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第一章2
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| 惑星ヘレスに小男あり 惑星ヘレス。まるで銀河の浮島のように存在する、浮遊惑星。ヘレス山と呼ばれる鉱山を要に扇状に荒野が広がり、村が点在する、薄汚い辺鄙な星だ。地球から7000光年ほど離れた所に存在する蟹座星雲の先にそれはある。古い歴史上では黄泉の国が存在すると謳われ、今だにそこは銀河の墓場と呼ばれている。あらゆる重金属を含んだ小惑星が浮遊し、暗黒地帯を形成しているため、もはや銀河中を航行する戦闘艦や貨物船すら、その航海図にこの星を載せる者はいない。惑星ヘレスは特殊鉱石グランザイトの小惑星と騒がれ、数々の戦艦の装甲盤に使うための重金属物質を作り上げるための鉱石が流刑者達によって掘り出されていた事もあった。しかし、基盤の弱い浮遊惑星は地殻変動を繰り返し、軍に管理されていた者達とその機器の多くが失われた。偶然とも言える確立で生き残った流刑者達は、それが技術者や研究者であろうと誰一人としてこの星から外に出ることは許されず、多くが宇宙放射線病に苦しみ、またある者は肺ガンに冒され、あるいはその寿命を全うして、次々と骨を閉山となったヘレス鉱山の麓に埋めた。鉱山同様に、使い捨てのために集められた者達がひしめき、虐げられ、朽ち果てるのを待つ星・・・。こんな星はこの大宇宙にいくらでもある。私欲渦めく人間達がこの世に生きている限り、決して無くなることは無いのだと、ハーロックは思った。 駅前には物乞いやスリがたむろし、その先には枯れ果てた野と、今にも崩れそうな石と土壁で作られた、築何百年ともいうような小屋が並ぶ。基礎が石でできていても、その上の建築は土壁と木柱を組み合わせてあるため、崩れると石造りの部分だけが残っている。度々起きる地震によって、天井が落ちてぺしゃんこになり、基礎だけが残る小屋が多い。石壁にはランプが点々と取り付けられていて、暗闇の中ようやっと道が分かる程度に灯り、その路肩に人が寝ころぶ。生きているのかさえもはっきりしない。時々吹く風が黄色い砂を巻き上げる。 ハーロックは歩き出した。今まであちこちの星を旅してきた。時が止まったような町並み・・・別に珍しいことでは無い。ありがたいことに、こういった星ではそこそこ美味い地酒が飲めるのと、あるかないか分からない物価のおかげで食料が手に入りやすい。多少腐ったものでも、今のハーロックにとっては気にすることではないし、洗練された町並みよりははるかに気持ちが落ち着けることができた・・・。無法者も賞金稼ぎも、ましてや軍人なども、そこにはいなかった。 人一人通れるかほどの路地奥に酒場はあった。テーブルはいくつかうまり、カウンターにも数人の男女がいる。どれも気重そうに飲んで、静かに会話を交わしていた。客のほとんどがハーロックよりずいぶんと歳をとった者達ばかり。この星には若者が少ない。全くいないわけではないが、ほとんどは皆大都会目指して星を離れる。どの時代にもよくあることだ。 「酒をくれ、それと、これで足りるだけの食い物を。」 ハーロックはポケットから一掴みの小銭をカウンターに置いた。ローカル線のチケットを買ったために残りはほとんどない。この星での目的を達するためにはあとどれだけ金が必要になるか不安もあったが、背に腹は代えられない。目の前に並べられた食料をひたすら腹の中へ押し込んだ。もともと少ない小銭だ、それほど量はなかったが、それでも腹一杯になれた。