昼メロ劇場 第十八話
第十八話:守の行方
守がいなくなってしばらく経つ。志郎が出した捜索願もむなしく、未だ何の連絡も入っていない。たった一人の肉親である兄が行方不明だとはいえ、進は気丈にアルバイトに精を出していた。昼過ぎだった。
「古代、もう今日はあがっていいぞ。いい加減、雪と仲直りした方がいいだろ?たまにはデートぐらい誘ってやれって。給料日なんだし」
「ええ、まぁ・・・じゃぁ、お先でーす」
雪も進もお互いに誤らずに時が過ぎていた。進はちゃんとした理由も結果も聞いていないまま、もんもんと過ごしている。加藤の一件では島も絡んでいたせいで、島も何も言えずじまい。完全に孤立してしまった進だった。進は私服に着替えて幕の内に挨拶すると店を出た。
「あれ?こないだのオヤジだ・・・」
幕の内が入口のむこうに目をやると、以前、進を訪ねてきたロマンスグレーの男が進に近づいてきていた。
「古代・・・進・・・だね?」
「そうですけど。何か?」
「此処ではちょっと話がしづらい、どこか人のいないところで話が出きるかね?」
進が眉間にしわを寄せてその男を睨みつけた。
「何ですか?急に。誰なんです、貴方は」
「・・・・新宿署の・・・土方と言うものだ」
土方と名乗った男は警察手帳を開いて見せた。厳つい瞳で愕然としている進をじっと見つめたままだ。
「け・・・刑事・・・さん?・・・俺、なにもしてませんよ!」
とっさにそう答えるのはある意味クセなのかもしれない。
「古代守の弟さんだね。彼のことでちょっと・・・」
「兄さん?兄さんが見つかったんですか!」
土方の胸ぐらを両手で掴んで叫んでいる進の姿に驚き、幕の内が慌てて店から出ようとしたが、すぐに進は土方の車に乗せられ、そのまま去っていった。唖然とする幕の内。
「・・・なんだよ、おい・・・どうなってんだ?だれなんだよあのオヤジ・・・と、りあえず電話電話!」

「兄さんは無事なんですか?」
車内で土方に尋ねる進だったが、土方は何も言わず、ただピースに火をつけて深々と吸っていた。
「なんなんですか!聞いてるんだから答えてくださいよ!兄さんは無事なんですか?刑事さん!」
「刑事と呼ぶのは止めてくれ。私には名前がある。土方だ」
「どっちだっていいでしょう!答えてください」
口のきわから勢いよく煙りを吹き出す土方。
「素行調査をしていたが・・・君はどうも喧嘩っ早くていけないな。ご両親は他界、親戚もいない、君の住んでいるアパートの隣の真田という家が君とお兄さんの保護者にあたる人が住んでるのかね?」
「ほ、保護者って。俺も兄さんも子供じゃない」
「悪かった、じゃぁ言い方を変えよう。身元引受人・・・身元保証人・・・まぁそんなところか」
進は顔を真っ赤にして怒った。
「いったい何が言いたいんですか!!!」
理由は土方が進を降ろしたその場所にあった。てっきり新宿署へと行くのかと思いきや、ついた場所は警察病院だった。黙ってついてこいと言われて連れてこられたのは病院でもずいぶんと奥に位置する粗末な一室。守の他に患者はおらず、ぽつと置かれたベッドの上で守が死んだような目で天井を見ながらぶつぶつと独り言を言っていた。
「兄さん!兄さん!」
駆け寄る進は守が両手両足を縛られた状態であることに気づいた。半泣きの進が守を揺すりながら訴えた。
「兄さん!俺だよ進だよっ。兄さん!」
「・・・・止めたまえ。彼は何を言っても分からない。廃人となり・・・記憶も失っている・・・」
「記憶・・・?廃人・・・?」
「生きていただけでも不思議な位なんだよ」

幕の内のかけた電話の先は真田宅だった。ちょうど雪が十三の介護に訪れていたため、電話口に立った。
「ええ!古代君が?ねぇ、幕の内さんそのオジサンっていうのは誰なのか分からないんですか?・・・本当にヤクザなの?・・・」
[それがまぁヤクザ風のオヤジで。・・・乗ってる車が黒のフェアレディZなんだけどさぁ・・・]
「はぁ?・・・と、とにかく真田さんに連絡します!ありがとうございました」
雪が電話を置くと驚いた顔で澪子が立っていた。
「澪子さん・・・古代君が・・・古代君が・・・」
突然泣き出す雪。
「雪さん?進君がどうかしたの?」
「ヤクザに連れ去られたんです!!!どうしよう、どうしたらいいのかしら?やっぱり警察に連絡を・・・。でもどうして連れて行かれたのか分からない・・」
「本当にヤクザなの?」
実際はよく分からない。雪は床にしゃがみ込み泣いてしまった。
「や〜れやれ、どうしたんじゃ?これ雪?ん?」
「佐渡先生〜〜〜!」
佐渡の胸に泣きつく雪。事態を重く見た澪子が志郎に電話を入れようとしたその時だった。
ピンポ〜〜〜ン。 インターホンが鳴る。澪子が「どちら様ですか?」と扉を開けると、渋い茶の絣の着物を着て杖をもった初老の男が立っている。
「沖田君はいるかね?・・・藤堂と言ってもらえればすぐに解ると思うが・・・」
「こりゃ藤堂組長!」
聞き覚えのある声に玄関を覗いた佐渡が驚きの声を上げた。
「よぅ〜!先生!」
ニッコリ笑っている藤堂の後ろにはがたいの良い角刈りの男、斉藤が立っている。どうやらとんでもない一日になりそうだと澪子は思った。

つづく
黒虎に本当の嵐が訪れようとしていた。しかし・・・それはあまりにも静かで・・・