ワイド劇場第六話
第六話:惨事の中の集合
守の存在に気付いて沖田、雪、古代が横断歩道に体を向けた。この辺りは暗い。否、ビル自体が巨大な照明となっているにも関わらず、この辺りは街路樹も多いせいか、島達は横断歩道に到達した守を見失いそうになった。
「兄さ〜ん!こっちこっち!」
「進!今いくぞ!」
声だけは聞こえた・・・その刹那。
ブロロローーーーー、ダン!!・・・キキキーーー!!!!
突然の出来事に、雪は悲鳴すら出なかった。大きく見開かれた双眸がそのまま凍り付いた。沖田はその年齢から、心臓が止まりそうになり、声をつまらせた。
「兄さぁぁーーーーん!!」
悲鳴まがいの古代の声が深夜の道路に木霊した。
「ちくしょう!ひき逃げだ!!」
「すぐに救急車を・・・」
「ちょっと待て!!」
階段上で遠くから古代達を眺めていた加藤、山本、島がお互いの顔を巡らせながら同時に言葉を発した。血気に燃えた加藤が階下に降りようと山本の襟首をつかんで階段へと向かおうとする。その二人の前に立ちはだかる島。
「おい!島・・・どけって」
さっきとは一転厳しい眼差しの島が両手を広げたまま、二人を押し戻すようにゲームセンターの片隅へと追いやる。階下では我に返った沖田が守のぐったりとした体を路肩へと引きずり、脈を取りはじめた。分けも分からず叫ぶ古代とそれをなだめようと必死の雪。
「兄さん!兄さん!」
「古代君揺すっちゃだめ!沖田さんにまかせて!」
「雪、はやく救急車をよべ!」
ポケットの携帯電話を雪に放り投げ、守の人工呼吸をはじめる沖田。突然の事故に一人また一人とやじ馬らしき人々が現れ出した。ゲームセンターの脇に追いやられた加藤たちは島の剣幕におされつつ、彼の腕を振払おうとしたが、二人とも胸を肘で押さえ込まれていた。
「な、なにすんだよ!!」
「加藤、山本よく聞け!・・・お前たちは何も見なかった・・・」
「どうして!!」
島の言葉に加藤はふと思い当たる節があって黙ったが、山本は頭に血が上ったか、島につっかかったままだ。
「今・・・でていったら警察が来る。警察に目撃者として任意同行を求められるんだぞ。俺たちは古代の知り合いだが守さんとは裏でも繋がってる。・・・俺はいい・・・でもお前たちはどうなる?いいか・・・エージェントとしての見返りでICPOの犯罪者リストから消えてても・・・この国じゃお前たちはまだ指名手配中の窃盗犯なんだ!面こそわれてなくたって・・・余計なことで足が付いたら組織に消される!・・・俺も、真田さんも、お前達を守れない」
島の目は真っ赤に潤みながらそれでも訴えた。力の抜けた加藤と山本はやがて救急車とパトカーのサイレンが階下で響き渡っていることに気付きうなだれる。
「・・・今のはひき逃げだ・・・ただの事故じゃなくて・・・故意に守さんを狙ってただろう・・・」
「街路樹が邪魔でナンバーが見えなかった・・・くそ!」
「そうだな・・・。とにかく、真田さんのところへ行こう。もうすぐ集合時間だ」
何もできない自分達が悔しい。三人は救急車に搬送されてゆく守、同乗する沖田、古代、一人残った雪の姿を確認し、とぼとぼと真田のオフィスへと歩き出した。近くの総合病院についた頃、心肺蘇生、点滴、輸血・・・しかし、猛スピードで来た車に衝突された守の体は宙を舞って道路に打ち付けられた。ほぼ・・・即死だったのだ。あまりの衝撃に動けなくなってしまった古代にかわり、連絡を受けてやってきた佐渡が沖田と共に待合室へと現れた。
「先生・・・」
立ち上がった古代に首を振って答える佐渡。沖田の重い手がずっしりと古代の肩に置かれると、古代は耐えていた涙をぼろぼろと湧かせた。
「兄は・・・兄は・・・殺された・・・。ただのひき逃げじゃないんだ・・・そうでしょう?そうなんでしょう、沖田さん!・・・なんとか言ってください!!兄は俺の知らないところでいったい何をしていたんですか!!知ってるんでしょう!!」
真っ暗な病院に古代の叫び声が響く。訴え続ける古代を無言でただ見つめている沖田だった。

「そうか・・・」
島から守のひき逃げ事件のことを聞かされた真田が低くつぶやいた。その表情は冷静さを保っているようだったが、心の中は怒りと悲しみでぐちゃぐちゃになっているに違いないと島は思った。その時、軽快な足音と共に二人の男がオフィスに現れた。
「うぃーーす!」
「こんばんはーー!」
南部と相原だ。
「お!冷凍ブラックタイガーが二匹!今日グルメシティーで特売やってたもんな」
「怪盗だ!」
加藤、山本声を揃えて言い返す。お気楽な南部と相原は、いつもなら語気強く言い返すはずの二人の声のトーンが沈み、顔も浮かない上に、周りの空気の重苦しさに状況が飲めて息をのんだ。島がぼそっとひき逃げ事件の事をつぶやく。
「そんな・・・」
「本当だよ・・・よりにもよって、目の前でとは・・・何もしてやれないのが・・・悔しいよ」
真田は黙って立ち上がり、壁のボタンにパスワードを入力すると戸棚が一回転していろんな種類の真田の武器が出てきた。どれも似たような形だが、ほかのメンバーには必要の無い、あっても使いこなせないものだ。真田は手首をカチャカチャとならすと外し、棚から別のもを取り付ける・・・そう、これは真田の両手=義手だ。筋肉と神経に連動したその義手は、シーンにあわせてあらゆる種類が用意されているのだ。真田はだまって工作用の手から普通の手にとつけ直した。
「決行は明日だ。・・・・・いまは・・・悲しんでいる時間はない・・・これで、全員そろったな・・・」
戸棚を元に戻してメンバーを一望する。その時、またしてもドアが開いた。
「もう一人いるわ。真田さん、私を忘れないで下さい」
「雪・・・・」
ここにもう一人、悲しみを堪えて仕事に現れたメンバーがいた。雪は目に涙をいっぱいためたまま、真田に微笑んだ。
「雪、大丈夫なのか・・・?

「私もエージェントですから」
「じゃぁ・・・はじめよう」
真田がそういうと、一同は深くうなずいた。