昼メロ劇場 第二十一話
第二十一話:赤いクリスマス

神田川沿いの公園。この辺りは一通りも少なく、この時期は大声を出してときおり酔っぱらいが通過するためか、誰一人として加藤と山本の大声に耳を傾けて家から出てくる者などいない。至って静かなものだった。川縁の柵へと追いつめられた加藤と山本の前で、男達は脇差しを構えた。
「クリスマスプレゼントにしちゃぁ、冗談が過ぎるぜ!ぶっ殺してやらぁ!!」
「山本っ止めろ!お前傷害の前科付きだろうが!」
一瞬の出来事だった。加藤が山本の前に一歩踏み出そうとしたのを山本が押しのけてバタフライナイフを振りかざした。とうてい、脇差しに叶わぬ小さなナイフ。一人二人に切り傷を負わせた程度だった。二人が腕をとり、一人が脇差しを山本へと刺す。腕を持った一人が、山本の手にもう一つの脇差しを握らせた。
「山本ーーーーーーー!!!」
「く、来るなっ!!加藤・・・」
山本に駆け寄ろうとした加藤に、山本に握らせたままの脇差しを男達が振りかざした。加藤の背中を誰かが押して、加藤の腹に脇差しが刺さった。いつか、昔に感じたことのある鈍くて重い感触が山本の手に伝わった。
「き・・・汚ねぇ・・ぞ・・・てめえら・・・ぁ」
男達は力の抜けた加藤の手を取って山本をさした脇差しを握らせた。折り重なるように倒れる二人を後目に男達はベンツに乗り込んだ。一方通行の道を逆走していく二台のベンツはそのまま夜の帳へ消えていく。
「山本・・・おい、しっかりしろ」
「・・・加藤・・・すまなかったな・・・迷惑ばっかり・・かけちまって」
「何を言ってる・・・しっかりしろって!大した傷じゃないっ」
加藤は自分の腹にささった脇差しを山本がまだ握ったままなのを見て一本一本硬直した指をはぐようにして話した。小さな血の池の上で、唇を小刻みに振るわせながら青ざめていく山本が呟く。
「俺・・・お前と知り合ってなかったら・・・きっと・・・人間・・・終わってた。独りぼっちで・・・寂しくて・・・」
加藤は山本の手を力強く握りしめた。力を込めると、まだ脇差しが刺さったままの腹部から血が漏れだしてシャツを染めた。それでも加藤は強く力を込めて握った。
「目をつぶるな!・・・山本!おい・・・目をあけろ!!」
「い、痛てぇよ・・・そんなに・・・握るなって・・・」
丁度そのころ、土方はフェアレディZで志郎を送っている最中だった。神田川沿いの一方通行を黒のベンツが数台逆走していったのを横目にみる土方。
「・・・ったく、乱暴な運転を。この時期はなんですな、交通ルールも法律も浮かれ気分で忘れるようですな」
「良いんですか?通報しなくて」
「あぁいうのは交通課の仕事。私の領分じゃありませんからな」
志郎は辺りを軽く見回し、後部座席から身を乗り出して土方の方に顔を近づけた。
「もう、この辺で。一方通行ばかりですから、家に行くには回ってこないといけない。帰りが面倒です」
「この辺りは近頃物騒ですから、お宅の玄関先までお送りします」
そうは言っているが、土方には志郎の家族構成を確認しておこうという腹があった。街灯がところどころ切れかかって点滅している真っ暗な道をゆっくりと入っていく土方の車。土方がタバコの煙を吐き出すために開けた窓から冷気が入り込んで志郎が一瞬ブルブルと背中を振るわせた。
「ん?」
道脇に沿ってある、神田川公園から人影がフラフラと道路に出てきたために急ブレーキをかける。
「ちっ!酔っぱらいが!挽かれたいのか・・・まったく」
開けた窓から顔を覗かせ、厳めしい顔で土方が怒鳴ろうとした瞬間、車のライトで人影が映し出された。
「加藤!!」
叫び声を上げたのは志郎だった。慌てて車を降りた志郎の目前で、朦朧とした瞳の加藤が二三歩進むとがっくりと膝をついて倒れた。
「か、加藤!加藤!しっかりしろ!オイ!!」
「くそ!さっきの車・・・」
土方がそう呟くと無線のスイッチをオンにする。
「土方だ!北新宿四丁目○番地から黒のベンツ3台が一通を逆走、現地には刺された男!・・・車のナンバーは○○・・・至急手配!!」
さすがは刑事というべきか、黒のベンツが3台も猛スピードで走っていった事から、その車のナンバーを覚えていたのだった。無線を無造作に運転席に放り投げて走り出た土方は加藤の腹に刺さった脇差しをすぐさま確認した。志郎は卒倒しそうな自分の正気を保つために大きく深呼吸して加藤を抱き上げた。
「し・・・しん・・・親友が・・・あっち・・・に・・・!」
「土方さん!こいつは私の知り合いです・・・すぐに救急車を!」
「すみませんが、真田さん、貴方のお宅で止血処置をしても構いませんかな?救急車の到着をまつより早い・・・たしか、お宅にはこの辺りで町医者をしている佐渡先生がよく伺っている筈・・・」
確かにそうだが、なぜそれを知っているのかを聞いている場合ではなく、言われたように志郎は加藤を引きずって土方の車に乗せた。さらに土方が公園のへ走ると、すでに意識がないと思われる山本を抱きかかえて戻ってきた。車は真田宅へと急ぐ。食卓のテーブルにクリスマスケーキを載せて、志郎の遅い帰りを黙って待つ、澪子のいる家へと。

つづく

次回予告:揺れるドメラーズ・・・