昼メロ劇場 第三十話
第三十話:仮病
深夜の繁華街で黒虎とドメラーズが対決していた頃、静まり返ったゆきかぜ荘にはカチャカチャとキーボードを叩く音が響いていた。裸電球一個を灯しただけの粗末な部屋には到底考えられない程のコンピューターやサーバーが立ち並び、まるで機械に埋もれた様な状態の中に志郎と相原がいた。
「デスラー社長宅の電話の通信記録、それと・・・裏帳簿と思しきデータは土方さんに送信しておきました。あっちではすでにヒス組の検挙に乗り出していて、まぁ、組長の跡目が決まらない状態ですから・・・もう万事休すってところじゃないですか?」
「よくやったな、相原。でかした」
「いいんですか?本当に。真田さんの渡してくれたメールソフトで送信しておきましたけど、嫌ですよーこっちにとばっちりが来たら」
「こんなこともあろうかと、送信先不明になるデータ通信ソフトを使ったんだ。土方刑事にも一応おとがめの無い様に頼んである。この分なら相原、お前探偵かなにかで生活できるんじゃないのか?」
「止めて下さいよ。デスラー宅にしかけた盗聴器に・・・銃声が入ってて・・・もうそれだけでびびっちゃって・・・。もうこんなのはごめんですよ」
相原はコンピューターの電源を切ると、部屋の窓を開けた。
「きれいな星ですねぇ〜。もう春かぁー、珍しく澄んだ空だなぁ〜」
「この分だと、明日は花粉が飛ぶな。パーティー中にくしゃみしない様に・・・佐渡先生に注射でも打ってもらって行くか・・・」
「大丈夫なんですかねぇ・・・佐渡先生と南部の計画」
「さぁ〜」
その、佐渡と南部は真田宅のリビングにいた。手伝いに来た雪の三人で麻雀をしているのだった。横でだいぶ具合の良くなった十三がにこにこと見ている。
「あ〜〜それそれ頂き!!」
「南部君それはずるよ。さっきこの牌捨てたじゃない」
「あれ?そうでしたっけ?」
「しらばっくれないで!」
「これ〜〜雪、たかが麻雀でいきりたっちゃいかんだろう〜」
「嘘はいかんぞ南部」
よくある麻雀の会話が交わされる中、志郎と相原が帰って来た。
「おかえりなさい、あなた。いらっしゃい、相原君」
「ど、どうも♪」
相原はずかずかとリビングへ入って行く。これで四人そろった。一方、志郎は澪子の顔を暫く見つめていた。
「澪子・・・ちょっと話があるんだ。二階へいいか?」
「え、ええ。でも皆さんが・・・」
「おかまいなく〜〜〜!」
調子のいい南部の返事。澪子は志郎に手を引かれて二階の寝室へと向かった。
「明日、デスラー電気のパーティへ行くのは言ったな」
「はい」
「そこで、デスラー社長は大勢のマスコミの前で・・・警察に逮捕されるかもしれん」
澪子は分かっていた様に頷いた。志郎のデスラーへの報復行動はそれとなく感じていた。
「今後、デスラー電気の連中が俺をターゲットに嫌がらせをするかもしれない。俺も、社をクビになる可能性もある。お義父さんもあとどれくらい持つか分からない。いっその事、もっと空気がきれいな所で一からはじめようと思ってるんだ。だが、お前にまた、苦労をかける事になる」
「覚悟の上です」
「離婚したかったら・・・それでも構わんのだぞ。お前はまだ若いし、やり直しもきく。なにも俺の様なカタブツといなくても・・・あの黒虎の・・・」
澪子は志郎のネクタイをゆるめながら微笑んでいた。
「明君なら黒虎に戻りました。私は貴男の妻です。真田志郎という人の妻はいつだって毅然としていなくちゃ。私は平凡な生活でいいんです。今回のことで・・・よく分かりました」
「澪子・・・・」
つぶらな瞳で志郎を見つめる澪子。二人が唇を近付けるのはごく自然の事だった。が。
「いたたたたたた!!!」
「大丈夫か!南部!」
「どうしたの!!まぁ〜〜〜大変!!」
大声が一階から聞こえて来たのだ。一気に雰囲気をぶちこわされた志郎が肩を落とした。時計は12時を示している。
「どうやら始まったか・・・。なにも今から・・・」
「え?」
二人が一階に下りると、リビングで悶絶している南部がいたのだ。
「い、いたい!いたい!頭が割れそうだーーー!」
「こりゃ大変だぁ〜。脳卒中かもしれんー。ご家族に連絡じゃ〜〜」
「佐渡先生のところに入院させたほうがいいわ」
「南部!しっかりしろ!死ぬんじゃないぞ!」
「お、オヤジ・・・・先立つ不幸をゆるしてくれ・・・・」
南部は相原が拾って来たタクシーに乗せられ、佐渡、雪と共に佐渡医院へと連れて行かれた。嵐が去った後の様な真田宅。呆然としている十三が志郎の顔をじっと見ていた。
「なんなんだ・・・あれは」
「すみません、まぁ予行演習みたいなものです。南部が急病で倒れたというシナリオなもので」
苦笑いの志郎。あっけに取られている澪子はぷッと吹き出した。
「子供の学芸会みたい」
「仮病を装うのになにも家からはじめなくてもよかろうが」
「まぁ・・・そうなんですがね・・・」
麻雀中に脳疾患を起こして倒れたなどという出来過ぎのシナリオ。いずれにしても、南部社長から志郎宛に明日のパーティーで自分の代わりを勤めて欲しいという電話がかかってくるのは時間の問題だった。

つづく