ワイド劇場第二話
第二話:居酒屋風回転寿司屋
週末、家族連れでにぎわう回転寿司屋。真田の事務所とは駅を挟んだ場所に有る、数カ月前に新装開店したばかりの居酒屋風回転寿司屋だ。
「らっしゃい!!」
「はい、これ、3番。これとこれね。10番にえんがわとすずき、8番にビンチョウトロとはまち!」
「回ってないものがあったら言って下さいね〜、すぐ握りますよっ!」
威勢のいい声で客を迎える板前たちの姿が有る。フロア内には家族用テーブル席が10席、中央のカウンターには20脚が楕円状にならぶ。カウンター内には常時3〜5名の板前がスタンバイし、ホールには3人程の店員がハッピ姿で忙しく走り回っていた。二階の居酒屋は団体客用の席を構え、このあたりでは珍しい和洋折衷のしゃれたつくりの店で大盛況だ。
「ちょっと、そこの角刈りのお兄ちゃん!中トロ三つとタコ、あとかんぴょう巻とエビ頂戴。エビはさび抜きにしてね!この子が食べるから」
地元のおばさん達は容赦がない。どんなに忙しくてもマイペースなのだ。
「角刈りって誰だよ」
「誰っすかねぇ〜〜」
ほぼ全員が角刈りだ。
「徳川、お前かんぴょうとタコやれ」
「俺、角刈りじゃないですよ!」
「かんけーねーよ」
鶴見と坂本が声を揃えて言う。こつかれた徳川がすごすご握りはじめた。親から引き継いだこの店を切り盛りする板長:加藤三郎は弟の四郎とその友人達とでこの店を改装し、先だって死去した父、一郎の遺言によって同胞板前である徳川の父:徳川彦左衛門がオーナーとなった。結果、徳川の息子:太助がここで板前デビューしたのだった。三郎がカウンターの奥厨房から店内を一望すると板前たちの顔に緊張が走った。
「ふぅ〜〜一旦ブレイクか?あ・・・」
「相変わらず大盛況だな」
客のオーダーを網羅して、一旦落ち着いた所に常連客が入ってきた。ロマンスグレーといえば聞こえはいいが、手には競馬新聞、耳には赤えんぴつを刺したオヤジだ。
「山南さん、その顔だと今日もすっちゃったんですか?」
「いやいや、まぁ、そんなところだ」
カウンターに腰掛けて粉茶を湯飲みに放り込むと蛇口をぐっと押して熱湯を注いだ。三郎が付出しのホタテのヒモとキュウリの味噌和えをカウンターに置くと、にこにこと話を続ける山南。
「ここのところ、孫が遊びにきててな。それにかかりっきりですっかりダービーのデータ収集がおいつかなかった。コンピューターを導入してみたんだがな」
「目先の金よりお孫さんでしょう。いいですねぇ〜。かわいいんでしょ?」
山南は懐から写真を数枚出すと、にっこり笑って三郎に差し出した。三郎の背中の向こうではまたも忙しくオーダーがかかりはじめているが、三郎はいたって余裕で写真を受け取って一枚ずつ目を通す。確かにかわいい孫の写真・・・しかし、一枚は妙な壷の写真だった。
「一枚もらっていいですか?かわいいですねぇ〜〜」
「遠慮なく、好きなのをとってくれたまえ。自慢の孫だ」
ニコニコ笑っている山南に微笑み返しながら、三郎は壷の写真を抜き取ってポケットにしまった。
「兄貴!しゃべってないでやってくれ!!ズケと大トロ、それと梅しそ巻き、例のやつで」
「はいよっ」
山南に会釈して三郎は板場に向いた。梅しそ巻き例のヤツとは、この店では三郎しかできないシソの葉を翼のようにアレンジした巻き方。もっとも、真似しようとする者もいないが、ずば抜けて手先の器用な三郎は父の厳しい板前修行の結果、あらゆる巻き物を即座にデザインする技を持っている。
「もうすぐ8時か・・・そろそろ手が空く時間だよな、四郎。俺ちょっと出てくる」
三郎が呟くと四郎がキッっと睨んだ。
「なんだってぇ?!」
「床屋に行こうと思ってたんだ。もう行かんと」
「床屋?それって山本のヘアーサロンでしょ?」
「そうともいう」
鶴見の突っ込みに平然と答える。なおも四郎はぼやいた。
「なんでこのくそ忙しい日に行くんだよ・・・」
「思い立ったが吉日ってな。あとはよろしこ」
「よろしこじゃない!板長いなくてどうやって客さばけってんだ!」
「んなもん根性で握りゃぁなんとかなるんだよ!オラ!手があいたときはシャリの蓋閉めろ、そこ!!」
ビビッと指された坂本と徳川がビビる。
「だから板長いなくて・・・」
三郎はぼそっと呟く四郎に向き直り、目前まで歩み寄ると四郎の肩をポンとたたいた。
「四郎、ちょっとこい」
ーーーでたよ・・・ーーー
回転レーンの途中は裏の厨房へとつながっている。そのレーンをくぐって厨房に連れてこられた四郎。内心、あきれ果てて涙が出そうだ。父の家業を嫌った長男二郎がいなくなって、三郎と二人で店を継がなくてはならなくなった自分がちょっとかわいそうだと思う。
「復唱!加藤家家訓!!」
「加藤家家訓〜」
「一に人情!」
「一に人情( ̄~ ̄;)」
「二にド根性!」
「二にド根性(T□T;)」
厨房に一番近いところに立っていた徳川がブッと吹き出すと、ケツを鶴見がきゅぅ〜〜っと捻る。
「じゃ、そーゆーことで!山南さん!ゆっくりしてって下さい!」
「うむ。気を付けてな」
三郎が厨房から姿を現すと、板前服を脱ぎ捨てて足早に山本のヘアーサロンへと向かった。