ぷち・さだだ劇場第8話
スナック
宇宙戦艦ヤマトは宇宙戦艦としてはそこそこ小さい戦艦だ。小回りが利くともいえるが、中には数百人が乗っているのだから手狭といえば手狭。そんな手狭な中で暮らす彼等は時には長い時間宇宙空間を旅せねばならない。そうそうアミューズメントパークのような星に着陸はできないのだ。彼等の楽しみといったら、ヤマト亭での食事以外ではおのおのゲームでもして遊ぶくらいか・・・新旧入り乱れの昨今。娯楽にも差がでるものである。

「なんで俺が名前を決めなくちゃならないんだよ・・・」
揚羽が廊下でぼやいた。彼の目の前にヤマト亭の入口にでかでかと書かれた看板。生活班である親友の土門が『おしゃれな名前をつけたい』との一心から、まよわず揚羽に名前の依頼をしたのが始まりだ。生活班炊事科の先輩平田や幕の内は、その『おしゃれな名前』というのが今ひとつしくりこず、土門に一任していた。
「これからヤマトを支える若者に任せる」
というのが彼等の言い分だが、一方で名前で仕事の質が向上するわけでもなしというのが本音といったところか。

「揚羽。どうしたんだそんなところで。今日の演習は終わったのか?」
「あ、真田副艦長。お疲れ様です。演習ならもう大分前に終わってますよ」
「看板がどうかしたか?」
「なんでも名前を変えるんだそうなんです」
 真田は一瞬きょとんとした顔でヤマト亭の看板を見つめた。ちなみに、ここはヤマトの食堂でありながらも、時にはカフェ、夜になれば酒も飲めるようになるらしい。もちろん、夜になれば揚羽のような若い連中は酒など飲んではいけないため、出入りできるメンツは限られるだろう。 ちなみに、ヤマト1で沖田が古代と酒を飲んだことがあったが、あの時点では『沖田がヤマトの法』であって、今は違うのである。
「・・・・・で?お前と関係があるのか?」
「いや、ヤマト亭の名前を新しくしようって言い出したのは俺なんですけどね・・・。土門曰く『おしゃれな名前』がいいんだそうですよ。博識の真田副艦長なら、いい名前が思い付くんじゃないかと思うんですが?お力を御借りしてよろしいですか?」
「ふむ・・・」
今ひとつ合点がいかない様子の真田は顎に手を当てて首を傾げた。『おしゃれ』とはなんぞや?『おしゃれ』と書き:身なりや化粧を気の利いたものにしようとつとめること。らしい。
「どんなおしゃれな名前にしたいのか?」
「候補はありますよ。『リストランテ・ヤマト』とか『ル・メゾン・ド・ヤマト』とか・・・」

おまけ。この間散歩中に発見しました。
なんぢゃそりゃ?マンションの名前か?と目が点になっている真田。なんで名前を決めなくてはならないのだろう?真田の頭の中は疑問でいっぱいになっていた。なんでいまさら名前に悩まなくてはならないのか?
「しかしなんで名前を変えたいのか?」
「ヤマト亭なんて、田舎臭いじゃないですか」
「田舎・・・くさい?」

