昼メロ劇場 第十三話
第十三話:渦中(後編)
もうとっぷり日が暮れてていた。バイトを終えた進がゆきかぜ荘に居た。雪がにこやかにちゃぶ台へ手料理を並べるなか、それを見てげっそりしている進。
「な、なぁ雪・・・これ、君がつくったのか?」
「ええそうよ。今日はお料理の本を見ながら冒険してみたの・・・さぁ、食べて食べて」
「ぼ、冒険・・・かぁ・・・ホントニ冒険したねぇ」
どう見ても半焼きの洋なすのグラタン、ごしごし洗いすぎてお浸し状態になっているシーザーサラダには丸焦げのクルトン。一口放り込んだ進の顔が歪んだ。
「う、うま・・・い」
「え?何?」
冷や汗が垂れる進の顔は嘘がつけなかった、引きつる笑顔に一転雪の目がすわった。
「いや、雪、旨いよ、ホントに旨い・・・でも・・・お腹いっぱいかなぁ〜雪の愛情で・・・あはは」
「まずいならハッキリそう言ってよ!」
エプロンをダンッと投げ捨て部屋を出ていく雪、それを進が追った。トタン屋根のついた階段をつかつかと走り降りる雪はそのまま道路へ飛び出した。車の急ブレーキ音が響く。
「雪!」
慌てて進が階段を駆け下りると雪の寸前で停まっている高級車。そこから加藤が降りてきた。
「危ねぇぞ!飛び出しやが・・・・雪・・・」
「加藤君・・・加藤君なの?」
其処に進が現れた。加藤と進、お互いが無言で身体を硬直させた。二人の脳裏を走馬燈のように高校時代のあの事件が駆けめぐる。

高校2年の夏。弓道部の部長を決めるべく進と加藤は合宿所の道場にいた。隣で合宿していた天体観測部の南部と相原、そして既に副部長へと決まった島が正座して二人を見守る。中央には厳格な面もちの十三、そして放たれた矢を回収すべく的場の脇で待機するマネージャーの雪がいた。けたたましい蝉の鳴き声だけがそこに響く。二人が同時に弓を掲げ、引き分けに入った。どちらが先に離すか・・・掛け合いが始まる。その時だった。迷い込んだリスがちょんちょんと跳ねている姿に雪が叫ぶ。
「危ない!」
雪が的場に飛び出す。しかし、次の瞬間雪の足に放たれた矢が刺さる。先に矢を放ったのは・・・・加藤だった。呆然と立ちつくす加藤、叫ぶ進。
「雪ーーーーー!」
雪の怪我はさほど酷い物ではなかったが、その後、加藤は退部したばかりか高校を中退し、ネオンきらめく街へと姿を消したっきり彼らの前に現れることはなかった。唯一、卒業後に偶然であった島を除いて。

「雪・・・まだ、古代とつきあってたのか」
「雪にちかずくな!」
雪に近づこうとした加藤の前に進が歩み出た。足を止めてゆきかぜ荘をちらと見る加藤。
「お前、バイト暮らしだって?島から聞いてるよ」
「島が?あいつお前と会ってたのか?」
「口止めしておいた。まさか再会するとは思わなかったしな・・・元気そうで何よりだ。悪いが急ぐんでそこをどいてくれ」
見下したような口ぶりのにかっとなった進が加藤の腕を引いた。
「やめて古代君!」
「オイ、加藤。随分羽振りが良さそうじゃないか・・・お前まさかヤバイことしてるんじゃ・・・」
「その手、離せよ。客からの貰い物なんだ、このジャケット。20万・・・ベルサーチ・・・汚したら弁償できるのかよ」
加藤はそう言って進の手を振り払うとジャガーに乗り込みエンジンを噴かして去っていった。
「ばかやろう!」
進の声が住宅街に響く・・・。

加藤は急ぎ黒虎へ向かう。もう営業開始時間をとっくに過ぎていた。いつものように店のカウンター越しで平田が入れたレモンティーを飲みながら店内を一望すると山本がいない事に気づく。No.1である彼の弟、四郎が目を三角にして加藤に耳打ちする。
「山本さん何があったのか知らないけど、欠勤ですか?No.2がこんな忙しいときに何を考えているんですかね。俺、客取っちゃいますよ」
「おい四郎、何があった?」
四郎は無視して次々と入ってくる客の相手に忙しそうだった。平田が飲み終わった紅茶のカップを片づけながら呟いた。
「知らなかったのか?お前が来る前・・・山崎さんが来たんだ。尋常な雰囲気じゃなかった・・・。山本を連れていつもの所へ行ったよ。まだ出勤するかなり前だったのでみんなには欠勤と伝えてある」
「ボスが?俺に何の連絡もなく来たのか?」
「知らなかったのか?・・・あ、加藤!」
「平田、後を頼む」
平田はもっぱら厨房に入りっぱなしだが、元は古株のホストだった。派手な世界には向いていないひたむきで真面目な性格だが、それでもこの店を愛している。彼は急いで店を出ていく加藤を心配げに見つめていた。
加藤が向かったのは店にほど近い古びた喫茶店。店中の客が注目するほどけたたましく、ドアに取り付けられたカウベル鳴った。カランコロン!
「山崎さん!」
一番奥の薄暗いソファで空のコーヒーカップを前にダブルのスーツをきめたロマンスグレーの男が座っていた。彼の前には項垂れたままの山本。冷たくなったコーヒーに手をつけた形跡はない。
「遅かったな・・・加藤。座れ」
加藤はコーヒーを三杯注文して山本の隣に座った。
「ドメラーズの連中がこの山本と客が交際していると言い触れている・・・どういうことなんだ?」
「・・・ちょっと待ってください、あそこはこっちを潰そうとしてる連中です。そんな噂を信じるんですか?」
「信じる以前になぜそういう噂が立つような事をしたのかと聞いている。この写真はなんだ!そこら中にばらまかれているんだぞ!」
加藤は目が点になった。加藤の前に放り出された写真には雨の中抱き合う山本と澪子が写っていたのだ。山本はズボンをぐっと握りしめたままだった。
「いったい・・・誰が・・・どうやって・・・」
加藤はその写真を握りしめた。

つづく

次回予告:志郎がぼやく、南部が嘆く、相原がしょげる・・・