昼メロ劇場 第三十三話
第三十三話:新たなる旅立ち:その2ー終焉ー
ブロロロロロ〜〜。非常に見なれた自動車が行き交う交差点。辺りを見わたしても、どれもこれもちゃんと読める看板。横で聞こえる横断歩道の音楽は「とおりゃんせ」。
「さぁ着いた。とりあえずだがな」
「着いたって・・・どこ・・・ここ。南の島かよここが」
「南の島には変わりないだろう」
「聞いてねぇよ!!」
加藤と山本は加藤の言う所の「南の島」に着いた。解約したマンションから持ち出した僅かな金と食料を車に載せた時点で山本は嫌な予感がしていたのだ。自分達の夢、南国のリゾートホテルでカクテルラウンジをはじめるにしては、行き先が成田空港で無かったし、羽田でもなかった。ひたすらジャガーは南へと向かったのだ。
「なぁ、だまって着いて来た俺もなんだが、予定ではサイパンとかグアムとかじゃなかったの?」
「まだ貯金がたまってないだろ?ひとまず、ここで職探しして、それからよ、それから」
「だからって!南の島ならせめて沖縄だろーが!ここどこだとおもってるんだ?あぁ?九州じゃねーか!」
加藤は助手席で暴れる山本のちらりとも見ずに旅行ガイド本を開いた。
「九州だって南の島だろう。おっきい南の島だ。何事もでかいほうがいい」
おっきい南の島なら俺はオーストラリアがいいと内心で叫ぶ山本。だまって着いて来た以上、泣くに泣けないのだった。
「俺東京に帰る!」
「帰りたきゃ勝手に帰れ。俺はここで一からはじめると決めたんだ。言っておくがな、生活費は全部俺が持ってる。お前の口座はとっくに解約して俺のとまとめたから一円もないぞ。これも将来の俺達の夢の為だ、しかたないな」
「うそだろーーーーどこにそんな権利があるんだよ!帰れねぇじゃねーか」
助手席の窓からぐったり両手と頭を垂れる山本。
「いままでさんざん俺に迷惑をかけたんだ、ろくすっぽ家に帰って来ないでぶらぶら歩きまわってるからこう言う事になる。少しは社会の厳しさってもんを頭に叩き込め」
山本の頭に彩り鮮やかに展開されたヤシの木と白い砂浜、ナイスバディのギャル達、煌めくネオンにフルーツ山盛りのカクテルラウンジ・・・一つ一つ消えて行く中、車中のBGMだけは映画「カクテル」の「ココモ」が流れ、そこだけが南国の島を彩っている様だった。
「俺の南国パラダイスの夢が」
「ま、この現実をきちんと受け止めて精々精進するんだな。いつまでもそんなんじゃ俺の身がもたん」
「お前は俺のオヤジか!!人をガキ扱いするな!」
「そうやってすぐムキになるのがガキだってーの。なんだよ、ここに来る間めちゃくちゃ遠足楽しんでたくせに。俺は黒虎を辞めてもお前の上司だし、世話役だし、兄貴代わりでもある!俺の言う事聞かないと、そのへんにほったらかすぞ」
へたれ山本を乗せたままジャガーは交差点を突っ切った。加藤がガイド本を山本に放る。
「宿を見つけてくれ」
「宿?」
「安くて飯のうまそうなところがいい」
「あ〜めんどくせぇ。これでいいだろ」
山本はぱらぱらとガイド本をめくって指を差し込んだ所を加藤に見せた。
「温泉がんま?」
「がんま温泉で身体ぽかぽか。家庭料理でおもてなし・・・」
「そこでいい。なんだか効きそうだ」
加藤はハンドルを切って、一路ガイド本の宿に向けてアクセルを踏んだ。
「ほんとにいいのかよ!適当に決めたんだぜ!ここからまだ遠い」
「いいんだよ。悪かったらお前のせいだし」
「ったくぅ〜!!」
ガイド本からばらばらと名刺が落ちて来た。どれも黒虎の常連客や取引先の名刺ばかり。山本はそれを拾ってなつかしそうな笑顔でそれを眺めた。
「なになに?え〜と・・・さとみちゃんになほこちゃん、あやぼうと隼・・・さらんちゃんに楽天ちゃんと・・・あすみちゃんにゾナラーナちゃん、べっくちゃんと羽々ちゃんと、螢ちゃんね・・・あ〜植松とGeezerいたねぇ〜。他にもいっぱいあるぜ。どうすんのこれ?」
「独立した暁には連絡するのはこの業界の礼儀だろ?ま、しばらくはこの辺のホテルのラウンジかクラブで雇ってもらうけどな」
「・・・てことは・・・やっぱ独立まであと少しってことか!?」
「フフン〜、まぁお前が英語しゃべれるようになったら考えるってことかな」
「なんだそりゃ!」
二人は英語がしゃべれなかった。加藤が日本から出なかったのはそれもある。フロントミラーに着いたバラノドンのキーホルダーが揺れると、山本はそれをしばらく見つめていた。澪子はキーホルダーも加藤に渡し、山本に返す様頼んでいたのだ。
