ぷち・さだだ劇場第10話
ミュージカル
巡航も長くなると、機関室クルーの大半が休憩モードだ。他の班のクルー達は第一艦橋を除いて、ほとんどが訓練や食事、整備に精を出す。しかし、航行中常にエンジンを見張る機関部員達にとってはつかの間のプライベートタイム。特に機関長ともなると、第一艦橋と機関室をいったりきたりで忙しく、徳川彦左衛門はそのプライベートタイムを機関室の片隅でとっていた。山崎の入れたこだわりのコーヒーを飲みながら、地球にいる愛娘:菊子の一人娘にして徳川にしては初孫にあたるアイ子の手紙を読んで微笑む。

「おや、休憩中でしたか」
「おお、真田技師長。どうされました?」
「いやいや、たいした用ではないのでお構いなく」
真田が微笑むと、その倍くらいの優しい微笑みを返す徳川。いざとなればその歳を全く感じさせない体力と統率力に物を言わせ、頑固一徹な職人男。しかしそんな彼も孫の手紙を読んでは顔もほころぶものだった。
「アイ子からの手紙です。いいもんですなぁ、この歳になってつくづく思う。アイ子も手紙を書けるようになったんだと」
「それはよかったですね。かわいいお孫さんですからね」
「今度地球に戻ったときは、一緒にどこかに行こうと。まぁ忙しくてろくに遊んでやれませんからな。こういう時どこに連れて行ったらいいものか・・・。もう動物園は飽きたようなので・・・やはり遊園地ですかな?」
正直、遊園地には全く良い思い出がない真田である。ジェットコースターの事故で姉を失い、自分も手足を失った事は、古代とせいぜい沖田くらいのもので、クルーのほとんどが真田の四肢が機械であることも知らないのだ。
ーーー遊園地のどこがいいんだろう!?ーーー
故に真田ならではの疑問である。・・・・・疑問。
「あぼーん∫(TOT)∫」
真田の疑問に反応したのは『ぷちさだだ』。誰にも、本人ですらも見えない・・・しかし真田の頭上に住む・・・それが『ぷちさだだ』である。

「ゆ・・・う・・・え・・・ん・・・ち・・・?」
「?・・・どうかされましたか? 技師長??」
真田の表情が一変したのに気付いた徳川はきょとんとした顔で真田を覗き込んだ。
「遊園地はお止めになった方がいい」
低く唸るような真田の声に幾許の異変を感じる徳川。しかし、彼からすれば他愛もない話題だ。
「そうか・・・ではどこがいいですかなぁ〜」
「ミュージカルがいいでしょう」
「ミュ・・・ミュージカルですかな!?・・・はて・・・」
「そう、ミュージカル! 今なら地球では『オペラ座のライオン』と『ゲッツ!』がロングラン中ですぞ!」
といいながらターンをして両手人さし指で徳川をビビッと指して見る。数百年前に流行ったネタだ。
『きゅっきゅ、きゅっきゅ』
ぷちさだだが満悦な面持ちで真田の頭の上で一人ラインダンスをしている・・・のは誰にも見えない。

「はぁ・・・」
「これでも私は子供の頃にブロードウェイミュージカルに憧れたことがありまして」
そんな有り得ないような話をして表情が見る見るうちに活き活きとしてくる真田。その目はまるで星をたたえたかのように輝き、やたら身軽で、その立ち姿すらなにやらスタイリッシュだ。まったく気乗りのしていない徳川ではあったが、そこは大人。きちんと真田の言葉を聞いてはいる。
「ブロードウェイ?・・・あぁ、わしも若い頃はよくマンガを買いに行きましたぞ!」
それは『中野ブロードウェイ』だ。遊星爆弾が落ちるまで、そこはオタクの聖地だった。
「ミュージカルの聖地です。ニューヨークの!」
とうていミュージカルスターにはほど遠い真田の顔がドアップになった。
「しかし〜。わしはどうもあの突然歌い出すわ踊り出すわというノリが受け付けんのです・・・。アイ子は女の子だからいいが・・・連れていくとなると・・・わしが・・・」
「な〜にを言っているんです!ミュージカルとは、想い・・・パッション・・・それを言葉にするとき、自然に歌となり踊りとなってしまうのです!!・・・良く考えて御覧なさい機関長。我々が多くの地球の人々の切なる想いを背負ってヤマトに乗り込んだ時を! 到着できる保証など全くない旅に出た時の我々の想いをーーー!!」
やたらと良く通る大声に手ぶり身ぶりのジェスチャー付きの真田の姿に徳川は思わず周りを見渡してしまった。幸か不幸か誰もいない。・・・真田はそれを知ってか知らずか大声で歌い出したのだ。

「さらばぁ〜〜地球よぉ〜〜旅だーつ船わぁ〜〜〜♪宇宙ー戦艦〜〜〜!ヤーーーマーーートォーーー!!」
「さ、真田技師長?どうされたんですか?」
それでもいたって冷静な徳川だ。小首を傾げながらじ〜っと真田の豹変ぶりを怪訝に見つめはじめる。
「かなら〜〜ずここへぇ〜〜帰ってくると〜〜♪手を振る〜ひとぉにぃ〜〜笑顔〜〜でこたぁえぇぇぇぇ〜〜〜〜!!」
「・・・そんな大げさな。 実際てんやわんやで笑顔で答えてる場合じゃなかったでしょう。 それは技師長がよく分かってるはずですぞ」
なんてクールなんだ。そのクールさは頭の涼しさからくるのか? あまりにクールな徳川におもわず真田の動きが止まった。
「こほん」
静かになった機関室。せき払いして姿勢を元に戻した真田だが、ぷちさだだが反応している真田はだだでは起きない。
「ま、情熱は若い者の特権です。若さ故に情熱を燃やし・・・ゆえに歌い踊る。若さ故生命力に満ちあふれ、アドレナリンが彷佛し、細胞が活性化される・・・細胞の老化した老い先短いあんたにゃ分からんですな」
言うに事欠いて「あんた」呼ばわり。ぶち切れそうになった年長者:徳川だったが、一方で徳川は上官に歯向かえない旧体質である。キャリアの真田にノンキャリアの徳川。地球に帰れば上官は真田だ。
・・・なんてことまで考える徳川はやっぱりクールだった。
「これはアイ子ちゃんならきっと分かることですがな。はっはっは」
真田は軽快なステップを踏みながらその場を去っていくのであった。いったい何をしに来たんだ!?

「思い〜〜い込んだら試練の道をぉ〜〜〜ゆくがぁ〜おとっこのぉ〜〜ど根性〜〜〜!! わしとてまだ若いもんに負けんぞーーー!!」
と真田のいなくなった機関室で叫んでみる徳川は、今誰もやらなくなったウサギ跳びで波動エンジンへと戻っていくのであった。
物陰から『父ちゃん・・・』 と涙する徳川の長男:太助の姿があったとかなかったとか・・・。

*あぁ・・・最後はなんだか声優つながりで言わせてみたかったんだよ・・・(爆)