メニューを見ればどれも安い、安い料理を涎を垂れそうになりながらほおばる卑しい男・・・今の自分は所詮卑しい男だった。だがそれがどうした。 質の悪い安酒も今の彼には最高のごちそう。一気に飲み干して顔に血の気が戻った。落ち着いたところを見計らって店主がグラスいっぱににバーボンを注いでハーロックに差し出した。 「あんた、見ない顔だねぇ。もしやさっきのローカル線できたのか?」 「・・・・・・それがどうかしたか?」 「そんな怪訝な目で見るこたぁなかろう。この星に人が降りるのは珍しい・・・そう思ったんだよ。ローカル線だって年に数回しかここを通らん。それもココを離れて安全な星へ移住するためにな。ここは旅人でも、無法者でもそうそう寄りつかない辺鄙な星だ。なんにもねぇところだよって。これはわしのおごりだ、飲め。ヘレス(ここ)の男はあんたが思っているより寛大じゃよ」 髭でおおわれたオヤジの口は微笑みをたたえ、白髪ばかりの髪の向こうの小さな目がハーロックをやさしく見つめて頷いていた。たいていの者はハーロックを見てたじろぐ。誰もがその瞳にむき出しの殺気を感じ、恐れる。しかしオヤジは違った。 長く旅を続けていると、こういった男に出会うことがある。おおくはその年輪が、そしてその多くは、数々の闘いをくぐり抜けてきた戦士の風格でもあった。 「・・・鍛冶屋を・・・探している」 「ほう・・・、ここは鍛冶屋が多いからな。みんな腕利きの鍛冶屋ばかりだが・・・誰をさがしとる?」 「名前までは・・・」 「そうか。まぁ、ゆっくり探せばいいさ。大都会で探すよりは見つけやすいだろて。だがな、ヘレスにはあんたのような外宇宙から来る者は少ない、ヘレスのもんはみな無口でよそ者とはうまく話ができんよて・・・なんかあったらあの男に聞くといい」 薄暗いカウンターの端に座る男を指さすが、そこに誰かがいるくらいにしか見えなかった。深々と被った帽子には無数の弾痕、その奥の顔までは見ることができない。小さな手でグラスをつかみ、帽子の奥の暗闇に消えては出てくる異様な光景がしばし続いた。しばらくその男をみていたハーロックだったが、にわかに酒場がざわめき、奥から拍手で迎えられる老人と女に視線が向いた。舞台とも言えぬ片隅のイスに二人が腰掛けると、酒場はまた元の静けさに戻ったが、客達はこの人物を食い入るように見つめている。老人は少しばかり手を合わせてからしわがれた声で歌い始めた。 “行き止まり・・・行き止まり。可哀想な羊がいたよ。誰もいない・・・ここには誰もいないのに。 ひとり娘はどこにいったのか、あの子ををこの手に抱く事ができるのなら、神様私は貴方に祈りを捧げます。 故郷を離れるときは、故郷を離れるときは、泣きながら見送った・・・泣きながら。もう帰ることのない故郷よ。一人娘は何処に行ったのか、あの子をこの手に抱くことができるのなら、神様私は貴方に命を捧げます。” しわしわで、ごつごつした手。時折その両手を合わせながら低い音を立てる。その顔は切なく哀愁を帯び、どうしようもない息苦しさを醸し出した。やがて語気強く叫び謳う老人に合わせて、女はギターをかき鳴らし、酒場の客達は「合いの手」を入れだす。涙を流しながら。 ハーロックは目前にある余興にはあまりにも壮絶な雰囲気に呆気にとられるしかなかった。カウンターの端に座る男も・・・、泣いているのか、鼻をすすってグラスをぐっと握りしめた。 ---言いようのない哀しさ。そしてどこか懐かしささえ感じる。故郷を離れた男達が、朽ちゆく己を哀れむ歌。帰ることのない故郷を、家族を、決して戻ることのない若かりし頃を思い起こし涙する。 やがて、いかったハーロックの肩が落ち、まどろんだ瞳でじっとグラスを見つめていた。 