ぷち・さだだ劇場4話
洗剤
「何度言えば分かるんだ!そっちはこの洗剤でパネルにはこれ!ガラスが曇ったらどーする!。あ〜〜!ボタンの汚れはこれで拭けっ。だぁーーーー!そこ間違えるな!それはスポンジじゃない、激落ち君だろうが!」
「す、すみません!!」
「ったく!」
ヤマト艦内砲塔部。砲術科チーフである南部の声が響き渡る。ヤマト艦内初の大掃除を目前に、一番手間のかかる各砲塔部の掃除が一足先にはじまったのだ。
「あ〜あ・・・なんで俺たちが・・・」
南部の足下には十種をこえる洗剤とタワシ、スポンジ、モップが並べられ、砲術科クルーは箇所によって洗剤その他を使い分けなければならないという試練にぶち当たっていた。
「おお、南部。今日も喝が飛ぶな」
「真田さん!いいところにきてくれました。見て下さいよこの洗剤の種類の数!」
「まぁ、どいつもヤマトの掃除を迎えるのは初めてだからなぁ・・・」
「あいつらったら分け分かんなくなってて。なんとかなりませんかね?」
真田が
たりを見渡し、腕を組んで首を傾げた。てんてこまいの新人クルー達がうようよいるのである。と、その時である。何とかならないか?の言葉に、なぜか『ぷちさだだ』は反応してしまったのだった。
『あぼーーーーん!( ̄^ ̄)/』
ぷちさだだが南部の発言に疑問を持ってしまった。例によって羽をばたつかせて南部の頭にピコッと蹴りを入れると不機嫌な顔で真田の頭をバトンで叩く。突然、真田は何かを思い付いたのかの如く、きびすを返して走り去ってしまったのだった。
「ちょ、ちょっと真田さんーーーん!!・・・なんだよ、突然・・・」
「きっといい掃除ロボットが思い付いたんじゃないっすか?」
坂巻の声で南部の顔が明るくなった。
「そうか!!やったな、これで楽に済ませられるぜ。よし!今日はこの辺で一旦終了といこうぜ。俺はちょっと部屋で休むよ」
暫くして、くつろいでいる南部の部屋のドアをバンバンと叩く音。飛び起きてドアを開けた南部の前には、エプロン姿の真田が巨大な台車を持って立っていた。
「ど、どうしたんですか!」
と、南部の声を聞くか否か、真田は台車をがらがらを押しながら南部の部屋に入っていた。台車の上にはなにやら汚れ物と水槽、そして大きな白い布のかかった山積みの物体があった。真田はそそくさとグローブを取り付け、台車から一本のボトルを南部の前にズズイと差し出す。真田のその嬉しそうな顔が南部には恐かった。
「できたんだよ!南部!これぞ万能洗剤『ハイドロクリーナーD』だ!」
「え?」
なにやら聞き覚えのある名前だというのはさておき、真田はその『ハイドロクリーナーD』を水で薄めた液の入ったボトルに持ち替えた。
「よく見てくれ、これはハイドロクリーナーDの1%液だ。これを皿の油汚れにシュッと一拭き。見る見るうちに汚れが落ちる。泡立ちも少なくてすすぎが楽だぞ!この汚れの落ち具合は今までの食堂の洗剤の三倍のパワー(当班比)だ」
「は、はい?」
ーーー当班比ってなんだよーーー
「次はこれだ、アナライザーの修理で機械油だらけの俺の艦内服。この水槽には15%液が入っている。今回は汚れの落ち具合を確かめるために半分だけ浸けてみよう。どうだ?こんなに真っ白だろう?」
何の躊躇もなく実演を続ける真田の姿に南部は硬直したままそれを見続けるしかなかった。次々と汚れ物を出しては、いかに『ハイドロクリーナーD』がすばらしいかを目の当たりにする。
「いいか。濃度をかえるだけであらゆる汚れを落としてゆくこの『ハイドロクリーナーD』は、ミサイル部のすすはもちろんのこと、原液で使えば砲塔部のぎとぎと油なども簡単に落ちるぞ!!」
「す、凄いですねぇ・・・でも、やるのは俺たちなんですよねぇ」
「当たり前じゃないか、これはお前たちが洗剤の種類に翻弄されないように作ったものなんだ。もちろん、機関部や艦橋、食堂でも使うぞ。あ、それからこれが使用説明書だ。それぞれの汚れに応じた濃度が書いてある。まぁ、砲塔部は汚れの濃度が濃いからな、手荒れ防止専用グローブとスポンジも付けるぞ」
と、分厚い使用説明書、グローブとスポンジを手の上にのせられた南部はいよいよわなわなとしだした。飄々と語る真田のエプロン姿も許せないが、掃除ロボットを期待していた南部の落胆は大きい。片づけに入った真田の後ろ姿へ、声を大にしてこう言った。
「こんなのいらないですよ!俺は手間のかからない掃除ロボットとか期待して・・・」
「南部・・・」
低く静かな声で答える真田。機嫌を損ねた。と南部の背中に冷たいものが走る。
「コスモタイガー隊がキャノピーを手で拭いているのを知ってるか?古代だって、コスモゼロの点検は自分の手で行ってるじゃないか。そうやってみんな大きくなっていくんだぞ。人間の手と目は時として機械では見過ごす小さな汚れも見逃さない」
「はぁ・・・でも、クルーは皆、新米ばっかりで・・・人数はいても・・・その、かえって手間が」
だが、くるっと振り向いた真田の目は血走っていた。血走ったまま、真田は南部の肩をがしっとつかむ。
「違う違う!違うぞ南部!機械には・・・機械には・・・愛だ!!皆で力を合わせて乗り越えろ!」
まるでデザリアム星に波動砲を撃つ時の如き剣幕。その気迫にさすがの南部も頷くしかなかった。
「わ、わかりましたっ!頑張ります。皆で・・・はい。あの、でもこれ一本だと・・・」
真田はフッと笑って頷くと、台車に乗っていた山積みの物体にかかった白い布をつかみ取り、一気に剥いだ。
「はっはっはっ!そんなこともあろうかと!今なら『ハイドロクリーナーD』の原液2タンクにメモリ付き詰め替え用ボトルを100本サービスだ!。足りなかったら工作班の連中に言ってくれ。200本でも300本でもあっという間に作るぞ!じゃぁ、頑張れよ!」
真田は台車を置き去りにしたまま、手をひらひらさせて南部の部屋を出ていった。南部は両手の上の説明書とグローブ、スポンジ、目前の詰め替え用ボトルをじっと見つつ、脱力した。戦闘機とヤマト各砲塔部の規模の違いは新人砲塔部員総動員したってあまりにも違い過ぎだと・・・。