昼メロ劇場 第二話
ホストの憂鬱
志郎がゆきかぜ荘から帰ってきた。だいぶ疲れた様子で玄関を開けると澪子がちょうど出かけようとしていたところだった。
「あ、あなた・・・おかえりなさい」
後ろめたさから数歩後ずさった。
「どうした?出かけるのか?こんな時間に」
「あ・・・いえ、あなたの帰りがあんまり遅いからゆきかぜ荘に様子を見に行こうと思ったの。・・・夕飯は?」
すぐさま志郎の渡したブリーフケースと上着を受け取る。志郎はネクタイをゆるめながら自室へと階段を上ろうとしていた。
「こんな事になるんじゃないかと思って、先に外で済ませてきた。支度していたか・・すまない」
俯く澪子のうしろから十三がゆっくり出てきた。
「お義父さま、起きてらしたんですか?」
澪子がよろけそうにしている十三の腰と肩を支えた。
「かまわんよ・・・。志郎、古代は?」
「明日にでもこちらに来させます、大丈夫ですよ。心配しないでください」
そう言うと二階に上がっていってしまった。

煌びやかな町の一角の『ホストクラブ・黒虎』。閉店後の売り上げ報告が終わり、ホスト達は思い思いの方向へと向かっていた。
「おい、山本。どうせアフター無しだろ?メシにつきあえよ」
店長に就任したばかりの加藤が店のシャッターを下ろしながら訪ねた。加藤の「どうせ」が気に入らなかったらしく山本は少し不機嫌になった。
「なぁ、加藤・・・なんで四郎をこの世界に引きずり込んだんだ?」
「俺の弟にNo.1を盗られてくやしいか?だったら新規の客ゲットしろよ」
山本は返す言葉がなかった。加藤と山本とは古い仲だ、ホストクラブのはしりに苦楽を共にした仲。二人はすこししょぼくれた感じで歩き出すとしばらくして加藤が呟いた。
「ボスとの約束なんだ。俺が店長になる代わりに、四郎をホストにってな。最近できたドメラーズに売り上げを取られて、今は厳しい。俺とお前がNo.1を争っていた時とは違うんだ。ここは激戦区になりつつある」
黒虎の向かいにオープンした『ホストクラブ・ドメラーズ』は大企業をバックボーンに持つと噂される曰く付きの店。だが、加藤にはそんなことはどうでもいい。
「俺は意地でも黒虎ののれんを守ってみせる!」
「熱いねぇ今夜も」
「そうだな」
山本は加藤の事を言ったつもりだったが、加藤にはちゃんと伝わらない。いつもの事だ。今夜は熱帯夜・・・。プライベートではジーパンにTシャツ姿だが、それでも今夜は暑かった。加藤が立ち止まったのは繁華街のど真ん中にある『徳川亭』というラーメン屋。
「こんな暑いのにラーメンかよぉ!」
加藤はそんな山本をカウンターまで引きずっていった。
「おやおや、一日数百万稼ぐホストさんがラーメンかい?」
カウンターの向こうで淡々とラーメンのざるをチャッチャと振る島がいた。
「嫌みなこと言わないでくれよ。これでも懐は寒いんだって。とりあえずビール、中瓶2本と・・・焼き餃子、チャーシュー麺大盛り」
「俺、冷やし中華とひややっこ」
「ハイ、オーダー!ビール中2、焼き一丁にチャーシュー大盛り、冷やし一丁、やっこはいります」
「了解!」
島がオーダーを出すと背中を向けたままの店主の徳川が大声で返した。
「なぁ島、古代元気か?」
「・・・ああ、まぁな」
「あ〜古代さん、なんか雪さんと旅行に行く予定だったのに行けなくなってしょげてましたよ今日」
「太田!だまって仕事してろ!」
島の一喝で話にわって入った太田がすごすご奥に戻っていった。加藤が続ける。
「旅行っていったって、どうせ雪の金でだろ?もったいないねぇ。古代がホストだったらがっぽり儲けられるのに」
「お前らとは違うんだ。ホラ、ビールとやっこ」
加藤の目が曇った。失言だったかもしれない。それを察して山本がしゃべった。
「あいつがホストじゃ店ん中引っかき回されて、店がつぶれちまうよ」
太田がゲラゲラ笑っていたのでその頭を徳川がはたく。それでも加藤は笑ってなかった。ホストにはホストなりの苦しみがある。それは他の世界の人間には分からない。たとえそれが親友だったとしても。
古代・島・加藤は高校時代に弓道インターハイに出るほどの腕前だった。そして良きライバル。加藤を見つめる島は、ふと脳裏に楽しかった頃の思い出がよぎる・・・そしてあの事件さえなかったら・・・と思った。
「キャァ〜!明君〜♪。イヤ〜ン、サブちゃんも一緒じゃなぁい・オ・ヒ・サ・」
どうやら黒虎の常連客らしき派手なホステス達が『徳川亭』に入るなり騒ぎ出した。
加藤も山本も疲れ果てた顔が一瞬にして【営業スマイル】に変わる。
「オッス!」
「キャァァァァァ!ステキ〜!」
敬礼まがいに軽く挨拶すると、ホステス達の歓喜の声が店中に広がった。二人の腕には黄金のロレックスが輝く。島はそんな様をみて菜箸を放り出すと店の裏へと出ていってしまった。驚く太田に加藤と山本は苦笑い。深いため息が漏れた。

つづく
次回予告:守!いったい何処へ!そして南部電気のパーティーに招待された人物とは・・・。