昼メロ劇場 第二十六話
第二十六話:救世主現る!?
黒虎は5周年記念パーティの準備に取りかかっていた。高級酒を取り揃え、店内を装飾し、ホスト達はきらびやかなスーツに身を包む。ボトルが入った際の「リスぺクトコール」の練習に余念が無い。坂巻の音頭で坂東が手拍子。
「よっしゃ!次はカミュ・ジュビリー・バカラ・クリスタルだ。カミュ!あ、バカラのクリスタル!!」
全員が声を揃えてコールをはじめた。新米ホストだった赤城もだいぶ板についてきた。
「クリクリクリクリクリスタル!!はいカミュ!」
「カミュ!」
「カミュ!?」
「カミュ!」
「クリクリクリクリクリスタル!!イエ〜〜〜〜イ!!」
パチパチパチパチ〜〜〜〜〜。
このパーティに招待されているのは、殆どが女性とはいえ、今まで多額の出費を厭わなかった大物ばかり。芸能人はもちろん、有名デザイナーや政治家、カリスマ主婦に至るまで。明日は当日。焦りの隠せない加藤がバーカウンターで平田のボトル投げを見て溜息をついた。横で見ていた四郎が声をかける。
「平田さん!やっぱり平田さんだけじゃ無理ですって。俺、入ります」
「お前に勤まるわけ無いだろう、四郎。黒虎伝説のカクテル妙技。本来、店長と山本の仕事だ。俺は最初から見て知っているから何とかなりそうな物の・・・」
「だめだ・・・やっぱりだめだ。平田、お前でも無理だ。俺一人で何とかする」
確かに、平田は真剣になり過ぎて表情が硬い。遊びが無い上、花が無い。
「何を言ってるんだか。まだ腹ん中の傷は塞がってないのに無理に決まってるだろう?」
「他に誰が!もう時間も無いんだぞ!」
バン!とカウンターを叩くと振動で傷口が痛む。こんな状態でどうやって華麗に踊りながらカクテルを作れようか?
「代理を立てるならもっと早くに言っておけば良かったのが、お前はいつも一人で背負い込むからこう言う事になるんだ」
「山崎さん!」
「ボス・・・」
今し方店の中が急に静かになったと思ったら、山崎が立っていた。その後ろに見なれた男達がまったく見なれない服装で立っている。
「古代!島!」
赤と緑のスーツに身を包み、まるで別人の二人がしれっとした表情で立っていた。
「出来の悪い後輩のおかげで、日頃から物を投げるのが得意でね。ま、もっともラーメンザルなんだけどな」
「俺も、ピザ回しで鍛えたおかげで、物を回すのは得意なんだ・・・一応」
「親友同士のこの二人なら、息もピッタリ合う。ちょっと訓練すればマスターできるだろうと思ってな」
山崎がそう言うと、加藤がカウンターからよろよろと立ち上がり進と島に歩み寄った。
「ありがとう・・・古代、島。お前達なら・・・大丈夫だ」
「言っておくが、手伝うのはショウだけだからな。接客はしない」
「礼を言うなら雪に言ってくれ。雪が説得してくれたのさ・・・・それと、こいつも」
島が入り口を指差すと照れくさそうにしている斎藤がいた。坂東が呟く。
「げ、お前もホストやんのかよ」
「バカ言うねぇ!俺は外でドメラーズが営業妨害しねぇように見張るのよ。ここがオジキの店だなんて知ってたら、とっくにやってたところだぜ」
「オジキ!?」
山崎は自分が藤堂組の元幹部だった事は誰にも言っていなかった。
「私が元暴力団だと知られると、営業に差し障りがあるからな。もう、過ぎた話だ」
「組長から聞いた話じゃ、ちっちゃな頃から悪ガキで、15で不良って呼ばれて?ナイフみたいに尖ってて、触るものをみーんな傷つけたって話だぜぇー」
「へぇ〜、それじゃ古代の兄貴の子供時代みたいだな。な、古代」
進は苦笑いした。兄・守の事をふと思い出す。こうやって自分が黒虎に来ようと思ったのも、スターシアを守のもとに連れ戻した澪子のおかげでもあった。彼女がこの一件で何かしなくてはと思った様に、進もまた、自分が誰かの為に何か出来る事があったら・・・そう思ったのだった。
「澪子さんのおかげもあるかな。そういえば、澪子さんは明っていうホストの事を心配していたが・・・。加藤と一緒に病室にいた山本っていうヤツだよな」
進の一言で急に加藤が暗くなった。山崎が渋い面持ちで辺りを見渡す。
「まだ・・・見つからんのか?」
「それが・・・まだ。家にも帰った形跡がなくて。あいつどこで何やってんだか・・・」
加藤の額に冷や汗が垂れた。かつて、自殺した恋人の恨みを晴らす為に不良グループに殴り込みをかけた際、傷害罪で逮捕された山本。保護観察処分になるも身寄りが無いために土方の頼みで山崎が引き取るも、繁華街をうろついては血まみれになって帰ってくる有り様。誰とも口をきかない彼に心を開かせたのが面倒見の良い加藤だった。以来、加藤がずっと彼の面倒を見てきた。
「山本は、借りをきちんと返す奴だ・・・刺された事で逆上して・・・やけを起こさなきゃいいんだがな・・・」
島が呟いた。澪子が一番心配している山本は、やはりそこにはいなかった・・・。顔色が優れない加藤が突然ガクっとよろけた。
「加藤!」
進が支える。店の事、山本の事で頭を悩め過ぎた加藤は退院してからろくに休んでいないことがたたった様だ。
「雪がいった通り。お前、昔と変わってないな・・・そうやって、いっつも一人で背負い込んで。人の事ばっかり心配して」
呆れ顔で笑う進に苦笑いの加藤。これほど近い距離でお互いの顔を見たのは、学生時代の雪の事件以来だった・・・。

つづく