ワイド劇場第九話
第九話:新たなるメンバー
「まったくの白だったって!?」
古びた治療院件民家である街角の開業医:沖田の家で南部の声が響き渡る。オークションの翌日の話である。オークション中はらはらどきどきしてミッションに望んだ真田、島、南部、相原がいる。雪は外出中だった。居間の奥に胡座をかいて座っている沖田は、ただ腕を組んでいぶかしい顔つきで彼等を見ていた。
「ウルクの壷・・・まぁ正式には真田さんの作ったあのレプリカを落札していったベムラーゼって野郎は、株式会社ボラーっていう釣り具会社の社長でね。価値の分からないコレクターって噂で・・・」
相原は壷を最終的に落札していった人物を洗ったところ、まったく裏のない人物であることが分かったのだった。
「あの壷が最初に出てきたとき、いの一番に入札したのは雪だ。ウルクの壷の中に天使の水瓶が入っているのを知っている誰かが落札するっていう計算で、入札しやすいように雪がしこんだ。するとデスラーが入札してきた・・・そうですよね真田さん」
島の問いに腕を組んだまま頷く真田。地下駐車場のバンの中で雪のペンダントがとらえたカメラから送信された映像をじっと見つめ続けた真田がこのオークションの流れを一番把握していた。
「あぁ。まったく価値が認められない壷なだけに、ほかの誰も入札していなかった。だが・・・しばらく二人のせめぎ合いがあった後、実は価値のあるものかもしれないと勘違いしたベムラーゼが入札をしてきた。そのあと雪が降り・・・こともあろうかデスラーも降りた。結果的に、そのベムラーゼが落札した・・」
「なのに白なんですか?」
「このテープを聞いてくれ。これは雪の付けたマイクに入っているデスラーと助手のドメルの会話だ。二人の声以外の音はリダクションしてある」
テープにおさめられた音声はひそひそ話しですら入る高性能のマイクからとられたものだった。
『社長・・・あれはレプリカです。例の壷ではありません』
『何?すりかえたとでもいうのか』
『水瓶の情報を知った誰かが手を打ったのではないかと。入札するだけ無駄です』
『おのれ・・・』
『情報を手にして・・・・あれほど精巧なレプリカを仕込んでくるとしたら・・・あの連中でしょう。本物の壷は今頃・・・』
『ズォーダー卿にどう報告しろというのだ・・・』
『ズォーダー卿ならば、後方の座席にいらっしゃっています』
ここで音声はぐちゃぐちゃになっていた。あたりを見渡しはじめたデスラーに悟られないよう、身をかがめた雪の動きによるものだ。
「ズォーダー卿って誰ですか?招待客のリストには入っていませんよ・・」
「入っていないが入場してきた・・・それができるのはよほどの権力者で、オークションが始まってから足を運んだ人物だ・・・」
この時、南部が青ざめた。ひょっとしてと思ったことがどうやら当たりらしい。相原が会場外で老夫婦に捕まり、南部はポジションを離れて搬入口へ、そして雪はデスラーだけをマークしていた・・・この間に入場者がいた可能性がある。否、いたのだ。
「ともかく、そのズォーダーという人物が絡んでそうだな。デスラーは我々が動いていることは分かっているだろう・・・ドメルはチームこそ違えど同業者だったわけだし・・・レプリカが俺の作った物だってこともばればれだ。俺も腕が鈍ったなぁ」
真田は頭を掻きながらため息をついた。
「事の次第は分かった。壷は藤堂局長へと渡さねばならん予定だが、我々が動いたことを知られてしまった以上、ICPO本部へと壷を送るのは厄介なことになるな」
沖田が組んでいた腕をほどいて両膝をポンとたたくと唸るように呟いた。と、その時、誰かが居間の障子の前に立ったのを悟って一同が口をつぐんだ。
「今、戻りました」
障子が開くなり、そこには雪と、意気消沈した古代進の姿がある。彼のその姿を見て、誰もが声を失った。守は先日のひき逃げ事故によって死亡。たった一人の血のつながった家族を失った進。やがて沖田を睨み付けるようにして居間の中央に進み出た。
「沖田さん・・・兄は・・・故意に殺されたんですよね。ただのひき逃げじゃない・・・そうなんでしょう!」
「古代・・」
「・・・サーシャに会いました。ずっと留学していたはずのサーシャと・・・病院で・・・。彼女は留学なんてしてなかった。全てを知ってました。兄の仕事がどんなに危険なものだったのか・・・なぜ、スターシャさんが死んで・・・兄までが」
沖田は進をじっと見つめた。
「古代は私に仕事に弟を巻き込むなと念を押していたが・・・そうか・・・知ってしまったか。お前だけはこの世界とは無縁に生きてほしかったんだがな・・・血のつながりは・・・やはりそうもいかぬか」
沖田はサーシャが真田のオフィスにほど近いカフェ:STAR BLAZERSにいて、真田に今回のミッションディスクを渡した女性がそうだっと話す。チームの復活は彼女のたっての願いであり、天使の水瓶の件は母を暗殺した人物が絡んでいるという情報だけを頼りに、このミッションを進言したのも彼女だった。
「深追いをするなと言っておいたのに・・・古代守はスターシャの死亡に疑念を抱いて、チームが解散した後も情報収集をしていた。そこで浮上したのが天使の水瓶の不法輸送と売却計画。どこかでそれを知ったサーシャが、今回のミッションを依頼してきたのだ」
守の気持ちも分からないわけではない。だが、個人的感情の介入が許されず、時に非情な決断を迫られるのが裏の世界でのルールだ。たとえ妻のことがあったとしても、沖田はチームが解散した以上、ミッションがない限り、事態を無視しろと守に言い続けてきた。しかし、守はそれを聞かずに暴走してしまった。この事態がミッションになればチームは復活して、仕事として動くことが許される。そう思ったサーシャが守の調べあげた情報を入手してミッションにしようとした・・・しかし、その矢先・・・。
「では・・・天使の水瓶を狙っていた人物がそのことを守に知られたために・・・彼を殺したということですか!?サーシャは!彼女はどこへ?」
「大丈夫。彼女なら今、佐渡先生の所にいます」
目をひんむいて立ち上がろうとした真田に雪が答える。同時に進が沖田の前に正座した。真っすぐな眼差しが沖田の太い眉の奥に輝く瞳を貫く。
「俺をメンバーにして下さい!兄は俺に何かを伝えようとしていました。きっと、死ぬと分かっていて・・・。兄がいない今、その意志を俺に継がせて下さい!お願いします!沖田さん!!」
沖田は遠くを見つめるような目でしばらく無言になった。真田はじっと、沖田の答えを待つ。現状チームに一人足りないのは確かだ。もし、あの時古代がいたら、南部や相原が焦って持ち場を離れる必要はなかった。しかし、そんな安易な気持ちで、守の大切な弟を引入れていいものか・・・全ては元締である沖田の判断に委ねられた。
「命がけだぞ。いいのか?」
「男ならやるべきことはやるものです。兄の代わりを・・・ほかの誰ができますか?」
進の変わらぬその視線を今一度見つめる沖田に瞳はゆっくりと他のメンバー達をめぐり、そして進へと戻った。
「お前の兄はこれと決めたら頑として譲らん男だった。お前も・・・そうだな、古代」
「・・・はい!」
「真田君、古代を頼んだぞ」
「了解しました」
小さく会釈する真田。ちょっと複雑そうな笑顔を浮かべる島、雪、南部、相原。しかし、振り向いた古代の鋼の意志をむき出しにした顔を見るや否や、一様に頷くのだった。