ワイド劇場第十話
第十話:漫画とピロシキと新聞と・・・
ところで、天使の水瓶の摺り替えを達成させた加藤と山本だが、一仕事終えてからしばらくは、普通に生活をエンジョイしていた。山本はろくに家に帰らず、どちらかといえば加藤宅にて過ごすことが多くなった。というのも、四郎の漫画を借りては返さない癖から、いよいよ四郎がぶち切れ、読むなら家で読め・・・ということになったからでもある。狭い台所の隣の居間は四畳半。テレビと鎌倉彫りが施された棚。中央に丸形の卓袱台とその横には、耳かき/爪切り/筆記用具/リモコン一式が入った木箱とティッシュ・・・あとは座布団が転がっているという状態だ。
「ははは、なわけないだろーがぁ。偶然が重なり過ぎだって」
サスペンス番組を見ている三郎の一人突っ込みが時々聞こえる以外はとても静かな居間である。四郎は明日の資源ゴミの日にむけて、貯めに貯めてきた新聞をまとめるのに忙しいし、山本は四郎から借りた漫画「北賭の拳〜代紋XYZ〜」に釘付けといったところだ。
「はぁ〜あ、切りがないなぁもう。ねぇ、兄貴とりあえずこれ明日出しといてくれよな。・・・兄貴ってば!!」
「あ〜わかったわかった。・・・・ちぇっ、今週も犯人違ってたよ・・・あの女とはなぁ。大抵そこそこ有名な俳優がいつも犯人役じゃん?」
「知らねぇ〜よもぅ」
四郎は肩を落としながらその辺にある新聞を読みだした。しばらくしてCMに入ったのか、四郎が先ほど言っていた資源ゴミの山に目をやる三郎。
「なに、明日これ出しとけって?・・・こんなに溜め込んだのかよ新聞」
「しょーがないだろ〜。ところでさ、ピロシキって旨くない?」
「・・・・ピ・・・・?・・?・・?」
聞く相手が間違っているだろうということは、四郎には分かっていない。兄弟にも関わらず、意思の疎通が上手くいかない事はしばしばである。ロシア料理のピロシキというもので、カレーパンみたいにパンの中にシチュー等が入っているものである・・・とここまで説明しなければならなかっただろう。しかしである、三朗は弟に「横文字の物を知らない」事を悟られるのが嫌いである。これは兄のプライド。何気なく山本へと視線をずらし、助け舟を求めてみたが・・・。
「ぐぉっ!!出た出た!かっけーーーー!」
と、まぁ漫画に相変わらず釘付けなわけだ。おそらく、主人公の必殺拳が飛び出したところなのだろう。目を輝かせて喜んでいる。
「もっこし〜〜〜パーンチ!!あーーーたたたたたたた〜〜〜〜〜〜」
沈黙の空気をやぶるが如く、三郎が山本に向かって、漫画の主人公の必殺拳を真似てみる。なにげに三郎はこの漫画のアニメ版主人公の声に似ているらしい。それはともかく、山本は見事に三郎の必殺拳をひょいと避けた。
「もういい、寝る。山本さん、その漫画、持って帰らないで下さいね。兄貴、明日の資源ゴミ、出しといてよ!」
「うぃ〜〜〜っす」
疲れ果てた四郎は立ち上がって隣の寝室へと行ってしまった。寝室といっても、襖のむこうである。

「お前、ピロシキ知らないんだ」
「今思い出した」
「嘘つけ、知らないくせに」
山本が厚さ五センチほどの漫画本で三郎の胸をたたくところを躱し、ぶつぶつ呟きながら、四郎が読んでいた新聞を手に取る三郎。
「だいたいなんでそんな物の話を突然するかなーあいつは」
新聞にピロシキの事でも書いてあるのかと思って視線を巡らせてみたが、書いていない。
「ピロシキってのはロシア料理で、カレーパンの元祖っていわれてるやつだぜ。肉じゃがみたいなシチューが入ってたりしてな。俺もロシア料理なんてあんま食ったことないけど〜。ってか何でピロシキだ!?何か書いてあんのか?」
三郎から答えが返ってこなかった。やけに神妙な顔で記事に目を通しているのだ。それも新聞の片隅に書かれたお知らせ欄のようなところの記事だった。
「ロシア大手の漁業会社が俳優配給会社を買収。先のインサイダー取引発覚による、主要俳優の移籍から倒産寸前だったガミラスエージェンシーがこの度ロシア大手の漁業会社ガトランティスによって買収される。ガトランティスの今度の狙いは映画俳優の育成か!?・・・・ガミラスエジェンシーって・・・確かデスラーの会社だよな」
「あぁそうだけど?へぇ〜倒産寸前だったなんて知らなかったな。べつにニュースになることでもないだろ。元々ドイツの会社だったわけだし。・・・ん?ってことはオークション会場に現れたのは・・・天使の水瓶を使って資金集めでもしようとしてたとか?」
「買収されてからそんなヤバい方法で資金集めてどうすんだよ」
「まぁねぇ〜・・・。でも臭いかもな・・・ってかこれ半年前の新聞かよ!!」
「資源ゴミに出し忘れてた。臭うか?台所に積んどいたからな」
そういう意味じゃなくて、山本はガミラスエージェンシーが買収されたことに関して今回の一件が臭うと言ったのだが。
「とにかく、今すぐ真田さんのところにこれ、持っていこうぜ」
「そうだな」
すくっと立ち上がった二人が玄関に向かう。ぴしゃりと戸を閉めて出てゆく音がまだ寝ていない四郎の耳に聞こえてきた。おそらく今日はもう戻ってこないだろう。
「何時だと思ってるんだよ。真田さんに迷惑だろうが・・・。それに電話ですむ話だと思わないのかあの二人は!」
掛け布団を蹴っ飛ばし、勢い良く襖をあけると、そこにはさっきと何らかわっていない資源ゴミの山がおかれたままだった。四郎は明日も早く起きてゴミを捨てにいかなければいけない事を悲しく思う。
「店、昼からだったのに・・・・ゆっくり眠れると思ったのに・・・・明日の魚河岸も・・(T▽T)」
否、言うまい。明日の早朝仕入れ当番が三郎だったいうことを。代わりに自分が行かなければならなくなったということも。
「神様、俺に睡眠時間を下さい・・・(;△;)」