昼メロ劇場 第二十三話
第二十三話:傷だらけの虎

年末、警察病院の一角は人でごった返していた。土方の計らいで守のいる病室の隣をあけ、そこに加藤と山本が収容された結果、この一角だけ妙な同窓会会場と化したのだ。
「こんなところで、こんな風にお前たちと会うとはなぁ。なんつーかその・・・」
いつも陽気な酒造もさすがに意気消沈している。志郎をはじめ、ゆきかぜ荘のメンバー、黒虎のメンバーは廊下のベンチや床にしゃがみ込んでうなだれている。面識の無い物同士がこんなところで顔合わせとは
「警察側ではあの二人が店の事で喧嘩した末に互いを刺したという見解だ。私が見たベンツは全く関係ないとまで言われた・・・どうやら大きな力が裏で動いたようだ」
土方が残念そうに肩を落としてやってきた。
「だから警察なんて信用できねぇんだよ!」
仁科が立ち上がったが、藤堂組幹部の斉藤が前に立ちはだかるとすごすごとしゃがんだ。加藤の弟である四郎は毅然としている様だが、ショックからかいっさい口をきかない。
「ちくしょう、ドメラーズの連中に決まってるんだ!」
「あぁ!そうにきまってらぁ!」
赤城と坂巻が唸った。そこに場違いな明るい声が響いた。
「毎度〜徳川亭っすぅ〜。ご注文のラーメン持ってきました〜〜」
太田の声で廊下にいた連中が睨みを効かすと斉藤が出てきた。
「なんだなんだ!しけたつらしやがって!食わねぇと身体がもたねぇぞ、てめぇら。よ、太田、すまねぇな〜こんなところまで持ってこさしちまってよ」
「いやぁ、徳川さんがワゴン車出してくれたんで。外でいつでもできたてのラーメン食えますよ!よかったら皆さんどうです??」
いつもならここで太田の頭をはたくところだが、斉藤の言った事は正しく、すこし頷きながら島が笑った。
「そうだな・・・おい、古代。お前も食えよ。何も食ってないんだろ?」
「古代君そうよ。私が持ってきてあげるわ」
「そうじゃそうじゃ、食え!わしも食いに行ってこようかの〜」
しかし、その時平田が加藤達の病室から出てきた。黒虎のメンバーが一斉に立ち上がる。
「平田さん!どうです?容態は??」
「加藤は今目が覚めた・・・山本は、栄養失調とストレスが原因で体力が随分落ちているらしい。時々目を覚ますが今は寝ている。医者は命には別状ないと言っていたが・・・・」
志郎はここに澪子がいない事に安堵した。きっと、この事を知ったら取り乱すかもしれない。そうしたら、自分はいったいどうなってしまうのか、考えると少し怖かった。
「古代、島、四郎・・・・加藤が呼んでる。入ってくれ」
ラーメンを食べに行こうと立ち上がった島と古代が顔を見合わせた。四郎は黙って病室へ歩み寄ると、古代と島に軽く会釈して先に病室へはいる。二人も四郎に続いた。坂巻達が平田に詰め寄る。
「おい、平田さん!俺たちは・・・」
ラーメンどんぶりを抱えたまま病室入り口へ斉藤が立ちはだかる。目で「すっこんでろ」と訴えた。

「古代・・・島・・・・頼みが・・・ある」
「加藤、しっかりしろ。大した怪我じゃないぞ」
島が加藤の手を取った。四郎はベッドの足側に立ったまま、酸素マスクと点滴につながれた山本を見て息をのんだ。
「四郎・・・お前もよく聞け・・・店を・・・」
「こんな時に店の心配なんか!俺が悪いんだ・・・兄貴を山本さんのところへ何か行かせなきゃ・・・兄貴、俺のかわりにやられたんだろ?」
「いいから座れよ」
島が四郎の腕を引っ張って丸椅子に座らせた。
「俺が、倒れても・・・何事も無かった様に営業しなきゃ・・・2月は黒虎の開店5周年パーティーがあるんだ・・・普段、世話になっている常連さんがたくさん来る・・・俺と山本がいない分・・・お前たちで代わりをつとめてほしい・・・・」
「バカも休み休み言え!俺たちにホストやれって言うのか!」
ずっと黙っていた進が怒鳴った。この声は病室の外にも響いたため、ホスト達が立ち上がったが、斉藤がそれをはね除けてづかづかと入ってきた。
「古代。あんたの兄さんをやった連中と、この二人をやった連中は同じ組織だ。・・・俺はその親玉の事を知ってる。そいつは消されたって噂だがな。・・・・どうだ?ここらで一つ、一致団結してみるのも悪くねぇと思うがな」
「なんだと!」
「おい、斉藤、どういう意味だ?」
怒り心頭の進と、怪訝な面持ちの島、二人の肩をポンと叩く斉藤。
「このまま行ったら・・・一人ずつかたっぱしからやられるかもしれねぇぜ。お前ら、親友なんだろ?あぁ?」
「俺は・・・・俺は違う!」
進が斉藤の腕を振払った。加藤が寂しそうな顔をして進を見つめた。
「すまない・・・古代・・・いっぱしのホストが勤まる二枚目で・・・他に知り合いがいなくてな・・・・頼む・・・古代!」
「兄貴!もういい、やめてくれ!俺がなんとかするよ。山崎さんに泣きつけば済む話だろ?」
「ばかやろう・・・これ以上、山崎さんの手を煩わせるな・・・く・・・ちくしょ・・・麻酔が切れやがった」
もう、痛みに耐えきれずに顔が歪む加藤を見ていられないとばかり、古代は立ち上がって去って行った。そのまま隣の病室にいる、守のベッド脇に座ると雪が入ってきた。
「古代君」
「何も言うなよ、雪・・・」
しかし、雪は自分が黒虎に行った時の事を話した。加藤はまだ進の事を良きライバルだと思っているのだということを、精いっぱいに伝えた。そして、加藤が心から頼れるのは結局、進と島しかいないのだという事も。
「加藤君が今まで・・・古代君に頼った事なんてあった?それが恥を忍んで・・・あぁしてお願いしているのよ・・・古代君」
進は黙って俯いたまま、ただ雪の言葉を聞いているだけだ・・・。
無情にも、こうして年は開けいくのだった。

つづく
次回予告:密やかな炎が志郎の中に灯り出す・・・そして澪子は・・・