昼メロ劇場 第二十九話
第二十九話:おかえり
深夜の繁華街はいつも以上に騒がしい時を迎えていた。向かい合った黒虎とドメラーズのホスト達が掴み掛かっての喧嘩をはじめたのだ。ドメラーズのホスト達に腕を押させ込まれていた山本が、それを振払ったと同時に蹴りを一発お見舞いしたのがどうやら合図になったらしい。人数としては現状黒虎の方が多い筈だが、ドメラーズも負けてはいない。
「離せ!山男!俺にさわるな!!なんでお前がここにいるんだ!」
「ちゃらちゃらしてると思ったら、殴り込みに行こうなんていい度胸だがな!ちょいとばっかあっちいってろよ!」
斎藤に抱えたられた山本がじたばたしながら喧嘩の輪の中から出てきた。
「お前こそあっち行ってろ!部外者が邪魔なんだよ!!やくざのくせに怪我人の心配か?どけっ」
「言い方がいちいち気にいらねぇな!せっかく助けてやったのに・・・」
「助けてくれなんて言った覚えはない!」
すでにアドレナリンを放出している彼によけいな事をしてはいけなかった。斎藤は喧嘩の輪の中へと入って戻ろうとする山本を引っ張ったとたん。腹に一発くらってしまった。
「てんめー!けが人だと思って優しくしてやりゃぁ調子に乗りやがって!ざけんじゃねぇぞ!ごるぁー!!」
同時に、気が長い斎藤ではなかった。拳を振り上げる斎藤、身構える山本。降り上がった斎藤の拳を掴む手。
「し、島!!」
「行かせてやれよ。男だろ!」
山本は斎藤にアカンベーをするとコートを脱ぎ捨て、喧嘩の輪の奥で縮こまっているミルの存在を認め、突進して行ってしまった。
「いいのか?放っといて。ドメル店長」
始まった喧嘩を蔑む様な瞳で見ていたドメルがき後ろで声をかけられた。振り向くとそこに加藤が立っていた。
「やりたいだけやらせておくだけだ。顔に傷がつこうがうちは一向にかまわんのでな」
「ほう、じゃぁ・・・手加減はいらないってことだな」
ドメルの眉がぴくりと動いたのと同時に加藤のストレートがドメルの頬に抜けた。道路にばったりと倒れるドメル。アルフォンが加藤に向かったが、彼の肩をトントンと叩く男がいた。アルフォンが振り向くと同時に強烈なパンチを受けてドメルの上に倒れ込んだ。
「古代!」
「傷口がひらくぜ、加藤」
「パーティーが終わればどうって事ない」
加藤が苦笑いする。ドメルもアルフォンもただでは起きない。加藤と進の前に立ちはだかるドメルは300万の毛皮のジャケットを脱ぎ捨てた。アルフォンもネクタイを緩め、ファイティングポーズを取った。ドメル、指をぽきぽきと鳴らす。
「ちょうどむしゃくしゃしていたところだ・・・これで勝負をつけるのも悪くない!」
真夜中の繁華街のネオンは喧嘩に興じる彼等を煌々と照らし、群がるやじ馬の中で黒虎とドメラーズの全面対決がはじまった。近隣の店から出て来たやじ馬の中に、相変わらずピンクのハッピを着込んだラムがいた。
「お〜〜〜い!!どっちも頑張れーー!!」
がしかし、ウーーーピーポーピーポーと遠くからサイレンの音が聞こえた。この音は、パトカーの音。
「やっべぇ!サツだ!」
誰かがそう言ったのを合図にドメルの首を閉めていた加藤が顔を上げた。その時、「アラコメおしぼり」と書かれた一台の小型トラックが来た。運転席に斎藤、後ろの荷台テントから島が顔を出す。
「逃げるんならこっちへどうぞっ!!」
「おい!古代!早くしろっ」
黒虎のメンバー達が次々と乗り込む。もうパトカーは目前まで来ているのだ。なかば気絶寸前のアルフォンを投げ捨てる様に進が荷台へ飛び乗った。
「加藤!!急げ!!」
[そこ!喧嘩を止めなさい!すみやかに止めない場合は連行します!]
いかにもお役所な言葉がスピーカーから聞こえて来たと同時に数台のパトカーから警察官がおりはじめてた。これを合図に「アラコメおしぼり」小型トラックはゆっくり走行しながら逃げる。警官数人に羽交い締めにされたドメル達を後目に走ってトラックを追う加藤、山本。
[前のトラック!止まりなさい!!]
荷台から手を伸ばす島と古代。彼等の後ろをパトカーが一台追って来ている。
「怪我人を走らせんなーーーーーー!!!!」
「店長ーー!!早く早く!!パクられるよっ」
「ふざけんな!!てめぇら!!」
古代が加藤を、島が山本の腕を掴み、荷台へ引っ張った。そのままトラックはエンジンを噴かしてパトカーを振り切った。
「あ、あの・・・あなたがたは〜〜いったい!?」
荷台の隅には突然何が起きたのかわからないといった様な形相でずり落ちた眼鏡を直そうともせずに、おしぼり業者の男がへたれ込んでいた。
「あぁ〜スカッとしたぜ。これじゃ・・・しばらく店には顔出せそうにないがな・・・」
苦笑いの一同。みな頬や唇を腫らしていたが、瞳は清々しかった。俯いている山本がぼそっと呟く。
「・・・・商売道具の顔をそんなにして・・・山崎さんにぶっころされても知らないからな」
ふて腐れた様子の山本が一同を睨むと、口のきわの血を拭き取りながら四郎が言った。
「その時はその時でしょ・・・皆、山本さんの事心配してたんですよ。特に・・・兄貴はね」
「山本。お前は孤独じゃないだろ。仲間ってのは・・・いいもんだだと思うけどな」
島が呟くと進が加藤に微笑んだ。
「そうそう。かっこ付け過ぎだよ。店長の加藤を差し置いてヒーローのお株を取ろうだなんて1000年早い!」
進がそう言うと、加藤はがしっと山本の肩を引き寄せ、ポケットからジッポーライターを差し出した。以前、山本が澪子に渡した物だ。
「さよならは言わせないぜ。お前がいないと店も張り合いが無いしな・・・・。おかえり、No.2」
俯いていた山本が顔を上げると、皆山本に微笑みかけていた。
「・・・う、うるせぇ・・・バカ」
おしぼりトラックはそのまま繁華街を抜けていった・・・。

つづく