「澪ちゃん元気かなぁ〜」
「忘れたんじゃなかったのか?彼女はそのつもりでこれを返して来たんだぜ」
「ちょっと言ってみただけさ・・・。元気でいるなら、それでいい」
指先でちょんとバラノドンのキーホルダーをつつく山本。すこし寂しげな笑顔だったが、何も言わずに加藤に着いて来たのは、自分も澪子の様に、生きるべき世界が違う事を承知したからだった。加藤も、せっかく元に戻った親友との仲に甘えなかったのは、男として独り立ちする時がそれぞれにある事をちゃんと分かっていたからだった。
「いいか、俺達の夢はまだまだ先になるかもしれんが・・・俺達二人が突き進めば怖いもの無しだって俺は信じてる。仲間や恋人を失った俺達が、二人ではじめたカクテル妙技はいつかきっと俺達を夢に近付ける。だから、山本。お前は俺についてこい・・・脇目もふらずに。いいな」
山本は加藤のやや厳しい横顔にむかって人さし指を押しつけた。そのまま頬をぎゅっと押す。
「だぁぁ〜〜ちょっとなにすんだっ!」
「なにをまじめぶっこいちゃってんだか。わかってるって、そんなこと。どうせ俺がいないと困るんだろ」
二人は目を合わせると、ニヒルに笑いあった。ジャガーは海岸沿いの道をさらに南へ疾走して行く。ウィンドウを降ろし、吹き込む風に身を任せてひたすらに走った。
「そう、産まれたの!おめでとう、スターシアさん」
[名前、澪といいいます。澪子さんの様に優しくて・・・強い女の子になってほしいから・・・]
北海道にいるスターシアから出産の知らせを受けた真田宅。澪子は嬉しそうに電話口に立っていた。
「そうか、産まれたのか・・・良かったなぁ。古代はひと足先にお父さんか・・・。こりゃしばらくは大和館には戻って来れないな」
「進君と雪さんがいるから平気よ。きっと」
志郎と澪子は自宅のベランダでぽかぽか陽気の元、肩を寄せ合って小鳥のさえずりに耳を傾けた。何もかもが平和だ。リビングでは十三と佐渡が将棋を楽しんでいる。
「私も、欲しいかな・・・・そろそろ」
「ん?何をだ?」
「もう・・・。赤ちゃんよ。私達の」
「・・・あ、あぁ〜そうだな。うん・・・そろそろな」
赤面しながらも澪子を抱き寄せる志郎。北海道で赤ん坊に手を焼く守とスターシア。大和館では進と雪が少年弓道部を初めた。新しい会社で意気揚々と働く南部、相原。店を任された島はまだまだ出来の悪い後輩の成長を見つめる。繁華街では相変わらず斎藤が新しい部下の雷電を率いて街を闊歩し、四郎を店長に黒虎は華やかに営業を続ける。そして、加藤、山本は夢に向けて新しい一歩を踏みはじめようとしていた。それぞれが、それぞれの新たなる旅立ちを迎えて、そのステージに立ちはじめ・・・そしてまた平和な日々を送ってゆくのだった・・・。



あとがきに代えて・・・
最後まで、ヤマト昼メロ劇場をお読み頂き、まことにありがとうございました。
そして、感想を寄せて下さった皆様。途中で何度も挫折しそうになりましたが、最後までこぎ着ける事ができたのも、ひとえに皆様からの応援のお言葉があった故です。本来ならば、お一人づつにお礼状を送らせて頂きます所、このあとがきを持ちまして、お礼を述べさせて頂きます。本当にありがとうございました。
ヤマトのキャスト(すべてではありませんが)による、全く違った世界のお話を書くのは、ファンとしてやっていいことなのかどうか迷いながらはじめたこの昼メロ劇場。5歳の頃にヤマトと出会っていままで、何度も作品を見続けて、ヤマトを取りまく状況に泣き笑いし、早20ン年。ずっとファンだったわけではありませんし、現在、ハーロックメインのサイトながら、やっぱりヤマトは自分の中で欠く事の出来ない存在です。それをこんなお話にしてよかったものかどうかは自分としてはわかりません。ただ、非常に個性がはっきりしたたくさんのキャストをもつヤマトという世界、戦闘とか侵略、戦艦といったものが無く、より身近に現代という中のどこかで生きているとしたら・・・それも楽しいだろうなぁ。そんな思いからはじめました。ひとまずここで一つ終わりです。でも、また違う世界でヤマトのキャストを登場させるお話を書きたいと思っておりますので・・・そのときはまたよろしくお願いします。
本当に、最後までおつきあい頂きましたこと、心より感謝です。ありがとうございましたm(_ _)m
龍丹 拝