『あぼーーん!!( ̄  ̄メ)/』
どうもガミラス星での一件で、ほとほと疲れたのかここのところ眠り続けていたぷちさだだが目を覚ました。田舎臭いとは何事か!?見る見るうちに真田の目が据わってゆくのが揚羽には見えていない。なにしろ真田は2m近い身長だ。揚羽も長身だが、並ぶと差は歴然。
「なにしろヤマトは老若男女。それぞれ思うことはあると思いますが、これからは俺達のような若い世代が増えてきます。せっかく憧れのヤマトに乗れて、ここにきてほっとできる空間にしたいですよ。ちょっとお茶でもしようって『ヤマト亭』行こうぜ〜なんてねぇ・・・。そう思いませんか?」
彼には見えていない。ぷちさだだがバトンを両手で振り下ろしながら真田の頭を叩きまくっているのを。さらには揚羽の頭の周りを飛び回ってパンチの応酬。もっとも誰にも見えないぷちさだだの攻撃なだけに、何も感じない。しかし、真田はビシッと揚羽の方に向き直り、ずんと眉毛のない顔を近付けた。
「新人のくせにそこまで言うか。田舎臭いだと?いったいどんな臭いだ!」
「い、いや・・・すみませんっ!」
揚羽は突然テンションの上がった真田におののき泣きそうな目だ。
「そもそもヤマト亭の『ヤマト
食』は定食とヤマト亭の亭をかけて付けた名前だぞ。店の名前が変わったら『ヤマト亭食』の立場はどうなる?」
すっかり『ヤマト
食』だと思って疑わなかった揚羽は呆気にとられた。
「かっこ良くカフェ行こうぜ〜なんてノリにしたかったら、おやつの時間にその辺に違う看板でも出しておけばいいだろう。ん?ん?ん?」
「お、おやつって・・・さ、真田副艦長・・・顔が近いです!!」
『でかいです!』とか『こわいです!』とか言わなかっただけ偉い。上から押さえつけるように真田の顔が寄ってきたので揚羽は仰け反ってしまった。普段面倒見が良くて新人の気持ちをよく理解してくれる優しい副艦長が今日はどうもおかしい・・・と冷や汗揚羽は思う。艦長の古代は言わずもがなの鬼艦長だし、島は操舵に忙しくてめったに会うことはない。普段から艦内の巡回を欠かさない真田が新人から一番近い存在・・・なのだが。

「じゃぁ夜はどうするんですか?バーヤマトなんて安直な名前でいいんですか?・・・どうせだったらクラブ・ヤマトとかにしたらどうです?」
親が親なだけに揚羽はそう簡単には怯まない。しかし、ここで真田は目をひんむいて揚羽を見た。
「ちょっとまて、お前はクラブに行ったことがあるのか?」
「ありますよそりゃぁ」
「なんだと!お前はいくつだ?まだ未成年だろう!!」
揚羽がきょとん・・(*・o・)とした。「クラブ」とは揚羽からすれば、流行りの音楽がかかってて仲間と踊ったり、時には生ライヴなんかも見れたりするもののことなのだが・・・。発音も若干違う。
「クラブは公安委員会の管轄。法律上、風俗店だぞ!!値段だって最低でも一万はかかる!ホステスをはべらしてだな、お酌してもらったりなんかもするが、そういう女たちが頼んだものは全部こっちが支払わなくてはならないっていうやつだ!ボトルなんか入れた日にゃぁ〜〜もう何万も何十万もかかるんだぞ!・・・そうかそうか、大財閥の息子なのをいいことに、親の金でそんなところに出入りしているとはな!こらっ!!こらっ!!!」
真田に襟元を捕まれ前後に降られている揚羽の長い前髪がぶんぶん揺れる。遠のきそうな意識の中で揚羽は疑問を投げかけた。
ーーーな・・・なんの話・・・?ーーー
『あう、あうo(T0T)o』
ついでにその髪に絡まってしまったぷちさだだも揺れる。おかげでぴたっと真田の手が止まった。

「ま、ヤマトクラブにしたら同好会みたいだからクラブ・ヤマトの方がいいが、俺は雪をはべらして酒を飲むつもりは毛頭ないのでな」
なんでそうなるんだろう・・・。やはり遠い目な揚羽。しかしようやく襟元から真田の手が離れ、肩でぜいぜい息をしながら尋ねた。
「で・・・・・真田副艦長は結局どんな名前が?」
「む〜・・・・・・・・おう、あるぞ!」
手のひらをポンと拳で叩く真田は打って変わって明るい顔でこう答えた。
「『スナック・ヤマト』だ。軽食付きの一杯飲み屋。値段も安くて。はは、スナック・ヤマトかぁ〜〜ありそうでなかったなぁ〜。沖田艦長がいらっしゃったらさぞかし喜ぶだろう。いやいや、佐渡先生なんかも喜ぶな。うん、そうだな。はははははは」
ぶんぶん降られ過ぎた揚羽は、もはや気分が悪くなりながら、高笑いをして去ってゆく真田の後ろ姿をうつろな目で見つめていた。
「ス・・・スナックって・・・なんだ・・・」

昭和の良き時代・・・スナック。安い値段で一杯飲みながら軽食がとれる憩いの場。後にカラオケブームの走りとなったのもこのスナックからだった。時は2300年、若い揚羽が知るはずもない・・・。

・・・・・って真田さんいくつだよ!(爆)