闘時には必要に応じて甲板上で操舵するための蛇輪だ。 艦尾にはアルカディア号をならって古風な彫刻があしらわれた艦長室・・・すなわちハーロックの部屋となるキャビンが置かれた。その上にそびえるマストには彼らのバトルフラッグ、黒字に白く染め抜いた巨大な髑髏の旗がはためいた。キャビンの手前には中枢コンピュータールームがある。リヴァイアサンは乗組員が寝ている間でもその中枢コンピューターによって航行を続けるのだ。 三人は艦長室に入った。ハーロックがそこでみつけた大きい木製の机は、そのキャビン同様懐古趣味の固まりだった。中世時代を彷彿とさせるアラベスク模様が随所に彫り込まれた重厚な木の机。ハイテクだらけ、機械だらけの艦内でゆっくり出来るようにとトチローが考えて設置したものだ。机に負けないくらい豪勢な彫刻があしらわれたベルベット張りの椅子に腰掛けるハーロック。トチローは顔がほころびなにやら嬉しそうに艦長室を眺めていたが、ホセは酒瓶を机に置いて少し肩を落としていた。昔を思い出したのだ。 「ホセ、昔を思い出してるのか?」 「・・・ん、すまんな。この年になるとな・・・昔のことを思い出さずにはいられんのだ」 そう呟くとつい昨日のことのように思い出を語りだした。 ----巨大なシリンダーがアルカディア号の内部にある。エンジンはゆっくりかつ力強く回り続けている。髭に白髪が混ざりだした頃のホセがそこにいた。エンジンシリンダー部に、自慢の歌を聴かせているのだ。ボロ靴にオイルまみれのズボンであぐらをかいて、がらがらの声が機関部に響かせる。ホセは思いついたままに、心のままに歌を歌う。その歌詞に深い意味は無いのだと本人は言うが、時折仕事の傍ら乗組員が口にするような歌とはまるで違う、その歌はさしずめ『荒波が来ては引く大海原』のような、そんな歌だった。 “遠い遠いはるか彼方から会いに来たよ。海を越えて・・・会いたかったお前の元へ。お前の瞳はまるで星の輝き、お前の唇は太陽のように熱い。なのにお前は泣いている・・・なぜ泣いているのか。たとえ俺が死んで時が過ぎようと。その屍が踏み荒らされようと・・・俺の骨は叫び続けるのに・・・お前を愛していると” 歌い終わって、足下に置かれたコップに酒を注いで飲み干した。その時後ろに人の気配を感じて振り向いた。 「・・・邪魔をしたか?」 「キャ、キャプテン・・・そこにおったんかい。」 「機関部からお前の声が聞こえたのでな。中に入ってきた。お前の歌う歌はもの悲しくて、胸を締め付けるような切なさに満ちている。そしてその奥にとてつもなく広い包容力と情熱を感じる。俺は、そんなお前の歌が好きだ・・・」 ホセは感動していた。尊敬するキャプテン・ハーロックにそんな風に見てもらえていたとは夢にも思っていなかったからだ。 「そう言ってくれるのはキャプテンだけだ。・・・一杯つきあってくれるか?」 「ああ」 キャプテン・ハーロックはホセの隣にあぐらをかいて、ホセからグラスを受け取り、まるで水でも飲むかのようにグラス一杯の酒を飲み干し、さらにお代わりを求めた。キョトンとしながらも酒をつぐホセにほほえむ。 「お前の歌のおかげでエンジンの調子が良い。俺はそう思う。こいつ・・・いやアルカディア号の全てに、俺とトチローの心と願いが刻まれているんだ。もっとも、闘いの度に改造を重ねてこれで何隻目かになるが、こいつはトチローの魂も頭脳もこの船に宿っている。お前のように心のある歌を歌ってくれるヤツがいてくれると、なぜかな・・・トチローも気が休まるんじゃないかと思うのだ。」 ホセはあまりに嬉しくて涙ぐんだ・・・その涙をハーロックに見せないように、わざと大きな声を出しながら話題を変えようとした。 「アルカディア号が数隻あるとは聞いていたが・・・やっぱり最初の艦を作ったときは・・・楽しかったのかの〜。