CAPTAIN HERLOCK〜the Endless Odyssey〜イリタ外伝
第九話:別れに言葉もなく
「おかしいねぇ、どこのチャンネルも太陽系でのことを放送してないじゃないか」
もはや、保安局の検閲下にある宇宙放送網は保安管理局の失態と太陽系での出来事は人々の混乱を招くため、放送を規制している。それはイリタ自身が総理へと進言したものだ。そして出来事すべてが葬り去られようとしていた。自分自身もきっと死んだことになっているのだろうとイリタは思う。自分だったらそうするはずだから。だが、それでもイリタは生きている。
トミ子は外宇宙(辺境地域)で開拓中の惑星ネオテラへと向かっていた。イリタもまたそれに便乗する形となった。ここは中央の管理を嫌った者たちが夢を抱いて集まった新天地。
「待つ人も、帰る場所も、やることもなくなったなら、ネオテラで好きな人生をはじめりゃいい。人生をやりなおすにはちょうどいい星さ。人間生きている限り何度だってやり直しはできるよ」
「・・・・すまない」
ーーーなぜ自分だけが生きているのか・・・夢に現れる亡霊たちは俺にそう語りかけ、責める。分かっている・・・分かっているのだ・・・しかしどうしたらいいのか、この時はその術が見つからなかった。トミ子さんは、ネオテラは開拓途中の星らしく、働き手はいくらあっても足りないくらいだということもあり、確かに一から人生をやりなおすにはいいと思っただろう。だが、俺はそんな簡単に人生をやり直すことは許されないことをネオテラに到着した時悟ったのだーーー
ネオテラ上空から着陸へと向かう途中、古代遺跡を壊している現場を目撃したイリタ。新しいものを作る時、古いものは淘汰されるというのは仕方がないことだが、遺跡の不法投棄の事実までは・・・。イリタはそこまでは見えていなかった。上に上にと行くにあたって、完璧に管理していると思っていたにもかかわらず、末端は破たんしていた。こうならない様にと心掛けていたにも関わらず・・。投棄された遺跡達は鳴き、古代の叡智とそれを築き上げた人々の怒りが・・・今回の事態を引き起こしたのだろうか・・・だとしたら、イリタの犯した罪はあまりに大きすぎた。穏やかな時は終わりを告げた・・・。
ーーートミ子さんの言う通り、人生を出直すのはいい。だが、俺はそれができない男だ。俺の一挙手一投足に振り回された多くの兵士たちが命を失った。トミ子さんとイチロー君の様に、父の帰りを待つ家族がいる者たちを何千人、いや、何万人と・・・。もとをたどれば、この戦争を起こしたのはこの俺。政府の命令に従った事だと言って逃げることもできる。長く続く人類の歴史で、そうやって逃げおおせた連中はいくらでもいる。男には、やらなくてはならない時がある。そして男なら、自分の責任を最後まで取るものだ。俺の中に旋律が走った。諦めや絶望や重責からの逃げではなく・・・ただ・・・俺は卑怯者として死にたくはなかったーーー
イリタは強い葛藤を抱いたまま、ネオテラに到着する。イチローはイリタから離れたくなさそうだった。しかし、何気ないレストランのおやじの話で、イチローはイリタの身に何が起きていたのかをそれとなく知る事になる。宇宙放送の検閲を縫って、噂は人間の移動速度よりも早く広まっていた。アルカディア号が保安局宇宙艦隊を全滅させたなどという噂はイリタからすれば苦笑いするしかない。だが、敵(ヌー)の本性を知らない人々からすれば、あの宙域にアルカディア号一隻だけが悠然と航行しているのを考えれば仕方のないことだった。そんな時、緊急省令発動のサイレンが響き渡る。テレビはアルカディア号のネオテラへの進行を捉えていた。
[あの宇宙海賊キャプテン・ハーロックの乗る艦がこちらにむかっているとの・・・]
ーーー俺にとって、この報道は俺自身の運命の全うを畳み掛けるものだった。俺の勘は適中した。ファタモルガーナ号がこちらに向かい、アルカディア号はそれを追ってきたのだ。一般民には知らされていない今回の出来事を・・俺は、自ら進言した規制を破り、白日の下にさらす決意をした。それができるのは、長官の座を持つこの俺だけができること・・・そして、俺のなすべきことは・・ここでわかったのだ。自分が・・・たとえそれが政府のしてきたことだとしても・・・俺のしてきたことの尻拭いは俺自身がする。生きたい・・・もっと生きたい。生きて新しい人生をやり直してみたい。そうしたら、きっと俺にも幸せというものを感じられる時が来るのかもしれない・・・だが・・・俺は逃げることなどしたくないのだーーー
イリタはテレビ中継に夢中になっている人々を縫ってトミ子のトラックへと戻った。これ以上甘えることができないというよりは・・親切にしてもらった礼と、意に反することをしなくては気が済まない硬骨さを分かってもらいたいとの一心だった。そして、もう二度とこんな世界にしてはならないという願い。様々な想いを一枚の手紙にしたため、別れの言葉も交わさずに、イリタが向かったのはネオテラにある保安管理局のコントロールセンターだった。激動の最中において、短い時間でまだイリタのIDが消されていなかったのは幸いだった。ともすれば武力行使でそこをぶち破ろうとも思っていたイリタが、すんなりとコントロールルームへと侵入してゆく。モニターは、彼が思った通り、アルカディア号がファタモルガーナ号を追っている姿を映していた。
「やはりな・・・」
テレビ放送を見てからここに至るまでの少ない時間で何をすべきか頭に巡らせそれを実行に移す敏速さと頭の回転の速さはやはり長官の座を射止めたにふさわしい才能だった。
ーーーこの時俺は無我夢中で重任を全うしようとしていた。パノプティコンの中枢にハッキングして制御することなど俺にとては雑作もないこと。今さら俺の所在が分かったところで辺境の地に官僚と管理局員は何もできない。俺は全宇宙の人類に向かって、俺がしてきたこと・・・管理局が隠し続けていた人類への危機と、それに立ち向かうアルカディア号の姿を・・・流し続けたーーー
一方ヌーの策略はネオテラのクレバスでアルカディア号の自由を奪った。このままではファタモルガーナ号が逃げてしまうだろうと察したわけではないが、イリタはただ、自分一人でできる限りの事をするつもりで、コントロールセンターからほど近い格納庫にある戦闘機へと全てのコントロール機能を転送した。ワープ映像追尾装置と共に。
ーーー自分がこれからする全ての行い、そして言葉を全宇宙へと流す・・・。これで・・・もはや万民は政府を野放しにはできまい。これでいい・・・意志のあるものはもう一度宇宙を立て直してくれ・・・俺は・・・俺の意地で・・・現実と立ち向かう。たとえ死ぬとわかっていても・・・。生きたい・・・生きていたい・・・死ぬのは恐い。だが、地球を消滅させたのは・・・あの不可解なヌーという存在を生み出したのは・・・この俺だ。現実から目を反らしてはいけない。これが・・・俺の最後の生き様だ・・・ーーー
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