昼メロ劇場 第十九話
第十九話:忍び寄る危機
山本が黒虎に姿を現さなくなって以来、加藤はため息の漏れる日々を過ごしている。師走にはいるとかき入れ時。ましてやクリスマスシーズンともなると、だれもが速い出勤時間となっていた。
「店長、最近タバコの本数・・・増えてるよ」
事務所の灰皿を片づけに来た平田が声をかけた。ステンレスの灰皿に山盛りになったマルボロの吸い殻をバケツに放りながら、代わりにレモンティーを差し出す。
「ビタミン補給にもならないけど・・・」
「すまない、平田。ここのところいろいろ考えることが多くてな。どうなってるんだ全く。客層の平均年齢が上がってるっていうのに売り上げが落ちる一方って・・・。年末に向けてのかきこみ時だって・・」
「そんなことじゃ無いだろう?みんなも心配してるよ。山本の事・・・古代のこと・・・。何でも一人で背負うのは悪い癖だ。せっかくのクリスマス・・・こんな状態はよくないな」
加藤の指先で回っていたボールペンが吹っ飛ぶ。
「たまには休んで、ちゃんと向き合って話をしたらどうなんだ?」
「向き合う?誰と」
「自分」
明らかに加藤は顔色も良くなく、疲れも出ている。だれもが心の中でそんな加藤を心配している。よって加藤は追い出されるようにして店の外へと連れ出された。
「おい!お前ら!店長の俺を追い出すつもりかっ!今月の予算が・・・」
「たまには休めって言ってるんだよ、兄貴。一日くらい休んだって店がつぶれたりしないって。行ってやれよ・・・山本さんの所へ。花園神社の公園で、毎日、毎日、何もすることなくて一日あそこで過ごしてる。俺、毎日開店前に様子を見に行っていた。でも俺にはどうすることもできない・・兄貴じゃなきゃだめだ」
ホスト達が立ちはだかる入口で無理矢理店内に戻ろうとしていた加藤の動きが止まる。
「俺、あんなNo.2見たくないし、売り上げなんてどうでもイイ・・・俺は、昔兄貴が輝いていた人情たっぷりの黒虎にあこがれてここに来たんだ。兄貴は山崎さんの命令で俺を無理矢理此処に務めさせてるって思ってるだろ。ちがうよ。俺にとっては兄貴も山本さんも憧れだった。兄貴があのまま山本さんを放っておくなら、俺、こんな黒虎を辞める」
四郎が追い打ちをかけるように加藤へ伝えると店へと戻っていった。
「四郎・・・お前・・・」
加藤の弟・四郎は、ただの大人しい弟だといつまでも思っていたのは加藤だけだったのかも知れない。いつのまにか兄に面と向かって物を言うようになったんだと加藤は苦笑いした。黒虎のホスト達に見送られ、加藤は花園神社の公園へと歩き出した。暗くなっていく道を急ぐ加藤。山本とはすれ違いの生活・・・顔を合わせなくなって随分と時間が経った。
「もしもし・・・ヒス組長?ミルです・・・。黒虎のNo.1がまた公園の方へと向かいました・・・ええ、そうです。じゃ、よろしく」
ドメラーズの入口で加藤が店を出されるのを眺めていたミルが携帯で話していた。しかし、ミルは黒虎の店長がNo.1の四郎とうり二つの兄だと言うことを知らなかったらしい。

「それでは・・・守はまだ生きているが・・・廃人だと・・?」
日が暮れかかった頃、真田家に上がり込んだ藤堂組組長と斉藤はリビングの介護用ベッドに横たわる十三の横で守の事について話をしていた。
「私の部下の話では・・・隅田川のホームレス達が川を流れていく彼を助けたらしい。ところが意識はあれども譫言ばかりでな。警察に連絡しようとしたところ・・・刑事がやって来たと」
「茶はいかがかな・・・あ、いや、酒の方がよかったかの?」
澪子と雪をキッチンへと追いやり、佐渡が人数分の茶をもってリビングへ入ってきた。藤堂にこつかれて斉藤が盆を受け取る。
「お、俺がやりますよ。どうぞお構いなく。先生〜」
「で、警察病院におるのですかな?組長」
「さよう。致死量に近い覚醒剤を打たれてましてな・・・。刑事はルートを秘密に調査しているGメン。これは特別な情報ですがな」
「特別な・・・ほぉ〜」
藤堂と十三はズズズと茶をすすると口元をかるく緩ませた。藤堂が暗に警察と手を組んでいるという事を「特別」と言った。その意味を十三はちゃんと分かっていた。
「ルートは割れてます・・・しかし、そのルート上に浮かんだ組織が沖田館長の弓道場をうろついていたという情報が・・・そこに守君の一件・・・ちょっと気になりましてな、私がここへ来たわけです」
「私はそんな組織はまったく知らないですがな。どんな組織なんですか」
「個人のボディーガードの振りをしてその個人の手先となってるマフィア。ちまちました連中です・・・普通なら私たちの鼻にもかかりませんがな」
藤堂はあきれたようにそう言ったが、すぐさま十三に耳打ちするように話しかけた。
「その連中が・・・澪子さんの事を最近まで嗅ぎ回っていたらしい。守君の事もある・・・このままでは危険だと思いましてな・・・」
ちらと斉藤を見る。斉藤は座り直し、両手を床にひれ伏して頭を下げた。
「僭越ながら、この斉藤始が・・此処のボディガードをやらせていただきます」
十三は軽く頷いた。そこに佐渡が呟く。
「しかしなぁ〜んでまた澪子君を嗅ぎ回っとったんだ?斉藤」
「それが先生、俺の親友の知り合いが働いてる所にちょっと・・・」
「店の方は気にせんでも大丈夫。我々がしゃしゃり出ると営業妨害だ。あそこにはふさわしいヤツがおる」
藤堂がまた斉藤をこつきながら答えた。そこで佐渡が立ち上がった。
「か、館長、まさか・・・店って・・・」
「黒虎・・・ですな、佐渡先生」
その時、キッチンで茶碗の割れる音が響いた。やはり、澪子の予想通り、とんでもないクリスマスを迎えることになりそうだった。

つづく