わしはキャプテンや大山博士のように学がないからな、こんな大きな戦闘艦を作るなんて思いもよらんが・・・わしはこれでも若い頃から鉄いじりが好きでな、ガキのくせに銃や戦闘機作りをよくやったもんだ。もっとも大山博士には足下にも及ばないが・・・でもなぁ、はじめて自力で作り上げたときはそりゃ〜もう嬉しくてな・・・ふぉっふぉっふぉ」 ハーロックは一生懸命に話すホセをなおも微笑みながら見つめていた。 「俺も、トチローとアルカディア号をはじめて作った時・・・それはもう毎日が戦場のような状況だったが・・・それでも楽しかったのを覚えている。なにしろまだまだ若かったからな、しょっちゅうつまらんことでとっくみあいのケンカをしながらだった。・・・今思うと良く出来たものだ」 「それでもお互いの夢に向かって目指す意志が固かったからだろうなぁ。」 頭の後ろで手を組んだハーロックはそのままエンジンシリンダー部を取り囲む柵にもたれかかった。 「そうだな・・・あの船はノアの箱船の様だった・・・彗星の衝突を避けられなかった惑星の人々を脱出させるためのな。失望に駆られていた人々は俺とトチローが訪れて以来、自由の歌を歌うようになっていった。俺とトチローの壮大な夢、そして彼らの希望もあの船に乗せて飛び立ったんだ・・・」 「まさに門出にふさわしい船じゃったわけか」 「門出・・・か」 ハーロックの目は少し懐かしさに浸るようにグラスを見つめていた。普段では決して見ることのない一面を目の当たりにしてしまったホセは、一瞬困惑の表情を浮かべていたが、しだいに息子を見るような目で彼を見つめていた。大きな闘いの都度、新しくアルカディア号を作ってきたとはいへ、それぞれの艦に思いではあるだろう。しかし、たとえ無謀だと分かっていても、彼らは旅立たなくてはいけなかった、大いなる夢と自由への希望を抱いて。1号艦はその門出の船だった。---- 「門出・・・か」 あの時のキャプテン・ハーロックと同じトーンで、ハーロックはこう呟いた。 「ま、感傷に浸っとる場合ではないんじゃがな。そうそう、いいか、アルカディア号には常時41名の乗組員がそれぞれの持ち場をもっとったんだ。宇宙でアルカディア号だと知って闘いを挑んでくる馬鹿者はそうそういなかったが、それでも全くなかったわけじゃぁない。戦闘時には一切のミスは許されない、それぞれが命を懸けて戦っておった。だがワシらはたったの三人。これが何を意味しておるかわかるな」 さっきとはうって変わってきびきびと話をはじめるホセの姿にトチローもハーロックもあっけに取られていたが、彼の言っていることは全くの事実。ホセは彼らの知らないことを知っている唯一の存在であることを強く感じた一瞬だった。 「なるほどな。話に聞いてはいたが・・・。さて、どうするトチロー?」 「それはお前に任せるさハーロック。ただの航行ならまだしも、戦闘ともなればそれなりに乗組員は必要だろう。だが生半可なヤツは乗せるなよ。」 「骸骨の旗に、共に戦い、共に暮らし、共に死ぬことを誓い、宇宙の海に自由の旗を翻そうと誓う者でなければ乗艦できない・・・だろ」 「・・・だな」 三人はその晩、出来上がったばかりのリヴァイアサンの中で酒を酌み交わした。久しぶりに子供のような笑顔のこぼれた瞬間だった。いつしか彼らは一人前の男の顔に成長し、以前にもましてむさ苦しさも漂う様になってきていた。 かくして宇宙海賊戦艦リヴァイアサンはトチローの海賊島の中で完成を迎えたのだった。緩やかに時の流れに身を任せるように航行していた海賊島は、蟹座星雲を遙か離れ、間もなく銀河系外周にたどり着こうとしていた・・・。 |
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