昼メロ劇場 第六話
第七話
「ご新規入りまっす!」
澪子を連れた山本が入り口でそう言うとホスト達は皆声を揃えて「いらっしゃいませー!」と威勢のいい声を上げた。澪子が席に通されると、ヘルプには新人ホスト・赤城、メインはやはり山本だった。新規客にトップのホストがつくことは先ずない筈だが、コレが今の黒虎の現状なのだ。店内を万札束が行き交うのを見て澪子は絶句していた。ホスト特有の派手な動きで席に着く山本。
「いらっしゃい。俺、明、よろしくね」
黒字に黄色で染め抜かれた名刺を差し出した。
「私・・・み、澪子です」
「じゃぁ澪ちゃんって呼んじゃおっかな〜。ホラ、緊張しないで!こういうとこ初めて?」
澪子は頷いた。ホストはたいていわざとらしく軽く振る舞う、それに乗ってこない澪子を見て、こりゃウブなお嬢様だと山本は思った。
「一時間3000円で何でも注文していいよ。水割り?それともドン・ペリかな〜?」
山本がわざと顔を近づけてのぞき込むと赤面する澪子。山本はやたらに機嫌がよかった。
「せっかくだし、俺、オリジナル・カクテル作っちゃおうかな?」
「明先輩!お願いします!俺、見たいっす」
山本がジャケットをただして立ち上がった。
「よっしゃぁ!山本、バーはいります!平田!、BT隊のテーマよろしくぅ♪」
バーカウンターでレモンティーを入れていた平田がしずしずBGMを切り替える。軽快なテーマソングと共に山本がバーカウンターによじ登り、サタデーナイトフィーバーよろしく腰を振ると店内は歓喜の渦となった。久方ぶりに聞くテーマソングを聴いて加藤が裏から顔を出して苦笑した。ボトルをジャグリングの様に投げては手早くカクテルを作る山本。この店のかつての名物だった。
「はぁい、お待たせしました。明特製の澪ちゃんカクテルでっす!」
ピーチ風味のトロピカルなピンク色のカクテルが澪子の前に差し出される。おもむろに山本は携帯電話とタバコ、ライターをテーブルに投げ出した。他のホストはみなブランド物のライターだったが、彼のは使い込んだジッポー。それには戦闘機の彫刻がある。澪子は携帯ストラップについているマスコットが目に入った。
「あ・・・それ」
「あ!知ってる?これ、今大ヒット中のアニメ「宇宙怪獣バラノドン」。俺さあ、ガキみたいだけど結構好きでさ」
澪子が微笑んだ。ここで赤城の心ネタ帳に書き込まれた『かわいいマスコットのストラップ』
「俺さぁ、最近までメールとかできない携帯だったんだよね。ださいっしょ?んでさぁやっと新しいの買ったんだ。iドーモの503。でもメール打つのとろいから出せなくてさ、だれからもメール貰ったことないんだ。
澪ちゃん携帯は?」
「私もiドーモです・・・これ」
水色の可愛い携帯電話を出すと、山本も赤城も褒めちぎる。これホストの鉄則。
「ねーねー、メールちょうだいよぉ。今欲しいなぁ〜。お願い!」
口車に乗せられて澪子は「こんにちは」と打って山本の携帯に送った。
「や〜りぃ、澪ちゃんからメールゲットォ!」
「いーすね先輩、うらやましー!」
またしても赤城心のネタ帳に書き込まれた『メールを貰ったことのない振りして相手のアドレスゲット』
そこに加藤が現れた。どうやら山本の指名が入ったようだった。
「ごめん、もう行かなきゃ・・・。残念だな、せっかく会えたのに。また・・・会えるよね?」
急に山本の目が潤み、寂しげな表情で澪子を見つめた。澪子の心臓が高鳴る。
赤城心のネタ帳『別れ際は憂いをたたえた表情で相手を惹きつけるべし』
山本は加藤にすれ違いざまに耳打ちした。
「かなりのお嬢とみた」
「了解」
山本と入れ替わりで加藤が澪子の隣に着いた。彼がテーブルに置いたライターも山本と同じ戦闘機の彫刻が入ったジッポー。
「店長の加藤三郎です。よろしく。・・・すいません、こんな傷だらけの顔で・・・」
口のきわに絆創膏、目のしたには青アザがあった。心配げに澪子が見つめる。
「先日、うちのお客さんがヤクザに絡まれましてね・・・ちょっと」
赤城心のネタ帳『顔の怪我さえ商売道具』もちろんこの傷は先日、斉藤始との喧嘩でできたものだ。
「加藤店長、お客さんのためなら命がけですからねぇ」
加藤はフッと笑うとさりげなく言い放つ。
「所詮・・・こんな風にしか生きられない・・・男ですから・・・」
赤城しびれまくり。そこにまた数百万の札束が通過した。
「あの・・・あんな大金を・・・」
「あぁ、お気に入りのホストの個人売り上げに貢献してくれる、心優しいお客さんがいるんですよ。・・・でないと俺達・・・。なにしろボスが厳しいもんで」
金を払った女達のテーブルには飲みもしない高級酒がズラリと並び、その酒を浴びているホストもいる。こうしてホストクラブ・黒虎の夜は更けていった。
ほろ酔いで帰宅した澪子の携帯に「今日は楽しかった。(^з^)-・また来てね。俺、いつまででも待ってるから。澪ちゃん、大好きだよ・アキラ」とメールが入っていた。
「明・・・君・・・」
澪子はホストの世界が虚飾で彩られていることを知らない。

つづく
次回予告:島の休日。彼の隠された過去・・・。