ハーロックは歩いていた。酒場で過ごすにも、物取りにたかられてはたまったモノではない。もちろん宿に泊まるほどの金はないわけで、ひとまず静かに眠れる場所を探していた。駅前の村、カイザ地区はヘレスに点々とする村の中では比較的大きいが、それでもちょっと歩けば目前にごつごつとした荒野が広がる。惑星ヘレスの夜は長い。数百年前に作られた人口太陽は一日一度、強烈な太陽光を発し、大地を乾燥させるそのために年がら年中夜は冷える。 時折ヘレスを通過する銀河超特急のけたたましい汽笛が頭上に響き、軌道管理衛星の発するライトで道が照らされた。足が止まる。 「だれだがしらんが、物乞いならやるモノはない」 さっきから後を、ネズミが走るようなそんな音を立てて誰かが追ってきているのを感じていた。 「なんだよ、おまえさんだって大して変わらないだろうが。しっかし大した警戒心だなぁ〜。ずいぶん離れてついてきたつもりだが、ここまでビンビン感じるよ。だいちその長い足のおかげか?歩くのが速えぇんだよ。」 振り返っても目前には誰もいなかった・・・というよりは、視線に入らなかったと言うべきか。少し視線を下げると、先ほど酒場のカウンターにいた帽子が目に入ってきた。それでもハーロックから数メートル離れていたのだが。帽子同様いくつもの弾痕があるボロ布をまとった男が近づいてきた。 「近づくな!物乞いならやるモノはないと言ったはずだぞ。」 「人を物乞い呼ばわりするな!おまえさんだって充分物乞い風の風貌だろが!ったく親切に道案内してやろうって思ったのに・・・。いいか、このまままっすぐ行っても墓地しかねぇ。安むんならここらで歩くのやめとけよ。死ぬぞ。」 酒場のオヤジの言葉を思い出した。何かあったらこの男に聞けと。 「あんた鍛冶屋を探してるんだろ?こんなけったいな星に何でまた・・・。まぁいい。座れよ。酒場から一本いただいてきた。食い物もある」 「ドロボーか?」 「・・・・・!だ・か・ら!」 右足で三度大地を踏みならし、その後数分間、男はぶつぶつと独り言を続けた。この男は自分の肉体に相当なコンプレックスを持っているのかもしれない。背が低く頭がでかく鼻は低く、足は短くガニ股。メガネが無ければ何も見えない近眼。 よくわからないが、ハーロックはしばらくこの男の独り言につきあうことにして、近くにあった岩陰に腰掛けた。警戒心が無くなったわけではない・・・ただ、長く一人旅を続けていたせいか、良くしゃべるこの男が奇妙でたまらなくなってきた。 「・・・・で、とかく俺みたいな品疎でブサイクな男を見るとたいていのヤツは物乞いだの乞食だのとのたまうわけで、そういうことを言うヤツに限って足が長くて顔が良くて・・・で、んで、・・」 「もういいか?もう同じ事を3回繰り返した。気が済んだのならその酒飲ませろよ」 「・・・・うん」 小男が差し出した酒、「悪酔」とラベルの貼られた吟醸酒を瓶ごと口に運ぶハーロック。ラッパ飲み、良い飲みっぷりだ。さっきまで吹いていた風がゆるみ、黄色い砂塵は足下ををかすめる程度にまで落ち着いている。そんな中、「どうせ野宿するつもりだったんだろうが」とつぶやきながら、物乞い風の男はそそくさと枯れ木を集めて火をおこした。 「おまえ、この星の人間か?酒場のオヤジはこの星のヤツは皆無口だと言っていたが」 「うんにゃ。どこだったかな。もう忘れたよ、長いことあちこち旅してきたんでね。ちょっと用があってココに立ち寄ったんだが、何せココの奴らは働かんからな、予定が狂ってしばらく住み着いてるってわけさ」 「そうか」 詮索無用・・・そんな言葉がお互いの頭にはあった。