昼メロ劇場 第五話
ホストの戦い
夜中になっても決して明かりの途絶えることのない街の一角。煌々と明かりの灯った道々にホスト、ホステスは立ち並び、行き交う通行人にビラを配る。風俗世界も今は不況、それは『黒虎』でも同じ事だ。開店前の夕方からホスト達は店前でビラを配っていた。
「お姉さん!お姉さん!・・・ねぇウチ寄ってかない?今ね、このチラシ持参で1時間どんなに飲んでも3000円。ど〜んなに飲んでも3000円!どうどう?イケ面揃いだよっ!ねぇ〜ねぇってばー!あ〜くそ、いっちまった」
「なぁ〜坂巻ぃ、そんな誘い方したら退くって」
「うっせー仁科、お前もちゃんと配れ!ば〜か」
「バカは余計だ!タコ!」
黒虎の問題児達は一向にビラがはけないのに比べ、新人ホストの赤城は自分の分を配り終えて戻ってきた。
「あの、自分は厨房で平田さんの手伝い頼まれてるんっすけど、戻っていいっすか?」
一気に睨む坂巻と仁科。結局三人で配り始めていた。そこにふらふらとがたいの良い酔っぱらいがふらふらと歩いてくる。
「♪たとえ〜どんなに冷たく別れぇ〜てもぉ〜、お〜れにはお前が最後の〜おぉ〜んなぁぁぁ!!♪」
「へったくそな歌だな。うるせぇよ」
ちょうど酔っぱらいが黒虎の前を通過する時に仁科がぼやいた。
「あんだとてめぇ!チャラチャラした格好しやがって!女かっつーんだよ!ゲプッ」
「なんだと!酔っぱらいがぁ!」
「おい、何やってんだ!仁科」
坂巻がやって来た。
「けぇ〜こっちもだ。なんだなんだその前髪は!あぁ?前見えんのかっ。どいつもこいつも派手な格好しやがって。てめぇらホストか!香水なんかつけやがってくっせぇったらありゃしねぇ」
「うるせぇんだよ!ぶっころすぞてめぇ!」
坂巻が凄んでみたが、体格を比較するにとうてい勝てそうにない。そこに赤城がやって来た。
「ちょっと〜やばいっすよ、止めましょう喧嘩は」
「おーおー、まだいやがった。あぁやだやだ、女にへ〜こらして金儲けたぁいいご身分だぁねぇ〜」
「黙って聞いてりゃいい気になりやがって!ヤルか!てめぇ」
喧嘩の仲裁に入ろうとした赤城も頭に血が上りやすいらしい。持っていたビラを道にたたきつけ上着を脱いだ。
「やってやろうじゃねぇか」
お互いにファイティングポーズを取ったその時だった。店の外での大声を耳にして加藤がやって来た。
「ごるぁぁ!お前ら!喧嘩している暇があったら仕事しろ!・・・すいません、うちの者が失礼な事を・・・」
加藤は頭を下げたが男は見下した表情で加藤の黄色いネクタイをつまんでぴらぴらさせてみる。拳がわずかに震えていた。相手が客の女ならどんな事でも我慢できる。だが・・・

一方向かいのドメラーズでは、各ホストへと売り上げ目標の申し渡しが済み、店長のドメルが一服していた。アルマーニのダブルのスーツ。深緑に黒のネクタイ。No.1のアルフォンがドメルの元に跪いてグラスにブランデーを注ぎ、タバコに火をつけた。
「ドメル店長、まだ開店して半年も経たないうちに随分とメンバーが入れ替わっているのが気になるのですが」
「引き抜かれてきた君には分からないだろうが、ここは成績の悪い者は即刻クビを切る。後に続くホストはいくらでもいるからな」
「はぁ・・・」
アルフォンはそそくさと開店準備に忙しいゲットー、ハイデルン、クロイツ、バーガーの姿を見て、とても稼げる輩には思えない。だがひっきりなしに客が来て売り上げは上々だというのだから驚きだ。
「君が稼ぎ頭だ・・・がんばりたまえ」
ドメルがアルフォンの肩を叩く。そこにゲットーが一人の少年ともつかない新人を連れてきた。
「ドメル店長、新入りのミルです」
ミルが深々と頭を下げる。
「ミルです。よろしくお願いします」
ドメルは舐めるようにミルに目を配るとアルフォンを紹介した。
「確か君は『ガトランティス』から引き抜かれたんだったね」
「はい」
「此処にいるアルフォンはドメラーズのNo.1だ。元『デザリアム』のNo.2だった。仲良くやってくれ」
「はい。・・・はじめまして、ミルと申します」
ドメルの元で片膝をついていたアルフォンがおもむろに立ち上がった。
「アルフォンだ、よろしく」
握手をするために差し出したミルの手をしっかり握るアルフォン。ミルは少し頬が赤らんだ。そのとき俄に外の通りが騒がしくなり、ドメルが灰皿にタバコを押しつけた。
「外がうるさいな。営業妨害か?」
「ドメル店長!黒虎の連中が店の前で喧嘩してます!」
ドメルは止めようとするホスト達に「無用」と合図を送ると、外の様子を見に行った。外では巨漢がちぎっては投げの状態で、まともに喧嘩が成り立っているのは加藤だけ。加藤の黒いベルサーチのスーツが泥まみれなのを観てドメルが笑った。
「ド、ドメル!」
「すぐかっとなる単純な連中だな。ホストの顔に傷が付いたら商売にならんだろう。そんなうす汚いヤツ相手に4人がかりとは・・・あきれるな」
加藤が口元の血を拭うと立ち上がってドメルの方へと向かおうとしたが、それより先に巨漢がドメルの胸ぐらを掴んで突き飛ばした。
「てめぇ、俺さまに向かって汚ねぇだと!口の利き方に気をつけやがれこのゲジゲジ眉が!」
巨漢も充分げじげじ眉ではあるが。黒虎のメンバーは腹を抱えて笑い出した。ドメルの眉がピクリと動く。
「ウチに楯突くとただでは済まないぞ」
「おお、いつでも相手になってやるぜ!俺は藤堂組幹部、斉藤始だ!覚えておきやがれ糞ホストども!」

つづく
次回予告:南部電気新商品発表会。ついに澪子の前にあの男が現れる・・・