必要であれば自分で言う。そうでなければ言う必要は無い、同様に相手に対しても・・・それが旅人のたしなみだ。少なくともお互い、話の分かるヤツだと感じはじめていた。 ハーロックは腰掛けながら重力サーベルをベルトごと外した。男のメガネが一瞬光る。 「こいつが目当てなのか!」 「・・・いやぁ、いまどきそんな古風なものをぶら下げてるんでね。珍しいって思ったのよ。どうやら中心の重力エネルギー圧縮パーツがゆがんでるみたいだな?さしずめそのへこみ、微粒子ビーム砲でもくらったか?そいつはちょっとやそっとでゆがむようなシロモノじゃないぜ」 「マゼラン宙域で乗っていた船が狙われてな」 (ひょっとして・・・こいつか?風変わりな銃作りの名人とは・・・?風変わりではあるが、とても名人とは思えん) たき火でこんがり焼き上がったハムを、その大口でほおばる小男。その勢いといったら、先ほどのハーロックの数十倍の速さでむさぼり、あっというまにたいらげた。満足そうに腹をポンポンと叩いて見せる。傷だらけのハーロックを見てたじろがないのは酒場のオヤジもそうだったが、それ以上にこの男は肝が据わっている。もはや宇宙海賊や無法者、賞金稼ぎが巣くうマゼラン宙域を航行する一般人などいない。それを「ふ〜ん」の一言でかたづけるばかりか、当たり前のようにこのサーベルを分析するあたり、ただ者ではないと思わざる得ない。それともまともに取り合っていないのか、マゼランの恐ろしさを知らないのか。 「ふ〜ん。ま、今でもサーベルを直せるヤツなんて・・・俺に任せりゃすぐに見つかるさ。安心しろ」 小男はそう言ってメガネの向こうからじっとサーベルを見つめた。へこみでゆがんだつかの髑髏の彫刻が、この男をぐっと惹き付ける。さらにハーロックの纏っていたローブの内側には白抜きの髑髏の印。このローブは元々は旗だったに違いない。小男の、メガネの奥のしょぼしょぼの目が大きく見開かれた。ハーロックはこの小男に全身を舐めるように見られたが為、少し身を退いた。 「そのローブは旗か何かだったんじゃねぇのか?そのサーベルのつかにも同じ印が付いてるな。お前さん名前は?」 「うるさい!つくづく気味の悪いヤツだな。名前なんぞどうでもいいだろうが。おい、くっつくな!」 「わりぃ。目が悪いんでね。名乗りたくなきゃ名乗らなんでもいいさ。それに、そいつはどうやらとても大切な物のようだし、盗品じゃなさそうだな・・・」 「・・・・悪かったな。さっき物乞いだのドロボーだの言ったのは誤る。だから俺をドロボー呼ばわりするのもやめてくれ」 「・・・いいんだよ。いままでだってこの容姿のおかげでさんざん虐げられ、踏みつけにされ、侮辱され、屈辱を受けててきた。んだがな、その屈辱が男の成長のバネとなり、糧となる。・・・・もっともやられっぱなしじゃオトコがたたん。やられたらやり返す。必ず」 「やり返すのか?・・・俺に」 ハーロックの眉がぴくりと動き、横目で小男を見据えた。 「うんにゃ、勝負のつかないケンカはせん。それに、俺は、酒場でのお前の食いっぷり、飲みっぷりが気に入った。ふぁ〜あ」 大きなあくび。メガネ男は大の字になって大地に寝転がった。少しばかりの土煙が立ち、この男を見下げるハーロックをかすめる。そしてさらに続けた。 「そのサーベルの印・・・。髑髏の紋章。そいつを掲げているヤツに・・・卑怯者はおらん」 ハーロックの目がおおきく見開かれた。 「お前・・・ひょっとしてオオヤマっていう名前を・・・・」 その時すでに小男は大の字でいびきをかきだしていた。 |
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